(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー) 作:アズマケイ
交通事故の通報をしたジュンは、かけつけた警察官に目撃者として申し出て名前と連絡先を伝えた。後日、警察から連絡が来た。悪質なひき逃げだと判断されたようだ。事情を説明するために警察に行ったジュンは、今回の証言が現場検証や捜査に目撃者の証言が必要と判断される場合は、警察から再度事情聴取を受ける可能性があると言われた。
警察の取調べに応じる義務はないが、一乗寺治くんはこちらが一方的に知っていた。すでに故人として語られる一乗寺賢の兄としての彼しかしらず、小中学校プログラミング大会におけるライバルである。2000年の事故死にいたるまでに幾度も今回のようなことがあるのならば、未然に防ぐことができる気がしたのだ。
ジュンは快く引き受けた。真っ先に応じたのは、時間が経過するほど取調べ時間が長くなりやすいので、証言をするつもりなら、なるべく早めに応じてあげる方がいいと父親に言われたからである。
ジュンは出版関係の仕事をしている父親に今回の事故について話したのだ。迅速な通報を促したり、ひき逃げ車のナンバーやストーカー行為を警察に証言したりしたことを褒めてもらえた。
「えっ、マスコミなの?」
名前こそ濁したが、いわゆるパパラッチの類いだろうと父親は暗に伝えた。車種やナンバー、色をジュンが話した時点で心当たりがあるようだ。メディア界隈では悪名だかい人なのかもしれない。
一乗寺兄弟は世間で盛り上がっているプログラミングという分野で入賞する天才兄弟だと言われているからだろうと苦い顔をした。著名なプログラマーな父親と天才プログラミング兄弟。しかも兄はジュニアユース候補にも名前が上がるくらい有名な少年であり、プログラミングだけでなく語学も堪能だったり、チェスがうまかったりするものだから天才である。
「しかも、高石さんとこと同じで光が丘テロ事件の被害者だからな......。2回も光が丘で起こった事件の最初の被害者で有名人の家族だ。注目が集まるのも無理ないな」
「もしかして、お父さんがプログラマーだから疑われてるとか?」
「そんなわけないだろう。もしそうならこの程度じゃすまないぞ。光が丘爆弾テロ事件や黒い霧事件の犯人が未だに捕まらないんだから。ただあることないこと書いてる人間もいるんだ」
「そっか.......難しいのね」
「そうだな.......高石さんは旦那さんがフジテレビ関係者だからうまくかわせたが、一乗寺さんとこはそうもいかないからな.......」
「それなら尚更ね。無理をして目撃者として申し出る必要はないけど、一乗寺君達を助けるためにも、事故の全容解明に協力してあげる方がいいに決まってるわ」
ジュンはうなずいた。それは決意の表れでもある。そんな話をしている後ろでさっきから電話の応対をしていた母親がジュンを呼んだ。
「ジュン、××先生から電話よ」
「え?」
「恵王の先生から連絡があってね、一乗寺くんのご両親からお礼をしたいって。連絡先聞いてもいいかですって」
「へー、すごいじゃないか」
「いいわねえ。うちに遊びに来てもらいなさいよ、ジュン。たしか賢くんは大輔と同い年でしょ?勉強教えてもらったらどうかしら」
「話が飛びすぎよ、お母さん」
事故にあった直後の一乗寺治くんを安心させるためにひと声掛けたのが効いたようだ。ジュンは電話にでた。ジュンは知らなかったのだが、恵王小学校のパソコン部とお台場中学校パソコン部の顧問の先生同士はなんだかんだで付き合いがあるらしい。ジュンは特に考えもせず一度会うことを了承した。受話器ごしのご両親はとても喜んでいるように思う。そして、入院している息子が直接会ってお礼を言いたがっているから、ぜひ来て欲しいといわれたジュンはわかったと返したのだった。
「あなたが本宮ジュンさんですか?」
教えてもらった部屋が空き部屋になっていたものだから、困ったジュンはナースステーションに向かった。その先で一乗寺治くんの入院している部屋を聞こうとしていたら、後ろから話しかけられて驚くのだ。疲れたような顔をしている品が良さそうな女性が立っていた。横の談話室で雑談していた家族がこちらに向かってくるのに気がついた。一乗寺賢くんがジュンのことを覚えていたようで、父親の袖を引いてジュンのことを教えてくれたようだ。
「あ、はい、はじめまして。お台場中学校2年、パソコン部部長の本宮ジュンです」
「私は一乗寺治の母でございます。この度は事故の目撃者として証言してくださってありがとうございました」
深深と女性は頭を下げる。ジュンは首をふる。
「一乗寺治の父です、こちらからもお礼を言わせてください。あなたのおかげで犯人が捕まったそうなんです。先日警察の方から連絡がありまして.......。本当にありがとうございました」
「捕まったんですか、犯人!よかったです」
「さいわい、治も今日ようやく個室から出ることができたんですよ。お伝えした部屋番号が違って申し訳ない」
「そうなんですか!よかったですね!」
ジュンは早速お土産を渡した。
「これ、みなさんで食べてください」
よくあるフルーツの盛り合わせだ。
「ありがとうございます」
「治はこの先の部屋にいますので」
「あ、はい。わかりました」
ジュンは一乗寺夫妻に連れられて病棟を歩く。突き当たりの右側の部屋だ。他に入院患者はいないようで実質1人部屋である。
「治、本宮さんが来てくれたぞ」
「入っていい?」
「どうぞ」
カーテンの向こうから少年の声が聞こえてくる。促されたジュンはカーテンが開かれた先に向かった。
「こんにちは」
「こんにちは、一乗寺です」
入院1ヶ月ということでまだギプスが取れそうにないことはすぐわかる。一乗寺治くんはジュンを見上げてかすかに笑った。
「本宮です。よかった、元気そうで」
「ほんとうにありがとう。本宮さんが通報してくれと掛け合ってくれたり、僕に話しかけてくれたりしたことは覚えているんだ」
「そっか。さっき聞いたんだけど。犯人捕まったらしいじゃない?これでプログラミングに安心して集中出来るわね」
傍らにおいてあるノートパソコンや難しそうな専門書の山に視線を向けると治は苦笑いした。
「この足だとサッカーもリハビリが長引きそうだからな、返ってよかった」
「これは困るわね、力作が出来そうじゃないの」
「事故のせいで入賞を逃したなんて言われる訳にはいかないからな」
「こっちとしては大歓迎だったんだけどね」
「事故の証言してくれたの、本宮さんだけだとしても?」
「えっ、嘘でしょ?あれだけ沢山人がいたのに?車に引かれた瞬間を見てないとかありえるの?」
「自分の記憶に自信がなくなるか、他の誰かが証言してくれると思いこんで行動できなくなるか、それとも厄介事に巻き込まれたくないか。クラブの連中は僕のために色々話してくれるけど、警察からしたらこっち側だからな。本宮さんみたいな第三者の視点は本当にありがたいんだ」
「あー.......なるほどね。私はね、お父さんがマスコミ側だからなおのこと許せなかったのよ。高石さんの担当者なの」
「高石奈津子?」
「あ、知ってるんだ?」
「光が丘テロ事件についてルポタージュに熱心な人だったからな、妙に印象に残ってる。僕らと同い年の子供が2人いるんだっていってた。で、うちにもよく来てたから覚えてるんだ。被害者だから知りたいって気持ちはよくわかる。高山さんはまだ良心的だから話す気にはなるけど他はそうじゃなかったからな」
ジュンはいきをはいた。
「大人としゃべってるみたいだわ。一乗寺くんてしっかりしてるのね」
「よく言われる。でも、本宮さんには言われたくないな」
ジュンはなにそれとボヤいたのだった。