(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー) 作:アズマケイ
空はシーリアお台場三番街に住んでいる。お台場海浜公園の美しい景色と東京湾の眺望が広がるタワーマンションと低層住宅の複合街区だ。空はタワーマンションの住人だ。棟内にキッズルームや集会室、パーティールームがある。
シーリアお台場の中では駅への距離、お買い物、公園、学校などがほど近く、バランスのとれたエリアだ。
近隣はオープンテラスのあるレストランやカフェが並ぶ洗練された街区、レインボー公園や台場公園も至近。今年からゆるやかに計画がはじまったお台場の特性を活かした小中一貫教育を実施する小中学校も近く、9年間という長期的な視点を通じてお子様の成長を見守る。
季節を通じて行われるお台場ならではのイベントも間近で楽しめる。
どこもグレーを中心とした色のマンションをでて歩き出した空は上を見る。それは太一が住んでるマンションだ。
「......もう」
ケースに入っている電子辞書のような端末をみては溜息をつき、空は歩き始めた。
今日はやけに遠く感じる緑と水に囲まれた自然豊かなマンション、シーリアお台場のなかでも最もレインボーブリッジに近いタワー棟が一番街だ。
今の空には自分を寄せつけない圧力があるタワーマンションにしか見えなかった。保育園や区民センターになっているためだろうか、園児たちが保育士につれられて歩いていくのとすれ違った。空はしばらく迷ったすえ、道路を挟んで向かい側にあるデックス東京に足を運んだ。
デックス東京ビーチは船をモチーフにしたショッピングセンターだ。
船の甲板のようなウッドデッキ張りのオープンテラスをはじめ、館内にもいたるところに船を連想させる装飾が施されている。海からの心地よい潮風にあたりながらデッキを散歩し、まるで豪華客船で東京湾をクルーズしているような気分でお食事、お買い物をお楽しみいただける、がコンセプトである。
ノートパソコンをみてはソワソワしている空は時間つぶしに歩いて回っていた。ちなみにこの辞書サイズのノートパソコン。お台場小学校とお台場中学校が中高一貫になるということで、文部科学省のなんとかフロンティアの指定校になったため、全ての生徒たちに試作品として教材が配られていた。
お台場中学校パソコン部が小中学校プログラミング大会にて準優勝したからである。いわずもがなジュンたちが頑張ったからだと空は知っている。いずれ大活躍する日が来ることなど知るはずもない空はさっきから何度も何度もメールフォルダを確認していた。
空はノートパソコンに一生懸命であまり気にしていなかったが、スタッフがあわただしく観光客の対応におわれていた。
吹き抜けに飛び出したレールを猛スピードで駆け抜ける屋内最恐コースターをはじめ、バラエティ豊かなアトラクションが20機種以上あるアトラクション。デジタルとリアルが融合したデジタリアルな空間で、非日常体験を!が売りなはずなのに中止中だ。なんでも故障したらしい。緊急メンテナンスの看板がはられている。
「ふうん......」
興味なさげに一瞥した後、空はハリウッドスター、スポーツ選手、ミュージシャン、歴史上の偉人など国内外のスターの等身大フィギュアが60体以上展示されているコーナーをすぎた。アトラクションがメンテナンスということでフィギュアには自由に触れられ、記念撮影もOK、最高のセレブ体験が味わえるコーナーということで今までになく賑わっている。
テーマ別の作品を作るレゴ教室やレースカーを組み立てるレゴレーサーやアスレチックをはじめ、シューティングゲームや4Dシネマ、巨大レゴジオラマなど家族で楽しめるアトラクションがいっぱいの屋内型施設があるのだが、どれもこれもザワザワしている。スタッフが忙しそうだ。
「ここも、そこも、メンテナンス中なんだ」
ほとんどが緊急メンテナンス中である。遊ぶところがないなあとぼんやり思いながら、空はウッドデッキに出た。ノートパソコンを開いた。メールの着信はない。
「......太一のバカ」
ぱたん、と閉められたノートパソコンを抱えて空は歩き出す。
今日はなんだかおかしな日だった。ほんとは思いっきり遊ぶつもりだったのだがゆりかもめの運行システムがおかしくなったせいで、びゅんびゅん異常走行しているらしく、見合わせになっていた。おかげで友達との遊びに行く約束がなくなってしまったのだ。急に退屈になってしまった空は意味もなくシーリア台場付近をウロウロしているというわけである。
柵に体を預けてため息だ。そして太一のマンションを見上げた。またためいきをついて、視線をなげる。なんだか騒がしいからだ。喧騒の先にはさっきすれ違った保育園の園児達が大迫力の映像にかじりついている。保育士さんたちは困り果てていた。どこかにいくつもりだったのだろう。
「えっ」
空は思わず2度見した。身を乗り出して食い入るように見つめる。向かいの通りの方に巨大なモニターがあるのだが、そこにアスタモンがいるのだ。ジュンがモニターにうつっており、黒いデジモンと戦っている。
「うそ、なにかあったらゲンナイさん......連絡、くれるって......」
もしかしたら何かあるかもしれないから、今年はずっと持ち歩こうと決めていたデジヴァイスをみる。ノートパソコンにはなんの連絡もなかった。太一はおろか光子郎も、ジュンも、ゲンナイさんもだ。喧嘩をしている太一はともかく他の人から全然メールが来ないのは明らかにおかしい。
はたと八神さんの電話から、と母親から聞いたことを思い出した空は青ざめた。太一からかかってきたら母親はいつも八神くんからといっていた、おばさんからなら八神さんからだ。じゃあ、八神さんの電話から、の続きはなんだ?太一と早合点して聞かなかったがとんでもないことをしてしまったのでは?脳内にぐるぐる色んなことが回っていく。
よくよく考えてみたらゆりかもめといいアトラクションといいおかしなことだらけではないか。頭がいっぱいだったとはいえなんてポカミスをやらかすのだ。空はあわてて太一のマンションに向かった。
太一との喧嘩はこの際棚上げだ。アスタモンとジュンが戦っているということは太一は別の敵と戦っているということだ。分断を強いられるなんてとんでもない強敵にちがいない。
空はシーリア台場一番街のあるタワーマンションのエレベーターを押した。はやくはやくはやくと待ちわびている中、ふとノートパソコンが目に入る。まさかと思って件名だけでメールを作成し、太一に送ってみた。メールが拒否されました、となる。同じメールをジュンに送ってみる。やっぱり拒否されましたとでる。
空はとんでもない勘違いをしていたと気づいて汗がうかんだ。
ピンポンとチャイムをならす。
「はあい」
「こんにちは、太一いますか?武之内空です」
「あら、空ちゃんも呼んでるのね、太一。たくさん呼ぶのねえ、ゲームでもしてるの?どうぞ、あがってあがって。なんか書斎にこもって光子郎くんと大輔くんとパソコンずっとしてるのよ」
にこにこしながらおばさんが迎えてくれた。やっぱりいいいっと空は思った。お邪魔します、とお辞儀をしてスリッパをはき、空は麦茶をすすめてくるおばさんに断りをいれて書斎に向かった。
ノックをしてみる。
「なんだよ、母さん。お茶はいいっ......て、」
太一は固まった。
「なな、ななな、なんでちょっ、え!?」
「ごめん、太一!」
「えっ」
空は謝った。
「交差点のモニターみたの!ジュンさんたちが戦ってるのが映ってたからとんできた!!このこと連絡するつもりだったのね、無視してごめん!!」
「......電話したの僕ですけど」
「......やっぱり喧嘩してたんですか、太一さんと空さん」
「......うん、そうみたいだよ、大輔くん」
「......なんで?」
「......さあ?」
「あーもうお前らうるさいな!ちょっと黙っててくれよ!!そーいうことなんだよ、来てくれて助かったぜ空!こいよ!」
「うん!」
うなずいた空を見て、光子郎たちはホッとしたように笑った。
「空さん、アスタモンの加勢をお願いします。こいつ、なかなか強敵で加勢に行けないんだ」
「わかったわ」
「空ちゃん!来てくれて嬉しいわ。アタシのパソコンなら究極体でも転送できるからお願い!今、フジテレビで交戦中なの」
「わかりました!」
「空ー!」
「ピヨモン、待たせてごめんね!頑張って!」
「うん!」
空はデジヴァイスをジュンのパソコンにかかげる。デジヴァイスが光り輝き、ピヨモンがワープ進化する。転送しながら進化が行われる。フジテレビのネットワーク上にジュンはデジタルゲートを開くのだ。
空が交差点でみたときよりアスタモンを取り巻く状況は悪化の一途を辿っていた。黒いデジモンは自分を複製できるようで黒々とした壁が広がっているのがわかる。アスタモンはデジタルゲートを感知して攻撃をしかけようとするインフェルモンたちの軍勢めがけて継承スキルを発動した。
「ゲヘナ・フレイム」
デジタルゲートに打ち込まれた無数の弾丸を炎が飲み込みながらインフェルモン目掛けて迫ってくる。じりじりと肌をあぶられるような熱気を感じて、アスタモンは僅かに後退した。立ち込めた黒煙がまとわりついてくる。
炎が球体空間全体を舐め始め、デジタルゲートにも熱を帯びた黒い煙が入ってくる。痛みを伴った熱気が蜂のように襲い掛かってきて、阿鼻叫喚が広がった。
アスタモンはデジタルゲートの向こう側から来るであろう味方のフレンドリーファイアを回避すべく支援してくれるジュンを待った。ただちにアスタモンの周りに結界が出現する。
「死してなお地獄の業火に焼かれなさい」
生き残ったインフェルモンたちは姿勢を低くした。そうすることで煙が弱まってくる。目線を床に近づければ近づけるほど炎が灯りとなってほんのりと視界が利いてくるようになった。そして目の痛みも和らぎ、少しだけ呼吸も楽になる。黒煙の隙間からオレンジ色の炎が見えかくれする炎が出口を求めて上へ下へ渦巻く。その先にアスタモンの影を見て、報復を開始しようとした。
「ホウオウモン、お願い!」
空の言葉が合図だった。デジタルゲートから眩い光が走り抜け、黄金色に輝く4枚の翼を持った聖なるデジモンが降臨する。全ての鳥型デジモンの長であり、神聖系デジモンを統べるものと言われている。
ホーリードラモンが獣型デジモンの究極形態であるのに対し、ホウオウモンは鳥型デジモンの究極形態である。神聖系デジモンの証でもあり、聖なるパワーを引き出す「ホーリーリング」を2つも持つところから、ホウオウモンの持つパワーが計り知れないことが理解できる。
「スターライトエクスプロージョン!!」
開幕早々の一撃必殺だった。神々しい4枚の羽を羽ばたかせて黄金色の粒子を降り注ぐ。この技を受けると、全ての悪は浄化されるとまで言われるウィルスバスターの効果がある光線がインフェルモンたちに直撃した。
世界は光に包まれた。