(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

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第21話

「ヴァンデモン様からの命令だ。選ばれし子供たちに寝返ったガーゴモンを迎え撃つために、お前たちには私の指揮下に入ってもらう。トループモンたちはサングルゥモンと合流したのち、引き続きこのエリアの警護すること。じゃあ、いくわよ」

 

 

アンデッドの軍勢が雄叫びをあげた。

 

かつてガーゴモンが率いていたデジモンたちと共に、テイルモンとウィザーモンはエリアをあとにするべく進軍する。いずれもヴァンデモンが悪性のウィルスにデジコアを感染させてから、復活させたデジモンたちである。

 

ヴァンデモンの目となり耳となり時には手足となって活動してきた、生粋の配下だ。それだけの存在を自由に使えるということは、ヴァンデモンに信頼されている、勢力内での影響力が増したといえる。

 

逆をいえば、ヴァンデモンは使い魔でもあるテイルモンの新しい部下たちを通して常時テイルモンたちを監視できるため、警戒されているともいえる。へたな動きをしたが最後、間違いなく率いるこの軍隊はテイルモンたちに牙をむくだろう。いずれもウィルス種、しかも倒したところでヴァンデモンを倒さなければ復活するデジモンたちだ。

 

いくらテイルモンでも後ろからついてくる数の暴力を一掃できる力はない。対個人の技しかないため、もしものことがあったら、ウィザーモンだよりになるだろう。気を引き締めるべく、テイルモンは先導をきって、ウィザーモンと共にスカルバルキモンに乗り込んだ。

 

 

 

恐竜の骨に、本来ないはずの鳥型デジモンの翼骨が融合している姿は、なんとも不気味だ。ガーゴモンの配下だったころ、よく使った移動手段だから慣れたものである。陸上最大の哺乳類とされる化石のデータに、幾つかの化石のデータが偽造されてヴァンデモンによって再構成された巨大なアンデッド型デジモンは、移動手段にしか使えないのだ。

 

なにせ感情や知性は無く、体内に張り巡らされた神経のデータだけで反射的に体を動かしているため、容赦も加減も無い攻撃を自らが動けなくなるまで繰り返す失敗作。屍のデータから無理やりに蘇生させられた呪いにより、デジコアから止め処なく溢れ出す黒い冷気は、どんなデジモンをも死の恐怖に陥れるという。

 

これが数秒後のお前の姿だと訴えかけてくるのだ。ガーゴモンの進言によりアンデッド化を避けられた恩を返せないまま、討伐指令を出されてしまったテイルモンとウィザーモン。心中は複雑である。

 

 

結晶世界を骨の人工翼竜が滑空する。バケモンやソウルモン、ゴキモン、イビルモンといった飛行能力をもつデジモンたちが後につづく。地上からみれば、永遠に黄昏時な結晶世界に、いきなり夜がやってきたような錯覚を覚えるに違いない。不快な羽音やおどろおどろしい咆哮が敵襲だと知らせるのは時間の問題といえた。

 

 

ヴァンデモンの地下宮殿がはるか遠くになってきたころ、スカルバルキモンが反応した。目が真っ赤に発光する。ヴァンデモンからの伝令だ。ヴァンデモンは地下宮殿の最奥で光が丘一帯に設置した鏡から現場を把握し、テイルモンたちに指示しているのだ。

 

 

「どうしました、ヴァンデモンさま」

 

「十二時の方向にある鏡にガーゴモンと女が映った。どうやらこの近くにいるようだ」

 

「かしこまりました」

 

テイルモンは振り返る。

 

「聞いたか、お前たち。裏切り者が近くにいる。さあ、いぶり出せ!」

 

 

スカルバルキモンが咆哮した。周囲に冷気を伴う真っ黒な球体が幾つも出現する。スカルバルキモンの叫びに従って、それは地上に向かって勢いよく投下された。どおん、と爆音が響き、結晶が砕け散る音がする。四散したクリスタルがまるで雪のようにテイルモンたちのところにまで舞い上がる。それを合図に数えきれないほどのデジモンたちが地上に向かって降下した。

 

 

スカルバルキモンが投下した黒い球体は跡形もなく消え失せ、えぐられた水晶の道だけが残されている。スカルバルキモンは辺りを旋回したのち、十二時の方向に向かい始めた。はずれのようだ。

 

あの黒い球体は近くのものを異空間に吸い込む作用があり、スカルバルキモンは迷い込んだ敵を異空間で追い詰める習性があるのだ。敵が異空間に転送されると、スカルバルキモンも転移する。あとはテイルモンとウィザーモンで追い詰めるだけだ。バケモンたちに陽動を任せ、テイルモンたちは注意ぶかく辺りを探した。

 

 

スカルバルキモンがクリスタルに覆われた摩天楼を飛行する。テイルモンは、クリスタルに覆われたビルの窓ガラスから乱反射する自分が見えた。そのひとつが歪にゆがんでいた。まるで人に襲いかかる寸前の通り魔のように、ほんの隙間から振りかぶる刃物のきらめき。テイルモンが反応するより早く、ウィザーモンはかばった。

 

 

「テイルモン!」

 

 

とっさの声は怒声に似ていた。芝生の右側にそって生えている水晶の茂みから、それは放たれた。寒々とした結晶世界に、ガラスの砕け散る音がこだまする。

 

ウィザーモンが片手でテイルモンをスカルバルキモンの背中に押しやったとき、はるか真上に天使の胸像が出現した。自由落下で威力を増す天使の胸像が、ビルに生えている巨大なクリスタルのサンゴ礁ごと落下してきた。

 

ふたりに影が落ちる。山のような剣山が積み重なった。ウィザーモンは、首をちぢこめてから、杖をかざす。いくつもの雷撃を発射した。クリスタルになった摩天楼に雷鳴が木霊し、鮮やかな色が揺り動いた。砕け散ったクリスタルがテイルモンたちめがけて降り注いだ。

 

 

「腰を低くしてください、テイルモン!」

 

 

ウィザーモンは叫びながら、スカルバルキモンから落ちないようにしがみつく。テイルモンも初めは仰天して狼狽したものの、すぐに立ち直る。ガーゴモンが近くにいることはわかった。

 

対決するチャンスをうまくつかまなければいけない。遠くでクリスタルが弾ける音がする。どうやら選ばれし子供たちは、ガーゴモンと女の子の先導に従い、ヴァンデモンの地下宮殿に近づいているようだ。

 

まずいわね、とテイルモンは思った。ヴァンデモンが危惧していた事態が現実味を帯び始めている。なんとしても食い止めなくては。姿の見えない襲撃者を発見するために、テイルモンは降ってきた胸像の破片を手にした。そして注意ぶかく辺りを見渡す。

 

 

天使の胸像を召喚できる範囲はかぎられている。

 

 

何故テイルモンたちの位置を把握出来たのか。

 

 

よく考える。

 

 

テイルモンは上を見た。

 

 

ごおう、と風の産み落とされる音が頭上の空気を切り裂いた。テイルモンたちは身をかがめる。スカルバルキモン目掛けて天使の胸像が出現した。すぐ後ろのビルに当たって、格子状の水晶がずり落ち、砕け散る。飛散した破片が降り注ぐ。今度はテイルモンがサーベルレオモンからコピーしたデータで出来た蹄でなぎ払った。二発目は間隔がなかった。

 

 

「うえだ!お前たち、上にいけ!ガーゴモンは上にいる!」

 

 

テイルモンの指令に反応出来たのは、3分の1くらいのデジモンたちである。どうやら地上では選ばれし子供たちと戦闘になっているらしい。テイルモンの指令に従い、スカルバルキモンは大きく旋回し、有利な場所を求めて上昇する。周囲に黒い球体を出現させ、障害物を異空間に転送させながら、一気にかけあがった。ビルの摩天楼をぬけると一気に視界が開けた。

 

すると、こちらから逃げるようにビルの隙間を突っ切るかげが見えた。スカルバルキモンが後を追う。時折立ち止まり、天使の胸像を召喚してくる。召喚の衝撃で、カットグラスのシャンデリアから光が雨のように、降り注いだ。西日が眩しい。黄昏が反射してテイルモンたちを眩ませる。

 

ますます距離が遠ざかる。スカルバルキモンは真正面から追うのを諦めて、はるか上空から追うことにした。スカルバルキモンはしのぎ切ったが、幾度も召喚される大小様々な天使の胸像に押しつぶされた部下は何人も犠牲になった。どうせヴァンデモンの元で復活することを知ってるためか、命に頓着しないバカがたまにいるのだ。

 

テイルモンが安全に追うため、後に続けと指示しているにも関わらず、頭の足りない何体かは特攻して犠牲になる。アンデッド化はときどき知能の低下を引き起こすらしい。テイルモンは呆れて、ため息をついた。ウィザーモンは時折ビルの隙間から見える影に雷を打ち込むが手応えはないらしく、首をふる。

 

だいぶん結晶世界の中心部に近づいてきた気がする。ヴァンデモンの地下宮殿はその真下だ。

 

 

「どうしたんです、テイルモン?」

 

さっきから何やら考えるそぶりをみせるテイルモンに、ウィザーモンは問いを投げた。

 

「ダメだ、わからない」

 

「なにがです?」

 

「ガーゴモンはたしかにヴァンデモンさまの地下宮殿を知っている。選ばれし子供たちを先導してるのは事実だろう。でも、なんで単独で行動してるんだ?一緒にくればいいのに。まるで囮だな」

 

「こっそり侵入ではありませんね、たしかに。明らかに派手に暴れている。まるで選ばれし子供たちに知らせているようだ」

 

「まさか。選ばれし子供たちは携帯やパソコンをもってるじゃない。わざわざそんなことするわけ」

 

「それに、ですね、テイルモン。あなたの言葉で気づいたんですが」

 

「なんだ?」

 

「ヴァンデモンがいっていた、女の子の姿、今までに一度も見えてないんです。テイルモンは見えましたか?」

 

 

スカルバルキモンがとうとうウィルス種の結界が貼られているエリアまで戻ってきてしまった。スカルバルキモンはアンデッド型デジモンだが、ウィルス種ではなくデータ種だ。テイルモンやウィザーモン同様、鏡を経由しないと地下宮殿にいけない。境目がわからないテイルモンたちは、ヴァンデモンの指示待ちだ。

 

ヴァンデモンは待ち伏せを命じた。結界周囲は警備デジモンが見張りやすいように障害物が何もない平地である。道路と人工的な川に囲まれている。川の向こうは、すっかりひとつの結晶になっている民家の屋根が突き出していた。トループモンたちが警備しているのが見える。

 

代わり映えのしない結晶世界が広がるだけだが、結界の先には一本の鋭い塔が立っている。その周りを細くてくすんだ蜘蛛の糸が透明なベールのように、周囲のビルに伸びている。真下は大理石のような光沢に包まれたイバラの庭園が広がっている。その光沢は色がないくすんだ中心部の結晶世界には、あまりにも強烈で陰惨だ。ヴァンデモンの地下宮殿があることを考えると趣味の悪い納骨堂である。

 

 

どこからか、轟音が聞こえた。もろい結晶が砕け散る音がした。びくりとしたテイルモンとウィザーモンは建物の石段に隠れながら、様子を伺った。テイルモンたちの背後、50メートル先にガーゴモンは現れた。

 

トループモンからかっぱらったのか、武器を手にしている。結界に近づきながら、途中でテイルモンたちに胸像を召喚した。破壊の轟音があたりに反響する。ウィザーモンの後ろで結晶化している格子が、鏡のように衝撃で砕け散った。幾度もの攻撃で、ウィザーモンの外套もテイルモンの防具もボロボロだ。

 

「待て、ガーゴモン!」

 

テイルモンは石段からベランダに飛び降りると、道をつっきる。体を二つに折り曲げながら、川の表面にある結晶化の亀裂を飛び越えながら、ガーゴモンを追いかけた。

 

ちらと後ろを振り返ればあわてて追いかけるウィザーモンがみえた。スカルバルキモンがガーゴモンの攻撃を妨害する。テイルモンは川を渡りきり、ウィザーモンもガーゴモンのところにやってきた。

 

 

ガーゴモンはウィルス種だから結界が見えるのだ。そこに魔法陣をしいて、何やら呪文を唱えているとなれば、止めるしかないのだ。テイルモンとウィザーモンがガーゴモンのいる川が広がり、曲がり角になるところにきたとき、歩みをとめた。いや、とまったのだ。なにかが邪魔して先にはいけない。

 

「これは結界?!」

 

ヴァンデモンにウィルス種しか目視できない結界を進言したのは、もとはといえばガーゴモンである。ウィルスのかなりの高位のデジモンだった過去があるガーゴモンなら、ヴァンデモンと同じことが出来ても不思議ではない。ウィザーモンは雷撃を試みるが弾かれた。テイルモンが攻撃してもびくともしない。くそ、と叫んだテイルモンは、ガーゴモンを呼んだ。

 

 

「何を考えているんだ、ガーゴモン!やめろ!考え直してくれ!」

 

「嫌ですねえ、テイルモン。あなたのことだ、振り返れば魔眼で拘束する気でしょう?ますます振り返れないじゃありませんか。ワタクシのことを侮られては困りますねえ」

 

「ちっ、やっぱりあんたには通じないか。やはり裏切ったんだな、あんたは。この目で見るまでは信じたくないと思ってたのに」

 

「あらあら、随分と好かれていたんですねえ、ワタクシはあなたなんぞに微塵も興味はないのですがね」

 

「そういうところが一番ムカつくのよ、ガーゴモン。あんたはいつもいつも大事なことははぐらかしてばかりだ。私より私のことを知っているのに、教えてくれない」

 

「テイルモン、落ち着いてください」

 

「ウィザーモンだってそうでしょう?今の姿が本物ではないと一目みて察した理由、最後まで教えてくれなかったじゃないか」

 

「気にしてないのかといわれれば嘘になりますが」

 

「ヴァンデモンさまから話は聞いた。でも私にはそれだけのために裏切るなんて信じられない。なあ、ガーゴモン。あんたはなんで、裏切ったんだ?」

 

 

ガーゴモンはせせらわらう。

 

 

「あなたにワタクシのなにがわかるというのです。その分かり合えるはずだというワクチン種特有の思想はやはりおぞましいものだ。あなたたちに理解されなくても結構。ワタクシはジュンさえいればそれでよいのです。賢いガキは嫌いなんですよ、昔からね」

 

 

結界の異変にきづいたトループモンたちが集まっているのが見えるのか、内側に胸像が砕け散る音がした。意味深なガーゴモンの言葉の真相を聞くべく、なんとしても邪魔な結界の綻びを我を忘れて探し始めたテイルモンに従い、ウィザーモンもあたりを見渡す。

 

こちらを監視しながら援護するはずのスカルバルキモンが黒い球体をこちらに向けていることにきづいたとき、ウィザーモンの体はもう動いていた。テイルモンの悲鳴があがる。

 

「あなたも人が悪いですねえ、ヴァンデモン様。選ばれし子供と接触させたくないなら、わざわざ監視をしながらワタクシの討伐など命じず、警備を命じればいいものを。殺すならいくらでも機会はあったでしょうに」

 

「奴らは大事な戦略のひとつだ。不慮の事故、敵からの不意打ち、いずれにせよ演出しだいではこちらの士気もあがるのでな」

 

「ご存知だとは思いますが、ワタクシは関知しませんが、ジュンの行動はこの契約には含まれません。よろしいですね?」

 

「かまわん、好きにやれ。選ばれし子供でもない唯のガキに何ができる」

 

テイルモンの目の前から、忽然とウィザーモンが姿を消したのだ。スカルバルキモンも姿をけした。テイルモンが覚えているのは、何もないはずの空間から、女の子の声がして足跡が近づいてきたことだけである。

 

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