(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー) 作:アズマケイ
ジュンと大輔が選ばれし子供たちに案内される形でようやく訪れることが出来たファイル島は、思っていた以上に小さな島だった。回りをネットの海という文字通り架空の海に取り囲まれている架空の島である。
数ヶ月間漂流生活を余儀なくされた太一たちは嫌でも勝手知ったる庭状態である。彼らいわく、この小さな島に氷雪気候、熱帯雨林、サバナ気候、渓谷地帯と、様々な環境が凝縮されて存在しているのだ。ゲンナイさんがいうには、デジタルワールドにおけるすべてのエリアのコピペもとであり、デジモンの輪廻転生システムの根幹をなす始まりの街はここしかない。
進化の概念と非進化の概念が争いあった原始のデジタルワールドにおいて、先代の子供たちの最終決戦の地でもあったという。このファイル島さえ掌握してしまえば、コピペ元がないためにほかのエリアはすべて復興できなくなってしまうからだ。
デジモンワールドにおける時間の流れは1日は24時間で、1年は365日、つまり現実世界と同じはずなのだが、アポカリモンの影響でおかしくなっている。これからゆっくり軌道修正するらしい。
ちなみにネットワークの世界だからか、朝は4時~7時59分、昼は8時~15時59分、夕方は16時~19時59分、夜は20時~3時59分である。つまり、日食や月食など太陽や月の関係で起こるすべての事象は存在しないことになる。
「すごいね、お姉ちゃん!」
大輔は興奮気味にサファリパークと遊園地とキャンプ場とあらゆる遊び場がごちゃごちゃになった世界に目を輝かせている。
「そうね。初めて見るけど、これがいつものデジタルワールドなのね、きっと」
ジュンの言葉に選ばれし子供たちはこの世界にもたらした平和をしっかりと噛み締めるのだ。ゲンナイさんの隠れ家からデジタルワールドのあらゆるエリアに直接アクセスできるワープ機能がようやく復旧したのである。今、始まりの街にほど近い幼年期や成長期のデジモンばかりが生息しているトロピカルジャングルを散策中なのだ。
「これが平和なデジタルワールドなのかあ」
「全然デジモンたち襲ってこないのね」
「初めからデジヴァイスの結界機能を知っていたら、もっと安全に過ごせただろうにね」
「しかもワープ機能まであるなんて便利ねー」
「パソコンから出てくるとは思わなかったけどな」
「それだけ切羽詰まってたってことですね。大きな災害にあったら僕達の世界だってライフラインが壊滅するんだから似たようなものですよ」
光子郎のたとえが1番わかりやすい。パタモンはジュンの腕の中にすっぽりと収まったまま動かないコアラとアイアイの特徴を合わせたような黒い動物に話かける。
「ファスコモンはとばないの?羽あるのに」
ぱち、と片目だけあけたデジモンは首をふる。
「嬉しいお誘いなんですがね、パタモン。ワタクシは悪魔の化身とか言われる地域もあるみたいなのでね、あんまり目立ったことしない方がいいかと思うんですよ」
「えー、なんで?かわいいのに」
タケルは不思議そうにいう。
「タケルもそう思う?可愛いよね、ボタモンも可愛かったけど」
「ねー」
同い年ということで仲良くなったらしい大輔がうなずく。ほっといたら光とタケルがいるから、好きな女の子がとられそうな気がして嫌なのかもしれない。
ファスコモンは目をパチリと両方あけて周りを見る。遠くから選ばれし子供たちの様子をうかがっている野生のデジモンたちは飛び跳ねるとたちまち逃げ出してしまう。
「あっ」
ファスコモンはシレッとしたものだ。
「ワタクシ、ファスコモンはですね。ダークエリアという現実世界でいうあの世に広大に広がる黒い森エビルフォレストに生息している魔獣型デジモンなわけです。常に木の上で丸くなって寝ていることが多い個体ですから、そこまで構わなくてもいいんですよ」
「でも起きてるじゃん」
大輔はいいかえす。
「そりゃあジュンがようやく極上肉をくれるっていうんだから頑張って目を開けているだけですよ。害のないように見えますがれっきとした悪魔デジモンでしてね。気を許したとたんに木の上から飛び掛り襲われることもあるから、近づいちゃあいけませんよ」
必殺技は、その眠そうな瞳から発する睡眠波動『エビルスノア』と麻痺毒が含まれる鋭い爪『ユーカリクロー』と自己申告している。だがガルフモン、メフィスモン、ガーゴモンというジュンが把握しているだけで複数の姿をしていた相方がどれだけの技を継承して転生したのかわからない。デジモンは永遠に転生しながら強くなり、進化経路を開拓しながら生きていく生命体だ。選ばれし子供のパートナーになったとはいえ、戦いは本能であり生きることだったファスコモンだ。ジュンは話半分である。
ただファスコモンがデジタルワールドのあの世で生息しているデジモンだからか、怖がるデジモンたちはたしかに多かった。
本人がいうには、データのもととなったアイアイはマダガスカルの地元民はなぜか地獄からきた悪魔だと信じている。たまに村に現れるとこれはもう誰かがもうすぐ死ぬという不吉な前兆だととらえられ、アイアイが細長い中指で誰かを指すと、それは「魂をとる相手に印をつけた」ものとみなされている。
これほど忌み嫌われるアイアイを地元民が目にしたとたん殺そうとするのも無理はない。アイアイはこうした嫌悪感と森林伐採によって絶滅の危機に瀕している。たまに人間が育てた農作物を食べることもあるので害獣として·悪魔の使い·不吉なものとして厄介視されているのだ。
「たしかにこわいかも?」
光はぽつりとつぶやく。いびつなコアラのような体つき。大きなコウモリのような耳。 ぼさぼさの体毛。ふさふさした尻尾。そしてネズミのような門歯。 悪魔と主張する黒い羽根。やる気のなさそうな顔だ。眠いのだ。
電子基板が露出している森林を歩きながらジュンは笑った。
「あのねえ、極上肉がそんな簡単に手に入るわけないじゃないのよ」
「入る入らないじゃない。手に入れるんでしょう?あなた達はこれから始まりの街を復興するためにデジモンたちに声をかけてまわるわけですから」
「まさかファームでも作れって?」
「世話してくれるんでしょう?サボったらグレますよワタクシ」
「シャレにならないから辞めてちょうだい」
ジュンがため息をつくと同時に大輔たちが声を上げる。はじまりの街についたのだ。
ファイル島の中心部、ムゲンマウンテンのふもとに位置する小さな街。ゲンナイさんいわく、これから選ばれし子供たちのデジモンワールドにおけるホームタウンとなる。
四聖獣たちや十二支が封印前だった効果は絶大であり、選ばれし子供のパートナーたちだけでなく味方デジモンたちも進化の恩恵に預かれたようだ。
「待っていたぞ、選ばれし子供たち」
そこには白いたてがみをもつレオモンがいた。どうやら生き残れた彼がはじまりの街の代表をするらしい。
「かつてこの街は栄えていたんだ。かつてのようにデジモンたちが集まり様々なデジモン達が島中からやってきて店を開くなどできるよう、勧誘や整備を手伝ってほしい」
おーと有志達が気合いをいれる。
あるものたちはグリーンジムを再建し始める。かつてあった屋外トレーニング施設だ。ここでデジモンたちは鍛えることができる。
あるものたちは、デジブリッジというはじまりの街東部にある橋を直し始めた。今はボロボロに壊れていて使用できない。出来上がればトロピカルジャングルへの行き来が可能となる。
選ばれし子供たちはデジモンの勧誘に行くという。迷わずの森ははじまりの街南部に広がる広大な森だが、その名の通り迷うことがないほどのかんたんな森である。デジタケをうる人を探すらしい。
あるいは竜の目の湖がかつて釣りの名所でありデジモンワールドでは島中で唯一釣りを楽しむことが出来るポイントだった。だからシードラモンにお願いしてできるようにするそうだ。
選ばれし子供たちはいったことはなかったのだが、竜の目の湖に住むシードラモンに連れて行ってもらうことができる場所にビートランドという闘技場がある。テントモンなどの昆虫系のデジモンが生息しており、闘技場では大会も開催されていたようで、久しぶりに再開する宣伝隊が結成された。
ギアサバンナでは闘技場再開の一報をうけて、メラモンでも大丈夫なトレーニング施設をつくるらしい。
ドリモゲモンたちは、ミハラシ山の内部を通り、迷わずの森とギアサバンナを直結するトンネルをつくるそうだ。
「さて、ジュン。極上肉を作ってくれるデジモンは誰か、覚えていますか?」
「本気なのね、ファスコモン」
ジュンは苦笑いである。
「ほっほっほ、ファスコモンたちにはゴミの山にいってもらおうかのう?ギアサバンナ北部に位置し、島中のゴミが集まって形成されるゴミの園じゃ。ゴミを好むスカモンたちが領地としており、ダストキングダムと命名されておる。スカモンたちのボス、スカモン大王が君臨しておるから、いってみるがよい」
「いやですよ、スカモンになってしまうじゃないですか。ゴミの山あたりでワタクシはザッソーモンたちを勧誘したいのですよ」
「えっ、肉って、ファスコモンて肉食べるのか?みんな魚や木の実食べてたのに」
「デジモンは普通肉食ですよ、いやですね。安上がりで済ませようとするテイマーみたいなことをいう」
「ちなみに何肉?」
「肉は肉ですよ。なんの肉かまでは存じ上げませんね」
選ばれし子供たちは顔を見合わせた。パートナーに聞いてみるが生まれた頃から平和じゃなかったデジタルワールド育ちの彼らはわからない。疑問符がとんでいく。
「肉畑か、いいな。だがザッソーモンに頼むにしても種がないぞ」
ケンタルモンがいう。肉畑?種?訳の分からない単語が飛び出してくる。大豆のことだろうか、畑の肉とかいうし、と光子郎はつぶやく。
「おや、フォルダ大陸で料理店をやっているベジーモンはこちらにおろしてはくださらないので?」
「げっ」
「あいつらに会うのはちょっと遠慮したいなあ......」
ヤマトと丈は嫌な顔をした。
「フォルダ大陸の復興は広すぎるからな、ゲンナイ様たちに任せてある。さすがに今は難しいだろう」
レオモンの言葉に彼らは胸を撫で下ろす。
「おや、では種はどこで?」
「この中でウィルス種はファスコモンだけのようじゃなあ。なら、闇貴族の館にいって探してきてくれんかのう」
「ああ、はい、わかりました」
「わかるの?」
「ヴァンデモン様の下についてから長いのでね」
「えっ、ヴァンデモンてあの館の主だったの?」
「おや、ご存知なかったのですか?」
「デビモンのかと思ってたぜ」
太一の言葉にファスコモンは口元をつり上げる。
「どうやら勝手に住み着いたようですね。ムゲンマウンテンに住んでいたくせに」
ヴァンデモンの頃の記憶もあるのか、ファスコモンは笑った。