(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー) 作:アズマケイ
ネオの目の前で、まさに最後の審判に相応しい虐殺が行われていた。それは本来終末論的世界観であり、世界の終焉後に人間が生前の行いを審判され、天国か地獄行きかを決められるという信仰である。
世界は善なる神と悪なる神の闘争の場として考えられており、最終的に悪が滅びた後で世界も滅び、その後、最後の審判が行なわれる。一神教以前に定義されていた最後の審判は、地上に世界の誕生以来の死者が全員復活し、そこに天から彗星が降ってきて、世界中のすべての鉱物が熔解し、復活した死者たちを飲み込み、義者は全く熱さを感じないが、不義者は苦悶に泣き叫ぶことになる。これが三日間続き、不義者の罪も浄化されて、全員が理想世界に生まれ変わる。この結果、悪人(不義者)は地獄で、善人(義人)は天国で永遠に過ごすことになるとされていた。
リヴァイアモンのモチーフたる神の創造物も本来はその最後の審判の時に目覚めて悪人を全て抹殺し、最終的に神に殺される役目をおっている。
それに準えるなら、リヴァイアモンのデータだけでなくリリスモン、デーモン、そしてクロノモンに吸収されたと思われるベルゼブモンを除いた平行世界の自分を含む4体もの七大魔王のデータを取り込んでしまったベルフェモンは間違いなく神にもっとも近い領域にいる。かろうじてベルフェモンの原型を保ってはいるものの、内部に渦巻く高濃度な反応はいつかベルフェモンのテクスチャを破壊するに違いない。
「おい、俺たちもベルフェモンを追いかけるぞ。クロノモンを探すなら奴を追いかけた方が早い。おい、リリスモン」
リリスモンはじっとベルフェモンをみていた。
「なにをしている」
「うらやましいのか」
デーモンの言葉にリリスモンはびくりと肩を震わせた。
「ジュンがこの世界にいて、お前の世話を焼いてきたのはあのベルフェモンのためだ。どう足掻いてもお前はパートナーデジモンにはなれない。ベルフェモンとジュンの繋がりは超えられない。哀れなものだ」
リリスモンの目じりに涙が浮かぶ。
「はやくしろ、ベルフェモンを見失うぞ」
後ろからすすり泣きが聞こえてくる。
「デーモンのやつめ、なんのつもりだ。今はそんな状況ではないという......」
そこまで考えて、ふとネオはリリスモンもまた生贄に過ぎないことを思い出すのだ。
「リリスモン」
「?」
「ひとつだけ、お前もパートナーになれる方法があるぞ」
「?!」
リリスモンが食いついた。
「このままいけばベルフェモンに取り込まれた他の七大魔王たちはベルフェモンの糧となり、パートナーになるだろう。いいのか?」
「やー!」
「なら、お前もベルフェモンと同じように取り込めばいい。一体化すればいい。核にベルフェモンがいても自我をのっとれば、リリスモン、お前がジュンのパートナーになれるんじゃないか?」
「と、りこむ?」
「そうだ。データを取り込むんだ。七大魔王の端くれならそれくらい出来るんじゃないのか?たとえばベルフェモンを殺してお前の糧にするのもありだな。殺したデジモンのデータは例外なく自分の自己強化に繋がるんだろう?バルバモンを倒した時のように」
リリスモンは瞬き数回、まじまじとネオを見た。
「そうだ、お前はもう既にできている。あとはやるか、やらないか。それだけだ。違うか」
「ちがわ、ない」
「だろう。ならばあとは行動に起こすだけだな」
リリスモンの顔がかがやいた。口からでまかせにも程があるが、悪意を読み取れないほど幼いリリスモンにはわからない。ありがとうと涙を拭い、ベルフェモンを追いかけるためにネオの後ろについてくる雛鳥並の精神性しか持たないリリスモンにネオは哀れなものだなと思った。
「ネオ、超究極体をつれていけ」
「なんだって?」
「腹が減ったらしい。本来餌にするはずだったデジタマごとベルフェモンが吸収したせいでそいつはひどく気がたっているからな。究極体がくいたいそうだ」
ネオはぎちぎちいいながら鳴いている超究極体の幼年期を見て冷や汗を浮かべたあと笑った。
「光栄に思え、お前には特別に超究極体の能力を見せてやろう。こいつはクロノモンといった試作の果てに出来た完成系なのだ」
デーモンが号令をかけると檻が出てきた。中にはホーリーエンジェモンが率いる軍の司令官と思われる究極体が入っている。
「見くびられたものだな。幼年期に私が食われるとでも?私はホーリーエンジェモン様から指揮を任された───────」
「見くびっていたのはお前の方だろう。ただのデジモンと侮っていたからたった一体の幼年期に軍を壊滅させられたのだからな」
「なっ!?ま、まさか、我が軍を壊滅させたのは......」
「そうだ。ネオに任せるまではこいつの能力を把握するためあらゆる戦場に連れて行ったが素晴らしい戦果をあげてきた」
にやりとデーモンは笑う。
「さあ、見ていろ。彩羽ネオ。お前がこれから育て上げることになる超究極体の真価はここにある」
檻の中に幼年期のピンク色のモンスターが投入された。天使の究極体デジモンは剣を向けて攻撃するがそいつは全てを飲み込み、そのたびに一回りもふた回りも大きくなっていく。だんだん恐怖を感じてきたのか、覇気がなくなっていく。やがて攻撃という餌がもらえなくなり、哀れな犠牲者にとびかかる。ピンク色のデジモンは牙を向いた。断末魔が響いている。0と1になり、データがすべて取り込まれてしまった。
「すごい......すごいぞ、なんだこいつは!?こんなデジモン見たことがない!」
あらためてこのデジモンの凄さを目の当たりにしたネオの目はかがやいた。
「このデジモンは他のデジモンの構成データを取り込むだけでなく、攻撃といった情報や聖なる力といったエネルギーまで取り込むことができるのか!」
「そう。そして更に強くなるのだ。際限がない。まさに最強というに相応しいとは思わないか?」
「そうだな。だからこそ俺はこの世界に呼ばれたし、このデジモンの育成を託された。まさしく俺にしか育てられないデジモンだ」
「やはり天才テイマーだけはあるな。話が早くて助かる」
「このデジモンを連れていくということは......」
ネオはニヤリと笑った。
「なにがおきても事故ということだな」
「そうだ、不幸な事故だ」
デーモンは見たことがない電子端末をネオに渡した。
「ジュンが持っていたプログラムをこちらが手を加えたものだ。現実世界でデジモンはこの中で過ごし、必要とあらば出てきたり、ネットの世界に侵入したりしていたようだ。デジファームというらしいな」
「ファーム......なるほど、複数のデジモンを育成するためにこの端末の中にデジタルワールドを模した仮想空間が集約されているわけか。この中に隠し持っていけというわけだな」
「超究極体のステータス的に考えて、すぐにプログラムを突破されてしまうのでな。専門のクラウドをいれてある」
ネオは目を見開いた。
「そこまでしなければならないのか......面白くなってきた」
クラウドは、従来は利用者が手元のコンピュータで利用していたデータやソフトウェアを、ネットワーク経由で、サービスとして利用者に提供するものだ。
利用者側が最低限の環境(パーソナルコンピュータや携帯情報端末などのクライアント、その上で動くWebブラウザ、インターネット接続環境など)を用意することで、どの端末からでも、さまざまなサービスを利用することができる。
これまで、利用者はコンピュータのハードウェア、ソフトウェア、データなどを、自身で保有・管理し利用していた。
しかしクラウドサービスを利用することで、これまで機材の購入やシステムの構築、管理などにかかるとされていたさまざまな手間や時間の削減をはじめとして、業務の効率化やコストダウンを図れるというメリットがある。
クラウドサービスでは、主に仮想化技術が使われている。仮想化技術とは、実際に存在する1台のコンピュータ上に、ソフトウェアの働きにより、何台もの仮想のコンピュータがあるかのような働きをさせることができる技術だ。
逆に複数台のコンピュータをあたかも1台であるかのように利用することもできる。
この技術により、利用者は、クラウドサービス事業者が保有するコンピュータの処理能力を、柔軟に必要な分だけ利用することができるのだ。
利用者から見て、インターネットの先にある自分が利用しているコンピュータの形態が実際にどうなっているのか見えづらいことを、図で雲のかたまりのように表現したことから、「cloud=雲」という名称がついたと言われている。
デーモン曰く、超究極体専用のインターネット経由での、仮想化されたアプリケーションサーバやデータベースなどアプリケーション実行用のプラットフォーム機能をつけたらしい。
いつのまにか檻は空っぽになっていた。ネオが端末を向けると超究極体の成長期は消えてしまう。中に入ったのか簡易な情報と画面が表示された。ネオはポケットにしまい、リリスモンと共にデーモン城をあとにしたのだった。