(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー) 作:アズマケイ
ドリモゲモンたちのトンネル工事が完了し、かつてより交通の便が飛躍的に向上したファイル島にて。ジュンはディーターミナルに送られてきたメールを頼りにゲンナイさんのかくれがからデジタルワールドのデジタルゲートをくぐり抜けた。
その先に広がるのは密林だった。すっかりつたに覆われた遺跡の奥には、デジタルゲートのモニタが表示されている。どうやらここから出てきたようだ。注意深く茂みを探す。大樹だらけの密林を見わたす。鳥たちのさえずりを聞いた。がさり、と音をたてると、ばささささ、と上空を鳥が去っていった。
「どこかと思えばグレートキャニオンのエリアではありませんか。なんのご用事です?」
ジュンがデジタルワールドを訪れる時には必ずゲンナイさんの隠れ家ですでに待っているアスタモンである。最近は留守にすることも多いので調子に乗ってきたバケモンたちを監視するためにファントモンを代理としてダークエリアの領地から召喚したらしい。ダークエリア出身のデジモンを許可なく代理にするのはどうかと思うのだが、守護デジモンは意外と融通が効くらしかった。
グレートキャニオンとは、島の東部に広がる渓谷地帯だ。崖の上と谷底でかなりの高低差がある。その名称や地形はアメリカ合衆国のグランド・キャニオンを模していると思われる。トロピカジャングルからいくには見えない橋を通り、高い崖からいくつものエレベーターを乗り継がなければならないのでショートカットしたのだ。万事屋をしているモノクロモンには怒られそうだが仕方ない。
ジュンはグレ大橋と呼ばれるいくつもの絶壁が連なるグレートキャニオンを繋ぐ橋を渡り、オーガトリデと呼ばれているグレートキャニオンの谷底に建てられたオーガモンの基地をめざした。
かつて、オーガモンが山賊行為をするために拠点にしていた場所である。ゆえにこのあたりはオーガ砦というのだ。もっともオーガモンはレオモンとの戦いに終止符をうつために修行の旅に出てしまい、今は留守である。
「さー、ついたついた」
ジュンは呼び鈴をならす。だが返事がない。
「またかー」
「またですね」
「そろそろいい加減テイルモンに言いつけた方がよくない?アスタモン。そのうち返事がないただのしかばねのようだ、になる気がしてならないんだけど」
「ですがそうなるとジュンの立場も少々めんどくさいことになるのでは?今までの経緯を考えるに」
「あー·····言われてみればそうだったわね。薮蛇かあ。馬に蹴られるのはゴメンだわ、黙っとこう」
うんうん頷きながらジュンは勝手に入り込んだ。
「やっぱ部屋の中って性格が出るわよねー」
ぐるりと居住スペースをみるなりジュンが開口一番指摘したのはそれだった。かつてオーガモンがいたときには物資が溢れていて畳にこたつなど生活感はあるが非常に散らかっていたのだ。
今となっては生活スペースすら本棚に占領されているのだからほんとうに新たなる守護デジモンは研究者気質なのだとジュンは思った。
生活空間は本当に工事現場の作業小屋のように簡素なものしか置いていない。ジュンはここにくるたびに依頼人がまともに生活しているのか少々心配になったが、耳が痛いのかいつも目をそらしてしまう。かろうじてグレートキャニオン上層部へと登るエレベーターが設置されているのが、かつてオーガモンが住んでいたころを思い出させる。
「客人が来たのに出迎えもしないのですかねえ、ここの主人は」
「今に始まったことじゃないでしょー。気にするだけ無駄よ無駄。ああいう性質は死んでも治らないわよ。生まれた世界から追放されてもこれなんだから。どうせ地下施設にでも篭ってんのよ」
いつものことだ、とジュンは笑う。アスタモンはどんな依頼主だと呆れ顔だ。地下室に到着したジュンは、ノックしたあとで扉を開いた。
「失礼しまーす。こんにち、ってやっぱりほらもー、予想どおり過ぎて困るわ!大丈夫!?」
飛び込んできたのは、ぐったりと倒れている依頼人ことウィザーモンの姿である。あわてて駆け寄ったジュンに、朦朧とする意識の中、ウィザーモンはうめき声を上げた。
「すまない、みずを·····」
「あー、はいはい、水ね水。何日食べてないの?」
「研究に没頭していたから覚えてな·····」
「あー思い出すわ、このパターン··········。血の滴る肉をくれって料理要求されないだけ闇貴族より良心的だわ」
ジュンはリュックサックからミネラルウォーターをさしだした。
「これで何回目よ、ウィザーモンったらもー。ぶっ倒れるまで研究してるからこうなるのよ。ほら、ソファは一階でしょう。アスタモン、悪いけど運んでくれる?」
「はいはいわかりましたとも」
「ありがとう·····すまない··········」
「すまないで済んだらセキュリティプログラムはいりませんがね」
しばらくしてインスタントのお粥などにより回復したウィザーモンは咳払いした。
「お見苦しいところを見せしてしまい、失礼しました。待っていました、ジュン。アスタモン」
「ほんとにね」
「まったくです。テイルモンにお伝えしてさしあげましょうか?」
「それだけは勘弁してください、ここにいられなくなってしまう」
「あのねえ、ここ、一応アポカリモンの侵食が2回も確認されてるから守護デジモン置いてるんだからね、ウィザーモン。シャレにならなくなるから倒れるのやめてねほんとに。気持ちもわからなくはないんだけどさ」
「ジュン」
「あ、薮蛇だった。ごめん」
ジュンは気を取り直して聞いた。
「それで、今回はどんな依頼なの?」
「本来ならメールをするところなんですが、ディーターミナルを通して君に依頼をする場合、セキュリティ・システムを仲介するでしょう?監査が入ると面倒なことになるので、今回はこういう形にさせてもらいました」
「·····あー、だから直接とかいうパターンですかそうですか」
うわー、かえりたい、と心の中でぼやくジュンの声が聞こえてきそうだ。アスタモンは注意深くウィザーモンを見る。ウィザーモンはアスタモンを見て笑った。食えない笑顔である。
「私が元の姿に戻る方法を探す傍ら進めている研究は知っていますよね?」
「いつものやつだよね。デジタルワールドの歴史を調べたり、失われた遺跡を発掘したりするやつ」
「絶滅したデジモンの復元も」
「ええ、そのとおりです、今回もいつもの依頼です。手伝ってもらっているから想像はつくと思いますが。今回は、ある遺跡のデータをサルベージしてもらいたいんですよ」
「いつものごとくアスタモンがダークエリアにもってる領地からデータの海に不法アクセスするやつね。いっつも思うんだけどさー、アタシが入っても大丈夫?選ばれし子供ってそこまでクリアランス高くないでしょ?」
「ほかの子供達よりは信頼度があるのでは?」
「バレたら一瞬で瓦解するわよ、これ。ねえ、やっぱゲンナイさん経由でホメオスタシスにお伺いたてた方がよくない?」
「それだけはダメです。ホメオスタシスより上位存在から何度も妨害をうけ、エージェントの1人が傀儡になっている以上、最悪は想定すべきですから」
「いや、そうなんだけどさ·····ねえ、ウィザーモン、単なる知的好奇心を満たしたいだけじゃない?って質問にはいつ答えてくれるの?」
ウィザーモンは目を逸らした。
「そりゃウィッチェルニーから追放されるわよ、ウィザーモン·····」
「禁書に手を出した魔術師には今更ですよ、ジュン」
「そうだった·····」
「ダイノ古代境にある遺跡の復元でもよかったんですが、ゲンナイさまが首を横に降らなかったものですから」
「それ古代種とデジメンタル封印されてたとこだからね、却下あたりまえだからね、ウィザーモン」
脱線しまくりな会話がようやく本題にもどる。
「で、ご要望のデータは、どんなものなの?」
渡されたカードには、ホログラムが浮かぶ。これがそのエリアに入るための許可証替わりだからなくさないように、と釘を刺され、ジュンは頷いた。ようするに不正アクセスのための偽のコードである。バレたらやばいなあと思いながら、かつて闇貴族から似たような依頼を請け負っていたことを思い出してジュンは遠い目をしたのだった。
普通のデータのサルベージならここまで苦労しないのに、とジュンはため息一つ、さっそく作業に取り掛かった。目の前に壊れて起動しないパソコンがあるから、データを救出してくれ、という依頼なら、簡単だ。たとえば、パソコンを分解して、データが入ったハードディスクを取り出してしまえばいい。そのハードディスクをケーブルや外付けハードディスクケースに接続して、別のパソコンで復旧作業をするだけだ。それなら専門業者に頼んだほうが安上がりなのはお約束である。でも、デジタルワールドではそうもいかない。デジタルワールド自体が、パソコンの中にある。インターネット上に存在する異世界は、実態がない架空世界である。だから外部から復旧作業を行うという常套手段がつかえない。内部作業でしかデータの復旧ができないのだ。だから、いつだってジュンのようなプログラマーの需要がある。
デジタルワールドにおけるデータ(情報)は、実体化する性質がある。ペイントで描かれたりんごをデジタルワールドに持ち込むと、本物のりんごに近い、りんごのようななにかになるのだ。本物にならないのは、そのりんごのデータが不完全だからだろう。構成するデータが足りないのだ。本物にするなら情報をたくさん書き込んでやればいい。より詳細な絵を描けばいい。手っ取り早いのは写真を持ち込むことだ。もちろん、テイマーたちはめんどくさいので、そんな労力をさくくらいなら、現実世界からりんごを持ち込むだろう。プログラマーと呼ばれているテイマーは、わざわざそのめんどくさいことをするのが仕事なのだ。なにせデジタルワールド自体を構成するデータは、りんごの絵のような、不完全なデータ、もしくは欠損したデータが主成分だ。インターネット上に存在するあらゆる情報が、この異世界に流れつき、実体化し、複雑に絡み合って出来ている。データの組み合わせで出来ている。かつてデジタルワールドにおいてなんらかの理由で破損したエリアを修復するのは、セキュリティ・システムの仕事だった。しかし、現実世界との交流が加速する中で、その破損する頻度がセキュリティ・システムの許容範囲を超えてしまったことで、デジタルワールドはその仕事の一部をテイマーたちに委託するようになったのだ。それがプログラマーと呼ばれているテイマーの始まりであり、ジュンの仕事だった。
デジタルワールドにおけるデータの復旧は、文字通り0と1に還ってしまった電子の海から、必要なデータをサルベージ(引き上げる)ことを意味する。データ(情報)が実体化する性質があるデジタルワールドでさえ、実体化することができないデータの残骸は、すべて0と1の電子の海を漂っている。そこからデータをすくい上げ、あるべき情報を取り出すのは、専門知識がある人間でないと難しいのだ。さいわい今回は遺跡に存在しているデータを回収して、欠損箇所は電子の海からとってきて補完し、依頼主に手渡すことである。ふう、とため息一つ、ジュンはウィザーモンからもらったカードを、サングラスのようなデザインのメガネにセットする。ぴぴぴ、と音がして、そのカードを構成しているデータが文字列に変換されて、プログラマーしか読めない言語になって表示される。ざっと流し見たジュンは、サングラスをかけた。そして、モニタ越しにナビゲートしてくれる電子音声をたよりに、遺跡に表示されている古代文字を解析しながら、スキャニングしていく。コピー機のような蛍光の鮮やかな緑が走る。データをダウンロードしていく仕事道具をみつつ、ジュンは、思いのほかデータの欠損箇所が少ないことに安堵する。これなら早く帰れるかも。これだけでやる気が出るというものだ。
(待って待って待って、デジモンアポカリプスって書いてあるんだけど。これ、デジモンミュージアムで復元中だからって見せてもらえない碑石じゃないでしょうね)
ジュンは嫌な汗がながれた。ダイノ古代境がどうたらという話を思い出したのだ。
(本格的にやばい領域にまでてをのばしはじめてない、ウィザーモン?そんなにセキュリティシステムのみんなが信じられないの?いや、部外者だったからこそ見えるものがあるのかしら?アタシじゃ考えもつかないような、なにかが)
ジュンは考え込む。
(まあ、ウィザーモンは好奇心から絶滅したデジモン復活させて事件起こすタイプじゃないし、大丈夫よね、たぶん。うん、たぶん)
碑石の文字をデータに変換しながらジュンは思考の海に沈んでいった。
ジュンが何をやっているのか、さっぱり分からないアスタモンである。ジュンの仕事を邪魔するデジモンがいないか、周囲を監視することにしたようだ。守護デジモンもおかず、実質統治が放棄されているこのエリアは、野生のデジモンたちのテリトリーだった。成熟期以上のデジモンが平然と闊歩するため、立入禁止区域とされるエリアにて、ジュンは懸命にサルベージを開始した。
「どうですか、ジュン」
「うーん、そうねえ。思ったより保存状態がいいわ。これならデータ拝借するために、データバンクハッキングする必要もなさそうね」
「おやおや、またそうやって深淵を覗こうとする。悪い人だ」
「アタシのせいじゃないわよ、ウィザーモンの依頼だもの」
「嘘おっしゃい。アナタはご自分の前世と今世の魂が入れ替えられていた件について調べようとしているではありませんか。だからウィザーモンの手伝いをしている」
「仕方ないでしょ。アスタモンが見せてくれた不正アクセスのデータが悪いのよ。ブラックガス奪ったやつと同じパターンだってわかっちゃったんだから。よしっと、じゃあ、見張りよろしくね、アスタモン」
「わかりましたよ、ジュン」
適材適所ってやつだ。アスタモンは警戒を続けている。ジュンは野生デジモンが跋扈するエリアで、一心不乱に作業にあたっている。その無謀さは、アスタモンを信頼しているゆえだからアスタモンは許容する。無駄口もほどほどにジュンは碑石に目をやった。
静寂が落ちる。
作業は数時間にも及んだ。ずっと沈黙を守っていたアスタモンが動いた。かちゃり、と得物を手にする音がした。煌々と炎が揺らめいて、遺跡の中が明るくなる。しかし、ジュンは気づかない。
「ジュン」
「ん、どうしたのよ?」
ふりかえらず、返事だけ待つ。遺跡のある地層からデータをピンポイントで発掘する作業は、いつやっても骨が折れる作業である。万一欠損したら、復元する作業が挿入されるため、ますます帰宅できる時間が伸びていく。慎重に、慎重を重ねて、データを取り出し、仕事道具に転写する。ようやく一息つけるところまでやってきた。あとはダウンロードすればひと段落といったところか。あとは転写したデータに漏れがないか確認して、指定された形式でデータを保存し、劣化したデータを修復すればおしまいだ。ここまでくれば自宅でやれる。ほっと息を吐いたジュンは、データをダウンロード中の媒体をみる。30分くらいだろうか。ジュンは、うーん、と伸びをした。体が悲鳴を上げる。
「げろ」
「だから、どうしたのよ、アスタモン。なにかあったの?」
「ジュン、今すぐここから逃げろ!」
アスタモンの敬語がなくなったことが余計緊迫感を煽った。
はじかれたように顔を上げたジュンの世界は、暗視ゴーグル越しのモニタに似ている。アスタモンや遺跡の内部が蛍光色のライトに照らされた世界である。違和感にすぐ気付いたジュンは、とっさに仕事道具を抱えて体をかがめた。ひゅおっと空を切る音がする。轟音が響いた。さっきまでジュンがいたところが炎上する。爆破音が響いた。魔力の集約には一定以上の時間がかかる。となれば、次はその手にしたマシンガンで襲い掛かってくるだろう。まずい、まずい、このままじゃ死ぬ。壁伝いに立ち上がったジュンめがけて、マシンガンを突き付けたアスタモンは、じりじりと近づいてくる。しかしその足取りは遅い。とても遅い。かたかたかた、と不自然に銃口が揺れている。どうやら突然の奇襲はアスタモンの意志によるものではないようだ。懸命に勝手に動く体を制御しようとしているようだが、いうことを聞かないらしい。手探りでジュンは背後に広がる碑文をさぐる。古代デジ文字で描かれた造形文字をなぞる。これじゃない、これじゃない、と右にずれていく。そしてジュンは、古代デジ文字が並んでいる碑文のひとつを、迷うことなく押した。ぱ、と暗闇が落ちる。小さく息を殺したジュンは、慎重に距離を取った。炎上する遺跡が遠くなる。
「いきなり何すんのよ、アンタ」
サングラス越しに、モードを切り替える。アスタモンの周囲に不自然な大気流動。不連続な反響音。高周波のマイクロ波。強力なプラズマ波。ジュンは舌打ちした。そして、仕事道具の画面を表示する。アスタモンは震える声で叫ぶ。
「す、すまない、ジュン。体が私の意志とは無関係に動くんだ。誰かに干渉を受けている!さっきは、なんとか、軌道をずらせたがっ、さっきより干渉が強くなったっ!意識を保つのが精いっぱいだ、今のうちに、にげ」
ジュンは仕事道具の画面をタップした。ごおおおおとマシンガンが燃える。魔力に満たされたアスタモンのマシンガンは真っ暗な遺跡を照らした。ゆらゆらと影が揺れている。ジュンの声がするほうに行こうとする体を静止しようと懸命なアスタモンだが、ずるずると重い足取りは前に行く。戦闘態勢にはいった。しかし、不自然に腕が上がる。
馬鹿言わないでよ、出口はアスタモンの方角にしかないんですけど、とジュンは舌打ちした。なら、こっちがチャンスを作るから逃げてくれ、という。アスタモンの両腕が無理やりマシンガンを掲げているのを確認したジュンは、その意図に気づいて、馬鹿言うんじゃないわよ、と近くに転がっていた石を投げつけた。敵からの攻撃を判断した干渉者は、アスタモンの蹴りわもって石を粉砕する。
「ジュン、余計なことをするんじゃない!」
「なあにが余計よ、馬鹿。勝手に足つぶそうとすんじゃないわよ。それが相手の策略だってわかんないわけ?」
「しかしだな!」
「アンタ、アタシと何年の付き合いだと思ってんのよ。そんなにアタシが信じられない?」
「そ、そんなことはない。ないが」
ジュンをみたアスタモンはその先を紡ぐことはできなかった。ジュンがいなかったからだ。あたりを見渡しても、姿がない。突然姿を消したテイマーに、干渉者も動揺しているようだ。
「クラッキング?」
底冷えした声が、真っ暗な遺跡全体に響き渡る。真っ暗な遺跡がジュンの支配下に置かれた瞬間である。この遺跡に眠るデジモンのサルベージを行っていたプログラマーがこのエリアを熟知しないわけがなかったのだ。このエリアの干渉権を一時的にハッキングしたジュンは、無理やりこの遺跡に存在する隠し通路に入り込んだのだ。追手が来ないよう入り口を封鎖しているため、アスタモンがジュンをおう手段はない。
「ジュン?」
「よりによってクラッキングですってえ!?いい度胸じゃないの。クラッカーのせいで、いつもいつもアタシがどんだけ苦労してるとおもってんのよ、ふざけんな!アタシに喧嘩を売ったこと、後悔させてあげるわよ、この野郎!」
壁一面が発光する。コンピュータのスキャナのような色を発して、光の波が右から左に流れていく。アスタモンはあまりのまぶしさに目を細めた。世界が瑠璃色に染まる。
「アタシのアスタモンから今すぐ立ち去りなさい、この野郎」
ずん、とアスタモンの体が重くなる。どうやらジュンは防衛プログラムをアスタモンに流し込んだようだ。流れ込んでくる大量のデータに処理が追いつかず、頭が割れるような頭痛に襲われたアスタモンは、その場から動けなくなり、マシンガンが手から滑り落ちる。濁流のように流れ込んでくるデータのダウンロードが完了し、再構築され、再起動する。それをアスタモンが自覚することには、ぶわっと何かが散逸する気配がした。びっくりするほど体が軽くなる。アスタモンは安堵の息を吐いた。
「すまない、ジュン。ありがとう」
マシンガンを拾い上げたアスタモンは、ふふ、とどこか嬉しそうなアスタモンである。アタシのアスタモンと言ってもらえたから、なんて言ったらどやされるから言わないが。なにわらってんのよ、とジュンは苦笑いだ。隠し通路から出てきたジュンは、ほっと息を吐いた。
「助けられてしまいましたね。次こそは本分を果たすとしましょう」
「頼むわよ、ったくもう。何のための護衛なんだか」
「まったくもって申し訳ない」
「あーもー逆探知失敗するし、データ欠損してるし、作業がふえるー!売られた喧嘩は買う主義なのに·····見てなさいよ今度あったらただじゃおかないんだから」
ジュンは立ち上がると撤収するとアスタモンに告げたのだった。