(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

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番外編詰め合わせ

光子郎は知らなかったが、お台場中学校とお台場小学校はもともと2010年を目処に小中一貫校の公立として統合することは決まっていたらしい。

 

もともと1991年5月、東京都の臨海副都心の開発計画に伴って計画され、臨海副都心の台場地区の住民に対応するために作られた小中学校である。計画ありきだったのかもしれない。

 

だが、1995年と1999年の光が丘において、2000年3月にも大規模なサイバーテロが行われた。いずれも電波障害を起こして爆弾テロや誘拐などを行う大規模の組織犯罪なのに犯人が捕まらなかった。

 

しかも世間にこそ伏せられたが、2000年はアメリカ軍がハッキングされてお台場に核ミサイルが着弾して海に沈み爆発がまぬがれるというとんでもない事件が起きた。もし爆発していたらお台場どころか東京23区が消し飛んでいたに違いない。核兵器だとはさすがに伏せられたが爆弾が落ちてきたのは事実であり、住人達はしばらく避難所生活を余儀なくされた。

 

この結果、ライフラインにサイバーテロおよびテロ対策が急務だとしてお台場全体が大幅に強化されることになった。改修工事などが急ピッチで進んだ結果、港区教育委員会において、「台場地区教育施設整備構想」が策定され、施設建設に係わる検討委員会が設置された。

 

幼稚園・小学校・中学校併設・併置型の学校施設が開校し、10年も前倒しで港区立小中一貫教育校として、小・中学校の組織を統合することになったのだ。

 

まさか通っていた小学校が5年目にして新築になるとは思わなかったが、ラッキーだと言わざるをえなかった。

 

なにもかもが新しい設備で、光子郎がなにより喜んだのは無線通信網が張り巡らされたことだ。おかげで安価な契約でインターネットをすることができるようになった。お台場内ならどこでも無線が繋がる。

 

そしてデジタルアーキビスト計画というお台場中学校パソコン部の功績が認められ、文部科学省から特別にデジタル教育が独自にゆるされることになったのた。当然小中一貫校であるお台場小学校にも実施されることになった。ディーターミナルという実験的にお台場の子供達に配布された無線メール端末が最たる進歩である。

 

そして、せっかく始まるデジタル教育の受け皿が授業だけなのはまずいと先生たちも考えたらしい。最新設備が揃っていて、お台場中学校パソコン部は全国区で有名なプログラミングに優れた生徒を排出しているといのに、お台場小学校はどうなのだと思ったのは皆同じだったようだ。

 

実は光子郎は1999年の冒険の後、サッカー部をやめてパソコン部を作りたいと考えた。だが部活なんて1から作るのは大変だ。どうしたらいいだろうかと個人的にお台場中学校パソコン部部長たるジュンに相談していたのだ。その結果、来年まで待てと言われた意味がやっと理解できた光子郎である。

 

光子郎は職員室に行って担任の先生にパソコン部を作りたいと相談するだけで良かった。食いつきがすごくよかったのだ。本宮ジュンと友達だからお台場中学校パソコン部に色々指導してもらうとか適当なことをいったらあっさりOKが出た。一応新しい部活を作るために顧問の先生と部員の名前を書かなければならないと言われて、それが一番苦労した。毎日活動したかったがそうなると運動部と文化部は兼業ができなくなる。だから一応月水金ということになった。幽霊部員が多い気がするがデジモンの事件が起こったら拠点にしたい下心もあった。

 

そして2000年春、晴れて光子郎はお台場小学校パソコン部初代部長となるために行動を開始するのだ。

 

「で、なんで真っ先にアタシに連絡寄越すかなあ、光子郎くん。一応こっちも新入部員に教えるの大変なんだからね」

 

同級生たちに余計な心配をかけまいと、パソコン部初の女性部長として全力投球中なのは知っていたが、光子郎はメールを速攻で返すのだ。

 

「部員になってくれそうな人に心あたりありませんか」

 

「光ちゃんが入るなら即答すると思うわよ」

 

「大輔くんにはもうお願いしてあります。光さんにもメンバー集めを手伝ってもらってるんですがなかなか」

 

「ハードル上げすぎなんじゃない?選ばれし子供たちだけで埋めちゃってもいいし。遊びでもいいからおいでっていったらどう?新設なんだから部員集めが先よ、先。やる気がある子だけすればいいんじゃない?」

 

「うーん......たしかにデジモンの事件の時本拠地にはしたいんですが、やっぱりパソコンに詳しい人がもう少し欲しいんですよ」

 

「気持ちはわかるけど、ネットやメールしかしたことない子にはプログラミングってハードル高いからね。音楽つくったり、写真とって加工したり、ホームページ作ったり。新聞部の手伝いもいいんじゃない?ちっちゃな実績の積み重ねは不可欠よ、がんばれ部長さん」

 

「ジュンさん来てもらうことって......」

 

「少なくても今日は無理、というか1週間は無理ゲーだわ!」

 

「そうですか......」

 

光子郎はためいきをついた。理想と現実がかけ離れすぎてつらい。

 

「大輔に任せてるなら大丈夫じゃない?少なくても2人は連れてくるわよ」

 

「え、2人もですか!?」

 

「今年、弟分が入学するし、幼馴染が転校してくるからね」

 

「へえ、そうなんですか。転校生多いなあ」

 

「そうよねー、やっぱり小中一貫校効果ってすごいわよね。あとお台場大改修に伴うタワーマンション増築」

 

「たしかに」

 

「楽しみにしてなって、きっとなんとかなるわ。ちなみに大輔の幼馴染はアタシの親友の妹なの。だからよろしくね」

 

「ってことは井ノ上千鶴さんの妹さんですか?」

 

「そうそう、演劇部員だった」

 

「ちゃんと勧誘しないと演劇部に部員取られるパターンじゃないですか」

 

「多分大丈夫だとは思うけど」

 

「ジュンさんが小学校でパソコン部を作らなかったのだって演劇部に引っ張りこまれたからじゃないですか」

 

「ま、まあそうね、ある意味」

 

「大変だ、今のうちにこっちにこれる日を教えてくださいジュンさん。ジュンさんの友達ならジュンさんが時々顔を出すっていったら来てくれそうだし」

 

「あのねえ、そこは頑張ろうよ光子郎くん」

 

「ジュンさーん!」

 

「!?」

 

いきなり電話がかかってきてジュンは驚いた。

 

「ほらー、私の言った通りじゃない!ジュンさん意外とめんどくさがり屋さんだから直接言わないとわかんないわよ!」

 

「え、なんの話?」

 

「うわあああ、ミミさんなんですかいきなり!」

 

「なに恥ずかしがってるのよ、男ならガツンとやんなきゃ!ガツンとね!ジュンさん、光子郎くんね、ディーターミナルにジュンさんのアプリ入れて欲しいんですって!」

 

「え、なんか改まってると思ったらそんなこと?いいわよ、別に」

 

「ほらいいって」

 

「でもジュンさん受験生じゃ......」

 

「あはは、そこまで気を使わなくてもいいのよ?」

 

ジュンは思わず笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

「あれ、大輔は?」

 

いつもの時間にいつもの道を通り、タワーマンション前で待っているはずの少年の姿がないことに太一は疑問符を浮かべた。

 

「まさか遅刻かあ?」

 

迎えに行ってやろうかな、と茶化して笑う6年生に光子郎は思い出したようにいった。

 

「今日、転校生迎えにいってるみたいですよ。ジュンさんの友達の妹さんらしくて」

 

「転校生?へー、あそこの?」

 

指さす先には新しいタワーマンションがある。

 

「1階にコンビニ入ってるじゃないですか、そこを家族でやってるらしいですよ」

 

「へえー」

 

「もしかして、井ノ上さんじゃない、太一」

 

「井ノ上さん?あー、職員室に来てた......」

 

「そうそう」

 

「6年生を迎えにいったのかよ、大輔」

 

「いえ、幼馴染だそうですよ。一個うえの」

 

「へえ、じゃあ井ノ上さんの妹か。大輔も大変だな」

 

大輔がいないなら待つ必要も無いとばかりに太一はみんなに行こうぜとうながした。校庭はいつだってはやく到着したヤツらの早い者勝ちなのだ。

 

「よかった、大輔くんが迎えに行ってくれるなら勧誘してくれそうだな」

 

部員を1人でも集めたい光子郎はわらう。

 

「光子郎さん、井ノ上さんて人もパソコン部にはいるんですか?」

 

「うん、ジュンさんからお願いしてもらってるんだ。パソコンが得意らしいんだよ。デジタルアーキビストの授業楽しみにしてるらしいんだ」

 

「そうなんですか」

 

「うん」

 

友達になれるといいなあ、とぼんやり光は思った。大輔の友達なら悪い子じゃないだろうし、パソコン部に入ってくれるなら一個うえなら1番歳が近い女の子になる。

 

「おーい、光!なにしてんだよ、はやく来いよ!」

 

「うん、いまいく!」

 

だいぶん距離が離されていることに気がついた光はあわてて太一たちを追いかけたのだった。

 

 

一方その頃。

 

 

「京遅いなあ」

 

「きっとすぐ来ますよ」

 

「もう10分も待ってるのにかー?」

 

「もうちょっと待ちましょうよ」

 

「遅刻したらぜってー僕らも怒られるって、伊織」

 

「うーん......じゃあ、あと5分」

 

「5分ならまあ......ダッシュすれば間に合うかな......伊織は?」

 

「僕も大丈夫です、剣道してるから。でも京さんは......」

 

「無理だよな......。ほらーやっぱり遅刻したら京のせいだ!」

 

大輔のうんざりという態度に伊織もさすがに心配になってきたのかエレベーターを見つめ始める。入学式で配布されたばかりの真新しいディーターミナルの時計はもうすぐ待ち人来らずで15分を経過しようとしていた。

 

新しいタワーマンションがたち、京一家のコンビニがテナントに入ることになってから大輔はゆりかもめの節約を喜んだ。今までは豊洲にまで行かなければならなかったのだ。伊織一家も同じタワーマンションに越してきたために遊びに行く時大輔だけがお金がかかる状態だったために小学3年生のお小遣いでは地味にきつかったのである。

 

大輔の口調がいつもと違うのは京と伊織がいわゆる幼馴染に近い関係だからだ。ジュンと百恵が小学校からの友達ということは、初対面は大輔が1歳、京が2歳である。それから家族ぐるみの付き合いをしていて、伊織は京の両親と旧知の仲だった。大輔と伊織が四人きょうだいのゲームが沢山ある京の家で遊ぶのはよくあることであり、彼らは昔から親しく往来し互いの生活に干渉し合っていた。

 

いわゆる腐れ縁とでもいうようない間柄だ。年齢のひらきがあっても気にしない、家族の一員と言っていいくらい、何の気兼ねも要らない関係である。

 

自分の延長線上にあるような存在である。手足と同じだ。そこには自他の区別がない。だから自分が起きていれば、相手も起きているはずだという思いこみがある。それでいて、それがだいたい当たっているレベルなのだ。

 

笑わせようとか、盛り上げようとか、沈黙が気まずいとか、そういうことを一切気にしなくていいような、心拍数の変動が全くないような普通の会話ができる相手。きっとすごく貴重だが、まだ彼らは自覚できないでいる。

 

「おーそーい!もー遅い、遅すぎるって、京のやつー!伊織、京ん家いこう!ぜったい今日が転校初日だって忘れてる!なんだよー、人がせっかく通学路案内してあげよーと思ってんのに!」

 

「うーん......そうですよね、さすがに遅すぎるかなあ......。でもすれ違ったらどうします?」

 

「じゃあ僕いくから伊織待ってて、5分しても来なかったら先いって!ダッシュで追いつくから!」

 

「わかりました」

 

大輔はエレベーターのボタンを連打しはじめる。車椅子だろうがなんだろうがお構い無しだ。よっぽどイライラしていたのかだんだん降りてくる数字をじっと睨んでいた。

 

階層をつげる人工音声。ガラス張りの向こう側になにやら話し込んでいる井ノ上千鶴さんと京、あと何人か子供が乗っているのがわかった。あ、と伊織は大輔をみた。どこをどう見ても道草くっていたから遅れたのだ。大輔と伊織を待たせているのを知りながらお姉ちゃんがしゃべってるならまだいいかという末っ子特有の甘さが出てしまっていた。

 

扉があいた瞬間に大輔はためいきをついた。

 

「もーしらねー!バカ京!遅刻しちゃえ!もういこう、伊織!」

 

「えっ、あっ、大輔さん!待ってください!ええと、京さん!このままじゃ遅刻しますよ!」

 

大輔は驚いて名前を呼ぶ京を無視して伊織の手を引いていってしまう。ぽかんとしていた京だったがようやく大輔と伊織に通学路の道案内もかねた話を聞かせてくれと頼んでおきながらすっかり忘れていたことを思い出して大声をあげた。

 

「やっちゃったー!ごめん、ごめんてば大輔!すっかり忘れてたの、許してってば!」

 

京は一目散に走っていく。

 

「しるか、そんなの!」

 

「ごめーん!」

 

必死で追いかけていく京たちをみて、ぽかんとしていた千鶴だったが思い出したようにこっちも急ごうと急かす。

 

「大輔、京ちゃんと友達だったのか」

 

タケルを迎えにきていたら同じクラスの転校生と偶然出会い、話し込んでいたヤマトはぼそりとつぶやいた。

 

「あれ、石田君大輔君と友達だったの?野球部じゃなかったっけ?」

 

「あー、太一の......サッカー部のキャプテンの後輩だから知ってるんだ」

 

「あー、なるほど、噂の太一先輩か」

 

「噂ってなんだよ、噂って」

 

「だって大輔くん、いっつも太一先輩太一先輩いうからどんな先輩なのか楽しみにしてたんだよ」

 

「へえ、ならすぐわかるな。大輔と同じようにゴーグルつけてるから」

 

「あー、聞いた聞いた。太一先輩のゴーグルね。いやー楽しみだなー、幸先いいや」

 

ニコニコ笑う千鶴の隣でようやく我に返ったタケルは大輔が自分に気づく前にいってしまったことにショックをうけて泣きそうになっていた。ただでさえ初めての転校である。大輔や光がいるから安心していたのにまさかのスルー。

 

いや、びっくりさせようとして黙っていたタケルが悪いのだが。仲良くしてる友達に気づいてすらもらえず、他の友達と喧嘩するくらい仲がいい、しかも呼び捨てとか仲良さげな会話をしているのをみてショックだったのだ。

 

それに気づいたヤマトはあわてる。

 

「お、落ち着けって、タケル。大輔は先に京ちゃんたちと約束してたみたいだし、俺達がいること気づいてなかっただろ?無視された訳じゃないって」

 

「そうそう、そうだよ、タケルくん。今度はタケルくんがびっくりさせればいいのよ、大輔くんをさ」

 

「......でも、僕達のせいで大輔くん怒ってたよね?」

 

「あーあーあれは約束忘れてた京が悪いのよ。アタシ知らなかったもん。知ってたら先に行けっていってたのに」

 

呆れたように千鶴はつぶやいた。

 

「井ノ上さんもそういってるし、大丈夫だってタケル」

 

「......でも」

 

緊張しきりの転校初日だというのに付き添いにこない母親の多忙ぶりに呆れながらヤマトはタケルの手を握りしめた。

 

「とりあえず走ろう、タケル。遅刻はシャレにならないからな」

 

「......うん」

 

「やっば、そうだよ急がなきゃー!」

 

ヤマトたちも大急ぎで走り始めたのだった。

 

 

 

 

 

タケルが驚いたのは前の小学校と違って校舎やグラウンド、備品というありとあらゆるものが新しいということだ。あとは小学校と中学校がひとつの大きな学校みたいなもので、ジュンはお台場中学校3年生ではなくてお台場学園の9年生だという。大輔とも光とも離れてしまったクラスにて、自己紹介をしたタケルは今日1日ずっと質問攻めにあっていた。

 

金髪なのも、兄である石田ヤマトと苗字が違うことも、興味をひかれたらしい。母親が高石奈津子というテレビのご意見番的な立ち位置の人なのも拍車をかけた。おかげですぐ名前を覚えてもらえたのは嬉しかった。

 

放課後、いつまでも減らない人だかりにどうしようかなあ、と思っていたら救世主があらわれた。

 

「タケルー!」

 

「大輔くん?!」

 

「えっ、本宮くんどうしたの?」

 

「高石くんと友達なの?」

 

「そうだよ、友達だよ友達!なのになんで今日転校してきたこと言わなかったんだよ、タケル!僕友達じゃないのっ!?」

 

「あーっ!」

 

タケルはあわてた。

 

「そうだよ、みんなをびっくりさせようとしてお兄ちゃんにも言わないでってお願いしてたんだよ!」

 

「たしかにすげーびっくりしたけど、昼休みにも来なかったじゃん!」

 

「だってみんなと喋ってたらお昼休みおわっちゃって......」

 

「忘れてた?」

 

「......うん、忘れてた。えへへ、ごめんね」

 

「えへへじゃないよ!すごくすごーくびっくりしたんだからな、タケル!」

 

「ほんとにごめんね!わざとじゃないんだよ!」

 

大輔はがっくりと肩をおとした。

 

「なんだよ、もー」

 

そして周りを見渡す。

 

「僕、光子郎さんにタケルをパソコン部に入れなきゃいけないんだった!はやく、はやくいこう、タケル。みんな待ってるよ」

 

「えー、パソコン部だけずるい!」

 

「ほかの部にも見学してもらわなきゃ!」

 

「友達だからってえこひいきだぞー!」

 

「うるさいなあ!じゃあ、選んでよタケル。ヤマトさんも来てるパソコン部か、ほかの部か」

 

「お兄ちゃんもいるの!?じゃあパソコン部にいく!」

 

えー、と周りは残念そうだ。はやくはやくと大輔は急かすものだからタケルは大慌てでランドセルにものをつめこむのだ。

 

「ディーターミナル忘れてる!」

 

「あ、ごめん、大輔くん。ありがとう!今日はごめんね!みんな、また明日ね!」

 

ランドセルから後ろを押される形でタケルは教室を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴールデンウィークのことだ。

 

このたび、ジュンと一乗寺兄弟の小中プログラミング大会による功績により、デジタルアーキビスト計画の指定校としてお台場小中学校と恵王が選ばれた。おかげで対象の学校の生徒たちにはディーターミナルというデジタル端末が配布された。

 

そしてお正月以来、久しぶりにデジタルワールドから招待状をもらった。光子郎や一乗寺兄弟はジュンとともに時々ゲンナイさんの隠れ家に出入りはしていたが、デジタルワールドに行けるのは久しぶりだ。選ばれし子供たちがゲンナイさんの隠れ家を経由してすっかりおなじみになったはじまりの街にいく最中、ジュンは治と賢、遼のディーターミナルを預かると新たな機能を追加した。

 

「これなんですか?」

 

「ほら、アタシのパソコンにデジファームあるでしょ?デジモンたちの民宿みたいなところ。ディーターミナルのアプリ起動すれば転送できるようになったから。もうみんなにはダウンロードしてもらってたけど2人のはまだだったでしょ?」

 

「えーっと、つまり、僕が賢たちの世界にいくとき、リュックの中に押し込められなくても済むってことだね?」

 

「ワームモンのいう通りよ」

 

「やった!ありがとう、ジュンさん!」

 

賢はさっそくワームモンと試してみることにしたようだ。

 

「ほんとに次々よく考えつくなー」

 

「僕たちにはまだいらない気がするけどな」

 

「まあまあ、いつパートナーデジモン現れるかわからないんだからいいじゃん」

 

「それもそうか、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

「あ、待てよ、賢!俺にも見せてくれよー!」

 

かけていく遼に治は苦笑いした。

 

「ほんとに将来有望だな。ジュンさんは将来何になりたいんだ?」

 

「アタシ?アタシはね、プログラマーよ。んでデジタルワールドのセキュリティシステムの仕事がしたいの。ゲンナイさんの部下みたいな感じでね」

 

「今とあんまり変わらないような」

 

「コネづくりよ、コネ作り。高専いくか工業大学いくかまだ迷ってるんだけど、ずっと関わっていくつもりだしね」

 

「なるほど。光子郎くんみたいな感じか」

 

「そーねえ。選ばれし子供たちの交流サイトや掲示板の運営には頭が下がるわ。あれ、そのまま職業にしちゃいそうな勢いよね」

 

「デジファーム管理してるのはジュンさんじゃ?」

 

「あんなの一時しのぎよ。もっと携帯電話が普及すればパソコンのアプリみたいにデジモン収納出来るようになるんだから」

 

「ディーターミナルにデジモン用の部屋がある時点ですごいとは思うんだけどな」

 

「なにもかも後追いに過ぎないわ。アタシがつくったオリジナルなんてなにひとつないわよ。どっかで見たことあるでしょ?」

 

「ああ、最近はやってる......」

 

「そうそう。あれの丸パクリだもの」

 

「ほんとにモンスターがいる時点でだいぶ違うとは思うんだが」

 

治がいうデジファームとはジュンがお台場中学校パソコン部の卒業制作として作成中の育成ゲームだ。実際はお台場学園に在籍するお台場中学校とお台場小学校すべての生徒に配布されたディーターミナルというデジタル端末にぶちこんだデジモンの居住スペースだ。もともとはジュンのノートパソコンの中にあったのだがデジタルワールドとの交流が増えるにつれてデジモンを現実世界に連れていく機会がふえた。東京都限定でサイバー攻撃や電磁波障害に強くなったとはいえ、まだまだデジモンが気軽に出歩いていい時代はまだまだ先だ。ジュンはディーターミナル内にデジファームと名付けたアプリをダウンロードするとジュンが管理するデジファームにデジモンが転送される機能をつくった。

 

「ほんとならみんなのディーターミナルの中に個人のデジファーム作るつもりだったんだけどねえ......ディーターミナルの容量が小さすぎてね......」

 

「いや、充分だと思うんだが。ゲンナイさんの隠れ家やはじまりの街に繋がってるんだろ?」

 

「デジヴァイスの中にデジファームがあれば1番いいのよ、効率的だわ」

 

「いや、さすがにデジタル時計の中にデジファームは無理だろ、中のデジモンが何をしてるかわからない」

 

「そうなんだけどねえ......」

 

「よくわからないがデジタルワールドにしかない食べ物なんかをちゃんと管理してるんだから凄いじゃないか」

 

「あーうん、はじまりの街とゲート繋げてもらったのはそのせいなの。デジタルワールドの基本通貨アメリカドルなんだもの」

 

「えっ、そうなのか?」

 

「そうそう。丈くんかヤマトくんに聞いてみたら?最初の冒険で大変な目にあったみたいだから。物々交換でもいいんだけどザッソーモンたちこっちの世界の食べ物に興味津々でね。相場が釣り合うように考えるの大変なんだから」

 

「なんだ、株でもしてるのかと思った」

 

「アメリカの為替気にしてるから?ちがうわよ、ザッソーモンたちが商売人だからね」

 

「ジュンさんも充分今のままで職業になると思うんだが」

 

「まあ、ゆくゆくは選ばれし子供たちみんなが持てるようになればいいとは思ってるわよ。毎年増えてるからね」

 

「そうらしいな。僕のところにもはやく来てくれればいいんだが」

 

「そのうち来るわよ、下手したら選ばれし子供になる前からデジタルワールドに詳しいんだから」

 

「ゲンナイさんのサポートしかできることが無いだけだ」

 

治は肩を竦めた。

 

「テイマーの才能か......デジファームが野生のデジモンも対象になるなら適任だな」

 

「まだデジタルワールドはそこまで現実世界と関わる気はないみたいだしねえ......でも絶対現れると思うのよ、興味本位で人間に近づいちゃう子とか」

 

「強さを求めるやつとかな。進化のメカニズムがわかってるのとわかってないのとでは雲泥の差だ。精神論だけじゃどうにもならないこともある」

 

ジュンは笑った。たしかに治なら強いデジモンを育てあげそうである。

 

「まあ、それはともかく。ジュンさん、迷ってるのは意外だったな、うちの大学が主催するプログラミング講座参加してるみたいだから興味あるんだと思ってた」

 

「恵王大の?あー、あれはね、顧問の先生が部員に募集かけてたのよ」

 

「そうなのか」

 

「うん、まあね。ただ、エスカレーターに乗らないで外部受験しようとしてるのが意外だった人にはいわれたくないかもね」

 

「もっとはやく勉強がしたいだけだ、時間が惜しい」

 

「ふうん。そーいうもんか、まあ頑張ってね。お互い受験生だもんね」

 

「そうだな」

 

「とりあえず交通事故にはほんと気をつけて」

 

「ああ、わかってる」

 

さんざん周りに言われたのか治はややうんざりという顔をしていうのだ。

 

「なんかねー、アナログマンとクリスタルとかいう正体不明のアカウントあるじゃない?誘導かけられてたとかいう。もしアタシやゲンナイさんが気づくの遅かったら、治くんたちもベンジャミンさんに嵌められてた気がしてならないのよ。だから余計交通事故のタイミングがよすぎて怖いわ」

 

ジュンの言葉に治は笑った。

 

「さすがにそれは偶然だよ、ジュンさん。心配症だな」

 

「あのねえ、人がこんなに心配してるのに笑うのはどうなのよ」

 

「いや、ごめん、ありがとう。ただ意外なんだ。ジュンさん、運命論とか信じてるタイプなのが意外で。それは杞憂だ」

 

「だといいんだけどね......」

 

ジュンは遠い目をした。

 

ジュンがジュンじゃなかった本来の歴史では遼と賢はどうやって冒険したのだろうかと思えてならないのだ。治の親友という仲の良さならば冒険をすべて忘れるなんてあっていいわけがないし、太一たちと知り合う機会そのものがなかったようだから。なによりゲンナイさんが知らないという事実そのものに戦慄してしまう。

 

この世界は違う。ジュンが存在することで緩やかに歴史は確実に変わりつつあることをこんなに克明に感じる時が来るとは思わなかった。後悔するつもりはなかったが嬉しかったのはこれが初めてだ。

 

だから余計、ジュンは一乗寺治という少年の死につながりそうななにかに怯えている自覚があった。

 

「らしくない自覚はあるけどね、あはは。いつものアタシはずぼらだし」

 

顔の皮のすぐ裏に神経があるような繊細な人間ではないことくらいジュンが1番よくわかっていた。

 

「ずぼら?どこが?」

 

治はわからなかった。

 

好き勝手やっているように見えるが、前後の事情をよく頭に入れて、細かく観察すれば、ジュンの動きがなかなか綿密に計算されたものであることがわかる。

 

将棋でいえば数手先まで読んでいる。奇策を好むのは確かだが、しかるべきところに一線を引いて、そこから足を踏み出さないように気をつけている。どちらかと言えば神経質な性格と言ってもいいくらいだ。

 

そう考えていた治にはずぼらは程遠い印象しかない。

 

「ただのずぼらが僕と気が合うわけないだろ」

 

「あはは、すごい理論ね」

 

「ジュンさんはあれだ。学校を欠席せざるをえない時があると、その日がどんな内容だったのか、ノートを手に入れることはできないのか、あちこちを走り回って調べる。完璧主義と小心者の合併症なイメージだった」

 

「ほんと治くんてホームズね。いきなり推理されてずけずけ心の中まで踏み荒らされ憤慨するワトソンの気持ちも考えないあたりそっくりだわ」

 

2人は顔を合わせて笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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