(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

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第62話

「なんだこいつは......」

 

治はデジモンアナライザーで解析した結果、今回の敵の正体を見て戦慄するのだ。

 

名前 ミレニアモン

種族 ウィルス種

属性 合成型

必殺技 タイムアンリミテッド

時空を圧縮し、敵を亜空間に閉じ込める。

得意技 ディメンジョンデストロイヤー

タイムアンリミテッドで作り出した空間ごと敵を破壊する。

 

「なんじゃこいつは......なぜデジモンアナライザーはこやつを解析できるんじゃ......デジモンだと判断したのか......!?」

 

それは治たちが過去世界にハッキングをしかけ、ジュンたちを支援していたことが初めからわかっていたのだと宣言しているに等しい異常事態だった。

 

アポカリモンのようにデジモンの皮をかぶったもっとおぞましい何かならばすべてのデータが正体不明であり、今この瞬間生まれた新種のデジモンならば解析不能となるはずだ。 データを明け渡しても負ける気が微塵もないことを示していた。

 

モニター越しに見ていることしか出来ない治とゲンナイを嘲笑うかのように画面にピシリとヒビが入った。

 

「タイムアンリミテッド!」

 

ガラスで黒板を思いっきり引っ掻いたような甲高い音がした。

 

「ぐううう───────!」

 

「ゲンナイさん大丈夫ですか?!」

 

いきなり苦しみ始めたゲンナイに治は驚いて椅子をひっくり返し、背中をさする。体をくの字にまげながらゲンナイは苦悶の表情でそのままうずくまってしまう。

 

「離れるんじゃ!」

 

治は息を飲んだ。今、ゲンナイは自分自身と戦っているのだ。暗黒の球体の発動を防ぐにはマイナス思考に誘導してくる暗黒の意志をつっぱねるだけの強い自分を持たなければならないと絶え絶えながらゲンナイはいった。

 

ゲンナイの腹から二重らせんの鎖が生えてきてゲンナイ自身に巻き付き始めたのだ。二重らせんの鎖から赤熱しはじめ、黒い煙が燻り始めたではないか。さらにドロドロ体が溶け始める。

 

「ゲンナイさん、大丈夫ですか?」

 

ゲンナイは小さく首をふる。深呼吸を繰り返しながら瞑想を始めた。

 

「......これが、暗黒の球体......」

 

治は愕然としたまま、ゲンナイとモニターを交互に見つめていることしかできなかった。

 

モニターの向こう側でジュンたちが感じたのは重力に似た何かだった。目に見えない大きななにかが巨大な岩のように四方八方からのしかかる。蛆虫のように押し潰される。耐えられず放り投げたデジヴァイスや紋章はジュンたちの目の前で地面に落ちつぶれてたように形が崩れた。乾いた音をたてて微塵に押しひしゃがれた。

 

その瞬間にウォーグレイモンとグランクワガーモンは悲鳴をあげる。みるみるパワーが奪われていき、2体は一気に成長期に戻ってしまった。ベルフェモンだけは暗黒の力を奪い取り我がものとしているために究極体の体を守ることができた。遼と賢はそれぞれアグモンとワームモンをかかえたままベルフェモンにしがみつき、必死で耐えた。

 

ミレニアモンは低周波の音圧が空気をふるわせ、衝撃となってジュンたちを襲った。

 

手のひらがママレードみたいにぐしゃぐしゃに潰れる様子を幻視する。込み上げてくるのは途方もない恐怖だった。

 

「うわあああ」

 

「きゃあああ!」

 

「なにするんだっ!」

 

ミレニアモンの声がどんどん遅れて聞こえてくる。一言一言が遠ざかり、音としてしか認識できなくなっていく。意味などもはや理解できる状況ではなくなっていった。

 

ジュンたちは理解できないのだが、ミレニアモンの必殺技により時間と空間を圧縮することで、時代が溶け合って融合し、ありとあらゆる存在が保証されない亜空間が形成されたのだ。あらゆる「いま」が圧縮されてしまったその空間にもろとも飲まれてしまったのである。

 

ジュンたちがわかるのは、とんでもなくヤバいということだけだ。ジュンはベルフェモンに必死で捕まっていた。

 

過去、現在、未来がひとつに収縮していく。ある意味時間が存在しない点で、「無」の世界と言えるかもしれない。

 

ジュンたちの目の前で目まぐるしく風景が変わった。海底に飛ばされ、海底からさらに空へ、飛ばされる上空にいたウミネコは幻術にかかったかのように姿を変える。やがて宇宙空間に投げ出されたジュンたちはトンネルのような空間を通り、虚空に飛ばされることになる。

 

「な、なんだ!?体が!」

 

「どんどん薄くなってく!僕達死んじゃうの!?」

 

賢と遼の姿がみるみるうちに透明になっていくではないか。ジュンはあわてて手のひらを見てみるがジュンの方は変化がない。

 

「みんな!」

 

必死でしがみついているしかない遼たちはジュンの叫びに答えることすら出来ない。

 

「なにをしたの!みんなに何をしたの、ミレニアモン!!」

 

ジュンの叫びに空間全体が嘲笑した。

 

「個人は、連続した時間の同じ軸には存在しない。ゆえに圧縮が進めば進むほど希薄な存在となる。デジタルワールドの過去も現在も未来もすべて圧縮してひとつにしてしまった今、お前たちは消えゆく運命なのだ!」

 

ジュンは目を見開いた。

 

「お前たちだけではない。この世界に1歩足を踏み入れた瞬間に8人の選ばれし子供たちもお前たちのように消え失せる運命なのだ!そうして初めて私は安息の地を得ることができる!」

 

ミレニアモンから語られる目論見は生命としてあまりにも当然の足掻きだった。目的はただひとつ。アポカリモンの1部になりはてて死ぬか封印されるという運命から逃れて自身が存続するためで、自分だけの世界を創ろうとしているのだ。

 

なんてことだろうか。たったそれだけの強烈な生存本能ゆえにミレニアモンは平行世界のデジタルワールドに自分を作り出し、時間を操るという途方もない能力を手に入れたのだ。

 

何度も観察・体験しているうちに完全な時間圧縮の方法を見つけたのだとミレニアモンは語る。デジタルワールドが正常化、もしくは歪みが正される前に時間を圧縮して作りだした亜空間に変貌させるのだ。そして選ばれし子供たちやセキュリティシステムのデジモンたちを罠にはめ、自分ひとりだけが唯一の存在となれる世界を作るらしい。

 

「やはり最後まで邪魔してくるのだな、ウォーグレイモン!」

 

ワームモンは古代種、アグモンは光が丘爆弾テロ事件のころと同じ系譜を持つ個体だから普通のデジモンより長く存在できるようだ。ミレニアモンは執拗にアグモンを殺そうとする。ベルフェモンは盾となりアグモンを守る。だが時間の圧縮が加速するにつれ、デジモンたちさえも透明になり始めた。

 

「……なるほどね、ならアタシはなかなか消えないわよ。ベルフェモンもね」

 

ジュンはすさまじい勢いで回転し続ける世界に叫んだ。

 

「せっかちなやつね、あんた」

 

「なんだと?」

 

「デジタルワールドに受け入れてもらうまで待てないなんてせっかちだっていってるのよ。ようするに極端な個人主義ってことでしょう?自分自身だけ支配できればいい、他は消えてくれってこと。いや、違うわね。個人主義と言うよりは超常の力を持つ邪神ゆえにいろんなところで嫌悪され恐怖される、なら自分以外が存在しなければ自分を虐げる者もいないって発想だわ。この世界のくだらない摂理を停止させ、私が世界で唯一の存在となる。そんなところ?」

 

返ってきたのは嘲笑だった。

 

「立派な理論武装して渡り合うつもりか?建前がどれだけ立派だろうが私に生まれた瞬間から死ねといっているも同然ではないか。生存本能が私の原動力だ。貴様のようにな!」

 

それは痛烈な皮肉のように聞こえる。人の心臓をえぐるような皮肉だ。胸をえぐるような苦痛な言葉がなげつけられた。意地の悪そうな笑いが空間に広がる。

 

「命の選別をするとは、貴様は神か?仏か?なにを思い上がった勘違いしているのだ!!」

 

地が避けて熱い溶岩が流れ出したような恐ろしい激痛がジュンの全身を襲った。声も凍るほどの衝撃だ。背骨に杭が打ち込まれ、全身がばらばらに砕けて勝手な方向に駆け出し飛び散っていくような錯覚を覚えてしまう。

 

ときとしてその痛みはすさまじく深くなる。まるでミレニアモンのデジコアにじかに結びついているみたいに。体も心も痛みに支配されて、本宮ジュンという個性が入り込む余地が全くない。のたうちまわるジュンにミレニアモンは笑う。

 

それは明らかにミレニアモンの激昴だった。

 

「それは違う!」

 

叫んだのは遼だった。ほとんど消えかかっているが構わず彼は叫ぶ。

 

「ボルトモンを見て俺だって悩んださ!どうしても死なせないといけないのか。すくいあげることはできないのか殺すことでしか救えないのか。苦しい。とても苦しい。お前を消去しか選べず殺すことが苦しい。他に道がないのかどうか、ずっと考えてたさ!でも見つからないんだ。今の俺たちじゃ、お前を救えないんだよミレニアモン。殺すことでしかデジタルワールドは受けいれることすら出来ない!だから俺はお前を倒す!」

 

はっきりと秋山遼は言い切った。ジュンは目を見開いた。なんて人だろうか。パートナーを持たないかわりにすべてのデジモンを進化させる才能に恵まれた彼らしい叫びだった。

 

「そうね、そうだわ。今のデジタルワールドはアナタを受けいれることはできない。その事実に絶望して世界を転移し続けてるアナタの憎悪は想像できる。でもそれだけよ。できないものは出来ないの、待ってもらうことしかきっとできない。だからアタシは戦うのよ。たしかにアタシはたくさんのデジモンを殺したわ、戦いだから。でもたくさんのデジモンをすくいあげてきた自信がある。これからもそうであり続ける」

 

「僕も!僕も戦う!遼さんやジュンさんみたいに、戦うって、頑張るって、兄さんに、治兄さんに約束したから!!」

 

ジュンたちの叫びが光となる。それが自分自身から光っているのだと気づいたとき、子供たちはパートナーの名前を呼ぶのだ。あるいは友達の名前を。光がビックバンのように大爆発を起こす。世界が白亜に塗りつぶされていった。

 

「なぜだ、なぜ消えないのだ!おまえらの存在など時間圧縮を前に消えてしまうがいい!!激しい痛みとともに思考が分断され記憶も思い出も極限までにうすめられるのだ」

 

ミレニアモンの叫びをもろともせず、ジュンたちから放たれる光は輝きをましていく。

 

もともと世界は縦軸、横軸、高さ、時間で1点を特定できる4次元時空だ。時間圧縮とは文字通り時間を圧縮し過去と未来を極限まで短い時間に押し込むこと。そうすることで本来の時間における全ての存在感が薄れる。例えば山とか海はずっとその場に居続けるから存在感は薄くならないが、常にXYZ軸において移動している生物はその時々で別の場所にいるから、時間軸だけが圧縮された時存在が希薄になり消えてしまう。

 

動画を時間ごとに切って透明なフィルムに写して、それぞれのフィルムの色を薄くして重ねたら、動かないものは色が重なって元の色まで濃くなるけど、動いてる人は重ならないから色が薄いまま。

 

だというのに消え去らない選ばれし子供たちにミレニアモンは驚愕する。何度必殺技を放とうが消えない。

 

「なぜだ!」

 

「未来まで巻きこんだのがアナタの敗因ね、ミレニアモン」

 

「なんだと?」

 

「アタシたちが生きた証は消えないもの。アタシたちの世界とデジタルワールドが共存を選び、選ばれし子供たちが橋渡しの役割を担っている時点で、アタシたちの存在はそう簡単には消えないわ」

 

たしかにデジタルワールドの歴史の中で選ばれし子供たちひとりひとりの時間は短いかもしれない。だがデジタルワールドはデータの世界だ。感情が大きなエネルギーとなる世界、それも感情と感情が繋がる絆が絶大な力を持つ世界だ。一人ひとりが繋いでいくから大きいのだ。

 

「そうだな、俺たちが消えるとしても、俺たちがいた事は消えない。デジモンたちが、世界が、俺たちのことを覚えていてくれる限り!絆は、永遠なんだ!」

 

ジュンと賢はうなずいた。

 

強い糸で結ばれた信じ合った心と心は、鋼よりも固い絆だ。それこそ肉親のように断ち切りがたい絆となるのだ。

 

皮肉にもミレニアモンがジュンたちにもたらした長く続いた苦難の日々こそ、固い団結をもたらしてくれたのだ。すぐにお互いを仲間として認めあえるに違いないほどに。

 

それはデジタルワールドがだれよりも覚えていてくれる事実でもある。

 

絆というものこそが、デジタルワールドがさらなる発展と反映のために現実世界と共存する理由なのだから。

 

「だから、俺たちは負けない!」

 

「ならばこの亜空間ごと貴様らを消し去ってくれる!ディメンジョンデストロイヤー」

 

ピタリと全てが静止した。

 

「そうはさせるかあ───────!!」

 

遼の叫びにジュンたちの光がより強くなる。

 

「アグモン、受け取って!」

 

ジュンが叫ぶと、ベルフェモンは一気にファスコモンに退化し、眩い光がアグモンに降り注ぐ。

 

「僕も!」

 

賢も叫ぶ。光はさらに輝きを増し、アグモンに降り注いだ。アグモンは成熟期、完全体をぶっ飛ばし、一気に究極体に進化する。

 

「みんなの勇気はたしかに受け取った。今度は僕の番だ!!」

 

ウォーグレイモンは雄叫びをあげる。世界がゆっくりと逆回りに回転し始める中、ありったけの力を込めてミレニアモンに必殺技を叩きこんだ。

 

「ガイアフォース!!」

 

全てが白に塗りつぶされていく。ジュン達が最後に見たのは、逆さまのデジタルワールドが内側に丸くなっていく光景だった。

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