(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

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第38話

2体の究極体によるベリアルヴァンデモンへの怒涛の攻撃がはじまった。それを遠くから見上げているしかないジュンは無力さに唇を噛む。

 

「......結晶世界とコウモリのせいで光が届かないのね......。ナイトメアソルジャーズには強力な援護だわ......」

 

せめて移動手段があれば上空の結晶世界を蹴散らして、コウモリたちを殲滅して。まだあるはずの夕暮れの空によってベリアルヴァンデモンを大幅に弱体化させることができるはずなのだ。だが、ガーゴモンは自らを犠牲にしてまでウォーグレイモンとメタルガルルモンの強化を行ったのだ。その勇気を否定するような発言など独り言であろうがいえるはずもない。

 

「......ガーゴモン......」

 

ジュンは祈るしかない。

 

ガーゴモンがこの手段を用いたのは、明らかに未来の知識によるものだ。具体的にいえばデジタルワールドの冒険にあるカイザーと大輔達の最終戦において、ワームモンの命と引き換えにマグナモンが放った一撃が相手を完全に屠った描写。ベリアルヴァンデモンを倒しきるにはそれなりに2体の究極体を強化しなければならないと踏んだのだ。ただでさえ予言通りの場合はヴァンデモンは生き残り、3年後の悲劇を引き起こすのだから。悲劇の芽はつまなければならない。

 

ジュンがこの世界の本宮ジュンの精神としてダウンロードされたことをつきとめてから、あらゆる手段で以て時空を超えてきたガーゴモンが知らないはずがない。

 

ジュンはかつての自分が誰よりも頼りにしていたセキュリティシステムの救世主たちに命を託したガーゴモンの気持ちが痛いほどわかるのだ。

 

はるか未来においてウォーグレイモンとメタルガルルモンはウイルスバスターであり、電脳世界に緊急事態が発生したときに出現し、その異常をいち早く消滅させる宿命を負っている特別なデジモンたちなのだ。

 

デジタルワールドの根幹データがウィルスプログラムに浸食された際、その異常を駆逐するために現れるウィルスバスターであり、その異常と対峙する。そして、必要あらばロイヤルナイツの一角オメガモンとして出現する。

 

もちろん、ロイヤルナイツが出来たのは太一たちのオメガモンというデジモンの存在と、合体による進化で超究極体が確立してからだ。姿形は同じでも生まれながらのオメガモンと選ばれし子供たちのオメガモンは完全なる別物。それでも、その基盤となるパートナーデジモンたちと選ばれし子供たちなのだ。それだけで希望である。

 

メタルガルルモンのコキュートスブレスがまわりを凍らせ、高圧縮された大気中のエネルギーを投げつけるガイアフォースがベリアルヴァンデモンに直撃する。そして衝撃デ砕け散った大きな氷柱がベリアルヴァンデモンの翼に深深と突き刺さり、ズタズタにしていく。

 

今度はエネルギー弾を凍らせてウォーグレイモンが放ち、寄生している魔獣を破壊する。すかさずメタルガルルモンが無数の弾丸でベリアルヴァンデモンのもう片方の魔獣を破壊する。

 

2体の連携と攻撃によりベリアルヴァンデモンはみるからにダメージをうけていた。

 

これで左右の肩にいたはずの「ソドム」と「ゴモラ」という名の生体砲が粉砕され、必殺技「パンデモニウムフレイム」を放つことはできなくなったはずだ。

 

「なのに、なんなの......あの余裕は」

 

ジュンは不安が消えない。ベリアルヴァンデモンの笑い声が響き渡る度に夜の闇は先刻よりいっそう深くなった。今はもうただ影と影が重なりつつ動いているに等しい。世界は真っ暗に静まり返っている。

 

だからグランドラクモンとベリアルヴァンデモンに戦いを挑む選ばれし子供たちのデジヴァイスや紋章、またはデジモンたちがより光り輝くのだ。それだけが望みだった。

 

刻一刻と照明もなく真っ暗闇で何も見えない世界が迫りつつある。自分がどこにいるかわからない墨のような闇に浸される。

 

「......これ、ベリアルヴァンデモンの必殺技じゃないの。キツいわね」

 

濃い闇の奥を見つめていると引き込まれそうになり、ジュンはパソコンを中心にはっている結界から出ないよう注意する。幻覚にさらされたらジュンはただの人間だからどうしようもない。きっと目を開けたが最後、その先に潜む闇は黄泉の国へ導く入り口のように力強い。のまれるわけにはいかなかった。

 

目を閉じてさえもそこは冷ややかな薄暗闇に包まれている。夜にしては明るすぎるし、昼にしては暗すぎる。その奇妙な薄暗闇に包まれるとき、ジュンはまっとうな方向と時間を見失ってしまいそうになるのだ。

 

「私の読みが甘かったのよ。巻き込みたくなくて大輔のことを遠ざけすぎた。サマーメモリーズの事件は、テリアモンたちが特別なんだと思い込んでた。そんなはずない、大丈夫、思い込みが大輔を危険に晒したのよ。こんなことなら初めから巻き込んでおけばよかった。ピンポイントで忘れてしまったから断定できなかった......大輔にも不思議な力があるなんて......」

 

淡い闇が風に吹かれる膜のように都市の上をさまよい流れていた。そして風がジュンに吹き付け、夕闇が足元からわずかに立ち込めてくる。暗闇の中で孤独な時間が静かに流れる。単色の闇ではなく、様々な絵の具をバターのように厚く塗り込めた暗闇がせまりくる。

 

「でも、だからって私は過去の失敗にばかり縋らないわ、それは私にとって敗北を意味するのよ。私に出来ることはまだありはずなんだ」

 

ジュンは目を開ける。パソコンがより一層光を放つ。太一のデジヴァイスからコピーしてジュンが好き勝手に改造しているこのプログラムたちは、今稼働しているデジヴァイスの機能を表示している。

 

前を睨みつける。

 

それは恐ろしいほどの完璧な暗闇だった。 何ひとつとして形のあるものを識別することができないのだ。自分自身の体さえ見えないのだ。そこに何があるという気配さえかんじられないのだ。そこにあるものは黒色の虚無だけだ。

 

 

真の暗闇の中では自分の存在が純粋に観念的なものに思えてくる。肉体が闇の中に溶解し、実体を持たないジュンという観念が空中に浮かびあがってくる。ジュンは肉体から解放されているが、新しい行き場所を与えられてはいない。ジュンはその虚無の宇宙を彷徨っている。悪夢と現実の奇妙な境界線を。

 

 

まるで深海の底におしこまれたみたいだった。濃密な闇が僕に奇妙な圧力を加えていた。沈黙がジュンの鼓膜を圧迫していた。

 

時間が経てば目が慣れるといった生半可な暗闇ではない。黒色の絵の具を幾重にも塗り重ねたような深く隙のなき闇を前にジュンはいうのだ。

 

「暗黒の勢力が封印しきれなかったのは平面の結界だったからよね。不十分だったのよ、結果論だけど」

 

キーボードをたたきだす。

 

しゃべりかけているのは冗談抜きで恐いからだ。まるで自分が丸裸にされたような気がする。嫌な気分だ。暗黒は暴力の粒子をジュンのまわりに漂わせている。それがうみへびのように音もなくするすると近寄ってくるのを見ることさえできないのだ。

 

救いようのない無力感がジュンを支配しようとしているにちがいない。暗黒の水がすっぽり包んで逃さないつもりなのだ。この種類の闇というやつらはどこまでもどこまでも続いている。地球の芯まで。飲まれたが最後浮上はできない。

 

そんな連想をしながら何度目かわからないエンターキーをおした。

 

「だから四角の結界を作らなければならなくなった。これで一応の決着を見たのよ。残骸たちが25年間選ばれし子供たちを苦しめるわけだけど」

 

今どれ位たったのかジュンはわからない。五秒かもしれないし、一分かもしれない。暗闇の中では時間がはっきり定まらない。揺れ動き、引き伸ばされ、凝縮する。それはどんな理屈も通じない根源的な恐怖だった。それは人間の遺伝子に刻みこまれ、太古の時代から営々と伝えられた恐怖だった。だからジュンは前を見る。パソコンは光っているから怖くはない。

 

ジュンは8人分のデジヴァイスの場所を把握する。

 

「......私もいるわね」

 

ジュンは立ち上がる。

 

目はなかなか暗闇に慣れなかった。あるところまでは見えるようになるのだが、そこから先にはどうしても進まない。デジヴァイス機能をかざせばほんの少しだけ明るくなる。あたりは暗くなりかけているが、目をこらせばまだ事物の輪郭を見分けることができる。暗がりには濃淡がある。奥にいくほど暗がりが濃くなっていく。ジュンは現在地を確認して、少しずつ移動を始めた。

 

「ひとつなら、これくらい」

 

暗い中で影のように飛びまわる闇は不思議に平面的だった。実体のない物質を鋭利な刃物でスライスした切口のようにも見える。奇妙な遠近感が闇を支配していた。巨大な夜の鳥がその翼を広げ、目の前にくっきりと立ちはだかる。

 

ジュンがたどり着いたのは結晶となりつつある壁だ。光を当てると浄化されてモニターが表示される。一般家庭。もしくは家電屋。あるいは学校か予備校、学習塾。パソコンを必要とする業務をもつ会社。お目当ての光景が見つかり、入ってみる。

 

「......やっぱりパソコンに出られるのね」

 

停電している事務所だった。ジュンはこっそりそのゲートを潜り、事務所に入る。無人のノートパソコンを起動して、まだ電源が生きているやつを拝借。ジュンのパソコンとケーブルを繋げる。デジヴァイスのデータから結界機能を転送する。そしていくつか確保した。

 

「ふたつならこれくらい」

 

地上の全てのものはまるで首をすくめるように闇の中で沈黙していた。海の底と錯覚しそうな深い闇をジュンは見つめている。じっと息を殺していると、闇がか細く震えているのが分った。闇の粒子が、怯えるように宙でぶつかり合っていた。結界から逃げていく。ジュンは確信をもった。

 

「みっつなら、これくらいか」

 

より深い暗黒が、いつも絶えない波動で刻々と周囲に迫って来るが、ジュンを避けるように通り過ぎていく。恐ろしいものが目の前にあるのに認識できない阻害効果はすさまじく強固になっていく。このなかであればジュンは正常に思考することができる。

 

暗闇に点ともされた光は、ジュンの空虚な心の中に点された光でもあった。光が闇に対してどれだけの照力を持っていたか、ジュンははじめて知った。光が全く消えても、少しの間は残像がジュンを導いてくれるのだ。

 

目印のようにおいてきたそれら。ジュンの行動範囲は明らかに拡大していた。

 

「これで、よっつめ」

 

ジュンは現在地を確認する。

 

「たしかに封印するには4つじゃ足りない。でも両断するなら平面でもいいわけよね」

 

ジュンはエンターキーを押した。用意周到に準備されたおかげで出現した結界が最大範囲で一番強固なものとして起動する。当然ながら円を半分にしたような形となる。

 

その瞬間に、ベリアルヴァンデモンたちの絶叫が響き渡った。

 

「できるものなら突破してみなさいよ。先代のパートナーデジモンたちがずっとアポカリモンを封印してきた結界をもとに生成されたデジヴァイスの結界をね」

 

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