(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー) 作:アズマケイ
ジュンがかつて勤めていた会社では、デジタルワールド向けのシステムを開発するときは、新規のシステムを開発することはとても少ない。むしろ、すでにあるシステムを再構築して、能力や効率を上昇させるシステムにするプロジェクトがほとんどだった。このようなプロジェクトの場合、すでにあるシステムを調べる作業が必ず存在する。
その会社で新米だったジュンが割り当てられていたのは、ほとんどその作業だった。なにせ、デジタルワールドのエージェントから依頼されるシステムは、そのほとんどがエージェントが生まれる前につくられたものばかりであり、どうしてこうなっているのか説明できない。
エージェントが担当することになったときには、すでにそのシステムは存在していて、使い方は分かるが、どうやって動いているのかわからない状況なのだ。システム全体について知っている人がいないのだ。
それなのに、そんなブラックボックスを丸投げされて、ランクアップしたシステムにしてくれ、なんて無茶苦茶な依頼など、悲しいことに日常茶飯事だった。だから、新しい選ばれし子供たちの前に出現した、のちにD-3とよばれることになる新規のデジヴァイスを前にしたとき、真っ先にジュンは言ったのだ。
「ちょっとD-3貸してくれる?大輔」
「えっ、なんでだよ」
「バカいわないの、ちょっとくらい待ちなさい。どういう機能が搭載されてるかわかんないのよ?そんなおっそろしいモンもたせて、大事な弟を特攻させる馬鹿がどこにいるのよ」
「姉ちゃん・・・・・・わかったよ。そのかわり、終わったらすぐ返してくれよな?変な改造しないでくれよ?」
「なによ、その目は」
「だって姉ちゃん、ほっといたらディーターミナルの時みたいに、勝手に何か仕込むからこえーんだよ」
「しっつれいねー、アタシはアンタを思ってやったげてるだけなのよ?感謝しなさいよね」
「やっぱオレも横で見てる」
「どうせほっといてもディーターミナルは魔改造されてたわよ。それが光子郎くんか、京ちゃんにかわるだけじゃないの」
「そ、それはそうだけど!だって姉ちゃんぜってー言わねえじゃん。大事なこといっつも教えてくれないから怖いんだよ!」
「聞かないアンタが悪いのよ」
「知らないのに聞きようがないだろ、姉ちゃんのバカやろー」
「わかんないなら聞けばいいのよ。大事なこと教えてくれないのはお互い様でしょ?」
にやにや笑いながら、ジュンはUSB端子で接続された大輔のD-3のプログラムを起動させ、ノートパソコンにコピーした。かつて膨大な数のシステムの調査をこなした経験だけは、今も生きている。やることはいつも同じだ。
まずはシステムの機能はこうで、このように使われている、という調査をする。「だれが」「なんのために」「なにをする」システムなのか調べて、地図をつくる。プログラムの詳細を調べたり、データを整理したりはしない。それは必要に迫られた時にすればいい。ちなみに初期のデジヴァイスは、バージョンアップする人間の労力を度外視した、無茶苦茶なソースが特徴である。
それを知っているジュンは、d-3のプログラム構造を見た時、ある違和感に気が付いた。必死でキーボードを叩いた。傍らにはルーズリーフとボールペン。データの構造を実際に書き起こしながら、翻訳に躍起になる。内部構造を解説してくれる文章が添付されていたことに動揺しつつ、作業を進める。プログラム全体がどういうつくりになっているのか、それぞれのアプリとどう連動しているのか眺めていたジュンは、ひたすらスクロールし続けた。構造がわかれば勝ったも同然だ。
「ねえ、大輔。これ、どうやってゲットしたか、もっかい教えてくれる?」
「え?えーっと、ゲンナイさんがくれた」
「もうちょっと詳しく」
「だから、姉ちゃんのいった通り、ゲンナイさんに助けを求めたら、もらったんだ」
「これを?」
「おう」
「色はついてた?」
「もうこんな色してたぜ」
「ふうん、なるほど。ところで大輔、大輔と京ちゃん、伊織くん以外には、まだこれもってる子はいないのよね?」
「おう」
「なら、明日、アタシもお台場小学校に行くわ。太一君たちも来るんでしょ?どのみち、アンタのこれがないとデジタルワールドは行き来できないみたいだしみんな集まってからの方が早いかもね。大事な話をするから、居残りするんじゃないわよ」
「えっ、なんで今教えてくれないんだよ」
「だって、二度手間だもの。あ、そうそう、これ預かっとくわね。アンタのことだから、誰にも言わずにデジタルワールド突っ込んでいきそうだから」
「返してくれるっていったじゃねーか、返せよー!」
「だーめ。アタシのパソコンからデジタルゲート開こうとしたでしょ。ふざけんじゃないわよ、人の気も知らないで」
「だってブイモンが心配なんだよ。ブイモンは古代種っていう特別なデジモンで、デジメンタルがないとだめだって!アスタモンなら手伝ってくれるかなって思ったのにー」
「バカねえ、ならなんでもっと早くアタシに言わないのよ、バカ大輔。デジファームからこっちに呼ばないでなんでデジタルワールドに行きたがるのよ」
「ぎくっ」
「ほらもー油断も隙もないー。デジタルワールドはまだ平和じゃないんだからやめなさいよね、ゲンナイさんの仕事増やすの」
大輔は目をそらした。わざとらしい口笛すら吹いている。あんたねえ、とジュンはためいきをついた。
「そういう姉ちゃんはなんでデジタルワールドに行くんだよ、ゲンナイさんの隠れ家だけじゃなくて」
「そりゃデジファームの件があるからねえ」
「うそつけ。じゃあなんでオーガ砦にいってんだよ、闇貴族の館やらはじまりの街じゃなくて。姉ちゃんばっか大変そうだから、やなんだよ」
「あっちゃー、気づいちゃったかあ」
「わかるに決まってるだろ。デジタルゲート開けられるの俺と京と伊織だけなんだから。似たようなプログラムあったらわかるよ」
「アンタにプログラミングかじらせたのは失敗だったわね」
「姉ちゃん」
「ごめんごめん」
大輔は肩を竦めた。毎日、夜遅くまでパソコンに向き合っているジュンに気後れして、今まで言い出せなかったのにこの態度である。どうせ大輔には申し訳ないことをしてしまった。でも謝ったんだからこれでチャラにしてほしいものだ、と考えているのが透けて見える。
「新たな選ばれし子供へのお祝いには、相応のものが必要なのよ。ましてそれが、最愛の弟ならなおさらね」
「え」
「明日いよいよお披露目だから楽しみにしててね」
誤魔化されてしまったと大輔が気づくのはいつだって後である。
次の日、遠路はるばるお台場小学校にやってきたジュンは、パソコン室に顔を出した。もう大体のメンバーはそろっている。大輔のD-3から抜き取られたプログラムは、ジュンが責任を持って光子郎とハーバード小学生の元に送信し、すでにすべてのプログラムが解析されている。
これで安心して大輔が勝手にデジタルワールドに行くのを黙認できる。あとは危機意識を持たせるために、発破をかけるだけである。はい、かえすわ、と大輔にD-3を返す。何か変な機能ついかしてねーだろーなって大輔はつぶやくが、こづくだけで済ませてやった。
勝手に一人でデジタルワールドに行こうとした件は、みんなからこっぴどく叱られたようで、反省しているようだから、今回ばかりは不問としよう。そのかわり、脅しをかけることにしたジュンである。みんなが聞く体勢になったのを見届けて、口をひらいた。
「とりあえず、聞いてくれる?大輔たちのデジヴァイスのプログラムの一部からね、デジタルワールドが支給してないプログラムが仕込まれてたわ」
ぎょっとする子供たちを見渡して、ジュンはいうのだ。
「プログラムってのはね、大抵、変更箇所の履歴がどっかしらにあるのよ。調べてみたら、みつけたわ。大輔のデジヴァイスの初期プログラムは、太一くんのデジヴァイスと構造が全く同じなの。みんな知ってると思うけど、アタシの持ってるデータって、太一君の紋章データをダウンロードした状態のデジヴァイスよね。それと同じ構造をしてるってことは、大輔のデジヴァイスの原型は、紋章をダウンロードしたデジヴァイスを魔改造したものってことになるわけ。その紋章のデータを引っ張り出してみたんだけど、このカタチ、みたことある?」
ノートパソコンを向けてみるが、みんな首を振る。そりゃそうだ、優しさの紋章を知っている人間なんてここには誰もいやしない。
「これは一乗寺賢くんていう、あたしと一緒に冒険した子の優しさの紋章なわけ。紋章は持ち主しか扱えないし、それ自体、光が丘テロ事件の時に造られたものでしょ?それに賢くんのデジヴァイスは1度も壊れたことも敵の手に渡ったこともないのにコピーされた形跡があるのよ」
「緊急事態だったからゲンナイさんが用意したんじゃ?」
「あたってるけど半分違うわ。新しいデジヴァイスを作るためのサンプルはエージェントたちが用意したんだけど、誰が用意したかわからないのよ」
「えっ」
「ちなみにエージェントがひとり行方不明になっててね」
「まさか」
「チョコモンを酷い目に合わせたやつらがなんか罠をはってるってことかよ!」
「隠れ家のパスワードもアドレスも知ってるってことじゃないですか!」
「デジタルゲートの機能まで相手は把握してるってことらですか?」
「問題はそのD-3自体が後追いでしかないってことね。デジタルゲートを自由に行き来するなんてプログラムをよこさなかったデジタルワールドが、太一君たちもならともかく、D-3にだけその機能を付けるとは思えないわ。そもそもD-3のソースコードはきれいすぎるのよ。ご丁寧に履歴まで残すなんてありえないもの。元が賢くんの初期デジヴァイスみたいだけど、きっとオリジナルはエージェントのベンジャミンさんが持ってるんだわ。気を付けた方がいいわよ、みんな。こんなプログラム作り上げられるなんて、天才どころの話じゃないわ」
ジュンはためいきをついた。
「まあ難しい話はおいといて、みんなに集まってもらったのは補習をするためよ」
「えっ」
「えっ」
「ちょ、ちょ、ちょーっと待ってください、ジュンさん!デジタルワールドに勝手に行こうとしたのは大輔だけで、私は関係ないと思います!」
「僕もですよ!連帯責任はひどいと思います!」
「なんでそーなるんだよ、おまえらー!」
抗議する大輔につられて、伊織と京が笑う。お前ら、わらうなあっと赤面した大輔が声を荒げる。ここは何とかしないと大輔のちっちゃいころの恥ずかしいエピソードを披露しかねない雰囲気を纏っていると弟は察知したので、それはもう必死だ。
それをアタシに言わせる気?と口を開いたジュンに、うわあああっと大輔は大声を上げる。悔しかったら身長伸ばしてみなさいよ、ちびっこ。
6歳差は依然大きいもので、小学校3年生の大輔と中学3年生のジュンでは埋めようのない身長差があった。
「ついて来なさい、大輔」
ぽかんとしている京と伊織。大輔はうわあという顔をしている。ご愁傷様は聞こえない。大輔だけはその笑みの被害者になった経験から身構えている。チビモンは初めて見るゲートポイントに繋がるデジタルゲートに興味津々だ。
「光子郎君、デジメンタルのバンクの調子はどう?」
「ええ、問題ありませんよ」
「じゃあ、ゲート開いてくれる?大輔」
「いいけど、何する気だよ」
「えっ、なになに、なにがはじまるんだ?ジュン」
「これから本題にはいるのよ、いっとくけど、今日はアタシが満足するまで帰さないからねー」
「え゛!?」
開かれるデジタルゲート。そして、本宮姉弟、そしてチビモンはパソコンの向こうに消えた。ネットの空間ではチビモンはブイモンに進化できる。
「お待ちしておりましたよ、大輔」
「あ、アスタモン。ごめんな、昨日は約束やぶっちまってー」
「アンタねえ。人の弟を勝手に連れ出さそうとしないでくれる?心臓泊まるかと思ったわよ、もう」
「それは申し訳ない。ジュンの大切な弟ですからね、ご要望はうかがうのが得策かとおもいまして」
「えーっと、なあなあ、大輔。あれがガーゴモンだったっていうジュンのデジモンなのか?」
「うーん、オレも実はよくわかんないんだけどさ、そうなんだってさ。なんか姉ちゃんを気に入ったらしくて、ずっと一緒にいるんだよ」
「へー、そうなのか。テリアモンみたいに後からパートナーデジモンになったんだな!おれ、ブイモン!よろしくな、アスタモン。大輔が言ってたデジタルワールドにこっそり行ける心あたりってアスタモンのことだったんだな!」
「ええ、いかにも。まあ、今回は申し訳ないことをいたしました」
「ううん、いいんだ。おかげで大輔と一緒にいられるし、ありがとな!」
ジュンは、なにやらパソコンをいじっている。いやな予感しかしない大輔である。そんな大輔に向けられる不敵な笑顔。
「ところでルーキーくん、ここんとこの冒険はどう?」
「どうってやろうとしたら姉ちゃんが止めたんじゃないか!大丈夫かなって思ってたのに」
「へーえ、いうじゃない」
「だって、ブイモンも京も伊織も、アスタモンだっているし。姉ちゃんだっているんだから、心配することなんかねーだろ。もちろんオレだってやれることはなんだってやるつもりだけどな!」
「期待してるわよー」
そしてジュンは立ち上がった。
「まあ、それが口だけじゃないか、確認はさせてもらうつもりだけどね」
「えっ!?」
「ここのゲートポイントはハッキングさせてもらったわ。逃げるの禁止よ」
そして、足元に広がる魔法陣。世界は一色に包まれる。
「えっ、ちょ、待ってくれよ、姉ちゃん!まさかアスタモンと戦えっていうのかよ!」
「ご安心ください、大輔。なにも殺し合いをしようというわけではございません故。アナタとブイモンの実力がどれほどのものか、ここで見せていただきたいのです。アーマー進化は紋章のように制限がないと聞きます。さあ、お好きに戦ってください」
「なにせブイモンもホークモンもアルマジモンも、アーマー進化全部試してないでしょう?相性もあるらしいからね、アーマー進化、みせてちょうだい」
「だってさ、大輔!がんばろーぜ!」
「なんでそんなうきうきしてんだよ、ブイモン」
「だって、切羽詰まった状況じゃないバトルって初めてだろ、大輔。なーなー、付き合ってくれよ、大輔」
「あーもう、わかったよ!」
完全にネットワークから切り離された空間。かつてウォーゲームの最終会場を作り上げた実績もある異空間である。大輔はD-3をおもいきり掲げた。