(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー) 作:アズマケイ
それは突如として出現した。シーリアお台場5番街を通る大通りに出現したのは、お伽噺に出てくるようなお屋敷だった。不思議なことに行きかう人たちは誰も気付かず、普通に歩いていく、自転車でその施設を貫通して通り過ぎていく、車で突っ切っていく。目下に広がる奇妙な光景に絶句した太一は、なんだよこれ、と何度も目をこすった。
すぐ近くで地震が発生したというNNKの臨時ニュースが飛び込んできて、光の制止も振り切って外に飛び出した時に飛び込んできた光景である。まるで蜃気楼のように揺らめいている宮殿は、NNKのニュース越しにみた透明なデジモン達にも似ていた。デジモンの匂いがする、と反応したコロモンとあってはスルーするわけにもいかない。
原因不明の頻発する地震の震源は間違いなくあそこだと直感した太一は、迷うことなくコロモンと共にその屋敷に飛び込んだのである。想定外だったのは、パジャマ姿のまま、ろくにくつにも履き替えないで、スリッパ姿のまま光が跡を追ってきたことだった。
それは真っ暗で曲がりくねっていて、よじれたような通路があり、行き止まりや見せかけの扉がある複雑怪奇な場所だった。まるで秘密の地下室の集合体みたいな場所だった。豪華絢爛で荘厳な装飾に彩られた宮殿。
でもたちが悪い。恐ろしいまでに複雑な構造の建物である。一度でも迷い込んだ人間は二度と出さないと宣言されたような気さえしてくる。しっかりと迷子にならないように手を繋ぎながら先を進んだ太一たちは、コロモンがどんどんデジモンの匂いが近付いてくると警戒色を強めているので気を引き締めた。4階建ての建物である。中庭を囲むようにたくさんの部屋や秘密の廊下、真っ黒な回廊、いろんな形をした小部屋が配置されている。
曲がりくねった回廊、廊下、階段、はしら、とにかくごちゃごちゃに配置されていて、位置関係が完全にわからなくなってしまってから、じぶんと経ってしまったように思う。コロモンがいないのに、迷い込んだら正しいルートに向かうのは奇跡に近いだろう。地下室に突入した先で太一たちを待っていたのは、まさに迷宮である。
宮殿の中なんて比較にならないほど複雑な様相を呈している構造は、ますます太一たちの感覚を麻痺させた。3メートルもある大きなツボが所狭しと並べられていて、そこには体育座りをしたミイラが保管されているものだから、より一層不気味さを強調していた。
地下室は業火によって焼き尽くされた生々しい痕跡が残っている。一体誰がこんな遺跡を造ったのか、さすがに誰も知らない。
災害によるものなのか、天変地異によって放棄されたものなのか、侵略による荒廃なのかはわからない。ぞっとするほど沈黙に満ちた先で、太一たちは両刃の斧が保管されている小部屋に出た。
金色に輝く美しい斧だったが、刃先が意味深に黒づんでいる。さすがに手にする気にはなれず、コロモンを先頭に先を進んだのである。一気に場所が開けて、現れたのは闘技場だった。
そこには、一体のデジモンが待ち受けていた。太一はデジヴァイスを構える。コロモンは太一たちを守るためにいっそう前に進み出た。緑色の瞳が戦闘色である赤色に代わる。白い光がコロモンを包み込んだ。
天までとどろく真っ黒な角が鈍色に光る。ケバケバしい頭髪、隆々とした筋肉、大きく裂けた口から覗く獰猛な牙、そして黄金色の鼻輪。頑丈なボルトのまかれた革靴をしならせて、引きちぎられた鎖を振りかざしながら、首輪を付けている茶色の怪獣は聞いたこともない咆哮をあげた。強力なダークサイドパワーを持つ、獣人型デジモンだった。その頑丈な体は並みの攻撃ではびくともしないだろう巨体を誇っている。
腕と一体化した機械、それはケンタルモンと似ている、を振りかざす。チェーンソーを起動させた時のような、耳を塞ぎたくなるような大きな音が辺りに木霊して、そのアームが起動したことを知らせる。牛の頭をした巨人は殺意を地面に叩きつけた。アスファルトを木端微塵に粉砕し、豪快にひび割れを起こして抉るアーム。ずいぶんと距離があるというのに、遠方まで届く衝撃波が辺りを襲った。
まるで波紋のように砂ほこりが円形に舞う。宮殿地下深くにある闘技場だというのに、天井では路上駐車していた車が弾き飛ばされる豪快な音がした。街路樹がバキバキとへし折れる音がした。全面ガラス張りのビルからガラスがはじけ飛び、夏の装いをしているアーケードに飾ってあるすべてが無残な形に姿を変えてしまったとしか思えない音が鳴り響いている。
天井から降り注ぐ鋭利なガラスのナイフを薙ぎ払ってくれた相棒が、次々に飛んでくる二次被害の落下物を焼き尽くしてくれる。サンキュ、グレイモンと笑った太一に、ああ、とグレイモンは目を細めた。
「ぐれいもん?コロモンじゃないの?」
不思議そうに光はつぶやいた。
「はあ?なーにいってんだよ、光。こいつはグレイモンだろ?」
現実世界に帰還した時、コロモンを連れていることに何の疑問も抱かず、あっさりとその存在を受け入れてしまった光は、はじめからコロモンを知っていた。どうして?コロモンはコロモンでしょう?とこてんと首をかしげる意味深な発言の真意は、はぐらかされたままである。問いただすことができないまま、太一はここにいる。きっと怖かったのだ。
最愛の妹が選ばれし子供かもしれないという予感が脳裏をよぎっても、そうであってはいけないと無意識のうちに打ち消してしまう。それがどんな事態を招くのか、まだ太一は知らないのだ。太一がコロモンの世界にいたことを察知した光は、どこにもいかないよね?と袖を引く。それを握り返すことができないまま、太一はパジャマ姿の光を庇うように空を仰いだ。そして、くしゃくしゃに光の頭をなでる。光はなんで撫でられるのか分からない。
光にとってはコロモンだ。赤くて真ん丸な目をしていて、大きな口と小さくて尖ったピンク色の体をしている長い耳を持った楕円形の生き物も。成長して二足歩行ができるようになった、オレンジ色の小さな恐竜の姿をした、両手足に難く鋭い爪を持った爬虫類の生き物も。目の前にいる、頭の皮膚が硬化して甲虫のような殻に覆われたオレンジ色の恐竜も。
4年前、一夜にして光が丘に壊滅的な被害をもたらしてしまったとしても、光にとっては突然姿を消してしまったかけがえのない友達だったコロモン。コロモンだと名乗ったきり、光と会話をすることができなくなったから、光は幼年期以上のコロモン系列のデジモンの名前を知らない。どんな姿になっても光にとっては、コロモンだった。それが違うと太一に指摘された光は、ぐれいもんっていうのね、と言葉たらずでつぶやいた。
鼻先とこめかみに左右生えている特徴的な形の角は、4年前に出会ったグレイモンとシルエットが違う。それでも、どこか受け継がれているものを感じる。それに気付いた光は、あのときのグレイモンとは別の個体なのだと気付いていたけれど、うれしかった。
光のことを知らないコロモンだとしても、太一と光をあの時とおなじように守ってくれている気がしたから。今思えば光が丘テロ事件の時、大きな鳥の怪獣と戦ったグレイモンは今のように知性がある訳ではなく、本能の赴くままに大暴れしていた気がしてならない。もたらされた惨状は、今でも光の心に大きな影を落としている。
でも光は、今でもあの時のコロモンは今のように太一たちを守るために戦ってくれたのだと信じている。鋭い爪や巨大な角、全身凶器の体で太一と光に迫りくる危機を四散させ、攻撃的な赤色の瞳に闘志を燃やし、こちらまで暑くなりそうなほどの炎の塊を怪獣目掛けて連射している。太一の相棒は、灼熱の業火で牛頭鬼を燃やした。火炎弾が轟々と燃える。その刹那。
黒い影が太一たちの目の前を跳躍した。速い。ごおっという風を生み落して、さきほどまでいたはずの完全体のデジモンがいない。空を切ったグレイモンの攻撃は、かすりもしないまま瓦礫にぶつかって大炎上をもたらした。降ってくる。
シャンデリアの逆光を浴びて黒い影を落とす牛の怪物は、どしいん、と大きく石柱を揺らし、その壁に吸い付くように足場を作ると、再びこちらに降下してきたではないか。茶色い牛の怪物は轟音を響かせて、再びアームを振り上げた。あっという間である。グレイモンの渾身の一撃はかき消されてしまったばかりでなく、先ほどより威力が増した猛攻がグレイモンに襲い掛かる。
太一たちの盾となったことで身動きが取れないグレイモンは、ずるずるずると大きく後退を余儀なくされてしまった。ひきずった蹄の跡が道路に克明に刻まれる。その隙を逃すほどグレイモンは場数を踏んでいない。すかさずカウンター攻撃を叩き込む。今度は見事に必殺の一撃が命中した。やったか!?
「うそだろっ!?なんで効いてないんだよッ!」
完全に予想がはずれた太一は焦りを浮かべた。完全体と成熟期という世代には超えられない壁がある。具体的に言うと、成熟期10体分の存在が完全体なのである。もちろんそこまで詳細なことはさすがに太一は知らないが、1か月にもおよぶ漂流生活で培った経験則から、相手が相当にヤバい奴だと察した。東京をばっこする透明なデジモンは、ドリモゲモン、ヌメモン、ユキダルモン、メラモン、すべて成熟期だった。
6人の仲間たちをデジタルワールドに置き去りにしたまま自分だけ帰ってきてしまった罪悪感が、幻影を見せているのだと太一は勘違いしていた。光にも見えていると言われたことで、もしかして、と思った。今まで見たことがないデジモンが現れたことで、ようやく世界中に出現しているデジモン達が本物であると悟ったばかりである。太一が間違えるのも無理は無かった。
名前も知らない牛の怪物は、夜の繁華街にある原色のネオンのように、ギラギラと濁った輝きで太一たちを見据える。激しい悪寒を感じさせる、強烈で、不吉な輝きである。どんよりと光る輝きの標的が太一たちであると悟ったグレイモンは、太一の名前を叫んだ。
「言われなくても分かってるよっ!相手が完全体なら、こっちも同じ条件で戦うだけだッ!いくぞ、グレイモン!」
「ああ!」
紋章が反応する。デジヴァイスから放たれた光がタグに貫通し、紋章が解放されて、0と1のデータに改ざんされ、一気にグレイモンに向かって放たれた。グレイモンを構成しているデータが書き換えられる。シルエットが光の知っているグレイモンから全く違う怪獣に姿を変える。見上げるほどの巨体だった。
白い光によって現れたのは、身体の半分以上がサイボーグ化され、戦闘力を高めたグレイモンの完全体だった。完全に機械化された左腕は、牛の怪物よりも浸食度が大きい。幾つもの武器を搭載し、人工的につけられた6枚の羽が飛行能力を可能にしたグレイモンの改造体がそこにいた。叩きつけられた衝撃波もものともせずに、メタルグレイモンはハッチを開けてミサイルを発射する。
跳躍する。躍動する影を追尾弾が容赦なく追い詰める。一発被弾した。牛の怪物の絶叫がこだまする。すごい、と光はつぶやいた。真っ赤な血がぽたぽたと闘技場に降り注いだ。もちろん、相手もすぐに反撃を開始する。一瞬だけ動きが止った。空中で無防備な体制を晒している相手に、すかさずメタルグレイモンのトライデントアームが発射される。
相手を捕らえることさえできれば、石の壁に磔にし、一気に至近距離から砲弾を連射することができる。そのもくろみをさっちしたのか、相手は追尾弾とトライデントアームを左腕のアームから発射された砲撃で弾き飛ばした。白煙があがる。勢いを殺されてしまった片腕が所定の位置に戻ってくる。メタルグレイモンは舌打ちをした。
「めたるぐれいもん?グレイモンじゃないの?」
「進化したから、こいつはメタルグレイモンなんだよ。すっげえだろ、光。こいつがオレの相棒なんだぜ」
太一は光が今まで見たことがないような顔で笑った。まぶしそうに光は目を細める。これで世代的には互角である。問題は相手が真正面からぶつかってくるようなパワーファイターの風体をしているくせに、やたらと俊敏な身のこなしで翻弄してくることだろう。
技量、物量でいくら上回っても、被害を抑えるために正面からの戦闘を避けて、攻撃のあとにすぐ退避してを繰り返しているのだ。速度と上昇力、急降下性能は相手の方が上である。メタルグレイモンの攻撃は振り切って逃げられてしまう。
まるで選ばれし子供のパートナーは、普通のデジモンと違って進化した世代でいられる時間に制限があることを知っているかのように、長期戦に持ち込もうとしている。メタルグレイモンの体力の限界を待っている。累積的な疲労が目立ち始めたメタルグレイモンは、動きに無駄が増えてきた。想像以上に相手は完全体として日にちが長いらしく、体力の限界はいっこうに見い出せない。
それでも。大丈夫、お前ならやれる、と曇りない眼差しで太一はメタルグレイモンを見上げている。太一は観察していた。目標となる相手を見つけたら上空から一気に襲い掛かって攻撃を浴びせ、敵が来るより前に逃げていく戦法を相手は繰り返している。
これはもう相手とメタルグレイモンの得意な空戦に持ち込むかが勝敗の分かれ目になりそうだった。ヒット・アンド・アウェイ戦法に形式美を見い出しているのか、かたくなまでにその戦い方を守っている。わざわざそれにつきあってやる必要はない。太一は思いっきり声を張り上げた。
「上だっ!もっともっと高く飛ぶんだよ、メタルグレイモン!いっけえ!」
太一の真意に気付いたメタルグレイモンは、風を生み落して飛んだ。シャンデリアが爆発四散する。あたりは一気に真っ暗になった。そして、太一と光めがけて攻撃を仕掛けてくる相手に向かって、容赦なく弾道ミサイルを発射する音が響き渡った。
高高度で待ち受けていたメタルグレイモンの奇襲が、敵の襲来前にミサイルの軌道に沿って、すべての攻撃を相殺する。遠方からの見えない位置からミサイルが敵に打ち込まれたのだ。敵は目視による回避、高低差を生かした加速、先制攻撃がすべてだ。
しかし追尾機能を搭載しているミサイルがあれば、メタルグレイモンは目を閉じていても敵を被弾させることができる。どこから来るか分からない状況に持ち込めば、いくら相手でもミサイルを全て振り切ることはできないはずだ。みあげるほどの巨体はすべての攻撃を回避できるほど小さくない。
格好の的である。目視を前提にして死角をついた攻撃はいくらでも可能なのだ。決着はついた。最後に残ったのは、名前も知らない完全体の悲鳴である。なにかが砕け散る音がした。しばらくして、メタルグレイモンの体が0と1に分解され、みるみる小さくなって太一たちのところに落ちてくる。アグモンに戻ってしまったのだ。
「おかえり、アグモン」
「お腹すいたよ、太一ぃ」
「はああ?さっきオムライス食ったばっかじゃねーかあ」
「だってえ」
はあ、とため息をついた太一に、ちょいちょいと光が袖を引く。
「どうした?光」
「お兄ちゃん、見て」
「あ、なんだこれ、どんどん消えてくぞ」
「ほんとだぁ、蜃気楼みたいに消えちゃった」
気付けばシーリアお台場5番街前の道路に立っている太一たちがいた。クラクションを鳴らされて、大慌てで雑踏が戻ってきた街路樹にみんなで避難する。もしかして、全部全部幻だったんだろうか、と首をかしげる太一である。きょろきょろと光は辺りを見渡した。
みなれた光景だ。どこも壊れてないし、どこも変わったところは無い。あれだけ大暴れしたんだから、大惨事になってもおかしくないのに。まばたきしている光の隣で、アグモンがすんすんと鼻を鳴らした。
「今度はなんだよ、アグモン」
「あっち、あっちからデジモンの匂いがするよ、太一!」
「はああっ!?またかよ、おいっ!なんだよ、それー。お前アグモンに戻っちゃったじゃないか、戦えるのかよ、大丈夫か?」
「ぐ、グレイモンならなんとか」
「えええっ、もし完全体だったらどうすんだよっ」
「どうしようもないよーっ、アグモンに戻っちゃったってことは、アイツ、幻じゃなかったってことでしょ?」
「消えちゃったけどな」
「どうするの、お兄ちゃん」
「どうもこうもねえだろ、行くしかないっ!」
ホントは光に家に帰れと言いたいところなのだが、光はつないだ手を一向に放そうとしない。さすがに振り払えるほど冷酷になれない太一は、がしがしと頭を掻いて、しっかたねえなあ、とそのままアグモンのあとを追いかけはじめたのだった。
真正面にある児童館を横切り、さっきまであった謎の宮殿があった場所の近くにある裏路地に入る。ぴこぴこぴこぴこ、とデジヴァイスが振動しながら音を出し始めた。
ディスプレイが真っ白に発光し、NEWの表示のあとで画面が切り替わる。アラームが鳴りやんだかわりに、太一たちが今いる場所が簡素な地図になって表示された。俯瞰図である。建物の隙間にある裏路地の先に点滅する光がある。なんだこれ、と太一は食い入るようにデジヴァイスを見つめた。
「もしかしてデジモンを探知する機能でも追加されたのか?」
「でもさあ、さっきそんな機能なかったよね?」
「そりゃあ、さっきのはやっぱデビモンの時みたいな幻だったんだよ」
「僕は表示されないよ?」
「言われてみればそうだなあ」
「なにかあるの?」
「それは確かだな。デジヴァイスに表示されるってことは、悪いもんじゃあないはずだ。行ってみようぜ」
「デジモンがいるかもしれないから注意しないとダメだよ」
「わーかってるって。頼りにしてるぜ、アグモン」
もー、調子いいんだから、太一はぁ、とアグモンは呆れたように肩をすくめた。
「どういうことか説明してもらおうじゃない」
ぴたりと太一たちの足取りが止った。みんな顔を見合わせる。瞬き数回、裏路地の先に誰かいるようだ。デジヴァイスの点滅は感覚が短くなってきていて、ますます光が大きくなっている。
どうやらその誰か、もしくはそこにいるデジモンが関係あるようだ。心なし足音を忍ばせながら太一たちは先を進んでいった。聞き耳を立てるのはご愛嬌だ。この先にいるのが敵か味方かわからない。太一たちのことは全く気付いていない声の主は、誰かに詰め寄っている。
「なんでアンタがここにいるわけ?おかしいじゃないの、普通に考えて」
どんどん声がクリアになっていく。太一と光は何度か顔を見合わせた。どこかで聞いたことがある声だったからだ。不思議そうに顔を上げるアグモンに首を振って二人は先に進んでいく。
「なんでダークエリアが生息域のアンタが平然とこの世界にいるのよ。正直にいいなさい、どうやってきたわけ?ワームホールがあったから?デジタルゲートが不安定で飛ばされてきたから?それとも、誰かに召喚されたから?答えなさいよ。なんとか言ったらどうなわけ?ぶっちゃけ、あんたがここにいるってシャレにならないんだけど?」
仕事しろよ、セキュリティ、とぽんぽん飛び出す聞いたこともない単語のオンパレードについていけず、太一と光は疑問符が乱舞している。逆にアグモンの表情がどんどん驚きと困惑に染まっていくのが分かる。知ってるのか、と太一が問いかけるよりも、光が彼女のなまえを呼ぶ方が早かった。
「だ、大輔君のお姉さん」
「あー、そっか、どっかで聞いたことがあると思ったら、大輔の姉ちゃんだ!えーっと、そうだ、ジュンさんだっけ」
「だれだれ?太一のトモダチ?」
「ちがう、ちがう、オレのサッカー部の後輩に大輔ってやつがいるんだけどさ、そいつのお姉ちゃん。まー一応知りあいかな、オレもあんまよく知らねーし」
「ふうん、そうなんだ。でもなんでこんなところにいるんだろう?」
「しかもなんかパソコンに話しかけてるし」
「なんか話しかけづらいな、どうする?」
「おっかしいなあ、さっきまでデジモンの匂いがしてたのに、急に消えちゃったよ」
「まじで?逃げられたか、くっそ」
はあ、とため息をついた太一は、誰?誰かいるの?という声にぎょっとして顔を上げた。
「光ちゃん、光ちゃんじゃない。やっとみつけたわよ、捜したんだからね」
「えっ?!」
「書き置きも残さないで山田さんに内緒で家を飛び出しちゃダメじゃない。ほら、PHS貸してあげるから、今すぐ電話してあげて。山田さん、心配してたわよ。光ちゃんのお母さんたちに連絡するっていってたから、早く安心させてあげてよね」
「あ、わ、わすれてた……。ありがとうございます」
「あー、そういやあ、そんなことお母さんいってたような」
「鍵もかけないで飛び出すなんて不用心すぎるわよ、太一君」
「えっ、鍵かけないで出てきたのかよ、光!?」
「だ、だってお兄ちゃんとアグモンが…」
「あー、ごめん、ごめん。おれが悪かったよ、だから泣くなってば」
「あーあ、太一なかしたぁ」
「もとはといえばお前が急にいなくなるからだろ」
「それは言わないでよ」
「お前なあ。あーもう光、嘘泣きはわかってんだぞ、ジュンさんの後ろに隠れてんじゃねーよ。さっさとPHSで連絡しろよな」
「お兄ちゃんはどうするの?」
「どうってそりゃ」
「ねえ?」
「かえらなきゃ、だよなあ?」
「どうやって帰るのか教えてくれる?キャンプ場から2時間もかかるお台場にどうやって瞬間移動したのかの説明もかねてね。ついでにそこの怪獣のことも教えてくれない?悪いようにはしないから」
にっこりと笑ったジュンの一言に、太一は凍りついたのである。
デジモン紹介
ミノタルモン
初登場はデジタルモンスターver.Sデジモンテイマーズ。このときは完全体で登場したが、02では演出の都合上成熟期として登場した。そのため、あとから成熟期も完全体もいることがカードで追加された経緯を持つ。ホエーモンのように生息域で世代が違うデジモンだと思われる。
属性はウィルス。名前の由来は牛の頭と人間の体を持つミノタウロス。勢力はネイチャースピリッツ。種族は獣人型。強力なダークサイドパワーを持つ、【暗黒デジモン】。動きは速くないが、きわめて頑丈な皮膚を持つため、並の攻撃ではビクともしない。
この小説ではヒットアンドアウェイ戦法に美学を感じていて、巨体に似合わない俊敏な動きで相手を翻弄した。左腕には腕と一体化した“デモンアーム”をつけている。必殺技は左手の「デモンアーム」を地面につけ、大地震を巻き起こすダークサイドクエイク。遠くに居ても衝撃波が襲うぞ。