(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー) 作:アズマケイ
キング・オブ・ザ・バンパイア
呪詛が選ばれし子供たちに降りかかる。なんらかのデバフがかかったようで、グランドラクモンは下半身が決壊により吹き飛んだにもかかわらずピンピンしていた。暗黒の風が周りにふきすさぶ。
「デストロイキャノン!」
両足に存在する巨大な狼の頭から黒いエネルギー体が発射される。追尾機能があるようで、逃げ回るアトラーカブテリモンとガルダモンに直撃した。
アイオブザゴーゴンの重ねがけにより通常の半分以下の防御力と化していた彼らはあっけなく吹き飛ばされた。球体に飲み込まれた箇所からまたたくまにエネルギーが奪われていく。真下の巨大な結界により補給元をたたれたグランドラクモンは、戦いながら選ばれし子供たちからエネルギーを調達することを選んだようである。
グランドラクモンの失われたはずの翼や蹄がみるみるうちに回復してしまう。それとひきかえにアトラーカブテリモンとガルダモンは光を奪われてしまう。
結晶世界に覆われたビル群に直撃した彼らは退化して、バードラモンとカブテリモンに戻ってしまう。あわててリリモンが回復に走るが巨大な球体がまた発射される。
「ナイトメア!」
それをズドモンのトールハンマーがブーメランのように飛んできて打ち返した。球体は起動を変えて近くの道路に着弾する。トールハンマーを手にしたズドモンは仲間たちがなんとか戦闘態勢が整うのを待つべくグランドラクモンに単身挑みかかる。リリモンはその隙を狙ってバードラモンたちの回復を急ぐのだった。
「サブ Dチャージフィンブル」
トールハンマーがグランドラクモンめがけて衝撃波を飛ばしていく。拡散した波動がグランドラクモンの翼や蹄を八つ裂きにする。そして相手の耐久力を奪いながらダメージを与える。ズドモンの耐久力がさらに上昇した。
「ズドモン大丈夫?」
バードラモンたちが加勢にやってくる。リリモンがズドモンに回復魔法をかけた。
「ははは、随分と粘るじゃねえか、選ばれし子供たちよぉ。いつまで持つかな?」
グランドラクモンの高笑いが響いている。たしかにそうだった。明らかにグランドラクモンにじりじりと追い詰められている。完全体と究極体の違いがたしかに存在していた。1対4である。数では勝っているというのに。グランドラクモンに有利な結界が技の威力をたかめ、防御力をたかめ、回復力すら上昇させているようだった。
せめて、せめてこの結界さえ破壊することが出来たなら。恨めしげに誰もがコウモリで覆い尽くされていた空を見ていた。
そのとき。
暗闇の隙間からあまく光が差してきた。結晶世界がその光を反射していくことで薄明かりを起こしている。やがてそれはコウモリに直撃してコウモリが蒸発していく。結界の天井からコウモリがぼたぼたと落ちてくる。淡い木漏れ日のような琥珀色の光が広がっていく。
「ゆうやけ......」
「きれいだね......」
「うん......」
メタルガルルモンとウォーグレイモンを進化させることにエネルギーを費やしたパタモンとテイルモンがぐったりとしている傍らでタケルはうなずいた。
ブラインドの細いたくさんの隙間から明るい陽が縞のように顔の上に落ちてくるように、まっすぐに日が差し込んできた。光は何本かの太い柱となって直立し、その中で細かな光の粒子が舞っているのが見えた。
その光の柱は刃物で切り取られたようにくっきりと鋭角的で、激しさを結晶世界に送り込んでいた。光のない部分は暗く冷やかだった。そのさまあまりにも対照的だった。まるで海底にいるみたいだな、とタケルは思った。結界に守られている2人はまるで水族館を見ているみたいだった。
差し込んだ光の柱は均一で揺らがない。その中の空気が微かに揺れているだけ。まっすぐ差し込む光の柱が差し込んで、ほんの少しだけ歪んだ図形を描いた。日差しをもろに受ける。地下倉のなかに夕暮は微細な霧のようにしのびこんでくる。
晴れたゆうやけの光の反射が、液体のように、みずみずしい閑寂の空気を湛えはじめる。
「あ......」
結界が消え始めた。ゆるやかに結晶世界も消えていく。
いよいよ遮るものがなくなった光は、光が丘をパツと明るく照らした。赤く焼けたような光だった。
黄昏の陽が染みのようにあたっていく。夏のゆうやけが洪水のように満ちあふれていき、元の世界に戻っていくのがわかる。暗闇が徐々に薄らぎ、夕暮れの気配があたりに漂った。最後の日差しが光が丘を、無音のうちにこっそり移ろっていった。
光が線となってこぼれ出した。「希望」というものをもし絵に描くのなら、こんなふうになるのではないかと思われるほど、光はまっすぐにつきぬけていった。
ルーベンスの絵のように差しこんだ日の光が、くっきりと明と暗の境界線を引いている。 夕陽が途切れ始めた雲を不思議な色あいに変え、その照り返しが光が丘の中を同じ色に染めていった。 何も遮るものが無いので、赤い赤い夕方の空の光りが、一所に、洪水のように眩しく流れ込んでいる。
「光が......」
「太一たち、やったのね!」
「よし、これで結界とコウモリがなくなったぞ!」
選ばれし子供たちの士気が上がる。彼らは一斉に否応なく弱体化を強いられることになったグランドラクモンを見つめた。
「......ヴァンデモンさま、負けちまったのか」
グランドラクモンは残念そうにつぶやいた。
「あーあ、あわよくば領土が増やせるんじゃねーかと思ったが、なかなかうまくいかねーなあ」
「なんだって?」
「逃げる気!?そうはいかないわよ、大輔くんを離しなさい!」
「デジタルワールドに行こうっていうの?そうはいかないんだから!」
「ゲンナイさん、グランドラクモンが!」
「成熟期にしかなれねーくせにギャーギャーうるせえな。外野は黙ってろよ。成長期にまで戻したらいくら選ばれし子供だってただではすまねーだろ」
グランドラクモンが不敵に笑うと大きく手を広げた。
「デストロイキャノン!」
次の刹那、銃声のような鋭いみぞれの音がした。跳ねるような激しい音だ。黒い粒が周囲に乾ききった音を立てる。いきなりの衝撃に空たちは思わず上を見る。いきなりふってきた黒い粒により道はとろとろ溶けていた。
「あれは......」
夕焼け空の向こう側に空たちは逆さまのデジタルワールドをみた。ガラスの固まりのような黒い固まりが次々と吹き出しては、飛び散るのがみえる。息を飲むようなきらめきだ。逆さまのデジタルワールドから熱風と灼熱の溶岩が凶器となって空から迫ってくる。
熔岩が怒涛のように天高く噴き上げ、こちらに落ちてくるではないか。どこかの山が噴火でもしたのだろうか。真っ白な煙を噴き上げる火山の頂上は望めず、花キャベツに似た噴煙をむくむくと持ち上げているのがかろうじてみえるだけだ。
山のふもとの辺りはごつごつとした黒褐色の溶岩に覆われている。火口から流れ出た溶岩流は、山肌の谷間をぬってこちらに近づいてくるような気さえしてくるのは迫力のせいだろうか。白い噴煙と水蒸気を吹き上がる山が黒褐色の溶岩に覆われて雄々しくみえた。
夜空に真赤な溶岩をほとばしらせる火口は、黒い輪郭を闇の中に溶かして、宇宙の始源に起こったビッグバンを思わせる。
巨大なふいごを吹くような、噴火口の唸りだけが聴える。音は強くも弱くもならず、のそのそしていると、ハタとその唸りが止んで、山じゅう爆発でもしそうな恐怖を選ばれし子供たちにあたえた。
噴火口は、頂上の横穴のようなところにあった。灼熱した硫黄が、燃え立つラバとなってそこから流れ出している。その焔色の周囲に、冷却した部分が、世にも鮮やかな黄色の鐘乳石のように凝固している。
突然すさまじい音が響いてきた。岩の崩れるような音を立てながら、真っ黒い雲の塊がこちらに向かって次々と押し寄せてきたのだ。雷雲を引き連れている。雲のそこここで稲妻がひらめき、雲の隙間を紫に染めていく。
「火山の噴煙だ!こっちへ流れてくるぞ!」
丈の叫びにたまらず選ばれし子供たちはデジヴァイスの結界を発動した。ここにいるのは4人。4人分の結界がはられる。
「......おいおい、そこまで入れ込むのかよ、マジで?」
グランドラクモンは火山をみてつぶやいた。
問答無用とばかりに頭上からばらばらと音を立てて小石のようなものが降りかかってきた。雨ではない。雹だ。大粒の氷が、弾丸のように雲から落ちてきて、グランドラクモンめがけて落ちてくる。そこに頭上から響く雷鳴が重なる。氷の粒は、どんどん肥大し、拳大、ボーリングの玉、パラボラアンテナ、と規模を拡大していく。いずれも薄黒い色をしていた。やがて氷がではなく本物の岩がとんでくる。
「時間切れか......さすがに喧嘩を売る気はないんで引っ込みますよっと」
グランドラクモンが光につつまれる。そこにはサングルゥモンがいた。
「はいはい、返しますって」
サングルゥモンめがけて火山弾が降り注ぐ。サングルゥモンはたまらず移動すると大輔を近くのベンチに寝かせてそのまま自身を分割し、デジタルゲートをくぐってネットワークのどこかに逃げてしまった。デジタルワールドに帰ったわけではないらしい。すさまじい轟音ばかりがひびいていた。
空たちが辺りを見渡したのは、また日が差してきたころだ。さっきまで結晶世界だったはずの周囲は一面薄黒い雹の粒、あるいは火山弾でおおわれている。
「な、なんだったの......?」
空は呆然としながらも大輔のところに向かう。どうやら気を失っているだけのようだ。ホッとした空はみんなのところに向かう。
「大輔君よかった、無事で」
一安心である。結晶世界が緩やかに元の世界に戻ろうとしているのがわかったからだ。ただ、正体不明の逆さまな火山を丈たちは見上げる。
「なんだったんだろうな、さっきのサングルゥモン」
「火山に向かって喋りかけてたね」
「なにかあるのかしら?」
「あ、わかった。デジモンなのよ」
「違うな。雹が黒いのは中に火山灰を含んでるからだ。火山は噴火の時に地面の中から大量の灰を吹き出すんだよ」
「えー」
「だいたいあれだけ大きなデジモンいるわけないじゃないか」
「でも、ミミさんのいうことも一理ありますよ。どうしてこんなにあっという間に煙が通り過ぎていったんでしょうね? 噴火してるなら、煙もずっと出てるような気がするんですけど」
光子郎の言葉に答えをくれたのはゲンナイさんだった。グランドラクモンとの熾烈な戦闘はゲンナイさんに指示をあおげるような状況ではなかったのである。
「よくがんばったのう、選ばれし子供たちよ!シェンウーモン様が敵の手に落ちる前によくぞヴァンデモンを倒してくれた!どうにか間に合ったわい!」
空たちは顔を見合わせるのだ。あの逆さまなデジタルワールドにうつっている火山がデジモンだって?
「じゃが時間が無い。お前さん達が旅立ってからデジタルワールドは8年がすぎておる。四聖獣さまたちの力ももはや限界じゃ。急ぐんじゃ、時は一刻を争う!」
8年!
知ってはいたがとんでもない時間が経過してしまっている。その四聖獣たちはよくわからないが味方らしい、しかもゲンナイさんが様付けするようなすごいデジモン。詳しくはこちらに来たら直ぐに教えてやるからとゲンナイさんが手招きしている。
聞けば太一たちもはやく来るようにとのこと。とりあえず光子郎は大輔のこともあるのでジュンに連絡を入れる。光とタケルを迎えにいっていた太一たちを捕まえて、ゲンナイの隠れ家に向かうことにしたのだった。