(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

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ウォーゲーム編
第66話


ベンジャミンの行方が今なお掴めないまま、2000年は2ヶ月を過ぎた。2000年問題にピリピリしながらデジタルワールドは表向き平穏そのものだったのだが。

 

周りに広がる壮大な大海原に浮かぶ小島、自然豊かなパケット島。このパケット島に大きな災いが降り掛かっていた。イロード現象というデジモンの凶暴化があいつぎ、島中でデジモンが暴れているのだ。

 

イロードはerodeと書き、浸食する、腐食する、むしばむ、そこなう、失わせるを意味する単語である。はるか昔、この世界に蔓延した不治の病から来ているという。当初は風土病かと思われたのだが、スパイラルマウンテンを生きのびたデジモンたちは誰もが世界中で噴出したブラックガスを思い出した。突然発狂して殺しあったあげくに自分も死ぬ恐ろしいガスだ。

 

島に生息するデジモンたちの不安は募るばかりであり、島全体に不穏な空気が流れていた。エージェントたちはイロード現象の原因究明を進めるべくただちに行動を開始した。選ばれし子供とパートナーデジモンはデジヴァイスの加護で感染しないとわかったためだ。

 

ジュンはポキュパモンとともに調査を行う中である事実にたどり着いた。島の辺境にあるセグメント遺跡にある打ち捨てられた研究所にイロード現象の原因と思われるウィルスプログラムの残骸を発見したのだ。

 

それは先代の子供たちの冒険を支援したかつての守護デジモンが管理保管していたアポカリモンの負の遺産だった。デジモンの構成データの根幹にまで干渉し、凶暴化をうながし、挙句の果てに命まで奪う恐ろしいウィルスプログラム。デジモンの能力を極限にまで高めるかわり、その理性を失わせ破壊神へと変貌させる禁断のウィルスである。古代のデジモン達によってこのパケット島に研究目的のため残される以外は封印されたはずだった。それはまさしく巨大化、狂暴化などの異常現象を引き起こすブラックガスの主成分だと判明したのだ。

 

その研究所は外界に研究目的のブラックガスが流出しないように封印を施していた。その封印がなにものかに破られ、流出していたのが原因だったのだ。破壊された封印の欠片をあつめ、コードを回収したジュンたちはゲンナイさんに渡した。その結果、ワクチンが生成され、ひとまずパケット島に平和が訪れることになる。

 

長きに渡り封印されていたはずのブラックウィルスを解き放った者がいる。持ち去られたウィルスがある。

 

 

そのワクチンプログラムの構成要素はデジヴァイスのウィルス除去プログラムのプロトタイプであると判明した。パートナーデジモンはブラックウィルスに感染しづらい理由はここにあった。これが異変解決の大きな1歩だったのだ。

 

その事実を受けてホメオスタシスは危険な賭けであることは承知の上で選ばれし子供とパートナーデジモンたちにブラックウィルスに感染したデジモンたちとの戦いを託したのである。

 

それが2月の初旬だった。

 

「これで最後の感染者ってわけね」

 

アスタモンの愛用マシンガンにデジヴァイスに搭載されている浄化プログラムを付与し、擬似的なウィルスバスター機能を追加する。うっかり触れてしまうとアスタモンもダメージをうけるため慎重な取り扱いが必要だが、自動追尾の弾丸に自我なく暴走するデジモンが逃れられるわけもなく被弾する。ブラックウィルスが除去されデジモンの目に光がもどった。

 

完全体を前にして成熟期のデジモンたちは逃げてしまったのだった。

 

「おつかれー!」

 

ジュンの労いの言葉にアスタモンは笑った。気づけばもう2月も下旬である。

 

「お疲れ様じゃのう」

 

「ほんとだぜ!こっちは学校あるのにさあ」

 

「帰ったら宿題しなきゃ」

 

「これでイロード現象に襲われたデジモン達は元に戻ったようじゃ。選ばれし子供たちよ、感謝するぞい」

 

やったー、とみんな喜んだ。放課後や休み返上でデジタルワールドに通いつめていたのだ。ようやく解放される。

 

「よかったー!アタシ、こんどの休みにパパとママとハワイにいくの!」

 

「ミミ、ハワイってなーに?」

 

「えっとねー、南国の島みたいなところよ。トロピカルジャングルをもっとリゾートにしたみたいな感じの!」

 

「よくわかんないけど素敵だわ!」

 

「お土産楽しみにしててねー!」

 

無邪気なミミの発言にみんなつられて話し出す。

 

「私、お友達のお誕生会があるからいくの」

 

「僕ね、島根のおばあちゃん家にお兄ちゃんと泊まるんだー!」

 

「いいなあ......僕も兄さんもサッカークラブだよ」

 

「丈先輩は受験よね」

 

「みんなお出かけ日和なのねえ。アタシは家でパソコンでもしてるわ」

 

「僕も選ばれし子供たちの交流サイトを充実させなくちゃ」

 

「なんだよなんだよ、光子郎もジュンさんもせっかくの休みなのにどっかいかないのか?」

 

「休みだからこそじゃないの。ぜいたくな時間の使い方もなかなかないわよ?」

 

「そうですよ。そういう太一さんはどうなんですか?」

 

「ねーよ、そんなの。特に用事なんて」

 

太一の視線の先には空があった。空は太一の視線に気づいたようだが無視したために太一に眉がよる。

 

「私もないかな、買い物くらいで」

 

ジュンはその違和感に気づいて、あ、喧嘩してるなこの子達と思ったが気づかないフリをした。薮蛇はごめんである。

 

「イロード現象はこれで収まったが、3月初めはもしかしたらなにかあるかもしれん。一応、デジヴァイスを持っておくように頼むぞい」

 

ゲンナイさんの締めにより、選ばれし子供たちは解散になったのだった。

 

 

 

 

 

1990年代後半から2000年代前半にかけての変化をインターネットという単語が特殊な固有名詞から一般名詞になったとジュンは思っている。

 

一般家庭にパソコンが普及し、ネット接続も当たり前になったが、まだネットはネット、リアルはリアルという別個の存在だ。

 

そこではパラレルワールドのように人は普段の自分とは別の人格を演じて、他者とコミュニケーションしていた。

 

企業の公式サイト(ホームページ)もかなりの数ができたが、ほとんどはカタログの加工で情報も更新されないし、何度も見るようなものではなかった。ただメーカーの製品仕様が検索すれば見つかるようになったことはすごいことだなと母親が感心していたのは覚えている。

 

今はケータイによるインターネットサービスが相次いで登場し、いちばん身近なネット端末としてケータイがその地位を確立しつつある。メールとウェブの約半分をケータイから利用しているジュンはつよく実感していた。

 

ケータイが普及したことによって、インターネットを使う時間と場所の制約がなくなった。24時間どこでもネットに繋がるわけだから、リアルな世界に属したままネットを使うようになった。たとえば電車で、たとえばお風呂で。

 

インターネットを使うために「構える」必要がなくなったことによって、それぞれの世界がシームレスに繋がるようになり、ようやくネットとリアルはひとつになりつつある。

 

接続時間が増えるということは、インターネット上を流れるデータが増えるということでもある。メールの通数も増えているし、ケータイにカメラが搭載されたことによって写真(画像)データもたくさん飛び交っている。

 

そしてインターネット上のデータはいま現在も増え続けている。大型掲示板がそろそろ出来るだろうし、おそらくまだしばらくはこの流れが続く。プライバシーへの配慮は必要だが自分のデータをどんどん公開し、ネット上にアーカイブしていくことは、性善説で捉えれば便利な世の中を作る材料になるし、インターネットはどこまでいっても性悪説を前提にした楽観的性善説で進んでいくだろう。

 

今のインターネットは「過去」のデータを蓄積し、公開するものだった。いずれインターネットは「現在」が共有される時代に入る。情報が増え続ければ、それだけ無視される情報も増え、大半の情報は見向きもされなくなる。マーケティングの効率を上げるためにも、会社はインターネットを上手く使う必要が出てくるし、行政も後追いで法整備などをすすめるはずだ。

 

つまり、今がデジタルワールドの1番不安定な時期なのである。

 

「ほんと起こるべくして起こったデジタル災害だったわけね......」

 

デジタルワールドの冒険に示されているアポカリモンを初めとした暗黒勢力との戦いは、インターネットの普及と絶妙にリンクしているのだ。

 

だから、3月4日が近づくにつれて、パケット島で起こったイロード現象について、ジュンは日に日にどうしても無関係には思えなくなっていた。

 

だからずっとゲンナイさんの手伝いをしながら、召集もないのにデジタルワールドを行き来していたのだ。

絶対なにかおこる。ものすごくめんどくさいことが。それは経験則からくる予感みたいなものだった。

 

だから長らく封鎖されていたパケット島への帰還が叶い、はじまりの島に避難していたデジモンたちに同行していた。住人全員がそろい、いざ各エリアに出発というときに、すさまじい衝撃がジュンたちを襲った。

 

ブラックウィルスは既にゲンナイさんが回収して、隠れ家への研究所自体の移設は完了している。もはや何も無いはずのパケット島で原因不明の大爆発が起きた。騒然とするデジモンたちに、ゲンナイさんの隠れ家に避難するついでに現場に急行することを伝えるように告げて、ジュンはパートナーと研究所があった場所に向かった。

 

「あーもーやっぱりなんか起こったー!嫌な予感はしてたのよ!」

 

今日はあのディアボロモンが生まれて大騒動を起こす日だ、これ以上大問題が起こってたまるかという話である。そんなジュンの心情を嘲笑うかのように辺りは一目黒煙に満ちていた。あきらかになにかが爆発したのだ。

 

「すごい煙......」

 

視界不良のジュンにかわり、ラバースーツに身を包み、比較的に行動が可能なポキュパモンが先を行く。

 

「内側から破られたような形跡がありますね」

 

「うっそでしょ......ゲンナイさん、ブラックガスを全部回収してたじゃない」

 

「施設自体移設が完了しているからなにもないはずなんですがねえ......。旧デジ文字でプログラムを組まれるとなかなかに骨がおれる」

 

「えっ、まさか未回収のオブジェクトでもあったの?」

 

「いや、違いますね」

 

「じゃあなに?」

 

「デジモンへの除染は完了しましたが、エリアへの除染が未完了だったようだ」

 

「えっ、ブラックガスって環境にも影響与えるタイプのプログラム?」

 

「突然変異なのか、それとも何らかの悪意によるものか、ウィルスがこちらの世界のプログラムと偶然にも噛み合ってしまったようだ」

 

「データが実体化する性質とか言わないでしょうね?」

 

「セキュリティシステム所属のジュンの方が詳しいでしょうに」

 

「まだ予定よ、予定。......て、まさか」

 

「そのまさかですね。今まさに生まれようとしている」

 

視界を横切る影がある。ジュンは体がこわばった。

 

「グリフォモン......」

 

セキュリティシステムのデジモンだと知っていても植え付けられた恐怖はなかなか消えない。

 

グリフォモンは鳥型デジモンの頭と翼、前足を持ち、胴体は獣型デジモン、尻尾には蛇のようなものが付いている合体デジモン。その翼で大空を飛び回ることができるが、普段は砂漠地帯や山岳地帯の洞窟に棲んでいると言われている。

 

また、グリフォモンの攻撃力は非常に高く、俊敏な動きで敵を翻弄するためグリフォモンを倒すことは困難を極める。その性能を生かし、インターネット上では不法な侵入を防ぐ番人や、機密情報のセキュリティとして利用されている。必殺技は超高周波の音波を出し、敵のデータ構造を破壊してしまう『スーパーソニックボイス』。

 

サマーメモリーズにてジュンたちが初めてあった究極体のデジモンであり、チョコモンを連れ去ってしまったお迎えでもある。こちらに敵意がないのはわかっていてもどうしても怯えが先に来てしまう。ジュンからすれぱ親友を人外の道に歩ませたムルムクスモンの眷属というイメージが抜けないし、魂の記憶はホメオスタシスに魂をアップデートされるために連れ去られたことを覚えているのだから。

 

「おや、侵入者のようですね」

 

グリフォモンが攻撃しているのが見えた。

 

「な、なにあれ」

 

時空が裂けていくのがみえた。

 

「どうしたのかしら」

 

正体不明のデジタマがあったのだ。

 

「......」

 

ブラックウィルスのコードがひとつになる。模様と形を見てジュンの目の色が変わる。

 

「まさか、あれがディアボロモンの卵......!?」

 

ジュンはあわてた。

 

「あ」

 

それは異様だった。裂け目から出てきた何かがグリフォモンを捕まえたかと思うとそのまま引きずり込んでしまったのだ。断末魔だけが響き渡る。時空の裂け目はなくなり、デジタマが浮遊する。目の前に無数の羽根が舞った。

 

「んなっ!?」

 

いきなりデジタルゲートがあいた。

 

「やっば!?いそがなきゃ」

 

「ジュン!」

 

「わかってるわよ!」

 

ファスコモンが進化する。アスタモンにワープした相方にのり、ジュンはデジタルワールドをあとにした。

 

世界が割れる。海が割れる。ゆるやかにデジタルワールドは異変を感知しつつあったのだった。

 

 

 

 

ゲートポイントを抜けて、デジタマをおいかける。

 

「グリフォモンやパロットモンもこんな気持ちだったのかしらね」

 

「現実世界に出る可能性はないのが幸いですね」

 

「デジタルワールドのゲートがあかなきゃ、そもそも追いかけてないんだけどね」

 

「クラヴィスエンジェモンより上位存在からの干渉のようですね」

 

「またあ?ミレニアモンの時もあったわね」

 

「そうですね」

 

ジュンはアスタモンにのり、デジヴァイスをかかげる。ブラックウィルスにより誕生したならウィルスバスター機能が有効なはずだ。

 

「!」

 

次の瞬間、いきなりゲートが閉じてしまった。舌打ちしたジュンの前にモニターが表示される。

 

「大丈夫かの?」

 

「大丈夫じゃないです!今から誘導とかできませんか?」

 

「やってみよう」

 

「あ、選ばれし子供たち以外派遣しないでください。ブラックウィルスから生まれたデジモンだから感染したら困るもの」

 

「新種のデジモンか!」

 

「はい」

 

ジュンの前に新たなるデジタルゲートが構築される。ゲートポイントの向こう側にはコンピュータネットワーク上に突如出現した正体不明の幼年期デジモンがいた。

 

戦闘能力はほぼ皆無で人間の子どもにも簡単に捕獲できる程であるが、真の恐ろしさは進化能力と増殖性能である。ネットワーク上のデーターを食べることで急速に自身のデーター量を増やし、進化・増殖を繰り返す。またダメージを受ける事により進化が急速に進む場合もあり、下手に攻撃して撃ち漏らすとそれでけ危険性が増す。

 

魔王型デジモンなどの暗黒の存在ではないが、善悪の概念は無く遊び気分でネットワークを狂わせていったことで知られる厄介なデジモンだ。

 

コンピュータネットワークを悪用する人間の悪意や、ネットワーク上で繰り広げられる争いによって発生する攻撃性が具現化し、一つのデジタマが生まれた。

 

そのデジタマには人間の破壊本能が凝縮されており、そこから生まれたこの謎のデジモンは非常に危険な存在である。コンピュータネットワークの中で病原菌の様に繁殖して、軽度のネットワーク障害を引き起こす。必殺技は巨大な目から泡状の物体を出すグレアーアイ。

 

光にも闇にも属さない特殊な存在らしく、元来属性の存在しない幼年期を除き種族・属性は不明。勢力はダークエリアである。

 

「ああ、ワタクシと同じ所属ですか」

 

ダークエリアはデジモンたちにとって墓場や地獄のような存在であり、悪いデータと認識されれば永遠に存在を葬られ、良いデータと認識されればまたデジタマとして生まれ変わる事ができる。

 

「所属がダークエリアって大概よね」

 

アスタモンはわらった。ゲンナイさんから現在地のマップが届いたのだ。

 

「よかった、まだ孵ってない」

 

「野生のデジモンならばこんなものですよ」

 

「そーなんだけど。ああもうまた妨害が!」

 

アスタモンはシャッターが降りたデジタルゲートを蹴り上げ、方向転換する。

 

 

「ずいぶんと後ろ盾があるデジタマだこと!」

 

皮肉のひとつも言いたくなる。

 

デジタマは、デジモンが孵化する卵である。デジタマからは幼年期の前期にあたるデジモンが誕生する。デジモンには雄と雌の区別が存在しない。

 

そのため、生殖活動を行わないが、成熟期以上のデジモンは寿命を迎える際に自らのデータをコピーし、デジタマとして残すことができる。デジタマには様々な種類が存在するが、それぞれ模様など外見の特徴や誕生する幼年期デジモンが異なる。

 

デジモン同士を合体させる人工のデジタマもあるが、この時代にはまだ無いはずだ。

 

「まあ、いきなり究極体よりはマシよね」

 

インターネットのファイアーウォールや惑星の謎を解くソフトから生まれるデジモンなど、人間のプログラムから新たに誕生するデジモンも存在するし、中には人為的に生み出されたデジモンも存在する。

 

その中には生まれながらに究極体なんて規格外もいるのだ。ダークマスターズのように。他にもネットワークを悪用する人間の悪意などがデジモンの卵となってデジタルワールドに発生する例もある。

 

ここまで考えて、ディアボロモンは後者なのだとジュンは気づいた。

 

「ゾッとしないわね、まったく!」

 

アスタモンがゲートポイントをくぐりぬける。一面にツメモンたちが這いつくばっていた。

 

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