(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

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大晦日編
第45話


クラヴィスエンジェモンはデジタルワールドに存在するあらゆるゲートを把握、管理している。そしてセキュリティシステムに所属するデジモンを派遣するとホメオスタシスもしくはエージェントから依頼があれば開閉する役目を負ったデジモンである。

 

現実世界でいう1946年からずっと存在しているクラヴィスエンジェモンからすれば、今は久しぶりに忙しかった。世界の危機が去った。喜ばしいことだ。アポカリモンによる世界の異常を正常にするためにあらゆるゲートを閉じているのだが、デジタルワールド内部のゲートは稼働しなければならない。しかもウィルス種が著しく減ったためにデジタルワールド全体が非常に不安定になっている上、守護デジモンが足りなさすぎていくつもの役目を兼任しなければならないくらいだ。

 

それなのに現実世界のネットワークの発達は加速していくばかりで選ばれし子供とパートナーデジモンの数も増え、そのたびに新たなるゲートが出現してしまう。1995年から二進法で増えつづけている彼らとデジタルワールドの接触にはまだ復興が終わっていないから控えたいところなのだがそうもいかない。

 

それは、双方の世界の拡大を意味するからだ。そのせいでより一層、デジタルワールドは不安定になってしまう。

 

デジタルワールドの不安定な現状を新たなる敵が狙ってくるのは想像できる。だからクラヴィスエンジェモンはより警戒を強めていた。

 

そんなある日のこと。

 

この建物の中では時間は奇妙な流れ方をしていた。旧式の柱時計と同じだ。誰かが気紛れにやってきては分銅を巻きあげる。分銅が上っている限り、時はコツコツと音を立てて流れる。しかし誰かが去り分銅が下りてしまうと時はそこで止まる。そして静止した時の塊りが床の上に色あせた生活の層を積み上げる。クラヴィスエンジェモンが来てからは完全に放置されているので1946年のある時から時間が止まっている。

 

セキュリティが認証コードを求める音声を発した。しばらくして承認のアラームと音声を鳴らす。そこには珍しいデジモンがいた。

 

「クロックモンではないか、どうした。デジタルワールドの時間を司る汝がわざわざこんな所まで足を運ぶとは。まさか、なにかあったのか?」

 

「安心してくれ、世界の危機は去ったからな。これは挨拶回りだ、最後のな」

 

「最後?」

 

アナログ式目覚まし時計型のロボットの上に人間のようなものが合体したような見た目のデジモンが笑った。コンピュータのタイマーを司る「時の守護者」と呼ばれるマシーン型デジモンだ。

 

クロックモンはコンピュータやネットワーク全ての“時間”と“空間”を管理しており、1900年~1999年の間であれば、自在に時間を進めたり戻したりすることができる。という非常に危険で恐ろしい能力を持っている。

 

常に中立の立場を保っており、ワクチン・ウィルス間の争いには関与せず、もしこの均衡がどちらかに傾いたとき、デジタルワールドは崩壊すると言われている。

 

必殺技は敵の体を流れる“時”を破壊し、再起不能にする『クロノブレーカー』。

 

「私が時間を管理しているのは知っているだろう?知ってのとおり、デジタルワールドは1999年を最後に時間の区切りがある。次はきっと2999年だ」

 

「そういえば現実世界は1999年の12月31日か」

 

「そう、その通り。だから私はもうすぐお役御免てわけだ」

 

「後任は?」

 

「そうピリピリすんなよ、ちゃんといるからさ。これ以上クラヴィスエンジェモンに兼任はさせねえって。私は私でデバック空間たる過去世界を管理する次の仕事があるわけだからな」

 

「そういえばそうか、今回はデジタルワールドの輪廻転生システムまで致命的な損傷を受けたのだから」

 

「私がいなかったら存亡の危機だったわけだ」

 

「ホメオスタシスは原始デジタルワールド誕生時点でのサーバでははないからな」

 

クラヴィスエンジェモンはうなずいた。

 

「こいつが新しい私の職場に繋がるゲートのコードだ。大切に扱ってくれ」

 

「了解した」

 

クラヴィスエンジェモンは新たなるゲートの鍵となるデータを受け取り、鍵型の武器の中にしまった。

 

「後任はなんというデジモンだ?」

 

「クロックモンだ。21世紀を操る違いはあるがな」

 

「またか」

 

クロックモンは笑った。

 

「時間を操るデジモンはいくつもあっていいものじゃないからな」

 

基本的にデジタルワールドは概念として時間を直線として捉えている。長いまっすぐな棒に刻み目をつけるみたいにだ。こっちが前の未来で、こっちが後ろの過去で、今はこのポイントにいる、みたいに。実際には時間は直線じゃない。どんなかっこうもしていない。それはあらゆる意味においてかたちを持たないものだ。

 

でもデジタルワールドはネットワークに存在する人間の営みがもたらした知識が、かたちのないものを頭に思い浮かべるためにデータとして残したものから生まれる。

 

便宜的に時間を直線として認識する。時間を永遠に続く一直線として捉え、そのような基本的認識のもとに行動をしてきた。そしてこれまでのところ、そうすることにとくに不都合や矛盾は見いだせなかった。だから経験則としてそれは正しいはずだと考えている。

 

根幹を揺るがす能力は少ない方がいいのだ。

 

あるときには時間は耐えがたいほどゆっくりと思わせぶりに流れ、そしてあるときにはいくつもの過程が一気に跳び越えられてしまう体感時間と実際の時間があることはわかっていても、前者を採用する訳にはいかない。

 

なにせ時間は空間と共に人間の認識の基礎を成すもの。人間が平等に与えられると思いこんでいるもの。人間が正確に把握できていると安心しているもの。人生の充実と比例して進みが速くなる。退屈と比例して進みが遅くなり、授業中には、止まっていると錯覚を受けることもある。それは気の所為だという態度なのだ。

 

「よりあつまって形を作り、捻れて絡まって、時には戻って、途切れ、またつながる。それが時間だ。いわば川の流れだな。石にぶつかって分かれ、他と混じり、また合流し、全体としてはひとつに繋がったもの。

万物は大いなる流れの中にある」

 

クロックモンはいうのだ。

 

「私以外に私的な事情で世界に干渉しようとせずに仕事が出来るやつがいるとは思えないからな」

 

「たしかに。これから人間と関わるデジモンが増えてくる。クロックモンのような存在は必要だ」

 

クラヴィスエンジェモンはうなずいた。

 

目が覚めたとき、世界はいつだって無事に続いていて、ものごとは前に向かって動き出していなくてはならないのだ。前にいるすべての生き物を片端から礫き殺していく、インド神話の巨大な車のように。

 

時間は定められた速度で前に進んでいる。それは間違いないところだ。しかし特定の部位を取り上げてみれば、それは不均一になる可能性を持っている。

 

月は最後に見たときから、地球の自転にあわせて位置を相応に変えているものの、まだ視界の中に留まっている。

 

気づかないようにしないと上手くいかないこともあるのだ、なにごとも。

 

そこまで考えた時点で、ふとクラヴィスエンジェモンは時計に目を向けた。1946年、ENIACというスーパーコンピュータがアメリカのフィラデルフィアで動いた瞬間から止まったままの時計をだ。これが動く時は来るのだろうかとふと思う。

 

「む?」

 

クロックモンが顔を上げた。

 

「どうした?」

 

クラヴィスエンジェモンが問いかけた。

 

「今、時計が動いたような」

 

「そんな馬鹿な。デジタルワールドができた瞬間から動きを止めた時計だぞ?」

 

「だがしかし、たしかに秒針が......」

 

クロックモンが指さす先には確かに動いている時計があった。彼らは戦慄した。確かに動いているのだ、時計が。逆向きに。秒針も短針も長針も全てが時間に逆らい逆向きに動き出したのだ。

 

「まずい、なにかあったのか!?」

 

クラヴィスエンジェモンは慌てた。ホメオスタシスかエージェントたちに事情を説明しようとすぐさまゲートを開き、クロックモンと共に姿を消す。

 

誰もいなくなった異空間で時計だけが動き続けている。

 

「2000年問題?」

 

はるばるゲンナイの隠れ家までやってきたクラヴィスエンジェモンとクロックモンにゲンナイさんは丁重にもてなしながらうなずいた。

 

「なにかしらの問題が起こるとは思っておったが、まさかあの時計が動くとはのう......。一応デジタルワールドの異常は確認してみるから、各ゲートの調査を頼む」

 

これでもエージェント総動員で対策はしたんじゃがと頭が痛そうだ。

 

今、現実世界において、西暦(グレゴリオ暦)が2000年になるとコンピュータが誤作動する可能性があるとされた問題が強く警戒されているらしい。

 

Y2K問題、ミレニアム・バグとも呼ばれるそれは、西暦2000年であることをコンピュータが正常に認識できなくなるという問題だ。

 

現在、現実世界のコンピュータシステムの内部では、日付を扱う際に西暦の下2桁だけを表示して、上位2桁を省略している。古い電算システムを構築するのに用いられた古いプログラミング言語では、2000年が「00年」となるので、これを「1900年」と見なしてしまうのだ。

 

「デジタルワールドは1946年に生まれたENIACというスーパーコンピュータが全ての始まりじゃ。当然影響を受ける。思わぬ所での機能停止や誤作動の危険が起こり得るとホメオスタシス様から指摘されたので、ワシらは対策をしとったのじゃよ」

 

ゲンナイさんの周りには様々なモニターが表示されている。

 

「今のところ問題は無いようじゃが......」

 

ゲンナイさんがいう具体的なバグは以下の通りだ。発電、送電機能の停止や誤作動とそれに伴う停電、医療関連機器の機能停止、水道水の供給停止。鉄道、航空管制など交通機能の停止弾道ミサイルなどの誤発射。2000年に突入するタイミングに合わせて、Y2K問題にかこつけて故意にミサイルを発射する国家が出るのではという懸念もある。他にも銀行、株式市場など金融関連の機能停止、通信機能の停止もある。

 

「もし新たなる脅威が現れるとしたら、今、もしくは来年の3月じゃな。コンピュータプログラムの訂正が世界規模で行われているのだから。この修正作業に費用と期間が取られてしまい、大きな打撃となるじゃろう」

 

「何故もっと早く言ってくれなかったのです、ゲンナイさま」

 

「そうですよ」

 

「この問題解決のために四聖獣様や十二支様、セキュリティシステム所属のデジモンたちも総動員じゃからのう。その余波をもろに食らっておるお前さん達に説明する時間もおしくてな......。デジタルワールドが閉鎖されてからろくに寝ておらんわ」

 

2000年問題は、ゲンナイさん曰く、発生時期が明確であり、責任の所在が予め明確である。だから連鎖による影響を防ぐため相互監視がうまく働いた。誰もが加害者となることを防ぐ必要があり、同時に被害者とならないよう対策を求められたなどの要素が混乱回避への対策につながっていて、あとから説明する気だったらしい。

 

「承知いたしました。ただちにゲートの不具合確認を行います」

 

「私も過去世界の確認を」

 

クラヴィスエンジェモンたちは一礼して去っていった。

 

デジタルワールド自体に異常はなかった。過去世界になぜかアクセスできないという異常以外は。

 

 

 

 

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