(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー) 作:アズマケイ
ジュンがこのデジモンについてのデータをゲンナイさんから聞き出す前に無慈悲な攻撃が始まった。グランドラクモンに拘束されている大輔は目を覚まさない。ジュンさんはさがっているようにと選ばれし子供たちに言われてしまい、ジュンは唇をかんだ。ガーゴモンが遠く、距離をとった。
「アイオブザゴーゴン」
グランドラクモンが叫ぶ。
「な、なんだ......?」
「!」
おかしくなったのはアトラーカブテリモンだった。
「グランドラクモンがこんなにたくさん!?」
敵の防御力を下げ、しかも混乱状態にしてしまう強烈な効果を持つ必殺技が炸裂した。この技は混乱させた隙にアクセルブーストを積んだり、混乱が無効だったとしても防御ダウンしたところを物理技で突破したりと無駄になりにくい必殺技だ。自身の高い攻撃と非常にマッチしており、防御が下がれば火力を出せるとグランドラクモンは自負していた。
アトラーカブテリモンは考えが混沌として雲のごとくに動く。誘惑と愛情とおせっかいと誤解の嵐が、四方から襲いかかる。迷宮に放り込まれたみたいにこなれ切れない言葉や世界を前にして、頭の中が発熱したようになる。踏みつけられた蟻んこの巣のように大混乱に陥った。支離滅裂な世界がそこにはあったのだ。
懐疑と弁明の間を迷子のように行き来する難解な迷路のような思考に吸い込まれていきそうになる。1割も理解できない狂人の世界にアトラーカブテリモンは混乱した。
驚いたのは光子郎である。なにがあったのかと子供達はきくが分からないという風に首をふるしかない。唐突過ぎて事情が飲み込めない。アトラーカブテリモンは明らかにおかしくなっている。どれだけ問いかけても答えのかけらもろくに返ってこないのだ。
引力が変化したような、よく分からない感覚だった。いろんなことがあってもう訳がわからない。考えるほど頭の中は収拾がつかなくなり、事柄と事柄を結ぶ糸が絡み合ってパンクしそうになる。
「いかん、逃げるんじゃ!」
ゲンナイさんの言葉はアトラーカブテリモンの意識の領域のどこにも着地しなかった。それは意味性の縁を越えて、虚無の中に永遠に吸い込まれてしまったようだった。冥王星のわきをそのまま素通りしていった孤独な惑星探査ロケットみたいに。
彼の中である種の混乱が始まっていた。感情の平原のどこかで不吉な砂嵐が発生しようとしていた。まるで歪んだ鏡に変形して映った自分の姿を眺めているみたいに事態をうまく飲み込めない。
明らかなる錯乱状態だったが、それを逃がすほどグランドラクモンは優しくはなかった。
「クリスタルレボリューション」
世界が結晶世界に覆われた。
「光子郎!」
「アトラーカブテリモンっ!」
2人は結晶になってしまった。バードラモンがあわてて回収し、地面に叩きつけられて破壊される最悪の事態は回避する。
「一体なにが......?」
丈は必死で頭の中を整理しようとした。机のひきだしの中身を整理するように。しかしうまく整理はつかなかった。いくつかのものの位置を入れ替えただけだ。消しゴムのあったところにペーパークリップを入れ、ペーパークリップのあったところに鉛筆削りを入れ、鉛筆削りのあったところに消しゴムを入れる。混乱のひとつのかたちが、別のかたちに変わっただけだ。
「次はてめーだ」
「逃げて、丈先輩!ズドモン!」
「アイオブザゴーゴン」
空の悲鳴にも似た声がこだまする。
そこには確固とした輪郭を持った絶望があった。彼はしばし言葉を失い、口を軽く開いたまま、ただぼんやりとその方向を眺めていた。自分が何を見ているのか、意識を定めることができなかった。
輪郭と実体とがうまくひとつに重ならなかった。まるで観念と言語が結束しないときのように。彼の頭は多くの考えで混雑し、集中力は限界近くまで伸びきっていた。考えれば考えるほどわけがわからなくなる。自分の脳味噌が消費期限切れの豆腐でできているみたいに思えてくる。
こういうときどうしたらいいか、丈は知っていた。
「ズドモン、目を閉じて直感で攻撃するんだ!」
「混乱を回避しようが防御を下げられた完全体など俺の敵じゃねえな!」
強烈な一撃がグランドラクモンにぶちかまされる。カウンターに強烈な魔法攻撃がズドモンを襲う。結晶化ではなく、闇の攻撃だ。吹き飛ばされたズドモンはビルにたたきつけられてしまう。
「余計なこといいやがって。次はてめーだよ」
今度は空たちに魔眼がむく。ガルダモンは考えれば考えるだけ、思考の糸は身動きがとれないほど複雑に絡み合っていく。不可解な要素がいくつかある。そして話のラインが錯綜している。
どのラインとどのラインが繋がっているのか、それらの間にどのような因果関係があるのか、見きわめることができない。心の中にカオスが生じ、小宇宙のように広がっていく。海のものとも山のものともつかない気持ちが錯綜している。
霧の中を彷徨うかのような混乱だった。脳の中に煙幕が渦巻くような感覚で、頭が回転しない。
「いやー!正気に戻ってよ、ガルダモン!」
風や炎が降り注ぎ、たまらずリリモンが叫ぶ。
「レストア!」
フラウカノンから弾丸ではなく状態異常を回復させる薬が発射され、ガルダモンは調子を取り戻した。
どうする、どうする、と2人は言葉が頭を掻き回す。頭の中は完全に混乱していた。様々なことが一気に脳の中で氾濫し、それを何一つ把握できていない状態だった。大輔の血を吸ったことで進化したのか、それともこの場所が進化できる特殊な場所なのかわからない。両手で頭を抱えた。 ブレーカーが脳の中にあるのだとすれば、それがそろそろ落ちる頃ではないか。そうでなければ脳がパンクする。そんな気さえした。
「ハンマースパーク!」
ズドモンがトールハンマーを振り下ろした衝撃波が空間全体を揺らした。ガルダモンたちは一瞬だけ落ち着きを取り戻す。
「レストア!」
リリモンがすかさず混乱をしずめ、回復効果もある技をかける。みるみるうちに結晶化していたアトラーカブテリモンが復活した。回復もあわせてなんとか先程までのコンディションを取り戻す。
「ありがとうございます、リリモン」
「ありがとうなー、ミミはん」
「リリモン、データ種だからウィルス種に攻撃きかないと思うの。だからみんな、頑張って!混乱とか回復とか頑張るから!」
「まかせて!」
グランドラクモンは笑うのだ。
「状態異常や体力を回復できたとしても、防御力の低下はうち消せねーし、蓄積していくんだぜ、ついでに教えてやるが俺の体力はこの攻撃と人間たちのエネルギーから現在進行形で供給されてる。倒せるもんなら倒してみろよ、どうみてもジリ貧だぜ」
にやにやと笑っているグランドラクモンを前に、ジュンはガーゴモンに問いかける。
「ねえ、ガーゴモン。ガーゴモンはウィルス種だけど光の眷属だからなにかつかえるでしょ?光属性の技でなにか支援できない?」
ガーゴモンは首を振った。
「ダメですね、私程度の力では究極体は到底及ばない。ならば膠着を覚悟でワクチン種の彼らが攻撃し続ける方がいい」
「そんな......」
「ジュン、あなたは大切なことを忘れていますよ。グランドラクモンも脅威だが、やつは好奇心からここまでやらかしている。真なる敵はヴァンデモンです。やつを倒せばグランドラクモンはダークエリアに帰還する。だから予言を成功させる方が先決だ」
ガーゴモンの言葉に息を飲んだジュンはうなずいた。
「たしかに......確かにそうよね、今紋章がないんだからエンジェウーモンになるかならないかの瀬戸際なんだもの。今から紋章を......」
「時間がありませんよ、ジュン」
「えっ、じゃあアタシたちに出来ることないじゃない」
「いいえ、ひとつだけあります。私は少々テイルモンたちの扱いを間違えてしまったようだ。まさかヴァンデモンにあそこまで入れ込んでしまうとは思いませんでした。だから、その尻拭いをしなければならない。そのせいでテイルモンは覚悟が足りないのだから」
「......なにするの」
「すぐにわかりますよ」
ガーゴモンは風を産み落として空高く舞い上がったのだった。