教育母神と無能少年   作:万策尽きた男

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プロローグ:バアル・ファミリア

 「神様、そろそろ着くそうだぞ」

 

 「予定よりも早くてよかったですね」

 

 神様と呼ばれた女性は艶のある碧の髪を揺らしながら外を眺める。

 

 「オラリオはすげえ都会だって話だ。わくわくするなあ」

 

 「リンドウはポッカ村からほとんど出たことはないのでたいていの街は都会に映るでしょう。まあオラリオは少しばかり特別ですが」

 

 オラリオは迷宮都市と呼ばれている。

 冒険者達は日夜ダンジョンを探索し、モンスターがドロップする魔石や希少アイテムなどで生計を立てている。

 冒険者とはギルドに登録されている神の恩恵を得た者たちのことである。

 ダンジョンへ探索に行くためには神の恩恵が必要不可欠。なので神の恩恵を得ていない者は冒険者になることすらできない。

 

 「お二人さーん、オラリオに到着しましたよ」

 

 「おお、おおお!」

 

 「ここに来るのも久しぶりですね」

 

 

 

 

 迷宮都市オラリオへ新たなファミリアが参戦した瞬間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ここが私達のホームです」

 

 「でけえ家だなあ」

 

 「当然です。これから私達のファミリアへ加入する方がいるかもしれませんし、それにあの子たちがもう少し大きくなったらオラリオに来たいと言う可能性もありますしね」

 

 木造2階建てのファミリアホーム。村の小さな家に住んでいた彼にとってはとても大きく見えている。

 

 「ほら、入りますよ」

 

 早速中へ入ると誰もいないわりに小奇麗に片付いていた。恐らくこの建物を紹介した業者が手を入れたのだろう。

 基本的な生活に必要なものは最低限揃っており、それほど困ることはなさそうである。

 

 「ホームの確認が終わったらギルドへ行くので寝たりしないでくださいね?」

 

 「わかってるって神様」

 

 この男、分かったふりをしているだけである。ベッドに寝っ転がって半分寝かかっているところだ。

 神は笑顔のままサッと近づき……

 

 「いぃ!?」

 

 男の腹部へ手刀を入れた。あざなどはできないものの、鳩尾に入ればけっこう痛い。ましてや油断していて無防備な状態では防ぎようもない。

 

 「行きますよ」

 

 「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わってギルドの中。

 

 「本日はどのようなご用件でしょうか」

 

 「今日はファミリアの登録とこの子の冒険者登録をしに参りました」

 

 「はい。では登録しますのでこの用紙の項目に記入をお願いします」

 

 神はすらすらと綺麗な字で記入する。それを見た受付の女性は「……綺麗」と感嘆の声を上げていた。

 

 「バアル・ファミリア、所属する冒険者の名前はカルム・ハヴノットさんですね」

 

 「はい、それで合っています」

 

 一通りの手続きが済むとダンジョンの概要、講習がある。これは冒険者へ向けた生き延びるためのものなので聞いたほうがいいのだが、これを面倒くさがって聞かない冒険者は多い。

 しかし、彼が所属するのはバアル・ファミリアである。繰り返そう。バアル・ファミリアである。

 彼が15の歳になるまで育て上げる真面目さ、母なる善性を与え続けて穏やかかつ他者を思いやることができるように教育した帳本人。

 バアルがこの講習を受けさせないはずがないのだ。

 

 「面倒だから受けなくても「受けなさい」……はい」

 

 神以外の親という側面は子に対して圧倒的なまでに優位性を持つ。彼に拒否権など最初から無いのである。

 

 数時間に及ぶ講習が終わるとカルムはげっそりとした顔でギルドを後にした。彼の話によると受付の女性はとても楽しそうに講習をしていたという。

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