(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー) 作:アズマケイ
遼がモノドラモンに連れていかれた。選ばれし子供が手伝ってくれるということで、その心意気確かに受け取ったとクワガーモンは控え室に案内してくれた。まるでプロレスラーが訓練するような施設がたくさん並んでいる。
選ばれし子供のデジモンはパートナーも強くならないと強くなれないらしいな、とどっから仕入れてきたのかとんでもない情報を投下してきた。もうここで遼はめんどくさいことに首を突っ込んでしまったと逃げ出したくなる。もちろん大きな巨体が逃がしてくれそうにはないのだが。
ほらほらがんばれ、と放り出されてしまった遼は特訓につきあうことにしたのだった。
「うわあっ!」
スピードをまちがえて吹っ飛ばされる。
「てえいっ!・・・・・・あれ?」
おもいっきり叩いたのに動かない。
「とりゃー!うあっ!?」
け飛ばした反動で返ってきたサンドバックに頭をぶつける。
「だ、大丈夫か、モノドラモン?無理しちゃだめだよ?」
「大丈夫、大丈夫、オレはまだまだいけるよ!もっとスピードあげよう!」
「えええっ!?」
「だって大会まで時間がないんだ!」
ここで特訓を始めてから数日分たっているせいだろうか、モノドラモンの動きは遼が思っていたよりもこなれている。器具の使い方がよくわかっているようだ。ランニングマシンに振り回されたり、大きなグローブで大きなクッションを叩いたりしているやる気十分なモノドラモン。触発される形で遼のサポートも一生懸命になる。次第にボルテージがあがったらしい。器具の使い方を虫型のデジモンたちに聞きながら、トレーニングにいそしんだ。
「つかれたー!もううごけないー!」
「お疲れさん。さあ、メシの時間だ、きな!」
クワガーモンが迎えに来てくれた。なんだろう、とわくわくしているモノドラモンは?よっぽどおなかが空いているようだ。
大きな南国の葉っぱの上に、大きな魚が丸焼きになっておいてある。たくさん食べないと大きくなれないと好き嫌いした時のお母さんみたいなことをいわれて、モノドラモンはおそるおそる食べてみる。味がないのは残念だがそれなりの味であるらしい。
こうして特訓ははじまった。
「いつになくやる気みてーだから特別に勝てたらここから出してやるよ。ただしファイル島きっての強豪ぞろいだ。おまえが勝てるようなやつだとは思わないけどな!」
「もー、またそんな意地悪いう!オレ強くなったんだからな!」
「進化もまだなくせになにいってやがる!」
「進化できなくったって、前のオレより強くなった!」
「へえ、いうじゃねえか。なら見せてみろよ、ちっちゃいなりの意地ってのをな!」
まるで相手にしてくれないクワガーモンに、モノドラモンはやってやるー!と叫んでいる。成熟期も参加する大会だ。さすがに早すぎる。成長期の大会が数日後にある。わざわざこの大会に出なくてもいいんじゃ、と遼は止めようとするのだがいうことを聞かない。
バカにされっぱなしなのがよっぽど気にくわないようだ。いわれっぱなしは悔しい、とモノドラモンは主張する。
パートナーデジモンじゃないし、デジヴァイスもないからモノドラモンがいつ進化するかはわからないが、遼はなんとなく手応えを感じていた。
「モノドラモン、大会にでるの!?がんばれ!」
「遼がセコンドか?」
「いつの間にかそういう流れになっちゃってさ、あはは」
「そういうことなら応援するわ。頑張ってね」
「よーし、みんなの期待に答えるためにオレがんばるぜ!」
やる気十分な中、いよいよ大会は始まった。
一回戦は成長期同士がぶつかった。すぐにやられないように、クワガーモンが配慮してくれたのかもしれない。勝てたら、だからこれでここから出られるんじゃないかと一瞬思った遼だがやる気にみなぎるモノドラモンの気力をそぐまねはしなかった。
覚えたばかりの技を炸裂させて、おなじ成長期のデジモンから勝利をもぎ取った。拍手喝采から出てきたモノドラモンにおめでとう!と遼が水をもってくる。
それから調子づいたのだろうか、下馬評を覆してモノドラモンは次の成長期、成熟期、成熟期の連戦を勝ってしまった。モノドラモンが小さいわりにガッツがあり、小回りも効くから苦戦しているうちに急所を遼が教えたりしているかららしい。サポートは間違いなく的確だ。
「へへ、やったなモノドラモン!」
「うん!かったね!いっただろ、オレは強いんだよ!そこいらの成熟期なんて負ける気がしないね!」
えっへん、と得意げなモノドラモンをねぎらいながら、二人はちょっと早いお昼タイムである。
「まだまだ喜ぶのは早いぞ、ちびっ子」
「あ、クワガーモン」
「なんだよ、せっかくうれしがってるのに!」
「なあに、ちびっこにこの大会の恐ろしさを教えてやろうとおもってな。怖じ気づいて逃げ出してもいいんだぜ?特にモノドラモン、次のお前の相手はティラノ師匠だ!」
ぜってー勝てないぞおまえじゃーな!とクワガーモンは殿堂入りしているデジモンたちの写真を指さす。栄誉ある初代チャンピオンにして、殿堂入りをした伝説のデジモン。おそらくファイル島で1、2を荒らそう強さを誇るティラノモンの中のティラノモン。それが今は一千を退いて後身の育成に励んでいるティラノ師匠である。得意げに語るクワガーモンはどうやらファンらしい。
「そんなのかんけーないね!オレは勝つだけだ!」
「その調子だよ、モノドラモン!がんばれ!」
「もっちろん!ね、遼!オレの勇姿、見ててくれよな!」
「誰が相手だってモノドラモンを応援してるよ!がんばれ、モノドラモン!」
「うん!」
ティラノ師匠が闘技場に来ることは異例中異例らしい。どれだけファンが待ちこがれても一番弟子を送り込むことに熱心だった彼が表舞台に姿を現すのは本当にひさしぶりである。つまんねー試合だけはすんなよ、と応援してんだかしてないんだかよくわからない言葉を残し、クワガーモンは去っていった。
マイク片手に会場を盛り上げるの獣型のデジモン。会場はにわかに騒がしくなっていた。ししょう、ししょう、の言葉がたくさん聞こえてくる。完全なるアウェイである。さすがに緊張しているのかモノドラモンは顔がひきつっているように見える。
「大丈夫だよ、モノドラモン。今の君ならきっとみんな驚かせられるさ」
「と、当然だね!オレにかかったらなんだって倒せるさ!」
「頑張れ、モノドラモン!応援してるよ!」
「うん!」
気合いを入れて、モノドラモンと遼は赤コーナーから飛び出した。それなりに拍手が飛ぶ。選ばれし子供がセコンドであることが宣伝に使われているのだ、それなりに客の注目度はあがっている。さあいよいよこの大会の優勝候補との対決だ。控え室の入り口から客の一番後ろの通路を通り、一番前の場所までやってきた賢と治はどきどきしながら見守る。モノドラモンと遼もその入り口を見つめた。
ばきいっと扉が吹き飛ばされる。
どよめきが広がる。パフォーマンスにしてはなかなかじゃないか、とどもりながらモノドラモンは顔をひきつらせる。さすがに遼もちょっと顔色が悪い。
その砂埃の向こう側から、豪快に入ってきたのは、ティラノモンよりずっと大きい真っ黒な恐竜だった。大歓声がわく。
「嘘でしょ、マスターティラノモン!?」
叫んだのはジュンだった。
「完全体じゃない!」
完全体!?思わず遼はたじろぐ。
「ますたー?!マスターってそういうマスターかよ、えええっ!?」
まさかのおもちゃの森の村長、ファクトリアルタウンの番人と同じ世代、成熟期よりさらに上の世代のご登場である。ティラノモンが激戦を勝ち抜いて進化に到達したこのデジモンは、体中に残った傷が歴戦の勇姿の証なのだ。豪快に吠えたティラノ師匠は遼とモノドラモンをみて、目の色が変わる。豪快な炎が炸裂した。
「モノドラモン危ない!」
予備動作が大きいおかげで回避こそできたが、特大の炎は範囲が広すぎて観客席まで丸焦げにする。さすがに観客席から悲鳴が上がり、パニック状態になる。実況解説席も混乱しているようだ。どうやらいつもこんな大乱闘をするような個体ではないらしい。
たしかに控え室から出てきたティラノモンたちが止めようとしているのだが、薙ぎ払われてしまっている。これはまさか。遼もモノドラモンも状況のおかしさに違和感が走る。ティラノモンの目があるまじき色合いをしている。演出を越えた破壊活動が行われ始めたとき。
「大変だわ、マスターティラノモン、ブラックウィルスに感染してるみたい!」
ディーターミナルをむけていたジュンが叫ぶ。
「大変、なんとかしなきゃ!」
「僕、スティングモン呼んでくるね!」
「いや、僕がいこう。賢、ジュンさん、あとは頼む!結界であいつを抑えててくれ!」
「わかったわ!」
「わかったよ、兄さん!」
ジュンと賢はあわてて遼たちのところに向かう。そしてデジヴァイスのコマンドを入力して結界をはった。二重ならばそれなりの規模の結界となる。ジュンはリュックからパソコンをだして起動し、太一のデジヴァイスの展開により結界は三重となる。
どうする、どうする、とティラノモンたちは狼狽している。
「なら、オレがやる!」
「モノドラモン?!」
「オレがティラノ師匠引きつけるから、みんな、その隙に会場から逃げるんだ!」
そんなことをいわれてしまえば、遼だって俄然やる気になる。
「ジュンさん、デジヴァイス貸してくれ!結界さえあったら陽動もなんとかなる!モノドラモンだけにいい格好なんてさせられないからな!」
自分より小さなデジモンがそんなこというのだ。選ばれし子供達はやる気になる。
「わかったわ、気をつけてね」
リレーのようにデジヴァイスが手渡された。
その間にも吹き飛ばされる会場。ガラクタのイスが散乱する。天井からランプが落ちてきた。遼はイスを掲げて放り投げる。がしゃん、という音がして、ティラノ師匠がこっちを向いた。攻撃態勢にはいる。
あわててモノドラモンと遼は逃げる。ティラノモンたちが師匠のしっぽに組み付く。ちょこまかと逃げ回る遼たちにいらいらしてきたのか、ティラノ師匠はもう一度業火を放った。その反動でしっぽが遼たちを薙払おうとした。
「これならどう?」
ジュンがフロッピーディスクににたなにかを投げつけた。ティラノ師匠が呻きをあげる。
「試作品だけど効いたみたいね!」
ティラノ師匠の視線はジュンにむかう。
「痺れて動けないでしょ?」
ジュンは慎重に距離をとる。ティラノ師匠の標的がジュンに変わってしまったのか、追いかけ始めた。遼は必死でイスを投げる。
「くっそ、こっちこいよ!」
だが明らかな敵意を向けたジュンに本能はむいてしまう。こっちを見てくれない。まずいまずいこのままだとジュンたちがあぶないと遼は焦る。無我夢中でイスを投げ続ける遼にモノドラモンは意を決したように進み出る。
「そうだよ!君の相手はオレだろ!そいつじゃない!!対戦相手に背中を見せるとか、逃げる気か?臆病者!初代チャンピオンだかなんだか知らないけど大したことないな!」
ティラノ師匠がモノドラモンにむく。
「そうそう、君の相手はオレだ!誰でもない、このオレだ!選ばれし子供達に手を出すのは、オレに勝ってからにしろよな!」
そのとき、遼が結界を展開していたはずのジュンのデジヴァイスが暴れ出す。モノドラモンのみんなを守りたい気持ちにデジタルワールドが答えてくれたのだ。そして進化の道を切り開いた。モノドラモンは閃光に包まれた。
「モノドラモンが進化した!?」
「すごい!」
「モノドラモン、君!」
光を突き破って現れたのは、成熟期の竜人型デジモンだ。ジュンのパソコンが新しいデジモンに反応してデジモン図鑑を表示する。
彼の名前はストライクドラモン。ウィルスバスターズという正しき力で闇を払う、聖なる意思を持ったデジモンを目指している。
後ろに伸びたツノなど、モノドラモンの面影を残す部分も多いが、メタルプレートに包まれたコマンダーモードに変貌しているため、全く別な種にすら見える。本来はエンジェモンと同じワクチン種なので心優しいデジモンなのだが、ひとたびウイルス種を見つけるとその駆除本能(破壊本能?)に取り付かれてしまい、相手がデータの塵と化すまで戦うことを止めようとしない。
またその時、赤い後ろ髪は灼熱に燃え上がり、青白い炎の髪になると言われている。必殺技『ストライクファング』は、各部のメタルプレートを灼熱に燃やし、全身炎の塊となって相手に体当たりするという、恐ろしい技だ。
ストライクドラモンはティラノ師匠に勇敢に立ち向かう。
「今のマスターティラノモン、ブラックウィルスに感染してウィルスになってるから·····!」
「ストライクファング!」
高らかに必殺技を宣言したストライクドラモンはマスターティラノモンの暴走を止めるべく炎をまとい突進したのだった。
「オレが覚えてるのは、ダイノ古代境の空が裂けたことだけだ」
ティラノ師匠は呟いた。さいわいブラックウィルスに感染して間もなかったからだろうか、デジコアの深部にまで到達していなかったことがさいわいした。ストライクドラモンの必殺技に付与されていたウィルスバスターの効果とデジヴァイスによる進化の恩恵から無事に開放された。
すっかり大変なことになっている闘技場の復旧作業が急ピッチで進んでいる中、ジュンたちは話を聞いているのだった。
とはいえ、ブラックウィルスに感染しておこるリロード現象の被害者たちにたがわずティラノ師匠が覚えているのは感染する寸前の光景だけだ。誰に感染させられたのかはやはりわからないらしい。
「空が·····?」
「裂けた·····?」
いまいちイメージ出来ないのか遼と賢が首を傾げる。
「うちわの紙の部分を剥がしたみたいな感じだ。気持ち悪かった」
その言葉に治はまゆをよせた。
「テクスチャが剥がれてるだと?」
「やばいんじゃないの、それ」
ジュンは青ざめている。
「勘弁してよ·····ディアボロモンの卵を産み落とした時空の亀裂がまた出現したわけ?どこと繋がってんのよ·····どっかに連れてかれたグリフォモン、あれきり行方不明だってゲンナイさん困ってるのに·····」
不穏な沈黙があたりにただよう。
「ま、考えても仕方ないだろ!新しい敵が現れたらオレたちがやっつけてやればいいんだからさ!な、遼!」
「う、うん?ちょっと待ってくれよ、モノドラモン。今なんて?」
「え?だってレオモンみたいに進化出来たんだぜ?オレの目標は究極体になることだからな!遼についていけばもっと強くなれる気がするんだ。よろしくな、相棒!」
「なんか勝手に相棒にされてるんだけど!むちゃ言わないでくれよ、このデジヴァイス、ジュンさんので僕はまだ戻ってないんだよ!」
「ゲンナイさんに相談してみたらどうだ、遼。マスターティラノモンに勝てたんだ。このモノドラモン、ただのモノドラモンじゃなさそうだし」
「テイマーだっけ、その才能があるならやってみたらどうかな?」
「なんか物凄い勢いで外堀が埋められてる気がするんだけど、気のせいじゃないよな」
「気のせいじゃないわね」
「あ、あはは·····。ジュンさん、デジヴァイス返すよ」
「ありがとう」
ジュンはデジヴァイスを受け取る。
「ディーターミナルにデジヴァイスの機能ぶち込めたらいいのにね」
「ジュンさんいっつもそれ言ってるよね」
「進化バンクを独立させるのアーマー進化限定なんてもったいなさすぎるのよ。こないだみたいなことになるなら、デジタルワールドにアクセスしなくても進化できるようになればいいのに!」
「まだはやくないか、ジュンさん。デジタルワールドはまだ僕達の世界に寄り添う段階じゃない」
「そーなんだけどさ!直談判してみようかしら、いい加減に遼くんと治くんにデジモンの一体もいないのはおかしいと思うのよ、ほんとに!デジタルワールドのことてつだってんだから!なんのためのデジファームだと思ってんのかしら!」
「まあまあジュンさん落ち着いて」
「デジファームって?」
「オレたちの世界にデジモンたちが遊びに来る時に使うホテルみたいなもんだよ」
「へー!」
「あっ、しまった墓穴ほった!」
思わずジュンたちは笑ってしまったのだった。
「さーさー、そろそろ仕切り直しといこうか!闘技場の仮復旧も一息ついたしな!みんな、きてくれ!」
クワガーモンたちの声がする。ジュンたちは立ち上がったのだった。