(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー) 作:アズマケイ
第149話
2050年2月某日。
この冬は全国的に平年よりも気温が低く、厳しい寒さになっていた。特徴的なのは寒さが続いている点だ。東京都心は年明け以降の最高気温が未だに15℃に届いていない。
2月に入ってからは南岸低気圧が通過するパターンが増え、冬から春への変化は見えてきてこそいるものの、南からの暖かな空気は関東まで流れ込むことがなく、なかなか気温が上がらない。
これだけ寒い日が続くのは10年ぶりだと天気予報では指摘していた。
週明けは寒気が南下して寒さが続く見込みだが、来週後半になると冬型の気圧配置が弱まり、日本の南の海上に高気圧が移動。南からの暖かな空気が流れ込みやすくなって、気温が上昇する予想となっている。
東京都心の予想最高気温は25日(金)になると平年並みに戻り、27日(日)は16℃の予想であり、今年最も高い気温で、2月の終わりを目前にしてようやく春を感じられる陽気がやってくる。
その一方で、暖かくなるとともに遅れていたスギ花粉の飛散が一気に始まる可能性がありら、まだ症状があまり出ていない方も、しっかりと対策をするように。
50年たっても花粉症があるなんて世知辛いなあとジュンはすれ違った人が聞いていた天気予報動画の音漏れを聞きながら思った。
春告草と呼ばれる梅。その静かで清らかな樹木が、亡き人を優しく包み込むお墓になる。自然に還りたい、木々の命と共にありたい。そんな思いを集めた自然葬(樹木葬)の墓苑にジュンはいた。
「......」
「大丈夫ですか、ジュン」
「いやあ、実際に見るときついわね」
「ここに名前があると言うことは、やはりこの世界は......」
「アンタとアタシの生まれた世界線てわけね」
「そうなりますね」
全人類がパートナーデジモンを持つまであと少しなだけあって、ジュンがポキュパモンをつれていても誰も見てくることはなかった。それだけデジモンが世間で受け入れられてから、長い年月がたっているのだと思わされた。
2050年のデジタルワールドに転移したジュンは、どうしても行きたい場所があるのだとセキュリティシステムに所属するデジモンにお願いして、港区にある寺院を訪れていた。そこは樹木葬のお墓があり、2月ということもあってさまざまな色の梅の花がきれいな花を咲かせていた。
ホーリーエンジェモンからこの世界にばら撒かれたネガーモンに寄生されたデジモンについて知らされたときから、ファスコモンと初めて出会ったときのことを思い出してしまったジュンの予感はやはり当たっていた。
あのときデジ研から送られてきたボタモンは、ネガーモンに寄生されたボタモンだったのである。進化してパートナーデジモンごと融合される前にジュンが死んでしまったせいで色々と不都合が生じたに違いない。ファスコモンがいっていた遺族からの辛辣な対応は当たり前だったのだ。
もちろんボタモンはそんなことつゆしらず、唯一愛情をくれたジュンを探し求めていろいろなデジモンから逃げては転生を繰り返し、あらゆるデジゲノムを喰らい、パートナーデジモンをも融合し、時間を越えてまでジュンのパートナーという地位を確立したわけだから、もはや別の個体といっていいだろう。
ジュンから聞かれたファスコモンは、ようやく出自を明らかにするのである。パートナーデジモンとなった今、切り捨てられることはないと確信しているからこそでもあった。そこに秘めている途方もない執着をおくびにもださず、ファスコモンはいけしゃあしゃあとこの梅の前に毎年お墓参りにくる遺族について聞くのだ、会いたくはないのかと。ジュンは首を振った。なぜかと問うファスコモンにジュンは悲しげに笑うのだ。
「あのねえ、こっちの世界のアタシはもうとっくの昔に死んでるのよ?しかも葬式まですんでるし、戸籍はもうない。アタシがアタシであることを証明できるものはなにもないし、今のアタシは平行世界の過去を生きる本宮ジュンにすぎないのよ。今更会えるわけないじゃない」
「そういうものですかねえ?人間はあいもかわらずくだらないことばかり気にして、大切なことばかり見落とす」
「あのねえ。それを人間に求めるのは酷ってわからないわけ?生まれ変わっても、憑依しても、その魂からパートナーを探し出せるパートナーデジモンと一緒にしないでよ、そんなことできるのアンタたちだけなんだから」
「よくわかりませんねえ」
「わかんないなら黙ってて」
「わかりましたとも」
「もう。しっかし、やっぱりここだったわけね。想像はしてたけど。実はおばあちゃんがここにして欲しいっていってたのよ、だからだと思う」
「誰もかれもが順番を間違えているとお墓参りするたびにつぶやいていましたよ」
「わかってるわよ、20代だったし」
手を合わせてから、ジュンは立ち上がった。
2050年の日本は、かつてよりも国力が7〜8位にまで順位を下げている。
その要因として、人口減少と高齢化がある。日本の場合、高齢化へのスピードは他国に先駆けて非常に早く、2042年頃に高齢者数がピークになり、東京都民の3人に1人は65歳以上になった。日本全体の人口は1億人を割り込み、アジアのなかでの高齢化率は日本がトップのままだ。
高齢化は人間だけではなく、社会資本(インフラ)にも訪れ、水道管や電線、橋脚、道路。税収も低下している状況で老朽化したこれらすべてを刷新していくのは難しくなり、コンパクトシティ化と、それに伴うモビリティの最適化が加速した。
人々が広いエリアに分散して暮らしていると行政サービスもインフラ整備も大変だからとある程度集約することで効率化をはかりはじめたのがコンパクトシティの考え方だ。
街の規模が小さくなれば、交通インフラもコンパクトですむ。コンパクトシティ化が進むことで個人の車所有はなくなり、カーシェアやレンタルが主流となった。自家用車を持つ時代から、カーシェアの時代へと変化した。
医療技術の進化によって、疾病予防や予測を中心とした先制医療、発病してからは再生医療やバイオなどを活用した高度医療が現在より進み、健康寿命が延伸。ほぼ寿命と健康寿命が一致するようになり、高齢でも活躍できる時代が来ている。
興味のある学問を学び直しつつ働き続けるリカレント教育も盛んになり、高齢層も採用のターゲットとして重要な位置を占めてきている。
リカレント教育は、AIやロボットの台頭で多くの職業に人間が関わらなくなることと関係している。コンピュータにはできない、専門性が高くクリエイティブな仕事をするためには、学び続けることも必要になる。そして、学ぶことは何歳であっても喜びをも与えてくれている。
よくもわるくも現実世界とネットワークがシームレスにつながる時代が到来し、ゆえにデジタルワールドもまた現実世界に密着した時代になっていた。だからこそ、デジタルクライシスは大災害になるのだとジュンは痛感している。
セキュリティシステムから改めて聞かされたラグナモンは兵器の「つくも神」的な印象をジュンは抱いていた。日本に伝わる、長い年月を経た道具などに精霊(霊魂)が宿ったもの。人のエゴにより造られてはすぐに破壊される、敵として現われても倒すのに躊躇してしまうあいだに取り込んでくる恐るべき敵。
脱走し暴走を始め、空母や軍事衛星と融合を続け、最終的に全人類との融合まで目論むあたり、本気で神を目指しているようだ。それに相応しい神々しさすら感じてしまう。地球の生物にもデジモンにもいないと思われる孤独感、そういう雰囲気をもつデジモンだった。
そのデジモンを今から倒しに行くのだ。ファスコモンをジュンのところに送り込んできた諸悪の根源ともいうべき存在のところにいくのだ。ジュンはある意味運命のようなものを感じていた。