(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

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第32話

大輔はパソコンを大事に大事にリュックに入れると背負い込み、出かけた。いくらメールをしてもジュンに届かなかったからだ。なにかあったのだと理解するには十分だった。

 

エレベーターを降りて公園を抜け、横断歩道を渡り、お台場駅に向かう。その途中で大輔は知らない影を見た。

 

「へえ、こんなガキがねえ」

 

大輔は固まった。

 

「誰だよ!」

 

「俺か?俺はサングルゥモン」

 

「......?」

 

あの時の怪物みたいだと大輔は思った。

 

「味見させてくれよ、いいよな少しくらい」

 

「うわあああっ」

 

サングルゥモンといった舌をかみそうな名前の狼をみたいな怪物は、大輔を殺そうとしているのがわかった。あるいはあの時の恐竜みたいにガブッてしようとしようとしているのだとわかった。

 

やばい、こいつはやばい、逃げないといけない。そう思うやいなや、大輔は背中を丸めて一目散に駆け出した。もちうる全速力で逃げていく。サングルゥモンはそれを追いつめられた羊がやみくもに逃げまどうのを見るように笑っていた。

 

何かに追われるように一目散に走る子供に不思議そうに通行人は振り返るが、紫色の狼を見てギョッとするのだ。電話やポケベルで連絡しようとしている人間もいたが、サングルゥモンの影響で周辺の磁場は狂いに狂い、電子機器は壊れている。誰も大輔の危機を救えるものはいない。

 

大輔は走った。鬼に出会ったみたいにすっ飛んで逃げた。先生に叱られたときのようにそそくさと逃げた。蜘蛛の子を散らすように四方八方に逃げる子供なんてサングルゥモンにとっては風に吹かれた木の葉のように、からだを斜めにして逃げ出しているにすぎないが。

 

サングルゥモンはただちに追い討ちをかける隙もないほどの驚くべき速さで追撃する。大輔は絶滅間際の怯えた恐竜のように、周りをこうしてうろうろとかくれ場所を探している。何度か曲がる必要のない狭い道を曲がり、追跡者を煙に巻こうとする。念入りに回り道をし、追跡者を煙に巻こうとしているが、敵に後ろを見せている時点で無駄だ。

 

大輔はほくそ笑むサングルゥモンを二度も三度も振り顧りながら走った。

 

さすがにサッカー部に入っているといっても、小学二年生にすぎない大輔の体力はサングルゥモンに勝てるはずがなかった。

 

「な、なんで......」

 

反対側の道から現れたサングルゥモンに大輔は青ざめる。

 

激しく空気を吸う音がする。大輔はゼーゼー息を切らしながら、つっかえそうに酸素を取り込もうとしている。数日の間歩き続けていたようにひどい疲労が胸苦しいほどのしかかっていた。息が弾んで、しばらくまともに口が利けない。100メートルを全力疾走したってここまではならないだろう。

 

頭の中は煮えるように、額は氷のように、てのひらは火のように感じつつ、大輔はサングルゥモンを見ているしか出来ない。その足跡を、彼は追った。呼吸が、はッはッと、口の外で動悸を打つが、もはやどうしようも出来ない。息切れを通り越してして呼吸困難になっていた。これはじっとしていなければいけないと本能は叫んでいる。

 

サングルゥモンはゆったりと大輔を見つめていた。

 

「残念だったなあ、坊主。俺はかけっこが1番得意なんだよ。特にネットワークが張り巡らされているこちらの世界なら特にな」

 

いっている意味はよくわからなかったが追い詰められていることだけはわかる。じりじり、じりじり、と大輔は後ろに下がる。サングルゥモンはそれ以上の一歩を踏み出すものだから、間隔がどんどん狭まっていく。

 

「たぶんねーちゃんが心配になったんだろうが、言いつけは守るべきだったな。お前はまだ選ばれし子供じゃねーみたいだから、守ってくれるやつは誰もいないってわけだからよ。かわいそーに」

 

けらけら笑いながらサングルゥモンは近づいた。いざ噛み付こうとしたら、はじかれた。

 

「ちい、結界か。あのねーちゃんの差し金だな」

 

「おねえちゃん知ってるの?!」

 

「お、かかった。そうだぜ、坊主。いい子だから大人しくしな。そうじゃねーとおねえちゃんがどうなっても知らないぜ」

 

大輔は目を見開いた。

 

「おねえちゃんに何する気だ!」

 

「おっとそれは教えられねーな」

 

「おねえちゃんに近づくな!おねえちゃんは僕が守るんだ!」

 

大輔の叫びにサングルゥモンは口笛をふいた。

 

「こりゃいい。さすがはグリフォモンを成熟期の連中が倒しちまうだけはあるぜ。奇跡ってのはホントにあるんだな」

 

「?」

 

よくわからない大輔は首をかしげた。

 

「おねえちゃんを助けたかったらこいよ、坊主の身柄が前提だぜ」

 

「......わかった」

 

サングルゥモンはにやりとわらった。大輔はたしかにデジヴァイスのコピーをパソコンに入れてもらっているが、使い方しかしらない。ジュンを助けたかったらパソコンを電源OFFにしろといわれたらそうしてしまう。ここまでくればもう勝ったようなものだった。大輔を背に乗せるといきなり走り出し、電光掲示板の中に飛び込んでしまう。

 

0と1がはげしく行き交うインターネットの世界を何度も転移しながら、光が丘にやってきた。

 

「どこ?」

 

「光が丘だ」

 

「ニュースでやってたとこだ!」

 

「そう、昨日から外部との連絡が完全に遮断されてる霧に満ちた光が丘だぜ」

 

たしかに霧に満ち溢れている。結界をくぐれば一面が結晶の世界となる。大輔は不安そうに辺りを見渡した。世界の終わりを本気で心配しているような顔だ。さすがにあの姉ちゃんの弟だな、直感が恐ろしいくらいに鋭いやつ、とサングルゥモンは舌を巻いた。

 

「しっかりつかまってろよ。結晶人間になりたくなかったらな」

 

「えっ......うわあああっ」

 

大輔の悲鳴がひびきわたる。

 

サングルゥモンがヴァンデモンの勧誘に乗っかった理由がいるため上機嫌だった。成熟期が究極体に勝ってしまうという天変地異の前触れこそこの子供が秘めている力の答えでもある。ヴァンデモンは進化を促す力と人格を維持したまま進化する力を所望している。

 

紋章が前者でことたりるなら、後者は大輔という少年だけに秘められた力だった。こいつの血を吸ったらきっとヴァンデモンは王になれる。サングルゥモンは可能性が確信に代わったことをたしかに感じているのだった。

 

「大輔っ!」

 

大輔は大きく目を見開いた。

 

「おねえちゃんどこ?」

 

「ゲッ......もうこんな所まで入り込みやがったのか......ヴァンデモン様が急げって急かすわけだぜこりゃ......」

 

サングルゥモンはぼやいた。

 

「まちなさい!大輔くんをどうするつもり!?」

 

バードラモンが飛来する。

 

日が暮れて間もない闇の奥から、きらきらする見慣れない星たちが、後ろに長い光の尾を引いてこっちに迫ってくる。流星が長い光の糸を曳いて、虚空をななめに堕ちていく。サングルゥモンはかわした。

 

支えきれなくなって窓硝子の表面をすべり落ちる雨粒のように、あちらこちらでなだれこむ。火炎のながれ星がいっぱい夕立のようにふりだした。空からきゅうに花火がふるように、いっぱいふりだしてきた。サングルゥモンが瞬間移動するなら全体に攻撃すればいいという判断である。サングルゥモンの行動範囲は問答無用で狭まっていくのだから。

 

大気との摩擦熱で燃え上がり、岩塊がガラス質となり、宝石のように輝いている。すべてはサングルゥモン目掛けて落ちてきて、サングルゥモンは全てをかわすのだ。

 

「しまった、誘い込まれたかっ!!」

 

突然サングルゥモンの目の前に炎の壁が四方に出現したのである。その頭上には巨大な彗星があった。長くたなびく尾はエメラルドグリーンに輝いていて、その先端は月よりも明るかった。目を凝らすと、細かな塵のような粒がその周囲にきらきらと舞っていた。

 

細い流れ星が幾筋も輝きはじめる。星が降ってくるようだった。いや、それは実際に星が降る夜だった。まるで夢の景色のように、それはみたいに綺麗な夜空だった。

 

サングルゥモンに次々と襲い掛かってくるいがいは。

 

結晶世界となっている光が丘は地上の明かりが消えたぶん、彗星はますます明るい。雲の上に長く尾をたなびかせて、巨大な蛾のように輝く鱗粉をふりまいている。

 

直撃するかと思いきやサングルゥモンはその場から消失した。忽然と姿を消してしまう。大輔もまた悲鳴を残して消えてしまった。

 

バードラモンが作り出した炎の壁が流星をかき消し、下に待機していたズドモンたちは大輔たちが来ないことに驚く。下から逃げると踏んでいたのにいない。おかしい、どこに行ってしまったのかと誰もが目をみはる。

 

「やられましたね......ここはすでにデジタルワールドと現実世界の境界がかぎりなく曖昧な場所です。サングルゥモンはデータを自分で分割し、ネットワークを通じて逃げることができる。どうやらこの鏡から逃げられたようだ」

 

ガーゴモンがそう告げると、ジュンは今にも泣きそうな顔のままいうのだ。

 

「大輔は......なんで大輔が、なんで、どうして」

 

「それを知るにはこの先に行った方が早そうですね」

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