(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

34 / 160
第34話

化け物に襲われてパソコンやテレビ、電光掲示板などに押し込まれた人々は、幻でも見ているような錯覚にとらえられる。暑い陽射しの底に揺れる陽炎のように現実感がない。

 

波が退くように虚空の幻が一瞬にして消えうせる。そしてまたもう消滅してしまった星の光が、何億年もかけていま地球に届いているのと同じ、タイムラグの起こした錯覚にとらわれてしまうのだ。

 

ホログラムのように身を焦がすほどの憧憬の果て、夢の端に浮かび上がった幻影に溺れてしまう。老若男女が胸のうちに秘めている想いを読み取り、あたかも叶ったかのような錯覚の中に取り残す。そうすれば違和感などたちまち失せて、深い深い眠りの奥底におちてしまうのだ。

 

これはいわゆる生死の間にさまよって、疲れながらも緊張し切った神経に起こる幻覚ハルシネーションである。

 

一部の人間は目の前の光景が幻覚のように思えるのか、会いたいと思う気持ちが、こんな光景を見せているのではないかと疑う。そういう人間にはファントモンたちが群がり、逃げることが出来ないと絶望するまで追いかけまわし、疲れ果てた先に催眠術をかける。

 

声を聞いているうちに、現実世界に帰ることが出来たような錯覚に陥っていく。目の前には、さまざまな幻が、瀕死の彼らをあざけるように、ひっきりなしにやってくるのだ。

 

幻想に浸る人々からエネルギーを吸い出し、ヴァンデモンはどんどん力を蓄えていく。暗やみから生まれて、暗やみへ消えてゆく恐ろしい力がどんどんヴァンデモンに力を与えていく。ヴァンデモンは笑いが止まらない。

 

そのたびに音が高くゆがんだ。空間ごとゆがんだように、人間たちは頭がくらっとした。そして、その恐ろしい臭気がふっと消え、何か甘い花のような、ごく薄い香水の 匂いのような香りがじょじょに感じられるようになった。目を閉じているから匂いがよくわかった。それは生花の混じったようなかすかに澄んだ誘惑だった。

 

そして、人間たちは心臓が止まりそうになった。目の錯覚かもしれないと思って、そのとき何度も目を閉じたり頭を振ったりしてみた。そこには吸血鬼が牙を向いていたのだ。

 

「それほど気力があるなら我が糧になるがいい」

 

ヴァンデモンによりコウモリが飛来する。人間たちは逃げ惑うがファントモンたちが襲いかかり、追い詰められていく。ひとり、またひとりとコウモリに血を吸い取られてその場に倒れてしまう。やがて最後の一人が崩れ落ちた時点でコウモリたちが寄せ集まり、またひとつとなる。ヴァンデモンがまた出現した。

 

「まだだ、まだ足りん。さあ、人間たちを閉じ込めるのだ!」

 

ヴァンデモンの号令に禍々しい声が響き渡る。いろんなデジモンたちに誘拐されてきた人々がゲートポイントに次々と落とされ、ファントモンの幻覚の餌食になる。気概がある人間は優先的にヴァンデモンの餌食となっていく。

 

コウモリの数はどんどん右肩上がりに増えていき、現実世界とデジタルワールドの境目たる天井では綺麗な結晶世界が望める。そこからどんどんコウモリが飛びたっていく。黒い世界が蓋をするように広がり始めていた。

 

そのコウモリを邪魔する者達がいる。

 

「きたか」

 

ヴァンデモンはにやりと笑った。選ばれし子供たちが突入しようとしているのだ。天井からファントモンや人間を拉致する仕事を終えたデジモンたちがとびだしてきて、彼らを妨害する。し続ける。

 

太一達がやってきた。

 

「なんだよこれ」

 

たくさんの人が倒れている。

 

その上空では窓ガラスが煤けたように曇り、一面に汗をかいたような水蒸気で曇ったガラスのような輝きが広がる。硝子が飴のように曲がり、硬質な音を立ててゆっくりと割れる。曇った古い鏡のようにぼんやりと姿を写す。炎や雷撃がそのガラスを突き破った。

 

氷のように冷ややかなガラスが棘のような破片となって地面に突き刺さる。ガラスの破片が枯れ葉のように散り溜まり、選ばれし子供たちのパートナーによる怒涛の攻撃による光を受けて、砕けた宝石のように光る。琥珀の塊のように美しかった。

 

その場所は説明がなければディスコティックというよりは巧妙につくられた温室か水族館と言っても通用しそうだった。何もかもがガラスのようなもので作られているせいだ。床と天井をのぞけば、装飾品もぜんぶがガラス製だった。そして至るところに巨大な四角いモニターが配されている。  

 

ガラスの仕切りで区切られたブロックのあるものの中で人間がたくさん倒れている。

 

「なんだよこれ」

 

「ヴァンデモン、なにをする気だ!」

 

太一たちが叫ぶ。すると、コウモリの向こう側に狼が現れた。

 

「おっとちかづくんじゃねーぜ、坊主がどうなってもいいのか?」

 

サングルゥモンだった。ジュンは悲鳴をあげる。ガーゴモンは身を乗り出そうとするジュンを抱いたまま距離をとる。

 

「ふざけないで!大輔君だけじゃなく、こんなにたくさんの人まで!」

 

空たちの怒りが頂点にたっした。デジヴァイスから溢れ出した光が紋章を貫き、紋章が光の中に溶けていく。そして反転した光がバードラモンたちに降り注いだ。

 

稲妻の度にその炎は地上まで閃き、まわりの結晶世界まで照らした。陶器に割れ目が入るように稲妻がすばやく走る。暗黒の空に稲光がぴりぴり裂ける。びりびりと空気を裂き、世界の終わりを告げる火柱みたいに直立する。ゼウスが自ら出陣して雷の太い矢を大地にはしっはしっと射ているような迫力だ。

 

今までの連戦が経験値をため、絆が成熟期のその先を促したのだ。

 

突然閃き落ちる稲妻に照らされた横顔、真昼のように浮かび上がるシルエット。

 

「ガルダモン!」

 

それは大空を自在に舞うことのできる翼と、巨大な鉤爪を持つ鳥人型デジモンだった。ガルダモンは正義と秩序を重んじ、自然を愛する大地と風の守護神でもある。鳥型デジモンの中でも知性と戦闘能力の高い、選ばれしデジモンのみ進化すると言われ崇拝されている。

 

デジタルワールドの秩序が乱れると、どこからともなく現れ、乱れの根源を正し平穏に導くと考えられている。必殺技は超速で真空刃を繰り出し、敵を切り刻む『シャドーウィング』。シャドーウィングはあまりの速さのため、その正体を確認することはできず、黒い鳥の形をした影のみ認識することができる。

 

 

稲妻が空間をジグザグに裂き、黒い空を裂いて、凄まじい雷を落とす。威嚇するように次々と稲妻が閃き、フラッシュを焚いたかのような、稲妻の微かなひらめきの先に新たなるデジモンが降臨した。

 

「アトラーカブテリモン!」

 

そのデジモンは熱帯圏のネットエリア内で発見されたカブテリモンの進化型種であり、サイズは約1.5倍と、昆虫型の中でもかなり大きい。青いアトラーカブテリモンと同種であり、同様に主力武器である角の強度が飛躍的に高められていが、こちらのアトラーカブテリモンの方が飛行能力がすぐれているようだ。

 

また、前肢付け根に筋肉状の部分が現われ、格闘能力も向上した。性質的には、生存本能以外に弱いものを守るという行動が認められ、その行動は騎士的にさえ見えることがある。必殺技は巨大な角を敵に突き刺す『ホーンバスター』。

 

ありもしない海上が出現し、閃光が走るのが見える。雷なんてただの少しやかましい空中の放電現象だとばかりにシルエットが全てをたたきつぶした。

 

「ズドモン」

 

イッカクモンが更に進化し二足歩行が可能になったパワー型デジモンだ。徹底的に鍛え上げられた筋肉を、対戦相手から奪った皮や甲羅で自ら作った防具でさらに守っている。頭の角は再生が不可能になった代りに、これも自ら鋸状に加工した。しかし、なんといっても最強の武器は、太古の氷から掘り起こした、クロンデジゾイト製の「トールハンマー」。必殺技はトールハンマーを振り降ろした時に生じる衝撃波や火花を相手にぶつける『ハンマースパーク』。

 

 

雷が光り、白い火花が充ちる。空の端が光り、青白い閃光が光って一瞬全てを透明にする。山も空も全て透けて見える。雷が鳴り出した。大気をまっ二つに引き裂くような烈しい振動があり、赤い火箭が竿を継ぎ足すように、ジグザグと鋭くつっ走った。続けさまに、稲妻がアセチリン瓦斯のように青く光り、すぐ頭の上で凄い雷鳴が轟きわたる。

 

「リリモン!」

 

それは美しく咲いた花弁から生まれた妖精型デジモンだった。見た目は人間の子供のような姿をしているが、計り知れないパワーを秘めている完全体のデジモンである。気まぐれでお転婆な性格で、同じような気質を持っている人間の少女には心を開くと言われている。

 

また、泣き虫で泣き出すと手がつけられなくなるので、手なずけるには努力が必要である。しかし、小さなものや弱いものにはやさしく手を差し伸べる一面もある。背中に生えた4枚の葉状の羽で空を飛ぶことができ、リリモンが飛んだ後は、さわやかなそよ風が吹くという。必殺技は両腕を前に突き出し、手首の花弁を銃口にして、エネルギー弾を撃ち出す『フラウカノン』。

 

 

落雷があるたびに空間はびりびりと音を立てて震えた。短い間隔を置いて続いた。ひときわ激しく轟いた光と影がほんの一瞬ひとつになった。すべてが収束したとき、まだ完全体になれなかったはずのパートナーが突如進化したことに選ばれし子供たちは驚くのだ。

 

サングルゥモンはニヤリと笑う。

 

「なるほど、これが選ばれし子供によるデジモンの強化か。だが、それは俺も同じだってことを見せてやるよ」

 

サングルゥモンが叫ぶ。遠吠えをあげる。雷が古いカーテンでも裂くみたいに空を二つに分断し、雷鳴が窓ガラスを激しく震わせた。稲妻は次第に強くなって、暫くの間は、青い光で往来を照らしっぱなしに明るくすることもあった。

 

不意にひどい稲光りがして青い光が射し込み、ぐったりとしている人々を照らした。そのとたんに空間の裂ける様な雷が鳴った。空が旗のようにぱたぱた光って飜り、火花がパチパチパチッと燃える。

 

今まで出会ったことのないくらい激しい雷だった。あまりにも激しすぎて、最初は幻想的な夢を見ているのかと思った。群青色の夜の中を短い光が何度も走り、そのたびにガラスの食器棚が倒れ粉々に砕けるような音がした。稲妻が空を縫って走る時には、ジュンにはそれが大輔の痛みが形になって現われたように見えた。

 

現れたシルエットにジュンは戦慄する。いきなり進化したことにみんな驚いているが、それは知らないからだとジュンはわかっていた。そいつはここにいてはいけないデジモンだった。

 

「......なんで、なんでここに......」

 

そいつは吸血鬼デジモンの王とされる魔獣デジモンだった。古くからダークエリアに城を構え、かの七大魔王といえども手出しすることができないほどの強さを誇るといわれており、ジュンは会ったことさえなかった。

 

物腰は紳士的であり、発する声には「魅了」の効果もある為、討伐に出た天使デジモンを何体もフォールダウン(堕天)させたこともある逸話を持つ。

 

死なない体を持っていると伝承されており、デジタルワールドにダークエリアが生まれる経緯に関係していると言われているが、彼の城まで辿りつくこと自体困難であるため、この謎を彼に問いただすのは非常に困難であると言うしかない。

 

必殺技はあらゆる敵を瞬時に氷の結晶体へと変える『クリスタルレボリューション』と、見据えた相手の心を闇のとりこにしてしまう邪眼『アイオブザゴーゴン』。

 

光子郎のパソコンでいち早く反応したのはゲンナイさんだった。

 

「いかん!声を聞いてはいかん!攻撃を仕掛けるには注意するんじゃ、やつはグランドラクモン!デジタルワールドの死者のエリアたるダークエリアに居城を構える王じゃ!声を聞いた者は操られてしまう!」

 

ジュンはたまらず叫ぶ。

 

「太一くん、ヤマトくん、光ちゃん、タケルくん、急いで!ヴァンデモンも進化する気よ!時間が無いわ!!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。