(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

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第59話

アスタモンたちがデジタルゲートを抜けた先で待ち受けていたのは、都市エリアだった。オベリスクのような形をした黒い塔がたっている。まるでハリネズミみたいだと賢は思った。

 

「わあ、更地だ」

 

「ウォーグレイモン派手に暴れましたね」

 

「動力源は下にあるのかな、スパイラルマウンテンが崩壊する気配がない」

 

「これだけ暴れたのにね。なにで動いてるんだろう?」

 

空からの監視がなくなったためだろうか、デジヴァイスによる結界は正常に機能した。何度か機械型デジモンたちとすれ違ったが場所がバレることはなかった。ウォーグレイモンを探さなければ、と賢たちは目をさらにして地上を見つめていたのだが。

 

「これはいけない、隠れましょう」

 

「えっ」

 

「どうしてさ?」

 

「ええっ、そんなことしてる場合じゃないよ、遼さんたちをさがさなきゃ!」

 

賢は驚いて反対したが、ワームモンに戻ってしまっているためにアスタモンが着地すると捕まっている賢も降ろされてしまった。

 

「どうして?」

 

それは直ぐに判明した。アスタモンがみるみるうちに小さくなっていくではないか。光の粒子はどんどん縮んでいき、やがてそれは消えてしまった。

 

「アスタモン大丈夫?もしかしてどっか痛い?」

 

「なにかあった?」

 

「どうやら、暗黒勢力がワタクシたちの存在に気づいて、罠をはっていたようです。このエリアがスパイラルマウンテンにおける深部のようだから、1番の要なのでしょうね。進化することが出来ない」

 

「えっ」

 

そんな馬鹿な、とワームモンは1度進化を試みる。究極体になったことでエネルギーを使い果たしてこそいるが、休憩を兼ねた情報収集の時間は終わっていたからだ。

 

「......ダメだ、力が出ない」

 

「なんで?」

 

「一乗寺治がいっていたではありませんか。我々の進化はデジタルワールドの進化バンクにアクセスし、データをダウンロードすることで進化するのだと。無線だと。デジヴァイス自体に進化させる機能はないと」

 

「それを邪魔してるってこと?」

 

「一体誰が......」

 

「ワタクシたちの敵は進化という概念そのものを否定する怨念みたいな連中ですからね。その原理がわかってしまえば簡単なのかもしれません。現に選ばれし子供たちはデジヴァイスと紋章を破壊されたといっていた」

 

「えっ、じゃあどうやって進化できたの?」

 

「あの時はデジタルワールドの進化バンクに選ばれし子供たち自身が媒介となり、アクセスすることが出来たのでしょう。だが今回は......」

 

オベリスクのように立っている黒い塔をファスコモンはみあげた。

 

「あれが電波塔となっているようですね」

 

「どうしよう?」

 

「僕達だけじゃ壊せないよね、あの塔」

 

「ウォーグレイモンもおそらくはワタクシたちのようになっているはず。ワタクシとしたことがもっと考えるべきでしたね。デジヴァイスも紋章もなくとも究極体になれるはずの選ばれし子供たちのパートナーが誰一人進化することすら出来ずに負けた理由をもっと考えるべきでした」

 

「アスタモンのせいじゃないよ」

 

「そうだよ、アスタモンだって今回が初めての冒険なんでしょ?ならむりもないよ」

 

「うん。攻略本片手にゲームしてるわけじゃないんだから」

 

賢たちは空を見上げる。メタルエンパイアが跋扈するエリアは、機械デジモンだらけだった。

 

「どうしよう?」

 

「おそらくウォーグレイモンもワタクシたちと同じ状態のはずです。もしかしたら、ジュンの捕まっているところに囚われの身になっているかもしれない。あえて捕まってみませんか?」

 

ファスコモンの提案に賢とワームモンはえーと声を上げた。

 

「と、いうわけでしてね」

 

仲良く牢屋に放り込まれた経緯をきいたジュンは頭をかかえたのだった。

 

「通りで遼くんたちがあっさり捕まるわけだわ……。ありがとう、教えてくれて」

 

ジュンはため息だ。真向かいの牢屋には先にいっていたはずの遼たちがいた。コロモンをかかえて申し訳なさそうな顔をしている。なんだか疲れたような、悲しそうな顔をしているのはこちらで何らかの激しい戦闘があったからなのかもしれない。都市エリアがほとんど壊滅するほど激しい戦闘だったようだから。

 

「遼くん曰く、ダークマスターズの拠点が偏ってるみたいね。みんなメタルエンパイア所属のデジモンだもの。ものすごく歴史は変わってるみたい」

 

「遼さん、ダークマスターズと戦ったの!?」

 

「連戦ですって。ただ、勝った瞬間に、そいつらのデータがあの塔をたくさん作ったみたいだから、罠だったのかもしれないって」

 

「なかなかにえぐいトラップですねえ」

 

「遼くん、疲れてるみたいだからそっとしてあげましょ。さっきから元気ないのよ」

 

賢はうなずいた。いつもの遼からは考えられないほど落ち込んでいる。ジュンが聞いても話してくれないらしいから、コロモンから聞き出すのはやめといた方がいいと思ったのだ。

 

「ところでこれみて、これ。アタシの紋章と同じじゃない?どういうことかしら」

 

スパイラルマウンテンの動力源にして、アポカリモンの糧となる運命のエネルギー体を見つめて、ファスコモンは笑い始めた。

 

「なるほど、なるほど、そういうことですか」

 

「ファスコモン?」

 

「ワタクシは転生する時に初めてダークエリアに送られ、アヌビモンの裁きを受け、そしてデジタルワールドと一体化しつつあったゲートポイントでデジタマとなることが出来ました。その時にどうやらホメオスタシスに解析されたようですね」

 

「?」

 

「つまり、アポカリモンは封印するのにワタクシは転生した理由がここにあるというわけです。この紋章はワタクシ自身だ、かつてのね」

 

「かつての......ガルフモンだったころの......アポカリモンの残滓......だから?」

 

「ええ、ええ、そうですとも。ワタクシ一体分だとして、7つに分割せねばならないほどアポカリモンは凶悪ということですね。しかも今のデジタルワールドは究極体を進化を否定する概念だとして数を増やしたがらない傾向にあるようだ。その先にあるアポカリモンはなおさら受け入れられる体制が整っていない。複数の世界に分割した7つの究極体を同時に存在させて弱体化した上で転生させるくらいの調整をしなければならない」

 

「そんなに?そんなにかかるのね」

 

「だからこそ、スーツェーモン様はワタクシの紋章としてさずけたのだ」

 

「どういうこと?」

 

「アポカリモンの性質はワタクシが1番よく存じ上げています。デジモンが死んだ瞬間に残す感情というエネルギーをはじめ、感情といった精神、魂という根幹、デジコアを内側から食い破ることで自身を強化できる。いわばマッチポンプですね、理不尽な目に合わせて殺し、殺されたデジモンたちを取り込む。転生したとはいえ、ワタクシの性質はそうそう変わるものでは無い」

 

「えっ」

 

「必要がないので言わなかっただけですよ。無用な混乱は避けるべきだ」

 

「どういうこと?」

 

「ワタクシも同じということですよ。ワタクシが葬ったデジモンはその気になれば輪廻転生できずにダークエリアのワタクシの領地に送られ、ワタクシの骨肉となる。自己強化が可能なわけです。念の為重ねて言いますが、その気になれば、ですよ」

 

平和なデジタルワールドならばきっとそれは脅威だった。だが、今のデジタルワールドを前にしてジュンが感じたのは希望だった。輪廻転生のシステムが完全に崩壊し、死んだデジモンたちは問答無用でアポカリモンの糧となる、レジスタンスすら死に絶えた崩壊寸前のデジタルワールドにおいては。

 

「戻せる?」

 

「テイマーと選ばれし子供の違いはアナタの方がわかっているでしょうに」

 

「知ってるけど本人から聞きたかったのよ」

 

「戻せますとも」

 

ジュンの目が輝いた。

 

「ファスコモンは自力で進化したわけじゃなく、スーツェーモンの紋章による一時的な進化だから、いずれ成長期にまた戻る。そのエネルギーはスーツェーモンが管理してるから、あちらにいく。つまり、あちらのデジタルワールドの輪廻転生システムにのせることができる!」

 

よく出来ました、とばかりにファスコモンは笑った。

 

「やっと理解できたわ。なるほど、そういうことだったのね」

 

ジュンは紋章を手にするのだ。与えられた使命の意味を完全に理解できた今、ジュンに迷いはない。

 

「いけるわよね、ファスコモン」

 

「ええ、ジュンを助けるまでにたくさんの敵と交戦してきましたのでね」

 

ジュンは前を見据える。

 

「いくわよ」

 

デジヴァイスがこれ以上ないくらいに輝いた。ハッキングしているパソコンにデジヴァイスを繋ぎ、侵入経路を確保する。

 

「本宮さん、どうしたの?」

 

「おいおい、なにする気なんだ?」

 

さすがにジュンがいきなり行動を起こし始めたから遼も賢も驚いた。

 

「ちょっと、ダークタワーを壊してくるわ。かなり博打なやり方だから死なないようにデジヴァイスの結界はずっと張っていてね」

 

ジュンとファスコモンはパソコンに開かれていたデジタルゲートからフルダイブする。遼たちがみたのはノートパソコンだけだった。

 

 

 

 

 

 

ジュンとファスコモンがスパイラルマウンテンの最深部に到達したとき、動力源たる空間全体が脈打っていた。まるでなにかが生まれようとしていた。脈はひどく遅くて体はとても冷たいが、キコンカコン歌時計のように活発に動いている。時計の針に似た響きは、死に誘う警鐘のような恐ろしさがあった。

 

「いくわよ」

 

一か八かの賭けだった。

 

「ええ」

 

ジュンは紋章を解放して、デジヴァイスにダウンロードする。そして、ファスコモンにデータがアップデートされる。デジタルワールドの進化バンクにアクセスするのではなく、ジュンがアクセスを試みたのはこの動力源だった。

 

やけに静かな緊張感があった。派手に動悸が打つ気がする。

 

「ファスコモン、大丈夫?」

 

心臓の規則正しい音。それはやや早いが、力強く弾力があり健康的な響き。心臓の音が、ドラムを鳴らしてるみたいに、身体中に響いていた。心臓が胸の中で、小鳥のようにばたばたしだす。肋骨の檻の中で心臓がコツコツと音を立てる。

 

心臓の鼓動は、かちかちと鳴る時計の秒針を追い抜き、一段と早くなる。

心臓は確かな鼓動を繰り返している。意識を集中させると、内部から音が聞こえてくるようだ。

 

誰かがすぐ近くで、金槌を使って壁に釘を打ち付けていた。こんこんこんこん、という途切れのない音が聞こえた。かなり硬い壁と、かなり硬い釘だ。こんな時間にいったい誰が釘なんか打っているのだろう? 

 

天吾は不思議に思ってまわりを見回したが、どこにもそれらしい壁は見当たらなかった。そしてまた釘を打っている人の姿もなかった。 

 

少しあとになって、それが彼の心臓が立てている音であることがわかった。彼の心臓がアドレナリンの刺激を受け、急遽増量された血液を、耳障りな音を立てて体内に送り出しているのだ。

 

普段と変わらないトクトクという小さな鼓動が胸の奥から立ち上ってきて、正常に血液を流し始める。心臓は胸から飛び出しそうなほど、ドクドクと動き続けている。心臓が破裂しそうなほどドキドキする。心臓は隆起と陥没を繰り返す。

 

ファスコモンが光に包まれる。

 

成熟期、いや完全体。それとも究極体だろうか。

 

スパイラルマウンテンからハッキングして、暗黒の力を直接奪い取った相方はみるみるうちに姿を変えていく。

 

やけにひんやりとした空気に満ちていた。ジュンは耳に意識を集中した。空気の音がした。地面の音がした。しばらくして、心臓の鼓動が感じられた。身体が弾む。気のせいかしだいに、鼓動は大きくなるようだ。肩の力を抜いてみた。目を閉じてみる。

 

心音がジュンを包む。落ち着く音だった。身体の中では血液が、爆発するように送り出されているのだろうが、その鼓動が心地よい。絶え間なくつづく、血液の循環だ。はるか昔、ジュンは誰かの腹の中で、この音を聞きながらよく眠っていたのだろう。守られている感覚がある。すっと力が抜ける。自分の心臓が強く鳴っているのを、遠くで鳴る警鐘のように感じていた。

 

内側から動力炉が引き切れる。滝がなだれ落ちるようにズタズタに引き裂いた。壁を突き破るような産声が湧き起こる。息もつけない緊張の沈黙を破って響く。

 

それは巨大な爪をもつ怪物だった。怪物が咆哮をあげる。動力源たる炉から禍々しい光が吹き出したのだった。

 

 

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