(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

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第141話

ホーリーエンジェル城の救急室にはすでにロゼモンの姿はなく、マリともに戦場に向かったらしい。カプセルポットにただちに担ぎ込まれたデジゲノムがテクスチャから再構成されていく。

 

「どれくらい時間がかかるかわからんが、ドットマトリクスに抗う力は強さを増している。ジュンのおかげだ、ここから動くなよ。お前になにかあったら、いよいよベルフェモンも終わりだぞ」

 

「わかったわ、おとなしくしてる」

 

レオモンに念押しされたジュンはうなずいた。

 

「ついでだ、これを解析してくれ」

 

「これは?」

 

「マスティモンさまがこの城の地下に広がる遺跡の碑文だと。もしかしたら、お前は読めるんじゃないかと。やれるか」

 

「時代にもよるけど......やってみるわ」

 

ジュンはさっそくデジモンアーカイブにデータをダウンロードした。

 

「これは......」

 

ジュンは思わず息を呑んだ。ジュンはこの文言を見たことがあった。

 

「予言の書......デジモン黙示録......アタシの世界にあるデジタルワールドにある碑文と同じね。はじまりの世界が同じだった証だわ」

 

かつて世界は2つのイデアがあり、世界を巻き込んで大きな戦争を起こしたと記されている。

 

そしてあるイデアが勝利し、敗北したイデアは火の壁の向こう側に封印され、封じられた。

 

そして世界が平和になり、そのことを讃えるために、記録を残したらしい。

 

邪悪の闇を打ち払い消滅せしめよ。この世に永遠の平和を。そう締めくくられている。

 

 

デジモン黙示録は、淡々とかつてあった動乱の日々を書き連ねている。ガラスの海、結晶化する大地、黒い霧に飲まれて同族同士で撃ち合い、全滅する仲間たち、デジタルワールドを構成するデータが改変され、再編され、再統合され、構築されるはもうひとつの勢力。

 

ほとんどがきわめて抽象的な文章に終始しており、難解な単語のオンパレードで、解釈次第では無限の理解を得られそうな文脈ばかりである。

 

少なくとも、ジュンのようにあらゆる情報を得ていない人間はもちろん、デジモンが理解するのは極めて無謀と言わざるを得ないものだった。

 

とりあえず、古代種がほろんでTAMAGOTTI文明が到来するまでの間に、デジタルワールドが危機に陥り、それを一丸となって救った者たちがいたことだけは確かである。そして、この記録が残されているということは、見まごうことなき勝利を彼らが勝ち取ったという証拠でもある。

 

ジュンの世界のデジタルワールドと違うのは、その救世主たちの人数が不明であり、人間もいたのに忽然と姿を消したこと。デジモンしかわからないということだ。

 

「アルフォースブイドラモン?」

 

ロイヤルナイツのメンバーにいると聞いたことがあるデジモンだ。デジモンアナライザーも反応してデータを表示する。

 

「この世界だと選ばれし子供たちがいないから、このデジモンとテイマーが救世主だったわけね。肝心の名前がないのはどうかと思うけど」

 

アルフォースブイドラモン

 

世代 究極体

タイプ 聖騎士型

属性 ワクチン

必殺技

・シャイニングVフォース

 

 

古代デジタルワールドから伝わる、ある“予言”の中だけに登場する伝説上の聖騎士デジモン。その“予言”にはネットワークの守護神“ロイヤルナイツ”の出現が書かれており、“ロイヤルナイツ”と呼ばれるデジモン達は、デジタルワールド最大の危機の時に“予言”の元に集うと言われている。

 

アルフォースブイドラモンは“ロイヤルナイツ”の中でも神速のスピードを持ち、その動きを追える存在は皆無である。またクロンデジゾイドの中でも希少な存在で最軽量のレアメタル“ブルークロンデジゾイト”の聖鎧に身を包み、空を裂き、大地を割る。

 

両腕に装備した“Vブレスレット”から武器やシールドが展開する。必殺技は胸のV字型アーマーから掃射される光線『シャイニングVフォース』。

 

その予言の書がジュンが今読んでいる碑文ではないのはたしかだった。

 

「......あれ?」

 

救世主たちの活躍が記されている章を見ていたジュンは指でそこをなぞった。

 

0と1の夜明け。古より伝えられし大いなる光。竜の一族を照らす。聖なる光、剣となりて、邪悪なる竜を鎮め、また盾となりて、心正しき竜に新たなる力授けん。

 

それは古代種のオーバーライトについての記述だった。激しいオーバーライトはデジモンの体を蝕む。特に気性が荒く喜怒哀楽が激しい古代種は滅びの道をたどり、幻のデジモンとなった。だがオーバーライトの中には反対に感情の昂りが力を生むものもあった。喜びといった感情や大切なものを守ろうとする強い心が生むオーバーライトは、治癒の力を持ち、強靭な精神に相応しい肉体を求めて進化を促すという。救世主が救世主たりえる力の名はアルフォース、ゆえにアルフォースブイドラモン。

 

「......このデジモンもブイドラモンからエアロブイドラモンに進化してるのね。ゼロマルみたい」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ、タイチくんがいってたわ。コロモンからアグモン、ブイドラモンに進化したって。だからゼロマルは古代種の先祖返りだと思うんだけど、もしかしてデジゲノムを継いでたりしてね」

 

「それはあるかもしれん。マスティモンさまは救世主たりえるテイマーを探していたが、そのきっかけこそが本来想定されていない進化経路を歩んだゼロマルなのだ」

 

「そうなんだ」

 

「いわれてみればゼロマルってポテンシャルたかいよね」

 

「回復も早いし」

 

「タイチくんの力も大きいけどね。タイチくんがいなかったら、いくらゼロマルでも10倍の差はあるといわれてる世代差を埋めるのは至難の業よ」

 

ジュンはためいきをついた。

 

「ほんとにトップテイマーしか召喚されてないわね、この世界。タイチくんたちのいる現実世界はずいぶんとアタシのいる世界と違うみたいだし、だからこんなにデジタルワールドの世界もまるで違うのね。並行世界ってやつかしら。まあ、知ってたけど」

 

「ジュンさんもテイマーなんですか?」

 

「だった、が正しいわね。タイチくんたちには到底及ばないわよ、大会で優勝なんてしたことないし。アタシがトップテイマーだったら、デーモンはそのままアルカディモンの育成をさせてたと思うわよ」

 

「たしかに」

 

「ま、アタシにはベルフェモンがいるからね、いらないけど。無事でよかったわ、ほんとに」

 

カプセルポットの中にはオグドモンに適合したことで超究極体の因子の性質が変化したのか、ドットマトリクスの対象を明確に選ぶようになった結果、因子の力が弱まった。オグドモンがオグドモンたりえるには七大魔王のデジゲノムは重複してはいけない、相応しくないと判断されたことで、無事呪縛から解放され、再構築が進んでいるジュンの相方がいる。

 

「アルカディモンからドットマトリクスを食らってたらさすがにベルフェモンでもあぶなかったわね。転生できるだけのデータが確保できてよかったわ」

 

カプセルポットの中でベルフェモンだったデジゲノムはやがてひとつの塊に集約されていく。

 

「さすがに完全復活とはいかなかったか」

 

「ベルフェモン、死んじゃったんですか?」

 

「オグドモンに取り込まれちゃったから仕方ないわ。消滅しないだけマシよ。アタシのパートナーである以上自我は保ったまま、さらに強い個体として生まれ変われることを考えればまだ御の字だわ」

 

カプセルポットの中に紫色に不思議な模様をしたデジタマが出現する。七代魔王のデジゲノムからできているにもかかわらず、いきなり究極体が生まれてくるサイズではなく普通のサイズのデジタマだ。これこそがジュンとベルフェモンの特殊な関係を象徴していた。

 

「これでアタシの戦場復帰は絶望的になっちゃったから、もうここからは一歩も出ないで支援するしかないわね。デジメンタルの場所がバレちゃった以上、はやく回収してタイチくんたちに届けるしかないわ。アルカディモンに使われるくらいなら、使い道くらい先に決めさせてもらいましょう」

 

ジュンがそういって笑ったときだ。

 

くらりと揺れたジュンに貧血かとレオモンが案じ、ジュンもつられてしがみついたら、カプセルポットや医務室の設備や本棚も、壁にかけたカレンダーも揺れていて、誰もがようやく地震だと気づくのだった。 

 

信じられない、地面がこんなにもたやすく揺らぐなんて。ホーリーエンジェル城はプリンのうえに建っているのかと錯覚しそうになってしまう。床がやわらかくなり、ゆっくり溶けてくずれていく感覚。めまいがして床にうずくまり、耳鳴りのなか、暗い色彩の万華鏡の模様が視界を覆う。地震はおそろしい。こんなに簡単に揺らぐ世界もおそろしい。また揺れた。

 

それだけ外の戦いが激しさを増しているのだ。

 

ジュンたちは長いあいだ立ちつくす。しっかりと両足で地面をふんで、もう揺れてないと何度も確かめるまでは安心できない。かすかな揺れであっても、じつは大地震が来るまえの予震で、いまこの瞬間にも地響きが聞こえて大揺れが起こり、部屋の隅までふっとばされるんじゃないかと身がまえる。 

 

万が一のときのための一人一人を守る十分な対策はホーリーエンジェル城には存在しえないのだ。

 

嫌な予感は的中した。

 

地中から大木が折れるような、あるいは大砲のような音が轟きわたる。轟然たる大音響が大地をつんざく。ホーリーエンジェル城が破裂するのではないかと思われるほど激しい、遠くから伝わってくる地鳴りだった。

 

地響きが地の底で大太鼓でも打つ不気味さで、少しずつ少しずつ大きくなり、まっしぐらに接近してくる。やがてそれは建物が揺れ傾くような地響きとなり、深い所から湧くような地響きが、足元から伝わってくる。

 

やがて収まりはしたが、誰もが時間がないのだと悟るには充分だった。

 

「シグマくん、デジタルゲートの構築はどれくらいかかりそう?誘導ならアタシがするわ、やったことあるから」

 

「カオスピエモンが万全ではないのは心配だが、ジュンたちの護衛もいるだろう。ここはまかせてくれ。頼んだぞ」

 

「レオモン頼んだよ。ジュンさんは誘導よろしく。行こう、カオスピエモン」

 

砕け散った仮面の下からみえる口元は笑っている。ジュンはさっそくデジメンタルのところまでシグマたちを誘導すべくデジモンアナライザーを繋いだパソコンの前に座ったのだった。

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