(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

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第31話

たくさんのメールが届いていた。ほとんどは英語だったが一通だけ日本語だった。彼はアメリカに住むウォレスという少年だった。

 

「......4ねんまえ?さまーめもりー?」

 

彼はジュンと大輔がずっとまえに巻き込まれた事件の被害者だという。母親のパソコンから現れた一つのデジタマから生まれたグミモンとチョコモンというやつと一緒に遊んだよね、と懐かしがっていた。昔、日本人のガールフレンドがいた影響で日本語が上手なようで、四角い時計が現れたけどジュンはしっているかきいていた。

 

「太一さんたちがもってるやつだ」

 

大輔は気になって聞いてみた。どうやらウォレスは大輔を覚えていたようで喜んで教えてくれた。グミモンと共に生まれたデジモンだったが、サマーメモリーで突如行方不明になってしまった、という言葉と写真から大輔はサマーメモリーズを思い出す。

 

そこには茶色と黄緑色の生き物とうつる大輔とジュンとウォレス、あと知らない男の子や女の子がうつっていたのだ。

 

頭の中でカチンと声がした。割れたガラスの破片のような記憶が、頭の中でバラバラになりながら再生される。記憶につながるものを目にして大輔の中で何かが弾けた。ダムが決壊するように記憶の洪水が頭の中を駆け巡る。

 

真っ黄色な花畑。親に内緒で遊びに行って出会った不思議な友達。離婚話が聞きたくなくて逃げてきたというウォレスたち。ずっと遠くに引っ越すか、ここにのこるか。花畑は大好きだけどママと離れたくないとなくウォレス。チョコモンは残りたくて、グミモンはママといたらといった。そして、大輔たちは巨大な大きな鳥と出会った。

 

頭の中に立ち込めていたモヤが晴れていく。記憶を失ってから止まっていた時間が再び動き始める。まっ黒な過去のドアがかすかにきしんで、最初の曙光が射しこんでくる。

 

大輔に噛み付いたそいつは、急激に進化した。記憶の断片が脳裏を駈け過ぎる。ジュンの悲鳴はしんとした夜更けによく響く鐘をうち鳴らしたみたいに大輔の頭の片隅にこびりついていた潜在的記憶を一瞬にしてありありと蘇らせた。

 

大輔の身体に激しい個人的な揺さぶりのようなものを与えたそれはとても個人的な種類の揺さぶりだった。まるで長いあいだ眠っていた潜在記憶が、何かのきっかけで思いも寄らぬ時に呼び覚まされたような、そんな感じだった。肩を掴まれて揺すられているような感触がそこにはあった。とすれば、大輔はこれまでの人生のどこかの地点で、深く関わりを持ったのかもしれない。スイッチが自動的にオンになって、大輔の中にある何かの記憶がむくむくと覚醒したのかもしれない。

 

大輔は思い出してしまった。

 

チョコモンとグミモンは出会っちゃいけない生き物で、そいつは迎えに来たのだ。でもチョコモンもグミモンも拒否して、喧嘩になって、大輔は可哀想に思った。

 

 

ぞっとするような、自分の内側にある記憶が群がって来る。網 の一端を鉤にかけてしまうと全体がやがて水の中から上って来る時のように、つながって群がって押しよせる。

 

 

具体的な場所が意識にのぼれば、いやおうなしに記憶は自ら記憶を掘り返しはじめ、穴や理由を埋めようとする。余計なことをしてくれるなと思うが、とめようがない。

 

 

過去にまっすぐつながっている時間の感覚の帯に、一ヶ所なぜかひどく霞んだ部分があって、音はそこにひっそりと存在している。ある時ふと気が付いたら大輔はもうそれを聞いていた。いつ、どこからやってきたのか、分らない。透明なシャーレの培養基の中に、突然微生物が精巧な斑点模様を描き出すように、音はどこからともなくやってきた。音が聞こえる時大輔の心は常に過去の特別な場所に向かっているということだ。そして微かな胸のきしみを伴っている。

 

「お姉ちゃん!」

 

大輔は叫んでいた。

 

大輔を返せと叫んで大きな鳥にとびかかったジュンが振り落とされ、花畑に突き落とされる。舞い散る花びら。ぐったりとするジュン。大輔は大きな鳥が血を取り込んだ瞬間に進化するのをみた。大輔たちはジュンの名前を呼んで駆け寄り、何度も揺さぶるが目を覚まさない。

 

大輔は叫んだ。やめろって叫んだ。その瞬間、チョコモンとグミモンが同じようにでかくなった。2人で竜巻を起こし、冷たい氷の塊をたくさん打ち出した。あるいは高熱の塊を打ち出した。2人が大きな竜巻を叩き込んだ。

 

花畑から黄色い花びらが巻き上げられ、目隠しとなり、大きな鳥は隙がうまれる。やがて大きな鳥は2体の攻撃をもろに食らって吹き飛ばされてしまった。

 

大輔たちは空から光が降りてくるのを見た。大きな鳥はその光に飲み込まれていなくなる。その光はチョコモンとグミモンにも降り注ぐがグミモンは逃げ出してウォレスに飛び込むが、チョコモンは転んでしまいそのまま飲み込まれてしまった。

 

光がやんだとき、全てが終わっていた。

 

「チョコモン......は?」

 

ウォレスは辺りを必死でさがしていた。大輔も必死でグミモンと探し回った。一緒に遊んでいた友達がジュンが倒れていることに気づいて大輔を呼んだ。

 

大輔の目の前にはぐったりとしているジュンがいた。

 

「......おねえちゃん......」

 

大輔は不安で不安でたまらなくなった。ウォレスによればアメリカでもたくさんの怪物が跋扈しているようで、サマーメモリーから湧き出しているらしい。チョコモンがいるかもしれないからいってみる、て書いてある。デジヴァイスについてなにかしらないかとパソコンに詳しいジュンにコメントを求めているようだった。

 

「......」

 

大輔は東京も怪物だらけだということ、ジュンも同じ機械を持っていること、バリアをはったり、わるいやつを退治したりできるコマンドがあることを教えてあげた。ウォレスはジュンじゃないことに驚いていたが喜んでくれた。

 

「おねえちゃん......」

 

ジュンは大丈夫なのかとウォレスは聞いてきた。そりゃそうだ。ウォレスにはグミモンがいるがジュンにはいない。大輔にもいない。なにもいないのに出かけてしまったのだ。大輔は不安で不安でたまらなくなった。

 

感受性がたかい大輔にとってジュンは学校や家、日常と非日常という際限ない日常リアリズムの中に埋没して暮らすには大事な存在だった。受け入れてくれて、家族が寄り添って楽しく暮らすにはどうしたらいいかいつも教えてくれた。毎日は、穏やかな日溜まりに居座ったような時間があった。

 

平凡でおだやかな日々をつづけていたはずだ。だからこそ、いつまでもつづくのだと思い込んで、信じ込んでいた。

 

なんで忘れていたのだろうか、大輔は。ネットで調べてみたらサマーメモリーにおける爆弾テロ事件とあっさり出てくるというのに。

 

どうやらジュンはずっと覚えていて、こっそり調べていたようだ。大輔は母親に聞いた。そしたら母親は諦めたのか教えてくれた。大輔に教えなかったのは間違いなく愛情だと。

 

大輔はまだ小さいからわからないかもしれないが、家族が家族であるためには必要なうそもある。時には必要だと。愛ってやつは形や言葉ではなく、ある一つの状態。発散する力のあり方。

 

求める力じゃなくて、与えるほうの力を全員が出してないとだめ。家の中のムードが飢えた狼の巣みたいになってしまう。それでも続けて行けるかどうかっていうせとぎわで、何が必要って、妥協だってひともいるんだろうけれど、美しい力のある思い出。その人たちといていい思いをした度合い。そういう空気に対する欲が残っているうちはまだいれる。

 

「おねえちゃん......」

 

大輔は太一たちがいっていた光が丘にいく決意をしたのだった。

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