(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

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第13話

それはもう、圧巻だった。理不尽なほどの実力差だった。あっという間に光の粒子になって消えてしまったケルベロモンを見届けて、ジュンはガーゴモンに、助けてくれたお礼をした。

 

 

ガーゴモンは、一見すると天使デジモンである。翼のような耳、そして白い羽は聖なる獣の象徴だ。しかし、真っ白な異様に長い腕、脚、細い胴体、顔面にいたるまで、拘束具が覆っている。奇跡の紋章が刻まれているため、その拘束具がガーゴモンの力を制限しているのが伺えた。

 

どうやらこの姿でなければ、神聖な獣としていられないらしい。じゃらじゃら、と窮屈そうな拘束具を鳴らしながら、ガーゴモンは、思い出されましたか、と前世のジュンしか知りえない言葉をリフレインする。ぱちぱち、と瞬き数回、じいっとガーゴモンを見つめていたジュンは、恐る恐る言葉を紡いだ。

 

 

「もしかして・・・・・・あのときのボタモン?」

 

「ええ、いかにも。ワタクシはアナタに保護された、あのときのボタモンでございます。やっと巡り会えた。ああ、今日は記念すべき日ですね。今日という日を夢見て、ワタクシはアナタを探し続けてきたのです。ようやく、これまでの努力が報われたというものですね。アナタと会いたい。ただそれだけのために、ワタクシは今、ここに居るのですよ、ジュン」

 

 

近づいてくる見上げる程の巨体。でも、その声色は優しい。だからジュンは恐れを抱くことはなかった。前世のジュンとあのときのボタモンしか知らないはずの言葉を教えてくれたことが、これ以上ない証拠だった。前世でみた最期の記憶で、気がかりのひとつだったボタモンの進化した姿だと主張されれば、警戒する理由はない。

 

 

「ずいぶんとおっきくなったのね。てっきりもう死んでるかと思ったわよ」

 

「ええ、何十回も死にましたとも。アナタがいなくなってから、実質、あのパソコンで世話をしてくれる人間は皆無でしたからね」

 

「えっ、そうなの?」

 

「ええ、何十回も転生しましたとも」

 

「ちょっとまって、どんだけたってるのよ」

 

 

ジュンは青ざめた。デジモンは、成熟期、完全体、究極体と進化するたびに寿命が延びていく。普通に究極体まで育てれば15年くらい、しっかりと育てれば30年は生きると言われているが、ジュンはそこまでベテランテイマーではなかった。せいぜい完全体までが関の山である。

 

でも、誰にも世話をされない、ネグレクト状態だとせいぜい成長期で死んでしまうだろう、デジタマになれるギリギリのデータ量だ。それでも、成長期の寿命は2ヶ月ほどだ。たったそれだけでも、何十回ともなれば積もった年月は膨大なものになる。どういうことか説明をもとめるジュンに、恭しく礼をしたガーゴモンは、語り始めた。

 

 

20xx年某月、いつまでたっても出社してこない上に、電話でもメールでも連絡もとれないジュンを心配した同僚と上司が、マンションを尋ねる。新聞や郵便物が放置されたままのため、管理会社に連絡を取り、マスターキーで開けてもらう。

 

彼らを待っていたのは、不幸にも脳溢血で倒れたジュンの姿である。真っ青になった上司が救急車を呼んだが、時すでに遅し。もともと不健康な生活習慣を送っていたジュンだったが、あまりにも若すぎる発症だった。もし誰かが気づいて、病院に搬送すれば、命だけは助かったかもしれない、とは診断に当たった医師である。

 

しかし、頭の中で出血した場所が悪すぎた。実質の即死である。会社から連絡が行った遠方の家族が大慌てで駆けつけ、本人確認が行われた。たった2x歳の人生である。親を置いていくなんて、なんて親不孝な、と両親は泣いていた。

 

残された弟は呆然としていた。しめやかに通夜が営まれ、家族と友人だけの葬儀が行われた。事件性はない。だから警察はでなかった。でも、ジュンが直前まで接触していたガーゴモンに、残された者たちの溜まった感情が一気に噴出してしまうことになる。

 

 

「ワタクシはなにもできなかった。メールを打つことすらしらない、幼年期だった。どうしようもありませんでした」

 

 

無力なワタクシをお許し下さい、と頭を垂れるガーゴモンに、ジュンは小さく首を振るだけだった。せめて成長期以上だったなら、ジュンの異変に気づいたときに、アドレスにある連絡先すべてにメールをおくれたかもしれない。そうすれば、ジュンは助かったかもしれない。

 

でも、ボタモンだった。のんきにお腹がすいた、と泣いているだけだった。そのパソコンの前で突っ伏して倒れているジュンがいる。ぶつけることができない感情が、ボタモンに向けられるのは、当然と言えた。

 

 

「教えてくれてありがと、ガーゴモン。これで気兼ねなく、本宮ジュンとして生きていけるわ」

 

「ジュン」

 

「なによ」

 

「泣きたいときには、泣いてください。ワタクシはアナタの痛ましい笑顔はみたくありません」

 

「アンタ、馬鹿じゃないの?この話をした本人がいうこと?」

 

「だからこそ、です。ワタクシがそばにいます。怒ってください。悲しんでください。ワタクシは、すべて、受け止めなければならない」

 

 

ぽんぽん、と青いヒヅメをもつ白い手のひらが、ジュンを優しくなでる。ごつごつとした男の手がジュンの頭をなでる。目をとじたジュンは、うつむいた。つう、と光るものが頬を伝う。ぼろぼろとこぼれ落ち始めた雫は、洋服を伝うあととなる。声もなく泣き始めたジュンを、ずっとガーゴモンは見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、ごしごしと乱暴に涙を拭ったジュンは、泣きはらした目でガーゴモンを見上げた。

 

 

「よくわかったわね、アタシがここにいること」

 

「ええ、ずいぶんとかかりましたとも。しかし、諦めたくはなかったのです。だから、ワタクシはここにいる」

 

 

拘束具からのぞく口元が微笑む。死に別れたテイマーと会いたい。それは、どんなデジモンでも持ちうる感情である。でも、デジモンと人間は違うから、それはできない。常識にとらわれているデジモンたちはそれを実行することはなかった。

 

だが、ガーゴモンはそのとき、まだボタモンだった。純粋だった。だから恐ろしいくらい行動力があったのだ。ジュンはデジタルワールドに仕事で向かうことが多かった。つまり、データ化して、デジタルワールドを出入りすることがあった。

 

基本的にパーソナルデータを弄ることはセキュリティシステムが禁止しているため、手出しすることはできない。でも、死んでしまった人間のデータの扱いに関しては、そこまで真剣に思いつめるデジモンや人間がいなかったこともあり、曖昧だった。

 

そこをガーゴモンはついたのだ。デジタルワールド中に存在するジュンの記録を寄せ集め、復元しようとしたのだ。狂気とも言うべきその行動を実行に移すデジモンがいるなんて、誰も考えなかったに違いない。だから、誰も気づかなかった。

 

そのうち、ガーゴモンは、最後の関門である、記憶のデータを入手することに尽力し始めた。ボタモンのことを知っているジュンの記録。血眼になって探し続けているうちに、そのデータだけが紛失していることに気がついた。状況的に考えて、どこかのデジタル世界に向かったとしか考えられなかった、とガーゴモンはいう。

 

人間がネットの世界に入り込むということは、その全てがデータ化することを意味する。肉体も精神も魂さえ、すべてが1と0に変換されてしまうのだ。

 

本人に無許可でそれを行い、データを連れ去るということは、当たり前だが犯罪行為である。しかし、セキュリティシステムは無力だった。あたりまえだがジュンはそこまで権限ある仕事はしていない。

 

明らかに人知を超えたものの干渉があったのは明白だった。でも突き止めることはかなわない。阻まれたのは、連れ去られた先が、異世界のデジタルワールドであるということだけである。そのゲートを潜ることは、サーバを守護するロイヤルナイツが許さなかった。

 

しかし、ガーゴモンにとっては、その先こそが価値があった。唯一この世界で存在を認めてくれたジュンの傍こそが、居場所だった。すべてだった。だから、異世界を渡るアイテムを強奪した。20xx年のデジタルワールドから追放された。しかし、それは好都合だった。

 

その島流しの先こそがガーゴモンが求めてやまない異世界のデジタルワールドだったからである。あとは、ジュンのデータの痕跡をひたすらサルベージして、追跡した。その先にいたのが、本宮家の長女になっているジュンだったというわけだ。

 

 

「不思議に思ったことはありませんか。どうして、アナタが突然、小学校4年生の女の子になっていたのか。そして、今までの本宮ジュンはどこに行ってしまったのか。アメリカでの爆弾テロ事件の前後の記憶が、曖昧ではありませんか」

 

「その口ぶりだと知ってるわけね?」

 

「ええ、もちろん」

 

「教えてくれる?ガーゴモン。ここまで来たら、中途半端は気持ち悪いもの。どんなにきついことでも、受け入れてやろうじゃないの」

 

「わかりました。では、お教えしましょう」

 

 

ガーゴモンは、ジュンをまっすぐ見据えた。

 

 

「1995年、アメリカのサマーメモリーズにて、爆弾テロ事件が起こりました。その真相は、光が丘テロ事件とおなじく、デジモン同士の大乱闘。目撃した子供たちは、デジタルワールドの方針で、そのときがくるまで緩やかに記憶を封じられることとなりました。その結果、誰もが、もちろんアナタ自身も、忘れてしまったのですよ」

 

「なにを?」

 

「1995年のアメリカ、サマーメモリーズ。ほかの子供たちは、まだ5歳だった。でも、アナタは10歳でした。この悲劇がわかりますか。唯一、客観的に物事を把握できる年齢であるがゆえに、冷静でいなければならない残酷さったらもう、ありませんよ。それを受け入れられるほど、アナタは強くなかった。その結果、本宮ジュンは一度死んだのです、いや、死にかけた。さすがにデジタルワールドもほうっておけず、精神的に立て直すまで、現実世界の1分がデジタルワールドの1日なのを利用して、データ化したアナタを連れて行き、治療を施したのです。しかし、当時のデジタルワールドは、まだ人間というものを正しく理解できていませんでした。デジタルモンスターと人間の違いが理解できないほど、無知だった。まさしく、あの時は「出会うのが早すぎた」と云えましょう。デジモンのデータを修復するとき、デジタルワールドは世界の記録からデータをサルベージし、流用します。個人情報がほとんど同じ、つまりパーソナルデータが限りなく近かったのが原因でしょう。デジタルワールドはそれを誤認した。それを普通の人間である「本宮ジュン」に施した。どうなりますかな」

 

「なるほど、そういうこと。つまり、アタシは転生したわけじゃなかったわけね。精神的に死んじゃったこの子の精神を戻そうとして、アタシの精神をダウンロードしちゃったってことか。じゃあ、どうなるの?アタシ、消されるんじゃないの?」

 

 

いえ、とガーゴモンは首を振る。

 

 

「デジタルワールドは、もう無知ではありませんから、知っています。精神的にしろ、身体的にしろ、一度死んでしまった人間は元に戻らないということを。もし、アナタのデータをアンインストールしても、植物人間が出来上がるだけです。それでは、ジュンという少女は2度死ぬことになる。そこまで残酷なことができるほど、この世界は冷酷ではありませんよ」

 

 

いつか時が来たら、すべてを説明するときがくるだろう。それでも、あの子はお姉ちゃんと呼んでくれるだろうか。ジュンの脳裏に、世界で一番大切な弟がよぎった。

 

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