(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー) 作:アズマケイ
なるほど、とガーゴモンはうなずいた。
「そのムルムクスモンはどうなりましたか?」
ムルムクスモンは究極体、魔王型、ウィルスのデジモンだ。元々は天使の階級でいう座天使デジモンだったが、堕天して魔王型デジモンになった。ナイトメアソルジャーズの幹部クラスであり「伯爵」の名で呼ばれており、30の魔軍団をまとめている。また、幻獣デジモンのグリフォモンを従えており、自らの手足として使役している。必殺技は業火を吐き出し、死してなお永遠に苦しむと言われる『ゲヘナ・フレイム』。
ラテン語で「ささやき」「うなり声」などを意味する。
レメゲトンはソロモンの小さな鍵とも呼ばれる。ソロモンに由来するとされる5つの魔法書をまとめた5部構成となっている。そのうちの1冊ゴエティアにはソロモン王が使役したという72人の悪魔を呼び出して様々な願望をかなえる手順を記したもの。
そのために必要な魔法円、印章のデザインと制作法、必要な呪文などを収録している。本書には、この72人の悪魔の性格や姿、特技などが詳述されており、72人の悪魔各々の印章も収録されている。そのため悪魔名鑑としても参照される。
72の悪魔のそれぞれが地獄における爵位(悪魔の階級)を持ち、大規模な軍団を率いていることが個別に記されている。
ムルムクスモンの由来たる悪魔は、
序列54番の地獄の大公爵にして伯爵であり、30の軍団を率いる。堕天する前は、座天使および天使の階級であった。
召喚の際には、トランペットが高らかに鳴り響く中、2人の家臣の先導のもと、ハゲワシまたはグリフォンに騎乗して公爵冠を被った兵士の姿をとって現れる。死者の魂を呼び出して質問に答えさせることや哲学に長じている。『地獄の辞典』では「音楽の魔神」とされている。
ジュンの親友はおそらく死んだ子供の声を聞くためにムルムクスモンを呼び寄せたのだ。そして結晶化という甘言に乗った。乗ってしまった。悪魔を由来とするデータから生まれたそいつは、結晶化により人間を救うというばかげた事件を引き起こしたのだ。
「さあ......あの時はまだ私一般テイマーに過ぎなかったから......。セキュリティシステムの人に通報して、工場は閉鎖になって、大騒ぎになって......。地元の経済にトドメさしちゃってさ、もう帰れなくなっちゃったきりだから怖くて聞けなかったわ」
「なぜです?ジュンが関わったことは伏せられたのでは?」
「それはそれ、これはこれよ。一気に過疎ってく地元みてたらいられなくなっちゃってさ。弟が実家継いでくれたから私はどうこう今更言えなくてね、それきりよ。これがきっかけでセキュリティシステムの会社にアルバイトから正社員に入れてもらったわけだから、チャンスでもあったんだけどね」
「つまり、親友がどうなったかもわからない」
「ニュースでみたわ。保護施設に入ったって。二度と出れなかったことくらい私にだってわかるわよ」
「それは余計なことを話させてしまいましたね」
ジュンは首を振った。
「今ならもっと上手くやれたって何度も夢に見るのよ、私。今更なんだけどね」
ジュンはネガティブの火に心をただらせる。るつぼの中の白金のように、溶けがたい、せつない懺悔がのこる。後悔が、どこまでも尽きない原始林のように、心の奥に薄暗く生い茂る。それを注意深く見つめていたガーゴモンはほの暗く笑うのだ。前世の記憶とはいえ、こうやってジュンの胸に一点の黒い染みのような後悔が残っていることは満足感をあたえる。
ジュンはそれだけではなく、ひとつの経験として消化して、成長するための糧としていることが気に食わなかったが次第点とした。
回想する度に反省が煙のようにゆらめきながらゆつくりと訪れているのだから。切断された反省が、新しい血のように吹き上げて来ている。ジュンの自省力は、あの細長い紙片を一トひねりして両端を貼り合わせて出来る輪のようなすべからざる構造をもっていた。反省が青い刺のように神経をさすのを感じながら、ジュンは前を向くのだ。
「光子郎君たち、近いみたいね。そろそろ行きましょうか、ガーゴモン」
「合流はどちらに?」
ガーゴモンはニコニコ笑いながら聞くのだ。人間は後悔をする動物だが、改心はしない。繰り返すのだ。馬鹿なことを。『歴史は繰り返す』というのは、それの言いわけだ。
がそう言ったときの小さな笑みを、ときどき思い出す。その笑みが心の右はじあたりに小さな痛みとして住み着いて、雨の日にはまるで古傷のように顔を出す。でもよく考えたら、ジュンの心にはそんな小さな痛みがたくさんある。その小さな痛みのことを、人は後悔と呼ぶのだろう。
新しい後悔が、ジュンの両肩に載った。他の後悔に比べると、言葉だけのそれはずっと軽く、簡単に払い落とすことができそうだったが、ジュンは赤ん坊をおぶうように背中を少し曲げて、新しい後悔を胸に染み込ませた。
光子郎が指定したのは、光が丘公園だった。そこにいくまでには多くの団地が建ち並び、中心部には光が丘駅、ショッピングセンターIMAがある。団地内に多くの公園が点在するが、その中でも1番大きいのが光が丘駅北側に位置する都立光が丘公園だ。光が丘公園は都内でも有数の面積を持ち、公園中に図書館、体育館、テニスコート、野球場を備えるなど人々の憩いの場となっている。
周りは光が丘パークタウン、光が丘の多くの部分を占める集合住宅街またの名を光が丘団地ともいう。
そこだった。
人数の分だけ結界は強固なものとなる。ジュンがきたとき、パソコンを起動してアプリを展開すると光子郎たちのいる場所が直ぐにわかった。
「ジュンさん!」
「ごめんね、みんな。みんなが探してた子達が見つかったから夢中でおいかけてたらこんなとこまで来ちゃったわ」
「よかった......無事だったんですね」
「一言くらい連絡くださいよ、ジュンさん!心配したんだから!」
「ごめんごめん」
ジュンは申し訳なさそうな顔をしながら手を合わせる。
「見つけたって、もしかして」
「うん、間違いないと思うの。ヴァンデモンの仲間の中でワクチン種だし、話を聞いたらどうやらずっと1人で誰かを探していたらしいし。紋章が唯一の手がかりだったみたいだから」
「ほんとか!?」
「ただね、こっちとあっちの時間の流れ違うじゃない?だからかなり記憶があいまいで自分が選ばれし子供のパートナーだってこと、忘れてるみたいなのよ。だからそれだけ考慮してあげてね」
光がおそるおそるジュンの近くにやってくる。
光はまさに。古い水の鉢の中であえいでいる金魚が、新しい水の注がれるのを待ちかねているような顔をしている。圧縮されて来た待ち遠しさで、潰れそうに感じだしている。ここにくるまでの時間が、期待のあまり精神的不活溌のうちに過ぎた。
楽しいことって、真っ最中よりも待ち遠しく思ってるときのほうが幸せだ。堪らなくなってそのままパソコンをのぞき込む。
「......誰よ、あんた」
テイルモンは困惑していた。
「......なんでわたし、泣いてるのよ」
ウィザーモンは帽子を深くかぶる。
神様の采配により再び出会ったテイルモンと光は、運命に翻弄される奇跡、あるいは幸運を前になにもいえないでいた。
時間のないような気分で生活しているので、ふいにきちんとした未来に、タイムマシン的にひゅっと運ばれた気さえする。初めて時間の経過を認識する。
突然ものすごい懐かしさと親しみを感じた。戦友に会ったとき、こういう気持ちになるのかな、とさえ思った。
会っていなかった時間をずっしり感じた。 互いにそれはもう、百倍から二百倍くらい感じてしまう。
「ねえ、名前は?」
「先に名乗ったらどう?」
「あ、そっか。私は光。光。八神光っていうの。あなたは?」
「わたしはテイルモンよ」
「テイルモン」
「ええ」
感情の波がうねる。燠のような感情が海のように騒ぐ。二人の間には絶え間なく激情が満々たる水のように襲う。想念が気持ちの中に煮えるようにわきたつのだ。
身体の中に音楽のようなものが湧き上がってくる。体中がポッと熱くなるほど感情を動かされる。言説の底に激しい潮のように流れている。体の芯のあたりで熱いものが揺らめいた。ひたひたと潮のように押し寄せて来るものがあった。
テイルモンは光という名前を耳にして、そこに秘められたとくべつな響きに反応したように、一瞬目を伏せた。しかしすぐに目を上げ、前と同じ凛とした顔に戻った。テイルモンの中で小さな渦のようなものが突然巻き起こり、そしてすぐに静まったように見えた。川の浅瀬に重い石を落とすと、川底の砂が立ち上って水を濁すように、〝あの気持ち〟が底から立ち上ってきて心を濁す。
気持ちを駆り立てるなにかのせいで体が震えてきたのだ。しんからびりびりッと本能の皮膚にさわって来た。
「......選ばれし子供とか、パートナーとか、会えばわかる。忘れていたってすぐにわかる。そう言ったわよね」
テイルモンはジュンを見上げた。
「言ったわよ。太一くんやアグモンたちを見ていればわかるわ。そういうものなんでしょ?選ばれし子供とパートナーデジモンって。光ちゃんのパートナーデジモンであるなによりの証拠じゃない」
テイルモンはしばし太一たちを見回して考え込む。嘘だとばかり思っていたのだが、ジュンのいうとおりになってしまっている自分が確かに存在している。どうやらテイルモンは光のパートナーデジモンなのは紛れもない事実のようだ。
「ね、お願いテイルモン。ヴァンデモンを倒すの手伝って。ヴァンデモンたちが光が丘のみんなにひどいことしてるのは、テイルモンがよく知ってるでしょ?」
光の説得にテイルモンは唸る。
「どうしたの?」
「......いきなり現れてパートナーだなんだっていわれてもね。わたしはヴァンデモン様に拾われてからずっとお世話になってきたのよ。この世界に侵攻したのだってそのためでもある。光っていったわよね。もし、私が本当の家族だから今すぐ太一とアグモンを倒しなさいって言われたら、できるの?」
テイルモンの言葉に太一達は言葉に詰まるのだ。なにせ太一達からすればヴァンデモンたちは紛れもない敵である。倒すことになんの躊躇もない。ずっとそうしてきたのだから。
ジュンは不味いことになったな、と考えた。ヴァンデモンに虐待されながら育つはずだったテイルモンはガーゴモンの配下になり、適切な環境を与えられたことで未練が生まれている。なにせテイルモンは負けん気がつよいものだからガーゴモンの無関心からくる放任主義は愛情の飢えからくる自己顕示欲と合致してしまったらしかった。
「でも、ヴァンデモンは光を狙っていますよ、テイルモン」
「......それは」
「えっ、どういうことだよ」
「私はウィザーモンというのですが、」
ウィザーモンの話を聞いて太一たちは驚くのだ。
ヴァンデモンは8人目の選ばれし子どもを抹殺するべく、軍団を結成し現実世界へと侵攻した。現実世界ではヴァンデモンに魅了された若い女性が口づけを迫るが、ヴァンデモンは女性の血を吸いながら力を蓄えている。
また、弱点の日光を遮蔽し、自身の力を高める霧の結界を展開。人間達を捕獲・収容している。非常に残虐な性格で、用済みになった部下を容赦なく自分の手で抹殺しており、ウィザーモンたちも殺されそうになったところをジュンに助けられた。
ヴァンデモンは友情や信頼を特に嫌っており、妙に人間界に詳しく強い執着心を抱いている。
「将来自分を破滅させる人間を探しているようなのです。その中に選ばれし子供も含まれている」
「あれ、それおかしくないか?オレ、ゲンナイさんから敵はみんな暗黒のやつから生まれたやつらで、生まれた時から敵だって聞いてるんだけど」
「でもゲンナイさんて、当事者じゃないからわからないとも言ってなかった?予言の書に従ってみんなをデジタルワールドに呼んだみたいだし」
「じゃあ、ヴァンデモンさまは初めからデジタルワールドにいた私達と同じデジモンてことなのか?なあ、なら、まだ助けられるんじゃないか?」
テイルモンの言葉に秘められた必死さに太一たちは考え込む。何らかの理由で暗黒の力に操られている可能性があるなら、無理やり倒す必要はないのではないかと。
「ヴァンデモン様は本気だ。本気でこの世界を征服するつもりなのだ。その足がかりとしてこの街を結晶化しようとしている。戦いは避けられないと思いますよ、テイルモン」
ウィザーモンの警告にテイルモンは俯いてしまう。
「いつもそうだ。1番認められたい人ばかりが私の前からいなくなっていく。しかもヴァンデモンさまを倒せだって?そんな......急に言われても......わたしは......わたしはっ」
泣き出してしまったテイルモンに重い沈黙が降りたのだった。