(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

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第12話

真っ暗な空間に、突然閃光が走る。あまりの眩しさに目を細めたジュンは、まぶたの裏に残像が焼きついて離れなくなってしまった。いくら瞬きしても、ちらつく白い影がまぶたの裏に流れていく。しばらくして目が理不尽なほど明るいスクリーンに慣れてくると、巨大な四角い画面が真っ白に輝いているのを直視できるようになってくる。その光源に照らされて、ジュンの周りは異様な光景だとわかってしまう。

 

足がすくんでしまって動けない。ジュンの周りには、死んだように眠りに落ちている4万人の観客たちの影が、光源に照らされて白い影を落としていた。ジュンはさすがにここに居るのが怖くなって、スクリーンの真正面にいるここから逃げ出すことにした。なにがでてくるのかわからないスクリーンの真ん前で突っ立ってるなんて、バカのすることだ。

 

せめて様子を伺うためにかくれなきゃ。それだけで頭がいっぱいになったジュンは、一目散に逃げ出したのである。真っ白なスクリーンから覗く真っ黒なシルエットは、真っ直ぐにジュンを見据えていたからである。それは2つの真っ赤な目だった。真っ黒な塊だった影が、次第に輪郭がはっきりとしたシルエットとして、白いスクリーンの中で姿かたちをかえていく。

 

ジュンのどんどん遠くなる後ろの方で、ぐにゃり、とスクリーンがゆがむ。ぱきん、と真っ白な世界にヒビが入る。砕け散る音がする。粉砕されたスクリーン画面から、容赦なくエネルギー源である電気を食い尽くして現れたのは。バチバチバチ、と微弱な静電気を帯びて出現した、デジモンだった。

 

 

 

 

 

ぜいぜい言いながら会場近くの壁際に身を潜めることにしたジュンは、あ、だめだ、これ、と早々に真正面から接触することは諦めた。

 

アタシみたいな一般人が相手できるようなデジモンじゃない。無理、無理、絶対無理、下手しなくても死ぬ、絶対死ぬ、アタシはまだ死にたくない。

 

つーかなんでこいつがここにいるのよぉっと叫びたくなる衝動を我慢してるだけえらいというべきだろう。きっと。ちょっと、ちょっと、ちょっとってジュンはノートパソコンに匿っているイビルモンに呼びかけた。

 

 

「どういうことなの、イビルモン。あいつもヴァンデモンの配下なわけ?」

 

 

イビルモンは首を振った。あーよかった、だよね、そうよね、ダークエリアまで配下に収めてたら、太一君たちじゃ太刀打ちできないわよ、いやマジで。ほっと胸をなでおろしたジュンに、イビルモンは不思議そうだ。

 

 

『オレは一度も見たことはねえなあ。つーか、なにをそんなにビビってんだよ、テイマー。どっからどう見ても、ただの犬っころじゃねーか』

 

 

「は?アンタ何言ってんのよ、本気で言ってる?まさか見たことないとか言わないわよね?あんた、ダークエリア出身でしょ、しっかりしなさいよ」

 

 

『あー?あれがダークエリアの魔獣だとぉ?馬鹿言っちゃいけねえぜ、ただの犬じゃあねえか』

 

 

「ただの犬が炎吐くわけないでしょうが。だからアンタはいつまでたっても成熟期なのよ」

 

 

ジュンは頭が痛くなってきた。どうやらイビルモンは本気で馬鹿だったようだ。ジュンがいなかったら、幻影を見せるっていう必殺技も、宝の持ち腐れにすぎないに違いない。どうやって説明したらいいのやら、と必死で考える。ああもうめんどくさい。

 

光子郎君がゲンナイさんからデジモンアナライザーを入手したあとだったら、そのプログラムをハッキングして入手することもできたのに。仕方ないので、ジュンが持ってる知識をイビルモンに提供することにした。勘弁してよね、アタシは歩く辞書じゃないのよ、あんまりマイナーどころだとわかんないかもしれないんだから。

 

 

「あの犬っころには絶対に喧嘩売っちゃダメよ、死にたくなかったらね。セキュリティシステム所属のデジモンなんだから。アンタよりずっと格上の完全体よ、しかもワクチン種。ウィルス種のアンタじゃ瞬殺されるわよ。それにあの鉤爪は、純度が低いクロンデジゾイド合金だったら簡単に引き裂く硬度はあるわ。体は硬質な生体外殻に覆われてて、ダメージ受けても瞬時に修復する能力まであんのよ、どうやって相手するつもり?」

 

 

『え、そんなにやばいやつなのか』

 

 

「アンタはどこまで馬鹿なのよ・・・・・・」

 

 

『そんなヤツがなんでこんなところにいるんだよ』

 

 

「そんなのこっちが聞きたいわよ、ばあか」

 

 

 

 

 

嫌な予感しかしないけどね、とジュンは笑うしかなかった。

 

 

「グアアアアアアアアアンッ」

 

 

まるで青銅を思い切りぶっ叩いたような、鈍く響く金属のような咆哮だった。獰猛で攻撃的な雄叫びだった。脳天を突き抜けるような遠吠え。龍のしっぽと蛇のようなヒゲを持つ、ゾウのように巨大な図体を持つ、まるでキメラのような姿をした怪物だった。

 

獅子のような、犬のような、真っ黒などす黒い色に染め上げられているそいつは、夏フェスの巨大な会場から真っ直ぐにこっちを見下ろしている。死者の魂が冥界にやってくるときにはそのまま通すくせに、冥界から逃亡しようとする魂は捕らえて貪り食ってしまう、という伝承が由来となって生まれたデジモンだ。地獄の番犬とも言われている。

 

なんでこんな大物にも程があるデジモンが、こんなところにいきなり出現したのか全然わからないものの、やばいことだけははっきりとしていた。こいつの名前はケルベロモン、ダークエリアを守護している裁判官デジモンの配下である。

 

デジタルワールドに転生していいのか、実刑をくらってダークエリアに閉じ込められるか、ケルベロモンの餌になるかの3たくが、ダークエリアに送られたデジモンたちの末路なのだ。はっきりいって、現実世界に出てきていいデジモンじゃない。なにせこいつは、完全体なのだ。

 

 

「グオオオオオオオンッ」

 

 

「グアアアアアアアンッ」

 

 

ばっちり目が合っちゃったのはお約束なのかもしれなかった。

 

 

「嘘でしょぉっ・・・・・・!なんでバレる訳っ!?」

 

 

中央の顔の遠吠えのあと、左側と右側の顔が後追いをするように、遠吠えを始めた。まるで意志を確認し合うように、お互いがお互いの遠吠えを確認しつつ、真っ赤な眼差しはいつでも私を射抜いている。

 

ケルベロモンが実体化したことで、かろうじて生きていた携帯電話は完全に使えなくなってしまった。きっと電気が食われてしまったのだろう。いよいよ真っ暗になった世界の中で、光源は巨大なスクリーンだけだ。

 

白い光に照らされながら、ケルベロモンが青銅を叩いているような唸り声を上げつつ、こちらに向かって降りてきた。のし、のし、のし、とマネキンのように転がっている人たちなんてものともしないで、こちらに一直線にやってくる。ジュンは思わず表情を引きつらせ、少しずつ後ずさりするが、ケルベロモンの足取りは早くなる一方でちっとも距離が離れない。

 

むしろどんどん近づいてくる。伝承が正しいなら、甘いものでも投げつければどこかに行ってくれるのだろうが、あいにく手持ち無沙汰だし、眠り薬入の食べ物なんて用意できるわけがない。未成年に酒を用意させることなんて不可能だろう、パンをワインに浸すなんて難易度が高すぎる。ああもう、せめてここに万太郎さんがいてくれたら、なんて思いながら、ジュンはどうにもならない現状を嘆いた。

 

 

 

 

 

ケルベロモンはダークエリアからはい出ようとする魂を捕らえて、まだ死ぬべきではない魂が勝手に入り込まないように監視する仕事もになっているのだ。3つの首がそれぞれ別の方向を見張ることができる上に、ほとんど眠らなくてもいいデジモンである。

 

いくら夏フェスの会場がとんでもない広さを誇っているとしても、逃れることは難しい。見つかったが最後、その巨大な牙と爪の餌食にでもなったら死ぬ。それだけはわかっていたから、ジュンは必死で逃げた。

 

 

「グアアアアアアアンッ」

 

 

「つーか、なんで追っかけてくるのよ、アンタっ!アタシ、なんにもしてないわよねっ!?」

 

 

帰ってくるのは獣の雄叫び。話が通じる相手なら、こんな非常識な登場するわけないわよね、と今更ながらに気づいてしまう。使い魔の面倒くらい最後まで見なさいよ、どこでなにやってんのよ、こいつのご主人様は!ダークエリアの守護デジモンはどこでなにやってんのよ、仕事しろ、仕事!

 

そもそもダークエリアから脱獄するヤツが多すぎるから、毎回デジタルワールドは選ばれし子供を召喚しなきゃいけないほどのピンチになるんじゃないの、いいかげんにしなさいよね、こんちくしょう。行き場のない怒りを心の中で叫びながら、ジュンは必死でケルベロモンから逃げた。

 

 

 

 

 

芝生が焼ける匂いがした。それは呼吸器官が一気に焼け爛れてしまいそうな、熱風だった。真っ暗闇の中でも目視できるくらい、こうこうと燃えている、炎のうずがケルベロモンの周りを逆巻く。竜巻のようにうずを巻き、周囲の空気を巻き上げながら、こちらに襲いかかってきた暴風は、さながら地獄の業火だった。

 

目前に迫り来る火炎放射。無理だ、これは無理だ、逃げられない。反射的にノートパソコンを庇ったまま、ジュンはその場に身をかがめた。周囲の施設設備もろとも巻き込んで、窒息しかねない熱波があたりを包み込んだ。

 

体が焼ける錯覚にとらわれる。熱風は一瞬で汗を蒸発させるほどの高温である。熱射病を起こしかねないほどの熱波だった。息をしたら燃えてしまう気がして、必死で息を止めながら目を閉じていた。

 

一瞬で燃え上がった世界が黒い煙によって覆われる。焦げ臭い匂いがあたりに広がった。あとから気づいたけど、これは髪の毛が焼ける匂いだった。暴力的な風が過ぎ去ったとき、ジュンはきっと死んでいるに違いない。そう思った。

 

体の色や形はそのままで、きっと眠っているようにみえる、綺麗なミイラが出来上がっているにちがいない。全身の水分が全て抜かれた、カラカラのミイラが残るだけだ。もし誰かがミイラを掴んだら、乾燥のため、その部分はさらさらとなり、手元に残るにちがいない。その予想はいずれも外れることになる。

 

 

 

 

 

おそるおそる目を開けたジュンの前に広がっていたのは、火炎放射を真正面から受け止めたことで、すっかり焼け爛れてしまった白亜の胸像たちである。美術室の棚に陳列されている、美術の教科書や資料集に作品名と尺社名のプレートとともに置いてある、あの白い像である。

 

女性だったり、男性だったり、天使だったり、モチーフはいろいろあるけれど、共通して胸のあたりから上の部分しか存在しない、あの白亜の銅像だ。

 

見上げるほど大きなオブジェが私の目の前に突如出現し、どうやらケルベロモンからジュンを守ってくれたらしかった。呆然としているジュンに、今度は、今まで聞いたことのないデジモンの声がした。

 

 

「大丈夫ですか、ジュン」

 

 

ふりかえると、今まで見たことのない天使型のデジモンがそこにいた。

 

 

「だれ?」

 

 

「この姿でお会いするのは初めてですね、ジュン。ワタクシはガーゴモンと申します」

 

 

「ガーゴモン?」

 

 

「ええ」

 

 

じいっとガーゴモンを名乗る天使型デジモンを見つめてみる。けれど、ジュンはてんで記憶になくて首をかしげるしかない。今まで育ててきたデジモンの中には、こういったデジモンはいた事はないし、前世の記憶にもそれらしいものは見つけられなかった。ガーゴモンねえ。普通に考えたらガーゴイルが語源ってところだろうか、全然その面影はないけど。

 

ちなみにガーゴイルは怪物をかたどった彫刻のことで、屋根に降った雨をかき集めて、水路に流すところに設置されていることが多い。侵入者を防ぐために存在していて、老化しないし食事も取らない、石で出来ているから打撃や斬撃が通用しない、っていう設定はゲームでは結構おなじみな気がする。

 

奇跡の紋章が埋め込まれている拘束具だらけの聖獣デジモンは、みたところ完全体ではなさそうなのに、ケルベロモンの一撃を粉砕したところを見るとそうとう強いと見た。助けてくれたのは嬉しいけど、なんでジュンの名前を知ってるのか、さっぱりわからない。そんなジュンに、ガーゴモンの口元が笑った。

 

 

 

 

 

「ふふ、お忘れですかな?相変わらず、ひどいお方だ。ほかならぬアナタがおっしゃったのではありませんか、死ぬまで面倒を見てやるから感謝しろと」

 

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