(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー) 作:アズマケイ
テイルモンたちを光にあわせるべく、ようやくジュンは光子郎に連絡を入れた。パソコンは節電のためスリープモードに入っている。直ぐにこちらに向かってくれるようだから、ジュンはガーゴモンと共に結界の中で待機することにした。
暇つぶしに、とガーゴモンはお喋りをもとめた。じっとしているのも気が滅入るという提案はありがたいことである。ガーゴモンは幼年期のほんの1時間にみたない間のジュンしかしらないものだから、いろんなジュンについて聞きたがった。プロフィールから自分史から今のジュンについて、に取り留めのない話が続く。やがて、ガーゴモンは聞くのだ。
デジモンの出現による結晶化現象について、ジュンは世界で一番憎悪している。なんだってそこまで嫌悪するのかとガーゴモンは聞く。今まさにチベットあたりで起こっているし、これからデジタルワールドと現実世界が交流する上でよくあることではないかと。ジュンは被りをふる。そして理解してもらうには話すしかないと気づいたようで、話し始めたのだった。
それはある意味でジュンのトラウマだった。
「ジュン、メールが届いていますよ」
「へー、誰から?」
「リホからです。ずいぶん懐かしいお名前ですね」
「リホ?へー、珍しいこともあるもんねえ。どんなメール?」
「今度の三連休に会いたいようですね、大切なお話があるそうですよ」
「なんか予定入ってたっけ?」
「特にはありませんね。サークルに顔を出したり、バイトのシフトを入れたいなら話は別ですが」
「あー、ここんとこバイトもサークルも忙しかったからねえ、パスパス。課題も終わったし、じゃあ入れといてくれる?」
「了解です。ここのところ、ジュンは徹夜続きの長丁場でしたしね。ぜひ、ゆっくり休んでください」
「そーねえ、せっかくだから久々に実家に帰ろっかな」
「なるほど、それもいいですね。私も楽しみです」
毎日のスケジュール管理を任せているアウルモンに、調整をお願いする。しばらくして、大丈夫そうですよ、と表示されたウィンドウにはバイトの出勤簿がある。どうやら次は連休明けのようだ。
ありがと、と笑いながら、ジュンは実家に電話をかけ始めた。年に数回顔を出せばいい方の長女である、予め連絡を入れないとご飯などの準備がしてもらえない。突然の帰郷宣言に母親は驚きながらも嬉しいようだ。世間話を話すついでに、東京に出てきて以来なかなか入ってこない故郷のニュースを聞いてみる。
「は?え?嘘でしょ?ホントに?」
不思議そうにパートナーが顔をあげた。携帯の向こうでは方言まじりの母親がニュースにも載ったんだから間違いないと強気である。ジュンは半信半疑な顔をして、ローラー椅子をひいて座った。スケジュール調整をしているパートナーにちょいごめんといいながら、新規ページでネットを立ち上げた。携帯片手に母親から聞いたキーワードを叩く。地方新聞の電子版が表示された。
過去の日付を入力し、ひたすらスクロール。ページをめくるまもなく確認できた。その日を境にニュース記事がそれ関連一色になったからだ。一番最初であろう日付のあるページを確認したジュンは、うそおー、といいながら笑った。どうやらウソのようなホントの話だ。
「ああうん、確認したよ。ホントみたいねー。信じられないけど、えー、なにそれー、あはは。うん、うん、わかってる。そうする。じゃあね」
携帯をきったジュンは、へー、といいながら新聞記事をまじまじとみる。地方紙の電子版をお気に入りに放り込み、ページを閉じた。大手サーチに検索をかけると、いきなりそれ関連のニュースがトップページから表示された。地元を検索すると、予測の時点で似たような単語が並ぶ。
たくさんの人たちが気になって検索をかけていることがわかった。時事に無頓着なのは自覚があったが、ここまで話題になってるとは知らなかった。
趣味にバイトに勉強にあけくれる大学生なんてこんなもんである。全部パソコン任せでテレビや新聞がない生活に慣れきっていたジュンは、地元が全国紙レベルで盛り上がっているなんて知らなかったのだった。
「そういや、なんで驚いてないの?アウルモン」
「ふふ、リホのメールにいろいろと載っていますからね」
「ちょっとー、それならそうと最初から教えてよね。もー、ちょい見せて?」
「わかりました」
ジュンは表示されたメールを読み始めたのだった。
ジュンの故郷は、海沿いによくある漁村である。民宿が並び、海産物を引き上げた漁師のおじさんが網の手入れをする。時々隣町から販売車がやってくる。高速道路や新幹線は通ったが、トンネルを越えてリアス式海岸沿いの道をひたすら遡れば子供のころと代わり映えしない長閑な風景が広がる。
若い人たちはみんな都会に出てしまい、いるのは老人くらい。人口減少と少子高齢化が進む限界集落ばかりが集まった旧村であり、近くの町に合併されたとき、既存地区と被るからと名前が変わったが地元のひとはみんな旧村のままで呼んでいる。未だに家の中に圏外の電話会社がある時点でお察しのネット事情のため、テイマーにとってはかなり不便な場所だ。
ジュンにとっても安定の無線LAN範囲外。携帯が唯一できる移動しながらのネット環境である。パートナーを連れ歩くには、ハイスペックよりこの地区に受信環境があるかが優先されるため、かなり不便をしいられた思い出がある。それでもたまに帰りたくなるのは、家族や友達がいるからだろう。
そんな、なんの変哲もない漁村に大きな変化をもたらしたのは、世間に名のしれた大企業だった。近くの無人島を買い取って、社宅を建て、研究所をつくり、住み始めたのだ。リアス式海岸にかこわれた漁村近くの海には、たくさんの無人島がある。
バブルのころにホテルの話が持ち上がり、立ち消えたもの。別荘を建てたはいいが、維持できなくなって売りたい所有者がいたのは知っていたが、誰も買わないだろうと思っていた。
交通の便が悪く、近くで船をチャーターするか持ち込まないと上陸できない。しかも近くの海域は冬になるとフェリーが運行を中止するくらい荒れることで有名だった。極め付けに漁業権はすべて組合が握っているため、島のまわりで海の幸を勝手にとれない。要交渉。
海の研究をする大学の学科がここしかないため、大学施設が近くの岸にあり、自然公園にも指定されている場所だから、建物を建てるにもあらゆる許可がいる。とてつもなくめんどくさい場所だった、はず。なのに、売れた。しかも大企業が誘致してもないのに、人も物もお金も一気に流れ込んできた。盛り上がらない訳がない。
「しっかしすごいわねえ、レアメタルかあ。ホントにうまってんのね、海は広いわ」
新聞よれば、代表の男性はインタビューにて、数十年前に発見されたレアメタルをうまく取り出せる場所だからと答えたようだ。確かに今の日本は、海底採掘のバブルである。
数十年前に発見されたレアメタルにより、日本は資源の乏しい国という評価を覆してから久しい。20xx年に実用化された海底採掘技術の波がジュンの故郷にまで及んだというわけだ。おかげでいろいろとすごいことになってるから、帰っておいでよ、がリホからのメールの内容だった。
「でも、リホがジュンに教えたいのは水晶の方みたいですね」
「そりゃあ、長い付き合いだし、アタシが宝石とか興味ないって知ってるだろうしね。カタカナのレアメタルよりも、水晶の方がわかりやすいからじゃない?」
「いえ、どうやら違うようですよ?」
「あ、そうなの?ふーん、なんだろ」
すごいことのメインは、どうやらジュンの故郷にあるめのう細工、思わぬ形で産業として盛り上がっていることのようだ。始まりは海底採掘の副産物として、高純度の水晶が大量に発見されたのがきっかけ。しかも古くからめのうが取れた土地に近い海域だからか、緑水晶、つまりめのうが含まれた水晶が大量に産出できるようになった。
もともとめのうが加工できる技術がある土地である。発展するのは早かったらしい。ジュンが興味本位で地元と水晶で検索をかけたら、えらいことになった。日本では水晶が取れなくなってからもうすぐ一世紀を迎える。それなのに、縁もゆかりも無い土地に水晶が発見された、しかも山ではなく海で。
綺麗なめのうが含まれ、高純度の水晶なんて奇跡の塊がばんばん市場にでたもんだから、全国ニュースになったようだ。今、びっくりするくらい民宿が繁盛してるらしい。そりゃリホもメール送ってくるわね、ってジュンは思う。今、彼女は水晶を取り扱う企業で働いているとのこと。いつのまにやら転職してたらしい。ちゃっかりしてて要領がいいのは昔からだ。最後に会ったのは年末だったから、半年ぶりの再会だ。
メールには、観光案内するから一日遊ぼうと書いてある。一日?ってひっかかりを覚えたジュンである。リホは、短大卒業後すぐに就職して、ちょうど2年前の今頃結婚したばかりである。高校時代の同級生たちとフォトアルバムをサプライズでプレゼントした記憶がある。
主導したのがジュンだから、なおさら。今年の年賀葉書には赤ちゃんと一緒にうつる夫妻がいた。年末だって午後のランチを一緒に楽しんで、のんびり買い物、せいぜい3時間である。明らかにおかしい。ところどころに違和感を覚えながらも、ジュンは、大切な話があるという言葉が重く感じたのだった。
ジュンの故郷は、隣の町まではあまりにも距離があり、保育所と小学校、中学校がひとつに併設されていた。だから同じ年の子供たちは、自動的に3歳から15歳まで同じクラス。それに高校からはあまりにも距離があるため、寮か2時間かけて通学する必要がある。地理的、金銭的理由から、進学する高校は実質3択だ。
みんなと別れる確率は3分の1。ジュンとリホは高校まで同じ、18年間いつも一緒にいた幼馴染だった。大学進学後ジュンは東京に出て、そのまま就職。リホは地元の短大に進学し、たまにしか会えなくなったが、今でもSNSのやりとりをする友達だ。今回はSNSではなく、わざわざプライベート用の個人メールで送ってきているあたり、よほど大事な話のようだ。
メールに返信したが、やはり詳しい内容は直接会って話をしたいようではぐらかされてしまう。今のリホを知らないはずのジュンに相談したいこと。第三者の意見を聞きたいのか、プログラマーやテイマーやってるジュンに協力を仰ぎたいのか。まあ、話を聞かないと始まらないだろう。
ジュンは旅行支度のため、買い出しに出ることにしたのだった。