(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

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第122話

タイチたちが降り立った鉱山付近のの町は明けても暮れても煤けて暗い空が広がっている。砂で漉した鉄分の多い水があたりを汚染しているものだから、井戸の水を飲もうものなら舌がよれるような劣悪な環境だった。掘りかえした土が口を開けて、雷のように遠くではトロッコの流れる音が聞えている。

 

町は生気がなかった。ドラコモンたちが一斉に逃げ出したからだろうか、それともゴーストタウンと化したせいか、独特な雰囲気がある。

 

鉱山に向かうとベルが鳴っていた。グラウンドラモン曰く、自分達が掘りかえした土の上にゴロリと横になり、バクバクまるで金魚のように空気を吸ってよく眠ったらしい。休み時間が終わるとひたすら働き続けたという。

 

一時も休みはしない。忙しく動き回った。恐ろしい程に。真っ黒になって自分の体を切り刻むように無理して働いた。労働力以外に売るものを持たない労働者が過労死しそうなくらい働いた。タイチは背筋が寒くなる。大人の屈強な男だって耐えられそうにないような重労働だ。ゼロマルは憤りを隠せていない。

 

あたりには監視役をしていたと思われる機械型のデジモンたちの残外が転がっていた。ベルゼブモンたちと交戦状態になり、敗北したらしい。それぞれの配置について異常なほど厳格だったという。

 

「......ほんとにティアマンテ探してるのか?」

 

ふとタイチは思った。

 

「なんか、もっと別のものを探してるような?」

 

「なにってなに?」

 

「知らねーよ、そんなの。でもデーモンがバルバモンに命じてるんだろ?ほんとに宝石採掘だけなのか?」

 

「うーん」

 

ゼロマルは困ったように首をかしげた。

 

「こういうのはやばいやつが封印されてる事が多いんだよな」

 

「封印?」

 

「そうそう。超究極体をネオに、七大魔王をジュンに育てさせてるデーモンだぜ?」

 

タイチの言葉にゼロマルは息を飲んだ。そんな2人の会話を聞いていたベルゼブモンは口笛を吹くのだ。

 

「さすがだな、お察しの通りだぜ」

 

「げげげっ、まじかあ......当たってほしくなかった」

 

「もしかしてこの辺りが放棄されてるのも、ドラコモンたちの脱走が放置されてるのも、そのせいだったりする?」

 

「大当たりだ」

 

「うわああ......言っといてなんだけど聞きたくなかったよ!」

 

ティアマンテの原石の山積しているトロッコが放置されたままだ。動かされた形跡がないらしく、ウイングドラモンたちは怪しんでいる。あたりを警戒しながらもタイチたちは奥に向かっていった。

 

最深部に近づくにつれて、不可解な文様が床に刻まれている区画に出た。どうやらなにかの遺跡のようだ。

 

「......?」

 

鉱山には不自然な近代的な扉が現れたではないか。

 

「なんだこれ?」

 

「これってあれじゃない?エレベーター」

 

現実世界のD1グランプリ会場に行くまでの道のりを思い返し、ゼロマルはつぶやく。

 

「なんだってこんなとこに?」

 

「さあ」

 

「どうやってはいるんだ?カードキー入れないとダメなやつっぽいけど」

 

「まあ、見てろ」

 

ニヤリと笑ったのはベルゼブモンだった。

 

「タイチ、Vテイマータグを置いてみろ」

 

「えっ、これをか?」

 

「そうだ。ここはもともとこの世界を管理していた神が作った場所だ。バルバモンは採掘で得られると巨万の富と引替えにこの遺跡に封印されているあるデジモンの解放を命じた」

 

タイチは唾を飲む。そして恐る恐るタグをおいていった。かちり、と全てが綺麗におさまり、エレベーターが開いた。タグを回収したタイチたちはエレベーターに乗り込む。地下空間に直通のようでなにもしなくても勝手にエレベーターが動き出す。

 

「この先にいるのか?ベルゼブモン」

 

「ああ」

 

「デーモンがさがしてるデジモンて一体......?」

 

「なんでこの先になにがいるか知ってるのさ、ベルゼブモン」

 

「んなのここにくるのが2回目だからに決まってるだろ」

 

「えっ」

 

「タグがないと入れないのにか?!」

 

「正攻法じゃなくても突破出来るやつがデーモン陣営にはいるじゃねえか」

 

「まさかジュン?」

 

「そのまさかだ。あいつは別のデジタルワールドのセキュリティシステムから相当信頼されてたテイマーらしくてな。ハッキングして一時的にこのエリアを全権把握して突破しやがった」

 

「......待ってくれよ、今なんて?ジュンたちがこの先に居る?まさかベルゼブモン、お前、オレたちを騙したのか!?」

 

「まさかこの先には敵がたくさんとかいうんじゃないだろうな!?」

 

「話は最後まで聞きやがれ」

 

ベルゼブモンは舌打ちをした。

 

「状況を打開出来るやつがてめぇらしかいねーから頼みに来たっていっただろうが!!さっき言ったように騙したってなら、このエリアはなにもかもがデーモンの支配下だぞ。入った瞬間に攻撃されるに決まってるだろうが!」

 

「そ、それもそうか」

 

「ごめん......でもよくわかんないんだけど。ジュンがハッキングしてエレベーターの先にいったんなら、バルバモンとジュンとそのデジモンがいるんじゃ?」

 

「確かにいた、がただしいな」

 

「え?」

 

「オレがドラコモンたちと逃げ出す時間を稼ぐためにジュンはわざとバルバモンの要求に応じやがった」

 

「どういうこと?」

 

「この先に居るのはこの遺跡の最奥に封印されていたデジモンで、テイマーの人格によって姿が変わると言われているデジモンだ」

 

「?」

 

「なんだってそんなデジモンがここにいるのかなんてわからねえが......ここは見ての通り実験場だった」

 

エレベーターが開く。そこには鉱山の最深部とは思えない工場のような場所が広がっていた。

 

「胸糞悪い場所だぜ。光と闇の戦争の置き土産だ」

 

ベルゼブモンがそう吐き捨てる。タイチとゼロマルは同意せざるをえなかった。

 

そこはまさしく実験場だった。それも倫理や道徳が真っ先に死んで効率と合理性が幅を効かせた時代を物語る異様な空間だった。

 

全面戦争に端を発した戦禍は全てを焼き尽くし、ようやく世界に平和が訪れて、すでに気が遠くなるような時間が経過している。かつてこの世界であったはずの戦争の断片をつなぎ合わせただけの記憶がそこにあった。

 

カプセルポットから液体が垂れ流され、空っぽな狭くて小さな棺桶じみたところから被検体らしき生命体が転がっている。カプセルポットが無数に並んでおり、いずれも様々な改造、変異、もしくは武装が施され、被検体だったことを自覚するのは難しいことではなかった。

 

「うわあ......」

 

タイチは吐き気を堪えた。生理的な嫌悪感が先にくる。思わず体が竦む。違和感がそこにはあった。

 

ごぼごぼと時折呼吸する被検体のあわぶくが黄緑色の液体に上っていく。細長く伸びる実験台で今なお彼らは生きているのだ。ゼロマルは目をそらす。まともに見ることが出来ない。ベルゼブモンはタイチたちに先を促す。

 

目を閉じてはいるものの、時折呼吸をしていることがわかる。ごぼごぼと泡が上っていった。呼吸できる液体らしい、とベルゼブモンはいう。どういう名前だったかわからないがと。

 

そして、カプセルポットたちは先端の電子が時々赤く輝いた。

 

タイチはベルゼブモンの背中を見ていた。周りには無数に並んでいるカプセルポット、その中に入っているゆらゆらと揺れている被検体が並べられている。

 

「おっと、手がすべった」

 

おもむろに安全装置を外したベルゼブモンは引き金をひく。通り過ぎた銃声にタイチたちの顔が青ざめる。はるか向こうにあるはずの扉のドアノブが乾いた音をたてて転がるのが見えたのだ。誤射と言い張りながら何発も打ち込んだベルゼブモンはもちろん反動すら受ける様子はない。

 

鍵がかかっていたのか、すでにわからない。壊されてしまった扉はきしんだ音を立てながらあくのが見えた。

 

「誰か来たらどうするんだよ!」

 

「大丈夫、大丈夫、こねえよ。監視カメラでこれだけ見てるくせに反応ねえんだから」

 

ベルゼブモンの指さす先には監視カメラがある。ゼロマルとタイチは顔を見合わせた。

 

窓が一切無く換気を促す巨大なファンの音が反響する廊下は、地下施設なのだろうか。まっすぐに続いている白い蛍光灯だけしかめぼしいものはない。殺風景極まりない廊下を前に、こつこつと軽快な音が響く。

 

ベルゼブモンは銃を構えつつ、警戒をつとめる。先は任せろと啖呵を切ったこともありその先を歩いて行った。タイチたちはあたりを見渡し、実験場がなにをしていたのかうすうす気づき始めていた。

 

デジモンだけではない。人間の被検体もいた。これはこの世界に流れ込んだ写真や動画のデータの残骸からサルベージしたやつらしいからまだマシだ。自我があるかどうかはベルゼブモンは言及を避けたけれども。

 

定期的な清掃が行われているのだろう、埃一つ無く綺麗な廊下は、長く伸びる二人の影だけ伸ばしている。沈黙ばかりがすべてだった。タイチはベルゼブモンの表情を伺うことはできないが、その一切迷いのない足取りは本当に何も考えていないのでは、と疑念を抱くには十分だった。やがてベルゼブモンの歩みが止まる。

 

「ダメだな、壊せねえ。出番だ、タイチ」

 

さっき破壊したドアノブをいっているのだろう。タイチはベルゼブモンの横からのぞき込んだ。

 

銀行の地下金庫を思わせる重々しい扉が立ちふさがっている。その横には四角い電子機器が取り付けられており、緑色の横文字が並んでいる。

この重厚な扉は隙間すらなく、その役目をきっちりこなしていることがわかる。

 

タグを押しこめると認証完了の文字が出て、扉はあっさりとあいた。

 

どうやら書斎、もしくは資料室のようだ。天井までびっしりと本が敷き詰められた戸棚、そして積み上げられた本に埋まっているパソコンがある。

 

「電気が見つかんねえ。どこだ?」

 

ベルゼブモンは手探りで壁を伝っているらしい。その反対に手を当てたタイチは、通常ならその近くにあるはずの電気を探す。

 

「んー、ねえな。タイチ、あったか?」

 

「いや、ない」

 

「ほんとに?うっわっと、あああっ!?」

 

どごっという鈍い音のあと、その影がゼロマルの視界からきえた。

 

「ゼロ?!」

 

あわてて駆け寄ろうとしたタイチだ。ベルゼブモンはとっさに銃口を向けた。遅れて明かりがついた。

 

やはり本棚がある書斎だ。他に場所がない。

 

「大丈夫か?」

 

「うん、大丈夫......なんだよ、これ」

 

本の山が出来ていて、転んでしまったようだ。奥にはパソコンがある。

 

「隠し扉があるらしいな」

 

ベルゼブモンは本を拾いながらいった。棚が動いた時に詰め込みすぎていた本が落ちたらしい。

 

「パソコンにパスワードいれるやつか、よーし探そう」

 

タイチたちは手分けして本棚にざっと目を通す。埃ひとつない、清潔に手入れされた本棚は、古本特有の香りが立ちこめている。

 

タイトルはいずれもかつての戦争において勃興した技術の拡大を狙ったものばかりだ。気分が沈むが仕方ない。なんとか読み込んでいく。そして。

 

「さっき言ったテイマーによって姿を変えるどうのって、まさかこの実験場で生まれたデジモンなのか?」

 

タイチの疑問にベルゼブモンはうなずいた。

 

「パスワードはそれだとよ」

 

タイチは椅子をひく。そしてパソコンの電源をつけた。ロックがかかっているが、さも当然のように入力していく手はよどみない。あっさりとパスワードを入力し、セキュリティを突破し、お目当ての情報を探り当てる。

 

タイチが見つけたのはこの施設のPDFだった。ここに印刷機はない。書斎の引き出しを開けてみる。手頃なペンとノートが入っていた。ぱらぱらめくってみるがめぼしい記述はない。

 

ここの持ち主はメモ魔ではなかったようで、タイチでは解読不能なレベルの汚い字が書き殴ってあるだけだ。仕方ないので一番後ろのページにこの施設の名前と記述の概要、内部の簡略化した地図を書き出していく。

 

そして、引き出しに入っていた、綺麗な布に包まれた筒状のものを取り出す。それは一番奥にそっとしまわれていた。金属のなにかだろうか。ずっしりときたそれをほどいてみると、それは弾丸が突き刺さっている懐中時計だった。その時間は中途半端で止まっている。

 

電波時計のようだから、この弾丸により精密機械が破壊されてしまったようだ。これを修繕する術はもうこの世界にはないだろう。電波時計なのにネジがある。不思議に思って触ってみると、円盤がかちりと音を立ててあいた。

 

しばらくして、タイチはパソコンを切った。

 

本が空っぽの棚が動き出す。地下に続く階段が現れた。ゼロマルがゆいゆうと通れる広さである。

 

「懐中時計見つけたんだけどさ、なんか入ってるみたいなんだよ。開け方誰か知らないか?」

 

タイチはみんなに見せる。

 

「貸してくれ、開けられるかも」

 

ガー坊に差し出すとあっさり懐中時計はあいた。懐中時計の円盤が持ち上がる。そして、その間に大切にしまわれている劣化した写真があった。

 

「人間だ」

 

「デジモンもいる」

 

「5人いるね」

 

「誰のだろ?」

 

「さあ?」

 

モノクロだから相当古いものらしいが、そこにいるまなざしは優しい。

 

「なんか大事なものみたいだし、持って帰ってホーリーエンジェモンに聞いてみるか」

 

「さんせー」

 

タイチはリュックに懐中時計をしまい込んだ。

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