(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー) 作:アズマケイ
「えっ、脱走した!?」
デーモン城を揺るがす衝撃のあと、すぐにそんな知らせを聞いてただちに現場に急行したジュンを待っていたのは、盛大な穴だった。それは1番大きな胎動をしていたデジタマの殻によってなにがうまれたのかは明白だった。
「やばっ」
ジュンは青ざめる。ここのところ七大魔王のデジタマが立て続けにかえっているのだ。辛うじて原型を留めていた孵化装置に刻まれている紋章をジュンはみた。
「次は......嫉妬?リヴァイアモンか......周りの海にでも泳ぎに出たのかしら?」
ジュンはディーターミナルを穴の向こうには広がる黒い海に向けてみた。
リヴァイアモン
レベル 究極体
タイプ 魔王型
属性 ウィルス
七大魔王の一体で嫉妬を司る。 長い顎と二つの尾を持つ巨大なワニの様な姿をしたデジモン。 余りにも強大な力を持つことへの恐怖から“悪魔獣”と呼ばれ、頂点に位置する如何なるデジモンをも見下し、一度目覚めれば天使型デジモンはおろか、他の魔王型デジモンすら恐れ逃げ出すという、デジタルワールドに巣食う根源的な悪の存在だと言われている。
デジモンとして解読できる限界の存在で、姿を現すことは皆無に等しく、ダークエリア付近のネットの海底に眠っていると伝えられる。
ホッとしたのも束の間だった。また大地震がダークエリアを揺るがした。突然海が割れ、大地が隆起する。ジュンの目の前でネットの海が一気に干上がり、大津波の前触れなのか引き潮でもないのに見渡す限り海底がのぞきはじめた。
海底が飛んだ。すさまじい音を立てて飛んだ。ネットの海が勢いよくかき混ぜられ、ジュンが覗いている穴の高さギリギリまでのどでかい津波があたりを襲った。
「とんだ!?」
リヴァイアモンが飛んだ。翼腕が背中から生え、有り余るエネルギーを噴き出す事で飛行能力を得たらしい。顎は三つに分割、尾は触手状の二つの尾とエネルギーを吹き出す尾の三つに変化し、陸海空の全てが自身の餌場となった。
自身が内包するエネルギーが頂点に達し、“嫉妬の冠”が輝いた時、三本の角から超強力な雷を放ち、大陸を海に沈めた。
ようやく地震がおさまり、ジュンはたつことが出来た。そこにある事実はリヴァイアモンがダークエリアから脱走したということである。ジュンはあわてて駆け出した。
「デーモン、デーモン、大変だわ!リヴァイアモンがダークエリアから脱走したんだけどっ!?」
盛大に扉を開いたジュンが見たのは明らかにお取り込み中の敵側勢力である。黒焦げで今にも死にそうなエテモンキー、何度も失敗を重ねた不甲斐ない部下を処刑しようと必殺技を放とうとしたデーモン、そして人間。どうみてもエテモンキーが処刑されてエテモンキーの代わりにタイチたちの討伐を目の前の少年が請け負うために召喚されたと考えてよさそうだ。ジュンが七大魔王の管理及びテイマーを任されているのだから、彼もまたテイマーなのだろう。超究極体のテイマーあたりだろうか。
「おい、デーモン。こいつは誰だ。オレは超究極体のテイマーとして選ばれたんじゃなかったのか!」
まだデーモンは話していなかったらしい。怒っている。デーモンは高笑いした。
「さっき言ったはずだ、テイマーはデジタルモンスターの力を最大に引き出すのだと。こいつもまた最高のデジモンを仕立てるために召喚したテイマーなのだ。なに、安心しろ。超究極体の餌、糧にするために必要な7体の究極体の管理をしているにすぎん」
少年はそこまでまだ話を聞かされてはいなかったようでごくりと息を呑む。究極体を7体も生贄にする、しかも七大魔王とかいういかにも七つの大罪を意識した単語になにやら感じるものがあったらしい。
ジュンは割り込むことにした。このまま傍観を決め込んでいたらエテモンキーが少年の従えているスカルサタモンに殺されるのは目に見えていたからだ。それとなくジュンはエテモンキーの前にたつ。焦げ付いた匂いが鼻についた。すまん、とエテモンキーはふらふらになりながら呟いた。
「詳細はそいつに聞け」
「今それどころじゃないんですけどっ!?さっきから言ってるじゃない、リヴァイアモンが脱走したんだってばー!」
「お前がわざわざワシのところに来たということは、他の奴らでは手に負えんということだろう。ちょうどいい、まだ超究極体は産まれそうにないからな。お前の実力を見せてもらおう」
「いいだろう、オレしかいないということを教えてやる」
「えーっと、話が見えないんだけど、君がリヴァイアモンの脱走の調査を手伝ってくれるってことでいいの?」
「ああ、オレの名は彩羽ネオ。タイチと同じ世界から召喚されたテイマーだ。d-1グランプリの優勝者でもある」
「d-1グランプリの?あー、なるほど。デーモンが呼ぶわけだわ。アタシは本宮ジュンよ。こことは違うデジタルワールドから無理やり連れてこられたテイマーってとこね。七大魔王の一体と特殊な関係でね、アタシが死ぬと他の七大魔王のタマゴがかえらなくなるし、その子も弱体化するの。手伝ってくれるなら急ぎましょう、早く来て。移動しながら説明するわ、七大魔王とか」
ネオと名乗った少年はジュンのあとをついてくる。そしてジュンの口から語られるデーモンの目的や七大魔王という概念について説明を受けるのだ。たらり、と汗が浮かぶのは規格外すぎるデジモンたちをデーモンが率いていること。そしてこれから育てることになる超究極体のデジゲノムを混入しただけで桁違いの強さを七大魔王が獲得しており、正規の強さとは全く異なる力を獲得するに至っていることから、超究極体の恐ろしさを肌に感じたからだろう。
「おい、ジュン」
「なに?」
「お前は無理やり連れてこられたといったな。だからといってデーモンの邪魔をするんじゃないぞ」
「邪魔ってどの邪魔よ、超究極体の孵化?君たちの世界の侵略?神様への反抗のために別のデジタルワールドまで侵略してること?」
「全てだ。お前、それとなくエテモンキーを庇っただろう」
「あら、よくわかったわね」
「現実世界に行きたいなんてくだらん理由でデーモンの手下になったあいつを庇うなんてお前があまちゃんなのがよくわかる。そんなんで七大魔王のテイマーが務まるのか?」
「アタシが超究極体のテイマーを兼任しなかった時点でお察しでしょうに。そこまでデーモンに信頼されちゃいないわよ」
「立場はわきまえているようだな」
「まあね。で、ネオくんはデーモンの召喚にどうして応じたの?アタシみたいに拉致された訳じゃなさそうだけど」
「オレにはオレの目的がある。あえていうなら人間以上の存在を目指しているんだ、新たな秩序の構築のためにオレはここにいる」
「ふうん、そっか.......新たな秩序の構築ね。神様と全面戦争を企んでるデーモンが好きそうな考え方だわ」
「だからオレは選ばれたんだ」
時折狂気じみた目をするネオという少年にジュンは深入りできそうになかった。その瞳の奥に憤怒の紋章がチラついたからだ。どうみてもデーモンに召喚された時に体をこのデジタルワールドに再構築するときに何らかの干渉を受けているのは明らかだ。デーモンは相手の感情を操ることが出来るのはジュンがずっと見てきた懸念材料なのである。深入りして自分まで精神的な支配を受けてしまったら、パートナーにどんな悪影響があるかわからない。ジュンにも譲れない大事な部分はあるのでお互い様である。
ジュンは気を取り直して七大魔王の紹介を始めた。そして穴の前にたどり着く。
「で、今回ふかしたリヴァイアモンについてなんだけど」
ダークエリア最深部とデジタルワールドを隔てるはずの強大な壁がみるも無残な形で、なくなっている。地獄に太陽の光がさしている。あまりにも場違いな光景だ。ダークエリアに幽閉されているはずのデジモンたちが次々に脱走しているのがわかる。デーモンの配下ではない知能が低いモンスターばかりだ。
「.......どれだけでかいんだ、リヴァイアモンは」
「さあ?」
ジュンはそう答えるしかない。生まれたところを見ていないからだ。ただいえることがある。リヴァイアモンはその大きさのため、デーモン城には収容することはできず、また将来に渡っても収容されることはないだろう。なぜなら、デジタルワールドにあるどんな構造物も、リヴァイアモンを収容するに足る大きさと強度を持たないからだ。
「そんなにでかいのか」
「ええ、そうよ。だって途方もないデータ質量をもったデジモンだもの。この世界の広さを考えたらまだまだ生まれちゃいけないレベルだわ。でも産まれちゃったからね、普通より小さいのかもしれないわ。本来なら目覚めたらデジタルワールドが崩壊するレベルらしいからね」
リヴァイアモンはその名の通り古くから船乗りや口伝によって「リヴァイアサン」として知られる、巨大な海生節足動物のデータから生まれたデジモンだ。
「よし、行きましょうか。まずはリヴァイアモンがどこにいるのか調べないと」
「ああ」
ネオはスカルサタモン、ジュンはリリスモンに乗ってデジタルワールドの表層に向かって飛び立った。
ジュンたちがたどりついたとき、リヴァイアモンは突然発生した大陸となっていた。
ゆっくりとした速度で移動しているが彷徨っているだけのようにも見える周期的な地震振動は、「呼吸」を示していると思われ、島々の地形に小さな断層を引き起こしている。これはすなわち、この生物が恐らくは眠っていることを示唆している。
なにもかもが規格外すぎるらしい。まだ誰もデジモンだとは思っていないようだった。
「すごいわね」
世界の果てが出来てしまっている。海がダークエリアに流れ込んでいるのだ。その先にリヴァイアモンはいた。
旧約聖書に登場する海の怪物は、神によって創造され、陸の怪物であるベヒーモスと対比される存在であり、最後の審判の後には二頭揃って仲良く食べられる定めを持つ。しかし逆に、最後の審判が終わるまでは無敵という側面も持っており、まさに恐るべき怪物である。
時代が下ると悪魔の一体としても考えられるようにもなった。
また、大航海時代になってもリヴァイアサンは変わらず巨大な海の怪物であり、船乗りたちの恐怖の的であった。
「ねじれた」「渦を巻いた」という意味のヘブライ語が語源。原義から転じて、単に大きな怪物や生き物を意味する言葉でもある。
『ヨブ記』によれば、レヴィアタンはその巨大さゆえ海を泳ぐときには波が逆巻くほどで、口から炎を、鼻から煙を吹く。口には鋭く巨大な歯が生えている。体には全体に強固な鎧をおもわせる鱗があり、この鱗であらゆる武器を跳ね返してしまう。その性質は凶暴そのもので冷酷無情。この海の怪物はぎらぎらと光る目で獲物を探しながら海面を泳いでいるらしい。
リヴァイアモンがどこまでその設定を踏襲しているのかはわからないが脅威であることはなんらかわらない。
「このまま起きなきゃいいんだけど」
「どうする、リヴァイアモンは連れ戻したところで収容できないんだろう」
「あんなでかいの連れ戻せるわけないしね。とりあえず現状報告が先かな.......あとはダークエリアから脱走したデジモンたちの把握、この世界の果ての調査、うーん。デーモン城に入れなくてもここから突入出来るってバレたらやばいと思わない?」
「そうか」
ネオがニヤリと笑った。
「つまり、あいつらは生かして返しちゃいけないってことだな」
その視線の先には突然発生した大陸や世界の果てについて調査するためだろうか、派遣されたらしいこの世界のセキュリティデジモンである。
「あれ、デーモンて掌握したんじゃなかったの?」
「お前の話を元にするならいくらデーモンがセキュリティを支配下に置こうが闇とのバランスをとるために光はいくらでも生まれるってことだろう」
「あー、なるほどね」
ジュンは前を見据えた。