(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー) 作:アズマケイ
それはある意味、異様な空間だった。
ディアボロモンの居場所が特定出来たと光子郎は太一、ヤマト、そしてオメガモンをあるゲートポイントに転送した。光はホーリードラモン、タケルはセラフィモンと共にディアボロモンの討伐に参戦するはずだった。
彼らを待っていたのは、実体のない神がかりの恍惚とした空間だった。無数のモニターが太一たちを見つめていた。荒っぽい興奮にひきずられる形で観客たちが喚声をあげる。カラフルな安っぽい照明がチカチカと舞台を照らしている。ステージはまるで積み木の見本みたいに様々なアンプやスピーカーが並んでいる。まるでなにかが行われそうなスタジオが用意されていたのだ。耳がおかしくなりそうなほど空間を震わす大音響でロックが聞こえてくる。
ギョッとする選ばれし子供達を完全においてきほりにする形で、巨大なスピーカーからの音はステージで動いている機械と連動していた。
「なんだよこれぇ」
太一はさすがに事態が飲み込めず声を上げる。
ライトはステージを明るく照らし、人々は今か今かと話し込みながら開演を待っていた。オメガモンたちが現れた瞬間に歓声があがった。
たいち!たいち!たいち!たいち!
やまと!やまと!やまと!やまと!
知らない子供たちから歓声があがる。太一達は困惑しきりだ。それにひきかえ、ゲートポイント全体が観客たちが発散する期待と好奇心の放射熱によって、会場の温度は一気に五度くらい上昇している。空気が殺気立っていると錯覚しそうになるほどだ。
いまやステージはオメガモンたちを取り囲みながら騒然となり、空気が震動するほどの興奮に包まれていた。人数分の声が合わさり、地鳴りとなって空間を揺るがしている。狂信的なファンにかこまれたアイドルのような、そんな熱気があった。あまりにも不似合いな舞台がディアボロモンのおぜんだてだったのだ。
「負けないからな!」
「絶対勝つからな!」
「お互いがんばろうね!」
「正々堂々だよ!」
世界各国からメールが一斉に送られてきていると光子郎はなかばパニックになりながらいった。誰かが添付してきたホームページのアドレスを開いた光子郎はいよいよ固まってしまう。
「大変です。ジュンさんのデジファームを勝手にばらまいた上に、勝手に大会まで開催してる」
「大会?」
「なんだよそれ」
「それが......3月4日の騒動を加工して、以前の大会優勝者が太一さんたちだってホームページで宣伝してるんです」
「はあっ!?ちょっと待てよ、なんだよそれ!」
「聞きたいのはこっちですよ!僕やジュンさん、空さん、タケルくん、アメリカの選ばれし子供達、みんな顔と名前と住所がバレてます」
光子郎は太一たちにホームページのサイトをみせるのだ。
「次の大会に参加したいみんなはエントリーをここからしてね」
ヤマトは読み上げる。
「我こそはというデジモンテイマーたちよ!集え!そして頂点、トップテイマーを目指すのだ!」
「テイマーってあれだろ、遼とか治とかみたいにデジモン育てるのがうまいやつ。えっ、まさか俺たちディアボロモンを育てたヤツらの大会にゲスト出演させられたって流れなのかよ、もしかして!?」
「そのまさかですよ」
太一たちは汗が吹き出すのがわかった。
「うそだろぉ」
「こんなにたくさん·····ここにいる奴ら、みんなケラモンを育ててるテイマーなのか·····」
それはディアボロモンが前回敗北した処理落ちとオメガモン誕生および奇跡のような強化を目の当たりにして学習したことを示していた。全ての子供たちはただの無料ゲームの大会だと思っている。ディアボロモンは自分が育ててきたデジモンだと思っている。太一たちはいわば晴れ舞台に相応しい対戦相手ということだ。圧倒的アウェーである。ここにデジタルモンスターはもちろんディアボロモンの脅威を正確に把握出来るものは選ばれし子供達以外いない。みんな利用されている、騙されている、ということをわかってもらえそうな空気じゃないことくらい、タケルや光もわかった。
無数のサーバからディアボロモンがネットワークにログインしていることになるのだ。今の選ばれし子供達やパートナーデジモンたちと条件は全くおなじである。まず処理落ちなど無縁である。むしろ太一たちの方がインターネット環境は悪いといえるかもしれない。
無数のモニターがミラーボールの内側のようにかがやいている。その数だけディアボロモンがいることになるのだ。それも3月4日とは比べ物にならないほど強化された、途方もないほどデジファームにあるバトル機能で強化されたディアボロモンが。そいつらがたった一体に集約されたらどうなるのか考えるだけで恐ろしい話である。
経験値や強さが還元される。弱い個体も強い個体も取り込まれて平均化される。それでも進化と退化を無数に繰り返し、バトルを繰り広げた個体が生成されることにはかわらない。そいつらがディアボロモンを形づくるのだとしたら。
太一はヤマトをみた。視線がかちあったヤマトは変な笑いが浮かんでいるのが自分だけではないと知って少し安心する。太一は前を見る。そしてゴーグルを所定の位置にもどすのだ。
「やるしかねえよな」
「そうだな。これがディアボロモンの挑戦状だっていうなら受けて立つしかないだろ」
「よし、いくぜオメガモン。相手に不足はねーぜ」
「みんながディアボロモンより俺たちを応援したくなるように頑張るしかない」
オメガモンはうなずく。2体のデジモンの声が二重に聞こえてくる。
そして、濃厚な殺意があたりを包み込んだ。
「なんだ、あいつは」
「ディアボロモンじゃない」
後ろで待機している光たちも顔を見合わせるのだ。
「あっちも3匹いるの?」
「ディアボロモンが2匹としらないデジモンが1匹......」
異様なほどの興奮が立ち込める。
「なるほど、俺たちがこうするのはお見通しってことか」
「デジタルゲートを閉じる嫌がらせをしてこなくなったってことは、初めからこれが狙いだな」
「光、気をつけろよ」
「タケルもだ。やばくなったら離脱しろ」
言ってる傍からデジタルゲートが閉じられてしまい、太一とヤマトは笑うしかない。生かして返す気は無いとディアボロモンたちに宣言されているようなものだ。
「馬鹿にしやがって。今度も勝つのは俺たちだってこと見せてやるよ」
高らかな宣言に口笛や歓声がひびく。そして死闘ははじまったのだった。