(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

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第22話

「なによ......なにがおこったの......なによこれ!」

 

パソコンが喋っている。

 

「よくいうわ、私が助けてあげたんじゃないの。手下に背後から襲われるなんて慕われてないのね」

 

「っ!?」

 

「あれは幻ではなかったのですか......」

 

「私は後ろから攻撃されて、前も真っ白になって、それで......?」

 

テイルモンたちと思われるドット絵が混乱気味に喋っている。ジュンは笑った。

 

「甘く見ないでよね、アタシだってできることはあるのよ」

 

ジュンのノートパソコンに組んでいるデジモン育成プログラムの中では、どんなデジモンであろうと容赦なく16×16ピクセルの白黒なドット絵に変換されてしまう。移動、喜怒哀楽、技のモーション、衣食住、最低限のドットですべて網羅される仕様である。

 

ジュンのノートパソコンのスペックなら、それ以上のプログラムを組むことも可能なはずなのだが、ジュンはこの仕様を気に入っていた。それもこれも、パソコン部でコンクールに出展するつもりのゲームについて、万太郎に相談したのが原因である。ファミコン世代の万太郎は、ドット大好きな人間だったのだ。

 

3Dが当たり前の世界で育ったジュンは、一昔前の産物であるドット絵を初めて見たときすさまじい衝撃を受けたのだ。限られたピクセル数の中で表現し切るという制約やピクセルを手作業で1つずつ配置するという作成プロセス等も含めて、余計な情報をそぎ落として極限まで単純化したドット絵。

 

16×16ピクセルに込められたわかりやすさは、脳にダイレクトに入ってくる。しかも万太郎世代のゲームは、移動するキャラが容量などの関係で小さな画像単位で扱う必要があり、何らかのデフォルメを施されて表現されることが多い。

 

キャラクターのデザインも、ドット絵で表現されることを前提とした特徴を備えている。そんなゲームにびっくりしているジュンに味をしめ、コンピュータゲームにおける表現方法・作成方法のひとつとして確立されたものだとまで力説する大学生がいれば、染められるのは時間の問題だった。

 

つまり、粗いドットのカクカク感が出す独特の雰囲気が大好きなジュンは、あえてデジモン育成プログラムにドット絵を採用しているのだ。

 

もちろん、本来15GBもあるはずの成熟期を無理矢理16×16ピクセルのドット絵に変換すればガタがでる。普通ならトンデモナイ苦痛だろう。気づけば平面世界の住人になっていて、色は奪われ白黒、しかもカクカクのドット絵だ。

 

衣食住が保証されるし、ジュンと共にいられるなら、と平然と受け入れる成熟期もどきを除いて、この理不尽極まりない境遇におかれたら、大抵のデジモンは怒るだろう。テイルモンとウィザーモンは、ただいまそのトンデモナイ被害をこうむっているところである。二人仲良く16×16のドット絵になっていた。

 

ジュンにとっては、デジモンに対抗できる数少ない手段である。それはジュンの時代ではデジモンバトルの特徴的な状態異常であり、「液晶化」と言う現象で知られていた。「液晶化」すると、デジモンの姿が白黒の16×16のドット化してしまい、攻撃力が大幅に減少してしまうのだ。それに平面世界の住人になったデジモンが繰り出す攻撃はもちろん平面的だ。

 

攻撃の手段も単調なモーションになり、必殺技ひとつ、得意技ひとつしかだせなくなる。しかも範囲が極端に狭まりダメージを与えにくくなってしまう。今のテイルモンとウィザーモンは、かなり不利な状況におかれているのだった。

 

「悪く思わないでね、アンタたちに下手に動かれたらアタシが困るのよ」

 

パソコン越しにジュンが笑う。まさかのスカルバルキモンからのフレンドリーファイアを間一髪で回避できた理由は、ジュンがデジヴァイスの結界にウィザーモンを引き入れたからだ。そして数秒おかずにテイルモンも引き込んだ。

 

ヴァンデモンから殺されかけた衝撃に呆然としていたテイルモンたちは、ジュンのノートパソコンのなかにぶち込まれるまで反応が遅れてしまった。そして今に至る。未だに展開されているデジヴァイスの結界。誰も感知することなく、ジュンは真っ直ぐにガーゴモンがぶち抜いたウィルス種の結界の先に侵入していた。

 

いちめん広がる結晶世界。ここでは時間が死んでいる。世界の終わりのひとつがここにある。記憶の彼方にある風化しつつある過去に目を背けながら、ジュンは顔をあげた。

 

「ここからは鏡を潜らなければヴァンデモンの地下迷宮には辿りつけません。しばしお待ちいただけますか?ワタクシは安全な道を探しますので」

 

「わかったわ。まあ、ここまできたら光子郎君たちに見つかるのも時間の問題な気がするけどね。ずいぶん追いつかれたみたいだし。ウィルス種の結界が突破できたんだもの、あとは光ちゃんの紋章だけよね」

 

「そのときはそのときです。それでは、失礼」

 

そういってガーゴモンは、螺旋状に伸びる結晶塔の向こうに消えた。

 

「どういうつもり?」

 

「なにが?」

 

「どうして私たちを助けたりしたのって聞いてるのよ。だいたい私とウィザーモンを知ってるみたいだけど、フェアじゃない」

 

「それもそうね。じゃあ教えてあげるわ、少しだけ。アタシはジュンよ。本宮ジュン。選ばれし子供たちの協力者ってとこ?」

 

「へえ、アンタが。あのガーゴモンのお気に入りなのね。想像してたのとずいぶん違うようだけど、私たちをここに閉じ込めて、邪魔するつもり?」

 

意味深にジュンは笑う。どこかガーゴモンに似ている気がして、テイルモンは眉をひそめた。

 

「半分あたり、半分はずれ、かな。邪魔したいのは事実なんだよね、これからあなたに逢わせなきゃいけない子がいるんだもの。でもその子はまだ来てないし、だからって紋章とりにいかれても困るのよ」

 

「ふん、変なこというのね。アンタ、私を誰だと思ってるの?ヴァンデモン様の部下よ?選ばれし子供たちの敵なのよ?つまりはアンタとガーゴモンの敵でもある。それに8人目は私たちが探してるんだ。わざわざつれてくるなんてどういうつもり?」

 

「思ったより記憶喪失が深刻ね。ガーゴモンが教育がかりっていうから、あんまり忘れてないかと思ってたんだけど。ああ、そっか。なるほど。まだ光ちゃんに会ってすらないんだっけ?そりゃわかんないか。まあ会えばわかるわよ。物事には順序ってものがあるわけ。わかる?」

 

「まるで私が8人目のパートナーデジモンみたいに聞こえるけど」

 

「そのまさかよ」

 

「ばかいわないで。冗談も休み休みいいなさい、私はヴァンデモン様の部下なのよ。裏切るような真似、できるわけないでしょう!」

 

「自分のあり方に疑問を持ったことないの?」

 

「疑問?」

 

「おかしいと思ったことないの?いつまでも成長期に進化できなかったり、他の進化経路に進化したら暴走状態になったりとか。他のデジモンとは明らかに違う特性を自覚したことないの?」

 

「ふん、知らないね」

 

「誰かを待ってた、みたいな感覚はないの?」

 

「そんなこと知らないっていってるじゃないの」

 

「うーむ、びっくりするくらい反応ないわね。なんかアタシの話真面目に聞いてくれてない感じ?まあ無理もないけど。なんか、ガーゴモン関連で不機嫌になってる気がするのは気のせい?」

 

「違うわよ」

 

「まあ、さっきからだんまり決め込んでるウィザーモンはどうやら違うみたいだけどね?」

 

テイルモンが弾かれるように振り返ると、なにかを考えているウィザーモンがそこにいた。

 

「ジュンといいましたね。必ずもどります。だから出してもらえませんか?」

 

「ウィザーモン?!いきなりなにをいってるのよ!」

 

「お願いします。テイルモン、あなたにとっても大切なことなのです」

 

「ウィザーモン…」

 

「残念だけどそれはできないわ。まあ安心してよ、ウィザーモン。ぶっちゃけ紋章みたいな増幅器なんかなくてもパートナーデジモンは本能に抗えない。選ばれし子供とパートナーデジモンは惹かれ合う運命なのよ、次元を超えた同一の存在なんだから」

 

それに、とウィザーモンに向けられるジュンの眼差しがきつくなる。

 

「アンタたちの上司はたちわるすぎるのよ。わざと歪みを大きくしたり、デジタルワールドと現実世界の境界をあやふやにしたりしてるじゃない。おかげで大惨事よ。結晶世界が出現するくらい被害を拡大してる犯人は誰か教えてもらえないかしら」

 

ジュンはいう。

 

「結晶世界はいつだって悲劇しか産まないんだから。悪いけどアタシはアンタたちを出す気はないわ。もう目の前で救えないのはたくさんだもの」

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