(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

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第55話

「と、いうわけでスーツェーモン様から紋章を、ゲンナイ様からタグをいただいたというわけです」

 

ポキュパモンから受け取ったジュンはマジマジとみつめる。

 

「なに、私から解析されたの?」

 

「さあ、どうでしょうね。ホメオスタシス様ではなく、スーツェーモン様からいただいたので」

 

「じゃあ愛情か純真?」

 

「司っている紋章はそうですね。どちらも違うようですが」

 

「そうよね。なにこれ」

 

紋章は安定を望む者によって解析された、8人の選ばれし子供達の「それぞれの心が示す、最もすばらしい個性」を元に作られたアイテムだ。

その中の「勇気」「友情」「愛情」「知識」「純真」「誠実」は精神的特質を現しており、「光」は進化や命を生み出すもの、「希望」はどんな暗闇の中でも光を失わないもののことを示している。

 

「タグ」と呼ばれるアイテムと組み合わせることで、安定した完全体以上の進化を可能にする。

 

しかしそれには刻まれた心の特質のある程度の成長が必要であり、未熟な心では働かない。それどころか心の特質に反した行動で扱うと、暗黒進化へと導かれてしまう。また進化以外にも、子供達を守る特殊な力を持っている。

 

元は安定を望む者に仕えるエージェントであるゲンナイ達が、パートナーデジモンのデジタマと デジヴァイスと共に管理していたが、ピエモンの襲撃に遭い奪われてしまった。その後経緯は不明だが、タグはデビモンが海底洞窟に隠しており、紋章はデジタルワールド中に散っていたことになる。

 

タグに入っているから安定して完全体、もしくは究極体にワープ進化できるということだろうか。大盤振る舞いである。

 

「そっか、これが私の紋章なんだ」

 

「うれしそうですね」

 

「そりゃそうでしょ。選ばれし子供もパートナーデジモンも紋章も私にとっては特別な言葉だし、存在だったもの」

 

「それはよかった」

 

「で、これが必要なほどまずいってことね。わかったわ。説得するにはずいぶん大袈裟だけど、まあねんにはねんよね」

 

気を取り直してジュンはゲンナイのかくれがに向かった。

 

そして。

 

「まって、まって、待ってよ。ずいぶんと沢山先客がいるみたいだけどゲンナイさん、一体なにがおこってるの?」

 

「なんじゃ、ジュン、知り合いかの?」

 

「知り合いもなにもこないだ会ったばっかりよ!一乗寺治くんはアタシとコンテストの上位を争うライバルなの!そして賢くんは弟で、そこの子はお見舞いに来てたお友達よね!?ゲンナイさん、さっきアタシを呼んだはずなのに、アタシがポキュパモン迎えに行ってる間になにがあったの!?」

 

「ほうほう、それはいい。知らない者同士よりはやりやすいじゃろう」

 

「だからなにが!」

 

一刻も早く時間を司るデジモンとデジタルゲートをあけるデジモンに協力してもらって、デジタルワールドの時間を遡り太一たちに罠だと知らせないといけない。なのに何を悠長なことを話しているのだと詰め寄るジュンに、ゲンナイさんは落ち着かんかとかえした。

 

「ジュンー!助けて!太一たちを助けて!みんな、みんな捕まっちゃったんだ!」

 

「アグモン!?どうしてアグモンがここに!?太一くんたちに何かあったの?」

 

抱きついてきたアグモンをよしよし宥めながらジュンはきいた。

 

 

 

その日はアグモンにとって世界で1番素敵な日になるはずだった。

 

4000年間幼年期だったアグモンが太一と冒険したのはたった3ヶ月だった。お別れをしてすでに4ヶ月、太一との日々よりお別れの日々の方が長くなってしまっていた。

 

「太一たちと新年を迎えてみないかのう?」

 

季節がないファイル島ではわからなかったが、現実世界は夏が終わり秋がすぎ冬が来ているという。人間たちは新年というやつを祝うらしい。色々と忙しいが実は新年をお祝いするために準備を進めていたのだとゲンナイさんはいった。守護デジモンとしてファイル島の復興にいそしんでいたアグモンたちは喜んだのだ。

 

待ち合わせ場所はあの時とおなじトロピカルジャングルの崖の上。逆さまの現実世界から冬服に変わっている太一たちが見えたとき、アグモンはうれしくて泣いてしまった。

 

あの時とおなじように流れ星のように落ちてきた太一たちに懐かしさを覚えながらアグモンは太一を迎えに行った。

 

「たいちー!」

 

「久しぶりー、アグモン!元気にしてたか?」

 

「うん!太一も元気そうでよかった。僕うれしいよ」

 

「へへ、お前に話したいことがいっぱいあるんだ!」

 

「なになに?」

 

太一は色んなことを教えてくれた。サッカー部のキャプテンになれたこと。担任の先生や顧問の先生、友達に夏休みが終わってからいい意味で変わったとよくいわれること。しっかりするようになったし、リーダーシップができた。ぜんぶぜんぶアグモンたちとのひと夏の冒険が教えてくれたことだと太一はいう。

 

「僕もね、太一に話したいこと沢山あるんだ!」

 

いざ話始めようとしたとき、異変は起こった。

 

「あれ、なんで服がかわってんだろう?」

 

冬服できたはいいけどトロピカルジャングルは暑いとコートを脱いだはずの太一はそれがないことに気づく。あれ、と見渡した手から手袋や青い服がみえて固まる。それは忘れもしないサマーキャンプのとき、あるいは3ヶ月もの大冒険できていた服だった。

 

「あれえ?なんか変だよ太一」

 

「なにがっ、て、あれっ、なんでコロモンに戻ってんだよ、アグモン!?」

 

「わかんない、わかんないけど、なんか変なんだ!」

 

「こうしちゃいられない、みんなんとこ行くぞ!」

 

「うん!」

 

いつものようにデジヴァイスを構えた太一だったが、気合いをいれるコロモンだったが、いつまでたってもデジヴァイスはうんともすんとも言わない。

 

「あっれー?壊れてんのか、こんな時に?」

 

「そんなはずないよ、太一!明らかに変だよ!だって!」

 

コロモンが叫び、促す先には。異変を感じたのか太一のところにかけてきた光だった。テイルモンはそのままだが、光があげたはずの笛がなぜか光の胸元でゆれている。

 

「お兄ちゃん、おかしいの!テイルモンが!」

 

「ああもう離せ!お前は一体だれだ!ここはどこだ!私はヴァンデモン様のところにはやく!」

 

「落ち着けってば、テイルモン!俺たちのこと忘れたのか?いきなりなんだよ、あん時みたいなこといって!」

 

「ねえねえ」

 

「今度はなんだよ、コロモン!」

 

「君の名前はなんていうの?僕はコロモン。きみのこと、ずっと待ってたんだ」

 

太一は青ざめた。

 

「コロモンまで何言ってんだよ、新年の一発芸にはまだ早いぜ!?」

 

「え?なんのはなし?」

 

「ま、まさか覚えてないのか?なんか今のお前、出会ったころみたいだぞ?なあ、コロモン、」

 

太一はがくがくコロモンを揺さぶったがコロモンは目を回すだけだ。

 

「俺は太一だよ、八神太一!お前のパートナーの!選ばれし子供の太一だよ!!」

 

「たいち?」

 

どうやら太一たちだけではないようだった。夏服に変わり、パートナーデジモンが出会ったころのように初めまして状態となってしまった選ばれし子供たちが次々とやってくる。

 

そして。

 

「あれは!」

 

真っ先に気づいたのはタケルだった。

 

「デビモン!」

 

高笑いがトロピカルジャングルに響きわたる。

 

「無様なものだな、選ばれし子供たちよ!どうだ?なにもできまい?1度敗北を知った以上、今度は負けはしない!進化する前に倒してやる!!」

 

ファイル島中の黒い歯車を取り込んだ巨大なデビモンが太一たちに遅いかかった。無数の黒い球体が太一たちを次々と襲ったのである。ひとり、またひとり、と捕まっていった。光がコケて太一は振り返ろうとしたがすでに魔の手は迫っていた。

 

太一はとっさにデジヴァイスのコマンドをうちこむ。結界が展開した。

 

「コロモン!これもってにげろ!」

 

「た、たいちはっ!?」

 

「いいからにげろ!逃げるんだ!お前だけが頼りだ、コロモン!みんなに知らせてくれっ!!」

 

「たいちいいいっ!」

 

太一は結界が展開したことでデビモンの攻撃を回避出来ることを確認すると、光を助け起こしてデビモンと対峙した。

 

「その先にデジタルゲートがあるはずだ!いけ!」

 

それがコロモンが聞いた最後の太一の言葉だった。デジタルゲートをくぐり抜けた瞬間にシャッターのように閉じてしまい、ゲンナイさんの隠れ家に逃げ込んだ。

 

「コロモン!?どうしたんじゃ、一体!」

 

「僕、は、ぼく......ぼく!」

 

太一との大冒険を忘れかけていたことに気づいたコロモンは、ゲンナイさんを見るなり泣き出してしまう。 なぜかアグモンに進化することができたことにも気づかないまま、デジヴァイスを抱きしめてアグモンは泣き崩れてしまったのだった。

 

「ジュンがポキュパモンを迎えにいっとる間にアグモンが飛び出してきたんじゃ。これはワシらの想定を遥かに超える緊急事態だとして、ホメオスタシス様から新たな選ばれし子供たちの呼び出しがあったというわけじゃ」

 

「ううう......」

 

「アグモン......」

 

デジヴァイスをはなそうとしないアグモンをみて、ジュンは事の深刻さを悟ったのだった。

 

 

 

 

 

ジュンは息を吐いた。

 

「待って、少しだけ時間を頂戴。落ち着かなきゃいけないのよね、アタシだけがこの中で2回目なんだから」

 

深呼吸を繰り返す。ジュンはやがて緩やかに目を開けた。

 

「......ええと、つまり私はここにいるみんなをデジタルワールドに連れて行ったらいいのね?」

 

ジュンはゲンナイさんに確認をとる。秋山遼、一乗寺賢、彼らが今回の冒険の新たな仲間で、一乗寺治がゲンナイさんと共にサポートしてくれるそうだ。

 

「そうじゃ。ポキュパモンはヴァンデモンだったころの記憶を引き継いでおるからのう、ファイル島のこと、フォルダ大陸のことは誰よりも詳しいはずじゃ」

 

「確かにそうですね。否定はしません」

 

「今回は時間を操作し、アクセスができたころのデジタルワールドに時間を戻してゲートを開くことになるじゃろう。選ばれし子供たちが来る前に問題を把握することが出来ればいいんじゃが」

 

「たしかにそうですね。こちらが先に問題を対処してしまえば問題ないわ」

 

ゲンナイさんとジュンの会話を聞いていたアグモンが不安そうな顔をする。

 

「太一たち、大丈夫かなあ」

 

ジュンは膝をおった。そしてアグモンを撫でる。

 

「そのために私たちがいくんじゃない、アグモン。頑張りましょう。太一くんはアグモンだけが頼りだっていってデジヴァイスを託したんだから。気持ちはよくわかるけど、頑張るしかないわ」

 

「うん......」

 

アグモンは落ち込んでいる。デジタルゲートの先で待ち受けていたのはベンジャミンと名乗るゲンナイさんの偽物。ゲンナイさんが調べたところ過去世界は8月の冒険がなかったことになっており、ダークマスターズが世界を再構築し、デビモンたちが復活し、それぞれの選ばれし子供たちは分断され、異世界に幽閉されてしまった。冒険がなかったことになったことでアグモンたちは究極体に進化できなくなり、紋章がフォルダ大陸にちりじりになってしまったというのだ。太一がアグモンを庇って、閉じる寸前のデジタルゲートに紋章とデジヴァイスを託したというのだから落ち込むのも無理はない。

 

「大丈夫よ、アグモン。ベンジャミンさんの目的はわからないけど、私たちはひとりじゃないんだから。ね?」

 

「うん、うん、そうだよね。ぼく頑張るよ」

 

アグモンを元気づけ、いつもの調子が戻って来たことをかんじたジュンは秋山遼たちのところに視線をなげた。

 

「そろそろ自己紹介しましょうか。私は本宮ジュン、お台場中学校2年の選ばれし子供よ。パートナーはそこのポキュパモン。今はファイル島の闇貴族の館で守護デジモンをしているわ。今回はナビゲートをつとめることになると思うからよろしくね」

 

「えっと、おれだけ知らないんだよな?おれは秋山遼。田町に住んでる小学校5年生なんだ。こちらこそよろしく」

 

「まさかジュンさんと一緒にこんなことに巻き込まれるなんて思わなかったけど、がんばります!僕は遼さんと同じ小学校に通う、2年生の一乗寺賢です。よろしくお願いします」

 

「僕は一乗寺治。遼のクラスメイトで賢の兄貴だ。よろしく。僕はまだ足が動かないし、パートナーデジモンてやつがまだ現れてないらしいからゲンナイさんの隠れ家からサポートすることになると思う。正直かなり事態はやばいと思うんだが、遼も賢も決めたらテコでも動かないだろうから付き合うよ。本宮さん、2人のこと頼んだよ」

 

「まかされたわ。それにしてもまさかこんな形で会うなんてね......」

 

「全くだ」

 

「でも心強いわ、よろしくね」

 

「ああ」

 

治とジュンの会話を横目に遼はふうんという顔をしたが、さすがに事態が事態だけに茶化すのはやめにしたようだ。だいたいの自己紹介がすんだころ、ワームモンやアグモンも軽く挨拶がおわった。

 

「お前さん達が頼りじゃ。どうか、囚われの身になっておる選ばれし子供たちとパートナーデジモンたちを助けてやってくれ。頼むぞい」

 

ゲンナイさんの言葉にジュンたちはうなずいたのだった。そして1999年8月1日のデジタルゲートがまた開かれた、はずだった。

 

 

明らかにおかしかった。目下に広がるのは地球によく似た世界ではなく、暗黒の世界だった。遼たちは絶句する。引き返そうとしたらデジタルゲートが閉じられてしまう。その瞬間にみんな悟るのだ。デジタルゲートが開けられないのは内側から書き換えられたのではなく、デジタルワールドのデジタルゲートそのものが存在しなかったからなのだと。

 

太一たちを罠に嵌めるためにわざとデジタルゲートが開いている時間があるのだと。歴史そのものが書き換えられてしまったために、デジタルワールドの歴史全体がむちゃくちゃになっているのだ。外側と内側とではすでに時間の流れが違っていたのである。

 

 

みんなを待っていたのは、スパイラルマウンテン構築中という地獄のような環境だった。

 

 

ファイル島のすべてが次々に空へ舞い上がる。遼は呆然とそれをみていることしかできなかった。目の前で起こっていることを誰ひとりとして理解することができなかったのだ。逃げようにも逃げる先がない。ファイル島だけではなく、すべてのエリアで発生している大災害だ。

 

かつて選ばれし子供たちはこの大災害が起こってから8年後の世界を冒険したことがあるだけで、何が起こったのかは生き残ったデジモンたちの言葉でしか知らなかった。だから、当事者であるデジモンたちは絶句する。そのさらに又聞きにすぎなかったジュンもまた言葉を失うのだ。

 

まさか、目の前で、再現されるなんて誰が思うだろう。再構築されて平和になったはずの世界が、再び崩壊していく様をジュンたちは見ていることしかできなかった。

 

遥か彼方では巻き上げられたすべてが渦を巻き、次第に肥大化していく。ある法則に従って4つの物質に分けられて、無数の手のように絡み合う。円錐状の禍々しい物体が作り上げられていく。

 

 

遼の立っていたあたりがぐらぐらと揺れだした。ぼこぼこと土の塊が引っこ抜かれ、空に吸い上げられていく。遼さん!と今にも泣きそうな顔をした賢が抱きついてきたので、遼は必死でその手をとった。

 

ジュンたちは大きな木にしがみつこうとしたが、その木々も地面から根こそぎ引き抜かれた。ものすごい勢いですべてが上昇し始める。悲鳴があがる。振り落とされないように、木の根っこにしがみついた子供たちは、あまりの衝撃に目を開けられない。どんどん高度をましていく大木の風圧に耐えるのに必死で、なにもできない。

 

周囲は振り落とされた名前も知らないデジモンたちの悲鳴がこだました。何も聞こえなくて、よかったのだ。がれきに押しつぶされたり、データの分解にまきこまれたり、一歩間違えれば自分がそうなっていたとわかってしまうから。

 

 

ようやく遼が目を開けると、ファイル島は崩壊の一途をたどっていた。無数の穴が生まれ、その向こうには真っ黒な空間が広がっている。海ではない。

 

海すら空に吸い上げられてしまい、今、眼下に広がるのは闇だけである。東西南北に出現した巨大な螺旋の柱に再構築されていく世界を見渡して、ようやく遼たちはデジタルワールドがダークマスターズによって支配されたころと全く同じ風景が広がっていることに気づくのだ。

 

どうやら遼がいた木は、かつてピエモンがいたエリアに編入されたらしい。傍らには死んでも離すまいと抱きしめていた賢がいる。ほっとした遼だったが、ジュンがいないと気づいて血の気が引いた。名前を呼んでみるが、返事はない。まじかよ、と遼はつぶやいた。

 

 

なにもない平原に遼と賢はいた。太陽が沈んで、雲のない西の空に夕焼けの名残の赤がぼんやりと残る空が広がっている。すぐの黄昏時。何があるのかはぼんやりと確認できる。遼たちは仲間を探すために歩き始めた。

 

 

「デジタルワールドに一体何が起こってんだよ」

 

 

くそ、とデジヴァイスを握り締める手は白む。アグモンが教えてくれたお互いを探知できるサーチ機能を便りに、ひたすら遼たちは前を進んだ。違和感はあったのだ、この世界に一歩足を踏み入れた瞬間から。

 

 

「遼さん、あれ!」

 

 

「あっ」

 

 

言い合いの声が聞こえた賢が指さす先には、奇跡的に生き延びたらしいデジモンたちがいる。種族も属性も世代もばらばらだ。突然わけのわからない世界に投げ出されたらしく、みんなボロボロだった。これからどうするのか相談していたら、喧嘩になったらしい。仲裁しようと近づいた遼の足を止めたのは、突然黒い煙が発生したからだ。

 

あぶない、逃げろと叫んだけど遅かった。あっという間にデジモンたちは飲み込まれてしまう。いそいで駆け寄ろうとした遼を制したのは、いつか聞いたデジモンの声だった。

 

「見ない方がいいですよ」

 

はじかれるように顔を上げた遼と賢の視線の先には、デジモンがいた。

 

音もなく巨木から着地した彼は、なんでだよ、と言おうとする遼を制するように腕を前にやった。賢は前を遮られてしまう。まるで生きているようにデジモンたちを飲み込んでしまった黒い煙。

 

無防備なデジモンたちの目の色が変わるのが見えた。遼はゾッとした。操られている目だ。遼たちが呆然とみている目の前で、彼らの言い合いは殺し合い寸前まで発展してしまう。みんなケタケタ笑っている。血の臭いに興奮している。地獄絵図だ。

 

「非常時に争うなど愚か者ですねえ。2回目だというのに変わらない」

 

そのデジモンは笑った。突然そのデジモンの頭上に巨大な扉が出現した。どこか禍々しい印象を受けるのはその扉の向こうから漏れるのが黒だからだろう。ゆっくりと扉が開かれる。溢れ出してきた影がデジモンたちをもろとも飲み込んで、ばたんと扉を締めてしまった。あの向こう側は間違いなく天国ではない、地獄である。

 

「な、なにをしたんだ?」

 

「これが一番てっとり早いんですよ。広げた両手で守れるものなんて限られてくる。それならは、さっさとご退場願ったほうが早いじゃないですか。ですからダークエリアの我が領地に避難していただきました」

 

「どっからどうみても石になってたような......」

 

「もとに戻す方法はありますのでご心配なく」

 

「でも、あの扉の向こうって安全な感じ、しなかったよ。もっと怖い感じがした」

 

賢の言葉にデジモンは笑う。

 

「そりゃあの世ですからね、当たり前でしょう」

 

「えええっ!?」

 

「あのデジモンたち、死んじゃったの?」

 

「あの煙に飲まれた時点でどうしようもありませんからね。それともあれですか?殺し合いして、最後の勝者が笑いながら死ぬところを見たいと?なかなか悪趣味ですね、アナタたち。今のデジタルワールドは転生システムが死んでしまっているのでね、こうでもしないとみんなアポカリモンの餌になってしまう。進化の否定。それが暗黒の勢力の目的なのですよ。はじまりの街が手中に落ちた時点で、この世界にはもはや転生システムは存在しないも同然だ。死んだら最後、生き返るには世界の再構築をまたねばならない。ワタクシたちにできることは餌になる者たちをダークエリアに送ることだけ」

 

「いや、違うな」

 

「ほう?」

 

「みんなが死んじゃう前におれ達が敵をやっつければいいんだ」

 

遼の言葉にデジモンは笑った。

 

「なるほど、それも一理ありますね。あ、そうそう挨拶が遅れましたね。ワタクシ、ポキュパモンから進化したアスタモンと申します。以後お見知り置きを。ところでジュンがどこかご存知ありませんか?」

 

アグモンたちは首をふる。アスタモンはおやおやと肩を竦めたのだった。

 

 

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