(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

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第36話

「私に提案があります」

 

太一たちと合流するなりガーゴモンがいった。

 

「なによ」

 

「ヴァンデモンは吸血鬼だ。倒しても死なない。そもそも初めから死んでいるのですから死という概念がないのです。まあ、デジタルワールドなら話は別でしょうね。輪廻転生のシステムがありますからただちにダークエリアに送られる。だがここは現実世界だ。デジタルワールドじゃありません。ヴァンデモンは実体だけをなくした精神体となる。厄災はつまねばならない」

 

「現実世界だから暗黒の力も及ばないから食べられる心配はないってことか」

 

「そうですとも。だからあなた方に提案があるのですがね、私を矢になさい」

 

「は?」

 

「吸血鬼の退治の仕方にはセオリーがあるんですよ」

 

ガーゴモンが語り始めた。とりあえずは十字架・護符・聖水・聖餅といった、キリスト教の息のかかったものが必須である。剣や蝋燭を十字型にクロスさせるだけでも結構有効だが、やはりキリストの磔刑像のついた正しい「十字架」が望ましい。とはいえ強力な吸血鬼に対しては無力な場合もある。

 

聖水とは聖職者によって祝福された水であり、吸血鬼にかければ酸の様に焼くことが出来るが、強力な魔除けでもあり、近くに吸血鬼がいれば白熱して危険を知らせるという便利なものである。道具がなくとも、例えば『吸血鬼カーミラ』は賛美歌を聞くだけでガタガタと震え出す。

 

十字架は銀製のものが望ましい。錬金術において銀は月及び女神ダイアナの善性を象徴するとされ、あらゆる悪に対する強力な防御手段となる。セルビアでは吸血鬼や人狼と戦う武器として、十字架の描かれた銀貨を溶かしてつくった弾丸が薦められている。

 

ただし十字架を使う場合には、その地域がどの文化圏に属するかを前もって調べておく必要がある。東方正教圏の吸血鬼にラテン十字架を見せても意味がないのである。

 

それから、銀の銃弾で吸血鬼を倒した場合、その残骸を月の光の下にさらしてはならない。特に満月の光は吸血鬼や人狼を活性化させるとされている。イギリスの吸血鬼小説の第1号であるポリドリ著『吸血鬼』に登場する吸血鬼ルスヴン卿はこの伝説に従い、盗賊に銃で打ち倒された後に月の光を浴びて甦っている。

 

吸血鬼の持つ様々な特性を利用した退治法もある。まず水を嫌うという性質を利用し、浴槽に沈めてしまうという方法、ただしその後の屍体の処理が問題である。

 

ブルガリアの熟達した妖術師は、イコンを用いて巧みに吸血鬼を追いつめ、瓶の中に閉じ込めてしまうことが出来るという。これはよほどの達人にしか出来ない芸当だが、その瓶はコルクで蓋をしてイコンで封印し、燃えさかる火の中に投げ込んで終りになる。

 

しかし、そんな具合に活動中の吸血鬼と武器をもって渡り合うよりも、土曜日の昼間、動けないでいる吸血鬼をしとめる方が楽である。まず、その心臓をえぐり出す方法。血液を送り出す心臓は吸血鬼にとっても力の源である。

 

心臓を摘出するには、まず香を焚いて悪臭を誤魔化し、胃からメスをいれて、手探りで心臓を掴み出す。ただし、摘出方法は地方や民族によって異なる。ジプシーの伝説によれば、吸血鬼の血がついた人間は発狂するとされるため、「胃からメスをいれて体内を探りまわす」など言語道断である。

 

セルビアではこうやって取り出した心臓はワインで煮詰め、また体内に戻しておくというが、ルーマニアではその心臓を熱した釘や杭で突き刺すといい、単に焼くだけという地方もある。

 

そんな手間のかかる方法を用いずとも、首を切り落とすだけでよいともされる。しかしその首を胴の近くにおいておくとつながってしまう怖れがあるので、足元に置いたり臀部の後ろに突き刺したりする必要がある。

 

一番ポピュラーなのは、杭を用いて吸血鬼を串刺しにする方法である。杭はトネリコ、セイヨウサンザシ、ビャクシン等を用い、死体を大地に釘付けにすることによりその復活を妨げるのである。打ち込む際に祈りの言葉を唱えればなおよろしいが、吸血鬼をしとめるには一撃のみで打ち込まねばならず、二撃以上では復活してしまうとの話もある。

 

普通の吸血鬼退治の場合、杭を打った後は首を切り落とし、口にニンニクを詰め込むのがベストであった。『吸血鬼カーミラ』はちゃんと杭で殺される。ちなみにウクライナでは杭にはハコヤナギを用いるが、これは、キリストを裏切ったイスカリオテのユダが首を吊った、呪われた樹であるとされるからである。杭を打つ前に煮えたぎった油をかけるという地方もある。

 

しかしながら、吸血鬼の中でも特に強力な奴は、首を切ったり杭を刺したりした程度で死にはしない。何故なら、吸血鬼は最初から死んでいるからである。ただし、それはあくまで中途半端なものであり、霊魂の宿る肉体を焼き滅ぼせばそれで終りである。

 

もちろん焼いても骨は残ってしまうが、死者の霊魂は骨には宿らないと考えられる。従って、例えばセルビアでは、吸血鬼は骨を持たないとされるのである。ただ、日本と違ってヨーロッパでは火葬は宗教的に禁止とされるのでこれは最終手段であり、手間もかかるので滅多に行われない。

 

火葬する前に、屍体を寸断するとか、断頭するとか、肉片を油・ワイン・聖水で煮るとかいう地方もあり、焼く時に煙の中から出てくる虫も全部殺すのがよいとされる。ちなみに、ギリシア人は杭を打つという退治法を用いないため、心臓をえぐり出すか八つ裂きにするか火葬にするのが一般的である。

 

「一撃か......失敗できないな」

 

「お兄ちゃん......」

 

「ガーゴモン、大丈夫なの?」

 

「仕方ないんですよ、八神光。聖なる力があればあるほど殺傷能力はあがりますが、少しでも見落としがあれば意味が無い。だから、私は考えたんですよ。私が矢になればいい。少なくとも聖なる力の付与はできる」

 

太一たちは絶句した。

 

「......そんな、本気なのかガーゴモン」

 

テイルモンは悲痛な面持ちできいてくる。ガーゴモンは笑うのだ。

 

「時間がありません、急ぎましょう」

 

ガーゴモンが空を飛ぶ。太一とヤマトは顔を見合せ、うなずく。タケルと光は真剣な眼差しでデジヴァイスを握りしめる。パタモンとテイルモンは前を見すえた。

 

 

 

 

ガーゴモンが発光体のように眩しいかがやきを放つ。目がチカチカして怪しい残像が飛ぶほど強い光によって、くらんだ目の網膜には閃光と点滅する星が飛び交う。目を閉じたときに視野を満たす灰色の薄暗い光がいきなり目の前で白い爆発を起こしたみたいに明るい。

 

まぶしくて何も見えない。目に沁みるほどの強烈な輝きの色艶はたまらなく眩しい。急な眩しさで、頭を思いきり殴られたみたいに目の前が真っ白になり何も見えなくなる。たまらず手を目の上にかざして見上げる。

 

いきなり目の前が、ぱっと明るくなって、まるで億万のほたるいかの火を化石にして、空中に沈めた。またはダイアモンド会社で、値段がやすくならないように、わざと穫れないふりをして、かくしておいた金剛石を、だれかがいきなりひっくりかえして、ばらまいたというように。目の前がさあっと明るくなっていた。

 

 

空がまるで青びかりでツルツルしてその光はツンツンと光たちの眼にしみ込み、大きな空の宝石のように橙や緑の粉をちらしまぶしさに眼をつむる。今度はその蒼黒いくらやみの中に青と光って見える。あたらしく眼をひらいては前の青ぞらに桔梗色、あるいは黄金やたくさんの太陽の影法師がくらくらとゆれてかえる。

 

今までに見たどの光よりも凄烈だった。想像して言うなら、苦しみのうちに胎道を通りぬけて、初めてこの世に生まれ出る瞬間のまぶしさのようだった。それくらい美しく、清らかで、くりかえせない発光だった。

 

テイルモンとパタモンの前に2本の矢が出現する。

 

テイルモンはその矢を手にする。そして、はあ、と大きく息を吐いた。目はゆるやかに開かれ、光たちはテイルモンが毅然とした態度でぴしゃりと過去と決別したことを悟った。

 

そう決心すると、今まで気重かった心が妙に軽くなった。テイルモンはすべてをぶん流したあとの涼やかさを想像した。

 

泣くだけ泣くと、すぐからりと気持ちが晴れて、やるしかないという思いにつきあたって気が軽くなったらしい。

 

「いくよ、光ちゃん」

 

「うん。頑張って、テイルモン」

 

「ああ、やろう」

 

「がんばろうね!」

 

2体は光に包まれた。

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