(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー) 作:アズマケイ
朝から大輔は京の家に遊びに来ていた。伊織のお父さんが亡くなってから7ヶ月たち、今日は7度目の月命日の日から数日たっている。伊織のお母さんとおじいさん、おばあさんが親戚とお寺に行くというので、伊織は京の家に遊びに来ていたのだ。
学校の宿題もそこそこに京が千鶴と一緒に長男のパソコンを勝手にあそび始めた。なんでも1番上の百恵さんが演劇部の音響担当らしく、それなりの設備が必要だということでお下がりをもらったらしい。お姉ちゃんが部活でいないのをいいことに、いつもは出来ないインターネットで遊んでいる。
ついでに大輔は京に言われてジュンからノートパソコンを借りてきている。パソコンがひとつしかないと画面を見るには4人で1台だと狭すぎるのだ。いつもは貸してくれないジュンなのだが。
ここのところずっとデジタルワールドにかかりきりで大輔と遊んでくれないことをすねたら貸してくれたのだ。なんでか知らないけど太一か光子郎からメールが来たら、171をつけて電話するよう言われている。またなにかあるんだろうなとは思っているが、デジモンのことは誰にも内緒なので大輔は黙っていた。
「それにしても伊織のおばさん、今回はダメなんて珍しいわよねー。なにかあったのかしら?」
「ぼた餅もらったんだし、いいじゃん」
「あっ、こら大輔くん。ひとり一個だからね」
「えー、こんなにあるのに?」
「伊織ならともかく大輔はだめよ、ぼた餅食べに来たんだから」
「えー。だめかー?伊織」
「えっ、僕はどっちでも......大輔さんがきてくれてうれしいし......」
「そーいうのがダメなのよ、伊織。大輔全部食べちゃうわよ」
「食べないよ!」
「えー、じゃあどうしてスマブラで遊んだ時、みんなのポテチ食べちゃったの?」
「みんなが食べるの遅いからだよ」
「そーじゃなくて!」
ぎゃいぎゃいうるさい空間ながら伊織はどこか嬉しそうだった。
「なんとなく、わかってるんです」
「え?」
「ん?」
「なにが?」
「僕、この前の月命日にお父さんの友達だった人にあったんです」
「伊織のお父さん?」
伊織はうなずいた。
「お墓の前で花をそなえて、線香を立ててました。お母さんは知らなかったけど、おじいちゃんは知ってるみたいだった」
「よかったじゃない」
伊織はくびをふる。
「及川さんて人なんですけど、おじいちゃんがいきなり怒り出して......僕、お母さんにつれられて先に家に帰ったんです」
「えっ、なんで?」
「及川さん、お父さんが死んじゃったこと、知らなかったみたいで。おじいちゃんが教えてなかったみたいで」
大輔たちは顔を見わせるのだ。
「なんで来たっておじいちゃんが」
伊織は豹変した祖父が忘れられないようで不安そうな顔をしている。伊織の祖父は剣道の師範代として道場の先生をするほど有名な人だ。伊織のお父さんがSPをするほどなのだから。遠い異国で殉職してから伊織はお母さんと一緒に同居している。厳しい人だが感情的に怒鳴り散らす人ではないと知っているだけあって、話を聞くだけでわけがわからない。
「なにかあったんじゃない?大人の事情ってやつよ」
興味なさそうに京はいった。方向転換するつもりなのだ。
「それより大輔、大輔、これなんて書いてあるの?」
「え、なにが?」
「ほら、メール」
大輔が覗き込んでみると、そこには英語がたくさん書いてある。
「これ、英語でしょ?」
「うん」
「読めるでしょ?」
「うん、ちょっとだけ。でもいいの?ここに、ジュンさんへって書いてあるけど。お姉ちゃんのメール、勝手に見ちゃダメだよ」
「え?あ、ほんとだ」
「わかってないわねー。あのジュンさんが同じ人と頻繁にメールしてるのよ?絶対あれよ、好きな人」
「えー」
大輔は名前を見てみる。
「違うよ」
「なんでわかるの?」
「そうだったら光子郎さんや治さんも好きな人になるよ?この人、僕しってる。お姉ちゃんがいっつも夜遅くまでチャットしてる人。ロスにいる小学生で、ハーバード大学に通ってるすごい人なんだって。すっごい頭がいいから、なんか難しい話してるの見たことあるよ」
「なんの話?」
「わかんないけど、なんかすごい話。データがどうとか、こうとか」
「ふーん、そうなんだ。でも、それならもっと気にならない?なんか動画がついてるし」
「あ、ほんとだ」
「ジュンさん、ゲーム作ってるじゃない?もしかしたら、新しいゲームかも?遊んでみない?」
京の提案にみんな興味を示した。
「待って待って、ゲームかまだわかんないから読んでみる」
大輔はあわてて止めに入った。ロスの小学生はジュンと一緒にデジタルワールドのことを手伝っていると大輔はしっている。うっかりデジモンに関係することがバレてしまったらお姉ちゃんたちに迷惑がかかってしまう、と大輔は思ったのだ。
大輔は画面を表示して、一生懸命読んでみる。
「大輔くん、そんなことしなくても英語なら日本語に直せるのよ?」
千鶴は学校で習ったばかりのことを知らせたくてたまらないのだ。横からマウスを横取りしてホームページを開き、日本語訳のサイトを開いて英文をコピペしてエンターキーを押してしまった。機械的に表示されている日本語はなかなか解読が難しいがだいたいのニュアンスはわかった。そこにはこう書いてあった。
インターネット上にモンスターが生まれた。ジュンに言われた通りアメリカのいろんな機関の説得に動画などを添付してメールを送ったが却下された。エージェントに説明をお願いしたのに、お偉いさんたちは一笑して、よく出来たおもちゃだと褒められただけだ。これ以上出来ることはもうない。ジュン、みんなに知らせてくれ。
なんだか意味深なメールだ。京たちの目が輝くのがわかった。大輔だけはジュンがまたデジモンと戦っていることはわかったので誇らしい気持ちだったが、メールだけみたらとんでもないことが書いてある。
アメリカのなんとかっていう世界で1番すごいハッカーたちがいるところが見過ごしている何かがあって、それをジュンたちが何とかしようとしているのだと京たちはわかってしまったのだ。
ジュンがそこら辺にいるただの中学生ならごまかせたが、ジュンはパソコンがすごく出来る子だと妹分、弟分たちはよく知っている。しかも京はジュンの影響をうけてパソコンが好きな子だったから、たぶん大輔よりもはるかにことの重要性を理解していた。
「ジュンさん、そうじゃないかとは思ってたけど、やっぱりスーパーハッカーなのね!もー、大輔ったら言ってくれたらよかったのに!」
ばしばし肩を叩かれて、大輔は途方に暮れた。幼なじみのエンジンがかかってしまった。もうこうなったら誰も止められない。ここにいるのは煽り常習犯の千鶴お姉さんと弟分の伊織、そして押しに弱い幼なじみの自分だけだ。お姉ちゃんごめん、デジモンのことバレちゃうかもしれない、と大輔は自分の不甲斐なさをネットのどこかでがんばっているであろう姉に謝ったのだった。
京が動画を開いてしまう。なにがあるのかみんなで覗き込もうとしたとき、電話がかかってきたのかキッチンの方から声がした。
「大輔君、お友達から電話よ」
「え?あ、はあい」
大輔はあわててキッチンに向かう。京そっくりのメガネをかけているおばさんから受話器をうけとり、大輔はもしもしと耳を押し付けた。きっと太一か光子郎だと思ったからだ。内緒話をしなければならない。
「よかったー!通じたー!!ありがとうな、大輔!!出てくれてありがとう!」
なんだかよくわからないが物凄く喜んでいる太一に大輔は疑問符を浮かべた。
「大輔は出てくれたのに、なんで肝心のやつらは電話にでねーんだよ、選ばれし子供たちが出動しなきゃいけねーってときに!」
余程イラついているのか太一は愚痴り始めた。今、インターネット上で新しいデジタルモンスターが大暴れしていて、最初に気づいたジュンがアスタモンと共に追いかけてくれているのだが、他の仲間がなかなか捕まらないらしい。
「そりゃ、あんときみんな予定あるとは言ってたけどさあ!まさか同じ日とは思わねーじゃん!」
さいわい事態を知らせてくれた光子郎はすぐ隣にいるらしい。奥の方から小麦粉がどうたら、卵がどうたらと聞こえるから太一のおばさんが何かおやつを作っているのかもしれない。
問題は他の選ばれし子供たちだ。丈は志望校の中学受験の前期日程に落ちているため、滑り止めを受けてから満を持しての後期日程らしい。まさに背水の陣である。この時点で太一は諦めた。
光は友達の誕生日パーティからなかなか抜け出すことが出来ず、何度電話してもそれどころじゃないと切られてしまう。世界の危機より大事かよと太一は絶叫しているが、大輔からすれば光は太一をはじめ誰にも不思議な力を打ち明けることが出来ていなかった。
選ばれし子供たちにようやく明かすことができたために大輔からみても明るくなっている。初めてできた友達から初めてのお呼ばれ、しかもお誕生日会ときたら無理もない気がした。
そしてヤマトとタケルは島根県にある父方の実家に預けられており、耳が遠いおばあさんのせいで電話を切られたから再チャレンジしたい。
ミミは両親とハワイである。初めから掛けられない。ホテルの名前から電話番号はわかっても国際電話の料金を光子郎から教えてもらって断念した。
治は滋賀県で行われているジュニアユースの地域交流会にでていて、賢は家族と応援にいっている。サッカー場にパソコンがあるとは思えない。というか日程をネットで調べたら試合の真っ最中だから多分無理だ。学校でやるみたいだから電光掲示板がないであろう大会で、今のネット上の大騒動には気づけない。ダメ元で大会事務所に電話をかけてみたがスタッフは出ているのか留守電だった。
そして遼はトルコだ。家族旅行でトルコである。
「太一さん、空さんは?」
「えっ?」
「空さんなんにも予定ないってお姉ちゃんが」
「そ、空のやつ出かけてるみたいで捕まらないんだよ!」
「え、そうなんですか?」
「そうそう、そうなんだよ。何回掛けてもつうじなくてさー、ははは」
「太一さん、171!」
「へ?」
「お姉ちゃんがいってました。171に電話番号つけると繋がるって!」
大輔の言葉にまじか!と太一はつぶやいた。喜んでくれるかと思いきや微妙な反応に大輔はあれ?と思った。
「えーっと、それで、なんですか?」
「そーだそーだ、大輔、パソコン貸してくれ!」
「へ?」
「ジュンさんのパソコン!今もってんだろ?よくわかんねーけど、アグモンたちを進化させなきゃいけないんだけど光子郎のパソコンだけじゃ足りないみたいなんだ。頼むよー!」
「えええっ!?」
「大輔だけが頼りなんだ!頼む!」
「でも......」
「でもなんだよ」
「僕今友達んちで、××団地にいるん」
「えええっ!?まじかよ、どこだそれ!」
「えーっと、豊洲の......」
「何分かかる?」
「ゆりかもめで9分くらい......?」
「まじかっ!?あーもう仕方ねえな。超特急でこいよ!アグモンたちの転送にそれくらいかかるみたいだから!!」
「は、はい!」
大輔は受話器をおいた。そしていざ京たちのところに行こうとしたところ、廊下に京たちが顔だけ出して待っていた。
「え、えっと......」
「話は聞いたわよ、大輔!よくわかんないけど大変なことになってるみたいね!」
「パソコン、いるのよね。はい」
「あ、ありがとうございます」
「いってらっしゃい、大輔さん。がんばってください」
よくわからないまま、敬礼で送り出された大輔は疑問符を浮かべたまま京のマンションをあとにした。
「ふっふっふー、よーしジュンさんたち応援しましょー!」
ちゃっかりメールを百恵のパソコンに転送していた京はそういって千鶴と伊織に宣言したのだった。