(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

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第87話

ジュンはひたすら走っていた。石が動いて斜面を転げ出したように、動き出すと停めることなどできない。坂道を転がる石のように、どうしようもない力で突き進んでいく。一度水脈から噴出した泉のようにとどまることを知らないのだ。止まったが最後水はくさり落ちドブとなるのだから。

 

勢いをつけて進む。気分はもう、古い機関車の乗客だ。枕木が割れ、車輪が載る端から線路がくずおれていくのに、暴走列車はひるむことを知らない。石炭をくべまくる無謀な機関士は、もちろんジュンである。

 

目に映る代わり映えのしない暗闇の風景は、瞬く間にうしろへ去っていく。いつしかちらつき始めた黒い風雪の疾走ぶりは巨大な猪そのものだ。激しい突進のせいで、いくら景色が幻想的であろうとも滅茶苦茶な色と形の流れにしか見えない。バケツに入った黒や灰色や白の絵の具を、横殴りに思いきり壁に叩きつけたみたいな視界だ。

 

ジュンが逃げているのはチョコモンの向こう側にいた闇が形をなし始めているからだ。

 

「チョコモン、あんなやつに取り憑かれていたの?」

 

「わからない、わからないけど、怖い......あいつ怖い」

 

「なんか寄生型デジモンっぽいのよね......もしブラックガスの性質がデジモンになったのだとしたら......チョコモンはあいつのせいでおかしくなってると考えた方がよさそうよね」

 

影はウィンディモンになり、十二神将かとジュンが驚いたアンティラモンになり、さらに姿を変えつつあるのだ。あまりにも進化速度が早すぎる。ブラックガスのデータから生まれたディアボロモンを思い出してしまう速度だ。しかも背後に寄生するデジモンらしきものはデジモンの皮をかぶったおぞましいなにかなのかもしれないが、ジュンにはわからない。

 

風雪は波浪になり、やがて猛吹雪に変わってきた。

 

雷鳴が聞こえてくる。

 

「こわいよー!こわいよー!たすけてー!」

 

チョコモンは泣きじゃくる。その光が世界を一瞬照らしだし、凄まじい雷が落ちた。そこに映る影をみたとき、ジュンはチョコモンをおかしくしている闇がチョコモンの姿をかりたおぞましいなにかが皮をかぶったまま進化したことを悟った。

 

「ケルビモン......しかもウィルス......嘘でしょ......究極体とか......」

 

汗が止まらない。

 

振り返ったさきにいたのは獣の姿をした天使型デジモンだ。熾天使型デジモンのセラフィモンと同じく最高位に位置する3大天使デジモンの1体である。本来の役目はデジタルワールドの“カーネル(中核)”を守護することである。究極の“善”に位置する天使型デジモンは、その極端さゆえに対極である“悪”に身を染めやすい一面を持っている。強烈な雷系の技を使い、その一撃は神の天罰を思わせる。必殺技は雷の槍を放つ『ライトニングスピア』と、巨大な雷雲を呼び、無数の雷を敵に落とす『ヘブンズ・ジャッジメント』。

 

ジュンも学校の授業でしか聞いたことがなかった。ケルビモンは選ばれし子供達のパートナーデジモンの究極体とゆかりが深いデジモンである。ケルビモンはもともとセラフィモン、オファニモンとあわせて一体のデジモンの一部だったと言われているのだ。

 

それがルーチェモン。すべての天使型デジモンの起源とも頂点ともいわれているデジモンだ。生まれながらにして12枚の翼と4つのホーリーリングを持つ、人間の子供のような姿をした天使型デジモン。世代は成長期だが、究極体に匹敵する戦闘力を持っている。古代のデジタルワールドにおいてデジモン達が戦いを始めた際に降臨し、平和をもたらしたとされる。「デジモンの神」から生まれたとも言われ、自らの持つ力の側面を分け与えた三大天使(セラフィモン・オファニモン・ケルビモン)を頂点とした「神々の軍団」を作り上げた至高の天使だった。

 

しかしその後なんらかの事情により一転して、デジタルワールドに災いをもたらす強大な悪となった。フォールダウンモードというモードチェンジをしたルーチェモンは七大魔王最強と言われているのだ。こちらは

右半身に6枚の天使の翼(首近くの一枚だけ黒く染まっている)を、左半身に6枚の悪魔の翼を備え、光と闇の双方の力を併せ持つ魔王型の完全体デジモンである。天使としての慈愛の心と悪魔としての邪悪な心を併せ持っており、デジタルワールドの全てを滅ぼした後、新たな世界を創造しようと目論んでいるという。

 

その後十闘士によりデジタルワールド最下層部に封印されたと伝えられる。

 

ジュンがテイマーになるころにはすでに伝説となっていた数々の事件だが、実際はどうだったかなんてジュンにはわからないのだ。唯一言えるのは2000年は天使の軍団も七大魔王も十闘士もいないデジタルワールド黎明期に過ぎないということである。

 

だから目の前のウィルス種のケルビモンはただの究極体にすぎないはずなのだ。この明確な殺意さえなければ。

 

「チョコモンを殺して成り代わるつもりね、アンタ。そしてチョコモンのせいにするつもりでしょ。そうはいかないんだからね」

 

ジュンの挑発にケルビモンはにたりと笑う。

 

「かえりたい」

 

チョコモンの声がする。

 

「かえりたいかえりたいかえりたいかえりたい」

 

ジュンを取り囲むようにチョコモンの声がする。

 

「チョコモン、ほんとに帰りたいの?昔に帰りたいの?今起こしてる事件がチョコモンの望み?」

 

チョコモンはぶんぶん首をふる。

 

「ちがう!ちがう、ちがうもん。僕はそんなこと思ってないもん!」

 

切実なる声にケルビモンが絶叫する。

 

「ヤメロ」

 

「僕はウォレスに会いたいの!」

 

「ヤメロヤメロ」

 

「ウォレスのところに帰りたいの!」

 

「ヤメロヤメロヤメロ」

 

「あの時みたいに遊びたいだけなの!」

 

「ヤメルンダ」

 

「ずーっと一緒にいたいだけ!昔に帰りたいわけじゃない!!」

 

「ソレイジョウイッチャイケナイ」

 

「本当はわかってるよ!無理だってことくらい!!」

 

「ヤメロォォォォオオオオオオ!!」

 

「ずっと封印されてるのだって辛いんだよ。寂しいんだよ。寒いんだよ。苦しいんだよ。眠っているときくらいたのしい夢みてたっていいでしょう?そんなことも許されないの?」

 

「そんなことないわよ、チョコモン。アタシのパートナーだって転生前はアポカリモンの残留思念から生まれたデジモンだったんだから。チョコモンだって似たようなものじゃない。始まりの街に生まれるはずだったのにこんな世界に閉じ込められちゃいけないわ。ウォレスくんに会うんでしょ?」

 

「うん」

 

ようやくチョコモンは泣き止んだ。ケルビモンはもがき苦しんでいるが、背後に寄生するデジモンのせいで目の色が変わってしまう。また黒い雪がちらつき始めた。

 

「あ、また雪」

 

ジュンは振り返った。人の声がしたからだ。ジュンは目を丸くした。ほんの数十メートル先に仲間によく似た面影の7から5歳くらいの小さな子供達がいるではないか。服装も年齢もジュンみたいに若返っているが、みんなデジヴァイスをもっているのがわかる。

 

「だれ?」

 

トレードマークともいえるゴーグルはぶかぶかだが、頭にしっかりとつけている子供に声をかけられた。まわりの子供達も興味津々だ。きっとジュンが1番大きいからだろう。ジュンに反応しないあたり、みんな光が丘テロ事件当時まで若返っているようだった。

 

「アタシ?アタシはジュンよ」

 

「ぼく太一。こいつは光。ねえ、ここどこかしらない?ぼくたち、いなくなったコロモン探しに行かなきゃいけないんだ」

 

「コロモン......」

 

ジュンの言葉に光と思われるコアラのつなぎのパジャマをきている女の子は笛を鳴らしてうなずいた。

 

「どこなんだろー、ここ。気づいたらこんな所にいたんだ。なにか知ってる?」

 

「......それはアタシもわかんないわ。ただね、その白いのの使い方なら知ってるわ。いつから持ってるの?」

 

ジュンに指をさされた太一はきょとんとして視線をおとす。

 

「なんだこれ」

 

「わからない?」

 

太一は首をふる。周りの子達も首をふる。ジュンは口を開こうとしたが、光が自分の襟に挟まっていたデジヴァイスを手にしてはしゃぎはじめた。

 

「コロモン!コロモン!」

 

「えー、なにいってるんだよ、光。これがコロモンなわけないだろ」

 

「それがなにか、わかるの?」

 

光はきょとんとした顔でジュンをみてから、にこりと笑った。

 

「また会えるシルシ!」

 

「えー、これがかあ?」

 

「それ、誰からおしえてもらったの、光ちゃん」

 

光ははっきりと答えたのだ。

 

「おじーちゃん!おじーちゃんが教えてくれたの!これ、ずーっと持ったら、また、コロモンに会えるって!」

 

「えっ、あ、ずるいぞ光!僕、ゴーグル、光は笛だっていってたのに!2つももらうとかずるい!」

 

きゃっきゃと笑う光に周りの子達は目を丸くしている。これがあのコロモンと会えるシルシなのかと。そして思うのだ。コロモンと会えるしるしがあの子の白いデジタル時計なら、自分はいったいなにと会えるのだろうかと。うらやましいと。ほんの少しだけ思ったのである。会いたいと思ったのである。

 

次の瞬間、いきなりデジヴァイスが発光をはじめた。激しい振動と共に光がひとつ、またひとつと迸り、足元に転がっていたはずの小さな機械から光が漏れる。そしてその機械が勝手に開き、ジュンはすべてのディーターミナルのモニターから集まってきた光が空高く走るのをみた。それはふたつに収束していく。2本の光の柱となる。そこには見たことも無い紋章がふたつ、刻まれていた。

 

 

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