さっぱりとしたちょっとSFです。
いつになく雲の多い憂鬱な空だった。
「ようこそおいで下さりました。今ロックを開けます、本日はよろしくお願いしますね。」
無機質な声がホールに響く。しばらくして自動ドアが開き先へと進んだ。
マンションは特に住む分には問題なさそうな造りだったが、どこか古めかしさを感じる錆が所々に見られた。エレベーターに乗り7階へ到達すると、男が住んでいる部屋へと向かった。部屋のドアは既に開かれており、中で待っている者がいた。
「ようこそ、私長良光輝様のアンドロイド、『ハリー』と申します。どうぞ中へ」
アンドロイドの言われるままに部屋へ入り廊下を抜けると殺風景な部屋に老人が寝てるベットがある。今回の依頼人だ。
「よく来たね…いらっしゃい」
彼と話しやすいようにベットの側にある椅子に座ると、余命幾ばくもない男はアンドロイドにお茶を振る舞うよう要求した。
「大したもの、無くてごめんね、もう身辺整理は、終わちゃったから」
「いえ、大丈夫ですよ」
「彼を家族だと思って、ないわけじゃないんだけど…人間に見てほしくて、やっぱ」
「はい、よろしくお願いします」
「それじゃあよろしくね」
男はベットで力なく寝ていた。さて、死ぬまでのタイムが問題だ。亡くなるまでの時間には日によってバラつきがある。ひどい時には10時間待たされて帰る頃にはすっかり夜になってくたびれた記憶がある。
今日はどれだけ待たされるか。
「俺、死ぬ前に懺悔…したいんだよね」
お茶に何度か口を付けた後、老人は力なくしゃべり始めた。
「黙ってもらいたい…んだけどいいかな」
「大丈夫ですよ、守秘義務がありますので」
「昔…妻に黙って一回だけ、風俗行ったことあってさ…それで、妻が死んだ後は…もう元気なくてさ」
いつもとさして変わらない内容だ。
2ヶ月ほど前の依頼者が話した懺悔は割と面白かった。確か若い頃の罪を友人に擦りつけたとかなんとか。でも、それが何の罪状だったのかはもう忘れてしまっている。
「ああ…俺も妻のとこ逝くのかな…こっちで罪言い残せてよかったよ」
「それは良かったですね、でもあっちへ行っても閻魔様にはバレると思いますよ〜」
いつもと特に変わらない笑顔だ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
彼の意識がすっかり失せ、ゆっくりとした脈拍の音を機械が刻んでいた。
今日出かける時見かけたあの小物何処に売っているんだろう、そんなことを考えながら時が過ぎるのをただひたすらに待っていた。
「お茶、おかわり入れましょうか?」
ハリーは様子を伺っていたのか恐る恐る口を開いた。
「お願いします」
湯呑みをアンドロイドに渡すと彼は台所へお茶を入れに行った。
何も起こらない空間で時間が流れるのは遅いものだ。この部屋にはベットで死にかけの老人と、アンドロイド以外何もない。にも関わらずこんな暇な仕事をやっているのは独りでに考えているのが好きだからなのかな、そう思いながら彼女はただひたすらに待っていた。
携帯にクレジットが入ったことを確認すると一安心して、とりあえず携帯をしまう。
「2番線に電車が参ります。危険ですからドアに触れないよう、白線の内側までお下がりください。」
ホームの屋根の隙間から見える空は、行きと変わらず灰色の雲に覆われていた。