(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー) 作:アズマケイ
ある州のネットワークに入ってからディアボロモンは逃げの一途を辿っていた。撹乱作戦を混じえながらだから戦略的撤退なのだろう。遊びながらなのはかわらない。
セラフィモンたちも完全体に退化したり、究極体に進化したりを繰り返しながら順調に追い詰めていく。その証拠に自分の無数のコピーで埋め尽くした空間に誘いこんでリンチを仕掛けるというお得意の戦法を使って来なくなったのだ。このディアボロモンはブラックガスから発生した個体ゆえにセラフィモンの聖なる力は効果が抜群で、セブンセンシズによる一掃には歯が立たないのである。通常ならば光でも闇でもない正体不明だが、おそらくジュンがデジモンアナライザーを使用すればウィルス種という判定が出るに違いなかった。
ネットワークの緩い上り坂からアメリカの公共施設のネットワークへと空間が切り替わった。ディアボロモンはそれまで感じていた重力による苦痛はだいぶ軽減したとばかりに縦横無尽に飛び回り、アメリカのネットワークセキュリティシステムにより閉じられいくシャッターの隙間に入り込む。その度にジュンはあらゆる手段で持ってハッキングと同時並行でメタルガルルモンたちの舗装路を構築し、誘導し続けた。
ジュンもサマーメモリーズの爆弾テロ事件について調べている海の向こうの友達たちの協力がなければきっとここまでヤマトたちのバックアップはできなかったに違いない。
今のジュンたちはディアボロモンのことを知らないアメリカ政府からすれば正体不明の悪質なクラッカーとかわらないがとやかく言っている暇すらなかった。警告は再三したのだ。エージェントによる説明すらよく出来たおもちゃだと笑った大人達がわるい。
これからくるデジモンという存在の広まりと同時にディアボロモンのやらかしたことに追随するクラッカーチームがあとを立たなくなるのだ。撃退のお手本となるべくジュンは必死だった。来るべき未来のために種をまいているジュンなど知る由もなく、ヤマトたちは必死でパートナーデジモンたちを応援していた。それこそが彼らをなによりも強くするのだ。モニターごしにしか言葉を交わせない、見ていることしかできない、ジュンみたいに出来ることがないもどかしさをかかえながらしっかりと活躍を目に焼きつける。
「しっかし、やつは一体なにを探してるんだ?」
「ワシントンDCでもニューヨークでもないなんて変よね、そもそも」
「言われてみればそうだな。日本だと俺たちも知ってる観光地や大企業のネットワークばかり入り込んでるみたいなのにさ」
「わざわざワイオミング州にいくなんて何考えてるんだろ?」
そんなヤマトたちを見守りながら、アメリカの選ばれし子供たちは喋り始めた。ジュンたちがアメリカに詳しくないことがわかり始めたからだ。
「ワイオミング州?どんなところなの?」
唯一英語が話せるジュンは聞いた。
「アメリカ合衆国西部の山岳地域にある州だ」
「グランドティトン国立公園が観光地よ」
「イエローストーンが有名かな」
「自然豊かなところなんですね」
「デジモンが1番行きたくないところだと思うよ。広大な自然、大都会とは程遠い環境、時々あの金髪の子が叫んでるシマネってところとよく似てる」
「日本にもあるんだね、そんなとこ」
ジュンはいい流れだと思いながら話を聞いていた。ディアボロモンがハッキングしようとしているところがデジタルワールドの冒険と同じかどうかわからないのだ。あいにくジュンがいったことがあるのはアメリカといってもペンシルベニア州のフィラデルフィア、あるいは農村部だ。ディアボロモンが逃げ回っているワイオミング州より北東部、または大西洋岸中部に分類される州である。
ディアボロモンはジュンの時代でもネットワーク上のあらゆるデータを吸収して進化と巨大化を繰り返し、電脳世界で破壊の限りを尽くすデジモンとしてよく知られた存在だ。サイバー犯罪のクラックチームがどれだけ蘇生させようとしたことか。
まさに今、多くのデータと知識を吸収したディアボロモンは自らを全知全能の存在と思い込み、破壊と殺戮を楽しんでいる。
数多く居るデジモンの中でも、その存在目的がはっきりしており、その最終目的は、軍事用コンピュータを乗っ取り現実世界をも破壊しようとしているのがまだマシだった。それと今の事態が同じなのか見極めなくてはならない。早急に。
「パソコンがあるのってどこかしら?やっぱ大学?」
「うーん、この辺りは有名どころはないね。それより、軍の方かな」
「軍?アメリカ軍?」
「うん。ワイオミング州・フランシス E. ワーレン空軍基地。第20空軍。
大陸間弾道ミサイルがあるよ」
「まさか」
「まっさかあ」
「さすがにデジモンでも無理だよ」
「そうそう、大統領が命令したって確認しなけりゃ発射はされないんだから」
笑い話になるはずだったのだが、そうも言ってられなくなってくるのだ。騒ぎ始めたのはやはりアメリカの選ばれし子供たちだった。
「あいつ、どこにいく気なんだ?!」
「この先は軍施設だぞ!?」
アドレスを見てジュンは青ざめた。
「まさかミサイル発射する気じゃないでしょうね!?」
ジュンの叫びにディアボロモンを追いかけているメタルガルルモンたちは青ざめた。
「みんななんて言ってるの、ジュンさん!?」
「ミサイル!?」
「なんかとんでもない事になってないか!」
たまらずタケルたちが叫ぶので、ジュンは説明するのだ。
「今みんなが潜り込んでるのはアメリカ空軍のネットワークなのよ!大陸間弾道ミサイルが配備されてるんですって!聞いたことあるでしょ、冷戦時代に作られた核ミサイルよ!」
ヤマトたちは耳を疑った。
「核ミサイルって、あの核?広島と長崎に落とされたやつ?」
「まじかよ、嘘だろ!?」
「えええっ!?」
今、まさにディアボロモンが不気味な笑い声を上げながら入り込んだ先には、ピースキーパーと書かれていたものだからアメリカの選ばれし子供たちは阿鼻叫喚となる。
「なんてこった!」
「なに考えてるのよ、勘弁してよ!」
「まさか第三次世界大戦でも起こす気なのか!?」
「なに笑ってるのよ、こいつ!」
「はやくアイツをとめてー!」
「ふざけるなよ、ピースキーパーはSTART IIで2002年に廃棄が決まってるんだぞ!やめろ、よせ!」
ヤマトたちはわからないままジュンをみる。
「さっきのピースキーパーって単語、核ミサイルの名前なんですって!急いでみんな!ほんとにシャレにならなくなってきたわ!!」
メタルガルルモンたちは意味がわからないようで困惑しているがモニターの子供たちが焦りまくっているのでやばいことだけはわかったらしい。なんとかディアボロモンに追いつこうと懸命にネットワーク空間を走り抜ける。
するとジュンとは違うところからデジタルゲートが構築され、ウォーグレイモンたちがあらわれた。
「ごめんなさい、僕のパソコンのメールに乗ってあいつアメリカに逃げちゃったみたいなんです!」
「もしかしてロスの友達の?」
「相談しながらメールしてたら成りすましメールでサーバに入り込んだみたいで!」
「うっそでしょー!?軍とかに交渉お願いしてたのが裏目にでてるーっ!?!」
「予想外です!」
「まじかよ!」
「あいつら、分裂したくせにこんなに離れてて互いに考えてることがわかるのか!?」
「あーもうますます嫌な予感がしてきた!太一くんたち聞いて!今、みんながいるのはピースキーパーっていう核兵器の保管されてる空軍基地のネットワークなの!あいつが入り込んだのは核兵器の発射台なの!なにがなんでも止めないとマジでやばいからお願いっ!!」
ジュンの絶叫に太一たちはたまらず青ざめたのだった。
ディアボロモン2体が溶けたチョコレートみたいにしっくりと混じりあって、ひとつのイメージとして分離不可能になっていく。重なりあって淀んでいく。渾沌としていく。
ジュンは息を飲んだ。
「嘘でしょ、元の一体に戻った......?なにを考えてるの?」
「よく見るんじゃ、やつのダメージが回復していく!」
怖気が走る。
太一たちの目の前でディアボロモン2体が完全に融合し、突然変異を起こし新たなる究極体のデジモンが誕生してしまった。
いや、もともと同じディアボロモンが元に戻っただけだからミレニアモンとは違うのかもしれない。
そいつはディアボロモンとは比べ物にならない巨体だった。ベルフェモンスリープモードが可愛く見えるレベルである。
姿かたちが完全に変わってしまったのだ。
「ミレニアモンと同じ……まさか、ジョグレスしおったのか!?まずい!」
ジュンは血の気がひいた。
ジョグレスはジョイントとプログレスを合わせた造語であり、合体進化という意味である。成熟期以上のデジモン同士を合体させることにより次の世代のデジモンに進化させることができる。また、合体進化には組み合わせに法則が存在するが、ジュンたちが最初に知ったのはムゲンドラモンとキメラモンがジョグレスして誕生したミレニアモンである。
「じゃが同一個体が合体するなど聞いたことがない!やはりこれが本来のやつの姿なのか!」
悪魔の雄叫びが響き渡る。背部から上空にエネルギー弾を放ち、四散したビームを雨の様に降らせはじめる。逃げるために距離をとったウォーグレイモンたち目掛けて大きく開けた口からエネルギー波を発射した。仲間をかばってその巨体をいかし、壁になったベルフェモンが真正面から被弾する。
「ベルフェモン!」
遼とジュンが叫んだのはほぼ同時だった。壁に叩きつけられたベルフェモンはみるみるうちに退化していく。
「まさか、究極体からさらに進化したの?ミレニアモンみたいに?」
「ひとつになったようにみえたが......」
ファスコモンにまで退化してしまった仲間をかばったホウオウモンが必殺技をくらってピヨモンになってしまう。アーマゲモンによく似たそいつはすさまじい勢いで滑空し、さらに奥に入っていく。
「まて!」
「逃がすか!」
ウォーグレイモンとメタルガルルモンが先導し、セラフィモンたちがおいかけていく。
「もう逃げられないぞ!」
行き止まりと書いてある看板をみて太一は笑った。その刹那、がしゃん、という音がした。
「なんだ!?」
空間中央に突如タイマーが出現する。
「お兄ちゃん、セラフィモンたちが!」
デジタルゲートがしまってしまい、セラフィモンたちは入れなくなってしまったのだ。まるで鉄格子の牢屋だった。もう誰も行き来することが出来ない。
「大変だわ!ピースキーパー、発射準備に入ったのよ!照準は……」
ジュンの操作するモニターが太一たちのみているパソコンにも表示される。世界地図がどんどん拡大され、いくつもの軌道が描かれては消えていく。ようやくひとつの放物線が描かれた。
「お台場よ!」
ジュンが告げた瞬間にディアボロモンは笑い出す。
「時計を持ってるのはだーれだ」
誰もが理解した。あれは起爆スイッチだと。そしてメタルガルルモンとウォーグレイモンの目の前でそいつは無数のインフェルモンたちに一瞬にして囲まれてしまうことになる。
ジュンのモニターの横に発射までの時間が表示された。