(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー) 作:アズマケイ
「アスタモンあぶない!」
ジュンは咄嗟にデジヴァイスをかかげる。コマンドを入力して結界を展開した。ツメモンたちが一斉に群がって来るがはじき返していく。結界1枚へだてて密集してくる虫みたいな気持ち悪さに生理的嫌悪感を抑えきれず、ジュンは顔をしかめた。
「ありがとうございます」
アスタモンはいきをはいた。
「アタシがここは何とかするからお願いね」
「了解致しました」
ジュンの胸元に光る紋章がかがやく。ジュンの精神的な気質から生まれたわけでもなく、特殊な力から生まれたわけでもないため、タグと紋章がなければ制御不能に陥る劇薬も、用法用量を守れば立派な戦力となる。
結界の中でアスタモンの姿がみるみる変わっていく。一瞬真っ黒に染まったデジヴァイスから青い紋章が浮び上がる。ダウンロードされた紋章により、アスタモンは本来の力を取り戻す。黒い旋風がどこかに消えてしまったころには、ジュンの後ろには新たなる姿を獲得したパートナーがいた。
「あれ?」
脳裏に焼き付いて離れないベルフェモンレイジモードではなく、随分と可愛らしい姿が現れた。
羊のように丸みを帯びたツノ。悪魔の羽のような耳。鎖で羽交い締めにされ、その中央には目覚まし時計。目覚まし時計をかかえたままねているぬいぐるみ。
「えっ、ちょっ、まさかのスリープモード!?聞いてないんですけど!?」
可愛いとはいえ特大の大きさのぬいぐるみだ。真っ黒な羊のふかふかのぬいぐるみ。しかも眠っているようでいびきをかいている。
「え?」
すさまじい勢いでツメモンが駆逐されていく。よく見れば眠ってしまった個体が即死しているのが見えた。
「!」
後ろからベルフェモンを拘束している黒い鎖が炎を吹き出しながら逃げようとしていた個体を破壊する。
「け、結果オーライ、かしら?はは......」
ジュンは苦笑いしながらゲートポイントから次々撃破されていくツメモンをみていた。デジタルゲートを妨害されて到着が遅れただけでもうこれだけの数だ。いくらまだ幼年期Ⅱのデジモンにすぎないとしても、ここから成長期のケラモンに進化することが出来る。
爪を使って動くことで、移動速度が格段にアップし、凄まじいスピードでデータを破壊する。捕獲するのは難しい。 触手の先が鉤爪状になり、凶暴さも増している。
ここで少しでも個体を減らしてベルフェモンの糧にしてしまえば全体的な弱体化になるかもしれない。だが一体でも逃したら最後、それこそゴキブリのように復活してしまうことになる。それは困る、非常に困る。中途半端なままこちらに来てしまったために未確認なままのパケット島上空の亀裂も気になる。
「ああもう、なんでこんな時に次から次へと問題が起こるのよー!」
ジュンの悲鳴はベルフェモンの安らかな寝息から発生するエターナルナイトメアにかき消された。
どうやらベルフェモンスリープモードはレイジモードが物理攻撃主体なのに対して魔法攻撃主体のようだ。しかも必殺技のエターナルナイトメアは全体攻撃、かつ貫通攻撃で、ツメモンの半数を即死させていることから50%の確率で眠り状態にできる効果付。
生き残っても睡眠状態。生き残らない場合は即死。生き残って眠らなくても黒い鎖が炎を吹き出しながら追尾して破壊しようとしてくる。
どうやらツメモンに状態異常は有効なようだから、固まっている相手にかなりのプレッシャーをかけることができる優秀な必殺技だ。ただ、知力を倍計算する貫通系必殺技ではないので、そこまでの大ダメージを狙うのは難しい。
「さすがは七大魔王の一角だけあるわ、強い」
ただしくは呼ばれることになる、がつくが。この時代にはまだ七大魔王なる組織は存在しない。
さすがはダークエリアの最深部に封印されているといわれる魔王デジモンである。強大すぎる力を持つため、デジタルワールドのシステムによって、データをスリープ状態にされているといわれているが真偽は定かではない。
深い眠りについているため、自ら攻撃を繰り出すことは出来ないが、寝息だけでデジモンにダメージを与えることが可能であり、そのためベルフェモン:スリープモードの寝込みを襲うことは容易ではないだろうとはいわれていたが、こういう意味だとは知らなかった。
安らかな寝息から発動するエターナルナイトメアと、体に巻きついた鎖から発する黒い炎ランプランツスを間近で目撃したジュンは、笑うしかない。そりゃ永遠の眠りを約束してくれるだろう。
「怠惰を司るだけはあるわ......」
ベルフェモンが司る七つの大罪のうち、怠惰とは、すべきことを怠ける様子を表す言葉である。
キリスト教では、七つの大罪のうち他の六つが人の欲を発端にするのに対し、こちらは逆に放棄を端にする言葉だ。
本来の教義での意味は「仕事をせずに怠けている状態」ではなく、宗教で定められた安息日を使わず働き続ける事で、本来の自分の姿を見失うことを戒めたものである。
そういう意味ではジュンのパートナーにホメオスタシスが選ぶのはある意味であたっているのかもしれないが、ジュンはそこまで頭は回っていなかった。
ベルフェモンの頭にしがみつき、逃げようとしているツメモンがいないか必死で探し回る。すると、会社や一般家庭、もしくは携帯電話、パソコン、と様々な使用者の様子を現実世界から覗き見ることが出来ていたデジタルゲートが次々としまっていく。
「やった、ゲンナイさん、間に合ったんだ!ベルフェモン、チャンスよ!」
ツメモンたちは逃げ場を失い、蜘蛛の子を散らすように逃げていくがデジタルゲートはどんどん閉まっていく。とうとうあとひとつとなったために、そこ目がけて無数に増殖していたツメモンたちが殺到していく。
統制も誘導もされていないツメモンの群れの流れが、通行の邪魔になるベルフェモンの攻撃により、流れがさえぎられ、そこの密度が高まり、さらにその塊が周囲の交通を妨害する。やがて許容量を超えてさらにツメモンが殺到、デジタルゲートにひびがはいる。
ベルフェモンの黒い鎖から火が噴く。その場にいたツメモンに甚大な被害を与えた。デジタルゲートは丸焦げになるが、ツメモンたちはただちにダークエリアに送られてベルフェモンの強化となる。
「やっぱり逃げられちゃったわね」
がしゃん、と最後のデジタルゲートが閉まる音が響き渡り、真っ暗になった世界でジュンはベルフェモンの頭の上でため息をついた、
「ジュン、どうじゃ?」
真ん前に出現したモニターからゲンナイさんが聞いてくる。ジュンは首を振った。
「だいぶ数は減らせたけど、数が多すぎるわ。最後のデジタルゲートから何匹も逃げちゃってます。もう幼年期2だったから、そろそろ成長期になっちゃってるかもしれない。私たちはここから追跡を続けるので、ゲンナイさんは他の選ばれし子供たちを先回りさせてあげてください」
「わかった!そちらは頼んだぞ」
「はい」
ジュンはゲンナイさんが再び開いたデジタルゲートからツメモンたちの追跡を開始したのだった。
「あいつら、こっちが考えている以上に進化速度がはやいです!ネット上のデータを食い荒らしまくってるんだわ。はやいとこ倒さないとやばいかも」
「よし、わかった。ベルフェモンですら倒しきれなかったということは、他の選ばれし子供たちにも伝えよう」
「一斉攻撃する知能もあるみたいなんで、全体攻撃できる世代に進化しとくよう伝えてください」
「わかったぞい!」
ジュンはベルフェモンの姿が収束していくことに気がついた。紋章がタグに収まり、パートナーはアスタモンに戻ってしまう。
「あれ、どうしたのアスタモン」
「残念ながらベルフェモンですと容量が大きすぎてネット回線を通れないようでしてね」
「あっ、やっぱそういう障害もあるのね!?そうよねー、光が丘霧事件からまだ7ヶ月しかたってないもんねー!光通信導入してるとこ、先に調べとくべきだったわ!」
「仕方ない、次に生かすとして急ぎましょうジュン。ワタクシたちが交戦しているせいで進化が早くなっている」
「えっ、ツメモンたちはベルフェモンに取り込まれたんじゃないの?」
「あの新種はデジタルモンスターの原種に極めて近い性質をしているようだ。コンピュータウィルスと何ら変わらない。死ぬ寸前に自身をコピーして個体を生み出している」
「えええっ、幼年期のくせにデジタマが作れるの?」
「デジタマではありませんよ。ひとくちにコンピュータウィルスといっても色々ありますからね。データに自己学習機能をそなえたコンピュータウィルスが感染し、自我を持ったのが我々デジタルモンスターなのだ。悪意が自我を持った結果がこうなのでしょう」
「厄介ね、ほんと。知ってたけど!」
ジュンの頭上にはゲンナイさんがツメモンたちの現在地を教えてくれるマップが展開している。アスタモンは先を急いだ。