(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

26 / 160
第26話

願いを1つ叶えてやろう、とその悪魔は言った。その代わり魂をもらうと。悪魔の契約によくある条件だ。問われた男はこう答えた。不老不死になりたいと。有史以来の人類の悲願を叶えたいと大まじめに言ってのけた。悪魔は大笑いした。なんて馬鹿な奴だ、気に入った。お前は神にでもなるつもりか。嘲笑する悪魔に男は違うと言った。

 

「これは進化だ。私は人類をさらなる高みに連れて行きたい」

 

男がとち狂った思想に染まった理由はわからない。デジタルモンスターの存在が世間に広く認知されるにあたり、人工知能を持ったただのウィルスプログラムがどのようにして自己を獲得したのか、を研究する過程で人道に外れたのか。

 

それともデジタルワールドがデジタルモンスターが多種多様な姿を獲得している理由に言及する過程で、かつては妖怪、幽霊、といった伝承に語られた存在であった。もしくは闇が人のすぐ隣にあった時代、常に側に居た何者かが源流にあると言ったことからなのか。

 

選ばれし子供の父親である著名な学者がデジタルモンスターは付喪神の一種ではないかという説を立て、それを思わぬ形で補完されたからなのか。なんにせよ、デジタルモンスター、とりわけパートナーデジモンの出現は、人間の肉体を伴わない精神的な進化の現れであるという思想はあらゆる観測と実証実験から証明されている。

 

ジュンの学んできた一般的な事実だった。ただ、その精神的な成長を促すもう一人の自分がデータ上の不滅の存在であり、死を知らず、ひたすら転生を繰り返すという生態に魅せられたことで人道に外れる人間が現れるのは必然だったのかもしれない。

 

その男はデジタルモンスターが人類の到達すべき新たな存在だと盲信した。そして、そのためなら手段を選ばないという一種の宗教めいた活動をするようになった。テイマーとデジモン、パートナーデジモンとテイマー、いずれの関係もテイマーの寿命という終わりがあるのは誰しもが知っている。

 

それを自覚したとき、離れたくない、という想いから道に外れるデジモンや人間が一定数いるのは仕方の無いことだ。男はそんな人々に寄り添う形でその思想を浸透させていった。

 

デジタルダイブするとき精神と肉体のリンクを遮断して現実世界に二度と帰れなくする犯罪を起こしたり、デジタルモンスターと人間が融合してしまうような大事故を引き起こしたり。あるいはデジタルモンスターを現実世界に常駐させることで現実世界とデジタルワールドの歪みを引き起こし、世界をつなげてしまおうとしたり。

 

その思想に染まっている人間を見つけ出すことは非常に難しい。なにせ彼らは特定の拠点を持たないし、共通の実態をもつ訳でもない。ただネット上の緩やかながら現実世界とは異なる強固なつながりを持っており、時としてセキュリティシステムに牙をむいた。

 

ネットでは時々話題になってはいた。そういった思想に染まったクラッカーがいると。新手の犯罪集団だと。ただ都市伝説のようにささやかれているだけでもあった。だからジュンは片手間にしか調べたことはなかったのだ。目の前に広がる光景に、それは紛れもない真実なのだと確信せざるを得なくなる。

 

デジタルモンスターは転生する生命体だ。転生できるだけのデータを転写できずに消滅するという事態にでもならない限り、死というものは次の生の前段階でしかない。パートナーと呼ばれるデジモンは自我を保ったまま転生する、そのテイマーにとってただ一人のデジタルモンスターだ。

 

そして死に別れたとしてもそのパートナーは必ずこう言うのだ。ちょっとのお別れだと。もういっちゃうのかと。人類も転生という特定の宗教で語られる程度の死生観について言及するのだ。特殊な生命体から自分たちもそうだとまるで当然のように語られれば、もしかしたら、と思う人間は多い。まして、たったひとりのもうひとりの自分からそう言われるのだ。

 

なら、どうして人間は死ぬんだろう。デジモンは自我を持って生まれ変わるのに。その問いにたいして、人類は欠陥品だから、という結論に達したのがその男であり、あらゆる手段を持ってデジタルモンスターのような完全な生命体になろうという過激な思想になっていった。

 

この空間に広がる結晶世界はその代表的な事件のひとつだ。

 

現実世界とデジタルワールドの歪みから発生する結晶化という異常現象、そしてこれから発症する病を人類は克服できていない。克服する必要など無い。これが人間のあるべき姿なのだから。そんな極端な思考回路の元、意図的に結晶世界を発生させようとする人間がいることをジュンはこのとき初めて知ったのだ。

 

澄み渡る音がただただ恐ろしかった。

 

色のある生命体に興味を示したのだろう、水晶から掘り出したかのような、緻密な造形の子供達がこちらにやってくる。体の全てが水晶でできており、物理的な損傷はほとんど受けない、死なない人間たちがそこに居る。お腹がすいたからちょうだい、とジュンの鞄につけたばかりの水晶のキーホルダーを指さされる。

 

おそらくここの海底採掘で得られる水晶を含んだ鉱物、もしくは上位のデジタルモンスターの常駐化で肥大化しつつける水晶達が主食なのだ。ジュンはそれを渡す。きゃいきゃい無邪気に笑う物乞い達は、そのまま取り合うように去って行く。

 

ここにあるものはすべて水晶で構成されていた。それ以外の何者も必要としないからだろう。接合技術はよくわからない高度なものが用いられており、おそらく強度的にはすさまじいものがあるはずだ。

 

子供しかいないのが恐ろしい。嫌でも目につく足下に転がる残骸達は、どうみても人間の彫刻を粉砕したかのような塊だらけだ。結晶化の病を発症した末期患者は、やがて隔離病棟で永遠に過ごすか安楽死を選べると聞いたことがある。

 

今のところ安楽死を選ばない人間はいないとも。それはきっと普通の人間として生きてきた記憶があるからであり、死にたいと思ったときには自分では死ねない体になってしまうことへの絶望感からだと言われている。あの子達はなにもしらないんだと、ジュンは気づいてしまう。無邪気に笑っていられること自体、異常事態なのだ。

 

ここが隔離病棟だったら印象は違った。違うから背筋がひたすら寒いのだ。ここは海底採掘を行っている大企業の施設の中なのだ。福祉施設ではない。ここに居る子供達はどう見てもおかしいが目についてしまう。

 

「アウルモン、ちょっといい?」

 

『はい、お呼びですか?』

 

「みてこれ、どう思う?」

 

『・・・・・・これは。どうみても通報案件かと』

 

「そうよね。地元がいつのまにか悪質ハッカーの本拠地にされたんじゃたまったもんじゃないわ」

 

アプリを起動し、リアルタイムで撮影していく。そのデータはアウルモンによって、アルバイト先であるデジタルワールドのセキュリティシステムの末端の末端に送られる。

 

『どうします?』

 

「大本が気になるわ。行きましょうか」

 

『はい』

 

「ここまでデジタルワールドと現実世界の境が曖昧なら、アウルモンが出てきても問題なさそうね。来てくれる?」

 

『はい、わかりました』

 

ジュンの呼びかけに応じて、スマホから現れたアウルモンは近くの水晶に覆われた岩に留まる。

 

「何が出てくるかわからないし、全力で行くわよ」

 

「承知いたしました」

 

その声はどこかうれしそうだ。ジュンはスマホを通して、アウルモンの構成するはずのプログラムから意図的に抽出し、凍結していたデータを解放する。容量の関係で無理矢理成熟期に押し込められていたデータを再構築し、アウルモンの姿は変わっていく。

 

それはデータ種のマシーン型デジモンのデジゲノムだった。フォークリフト、ショベル、重機を一つにしたようなマシーン型デジモンであり、ジュンの一番のお気に入りのデータでもある。ついでに言うと初めて2体のデジモンをジョグレスさせるとき、アウルモンと呼んでいる今のデジモンの自我の元になった本来の姿でもある。

 

容量が重すぎてスマホでは思うような身動きがとれないということで、極限まで小さくした姿がアウルモンというわけだ。本来マシーン型デジモンであったはずの自分がテイマーの都合で鳥形にゆがめられていたのだ、不満も出ると言うものだ。0と1が解け、本来の姿を取り戻した彼はジュンを乗せて勢いよく羽ばたく。

 

「どう思う?」

 

「やはりここは歪んでいますね」

 

黄金色の装甲に身を包んだサイボーグ型の巨大な鳥のようなデジモンが羽ばたいた。風を産み落とし、結晶世界を飛翔する。デジタルワールドに入り込む異分子を消滅させる役目をもつこのデジモンは、プログラマを志すジュンに育てられたからか、ことさらそういった事象に機敏だった。

 

「どうします?」

 

「デジ研からの連絡はまだないわ。あの子達をどうするのかは大人に任せて、私たちは大本を叩きましょ」

 

「わかりました。しっかり捕まっていてくださいね。どうやら見つかったようだ」

 

「そのつもりで解禁したんだもの、当然よね。頼んだわよ、クロスモン」

 

「任せてください」

 

乱反射してまぶしい水晶の空間から伸びてくる無数の水晶。クロンデジゾイドというデジタルワールドでしかとれない鉱物でできている体は、一切傷つかない。この体を構成する物質は摂取する食料で賄わなければならず、当然ながらジュンはこの姿のまま養うことはもとよりできないのだ。

 

だから、暴れていい、とジュンが許可するということは、それだけの異常事態ということでもある。期待に添えるよう頑張らなければならない。何度目になるかわからない転生の中でも、いつだってジュンは期待してくれたのだから。

 

クロスモンは豪快に羽ばたいてそれを一蹴すると、結晶化を仕掛けてきた新手に向かって白亜の光線を発射する。的確な狙撃により、一瞬にして敵は灰となる。まだまだ序の口だ。誰かがここに来るまで盛大に暴れなければならない。プリズムの輝く世界で、雪のように灰が舞った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。