ストレンジャー!~モテモテ異世界転移者が死んだ後に送り込まれた何人かの一人になって世界一つまらない異世界物語が始まった件~   作:アルファるふぁ/保利滝良

5 / 9
ユメタロウ 覚醒

 

森を歩いてどれくらい経っただろうか。

ユメタロウは絵の具の跡を追って、森の深くへ足を運んでいた。

普通に辿ればオークに遭遇すると考え、途中から木々に隠れつつ絵の具跡を追い始める。

やがて、遠くから女の子の声が響いてきた。

 

「助けて…助けて…」

 

探していた女の子、ユリーだ。声がするということは、今のところ命に別状はない。

ユメタロウは慎重に、なるべく音をたてずに、ユリーの声がする方へ向かっていった。

 

「ユリーちゃん!」

 

ユリーはすぐに見付かった。蔦で木に縛り付けられている。

 

「ユメタロウさん…!」

 

恐怖に強張っていたユリーの顔が、ユメタロウを視認した途端にパッと輝いた。

助けが来てくれた安堵感で、長い耳がフルフル震えている。

 

「待ってて、今助けてあげるからね!」

 

ユメタロウはユリーの方へ駆け寄った。

その時、彼は横から突き飛ばされた。

 

「うっ!」

 

強い力で吹っ飛ばされて、もんどり打って倒れこむ。

顔を上げると、下卑た笑顔の豚顔が並んでいた。

 

「ブヒブヒ、罠と思わなかったみたいだブ」

「情けねえ奴だブ。ブヒヒヒ」

「まっ、例え待ち伏せしなくても、俺達オークの鼻なら人間の臭いなんてすぐにわかるブ」

 

見付かった、いや、最初から尾行がバレていたと見るべきか。

ユリーをさらうときの行動から、奴らが嗅覚に優れることはわかっていたじゃないか。ユメタロウは自分の頭脳を呪った。

 

「ボコボコに痛め付けてやるブ。簡単に死ぬんじゃねえブヒ?」

 

このままではオークとの戦闘は避けられない。

だが、ここまで来た以上、諦めて帰るという選択肢はない。逃げることもできない。

 

「うぉあああっ!」

 

ユメタロウはオークの一匹に飛び掛かり、その腹に不格好な拳骨を叩き付けた。

 

「っ!ぐぁああ!」

 

しかしその直後、ユメタロウは片手を押さえてうずくまる。

オークの表皮の前に、ユメタロウの手の方が負けたのである。

 

「なんだそりゃー?パンチっていうのはな、こうするんだブヒ!」

 

殴られたオークが、ユメタロウの胴体に腕を叩き付けた。

吹っ飛ばされたユメタロウは、地面で二回バウンドし、地べたに寝転がる。

悶絶し、声にならない叫びをあげるユメタロウ。

その周囲を、オークがにやけながら囲い込んだ。

 

「人間っていうのは本当によわっちいブヒ」

「そんなんであのガキを助けに来たブヒ?バカな奴だブ」

「ブヒヒヒ!サンドバッグにもなりゃしねえブ!」

 

その言葉に返答する余裕もなく、ユメタロウはユリーの方を見た。

 

「必ず…助けるから…」

 

かすれそうな声で呼び掛け、痛む体を立ち上がらせる。

痛みに震える足に、オークが棍棒を振るった。

 

「うわぁああああっ!!」

 

ユメタロウの足は、本来とは真逆の曲がり方をした。

痛みに叫ぶユメタロウ。苦痛に顔が歪む。

無惨にへし折れた足ではもう立ち上がれない。

芋虫のように這いずり回る人間を見下ろし、オークは笑い続ける。

そのとき、森の木々を裂くような爆音が、その場の全員を揺らした。

 

「なんだ。騒がしいぞ」

 

それは声だった。恐ろしく大きく、おどろおどろしい響きの声だった。

木々の間の闇から抜け出て、それは姿を表す。

それは真っ赤で、筋骨粒々で、人間の何倍もの体躯を持っていた。

その顔面は恐ろしげで、ユメタロウは、元の世界で見た鬼瓦を連想した。

 

「す、すいませんブヒ、ゾガン様ぁ!」

「ゾガン様のお食事を邪魔する不届き者に制裁を加えていたのですブ!」

「ブヒブヒ!」

 

真っ先に反応したのはオークだった。彼らは、森の奥から現れた存在を知っていたのだ。

オークよりも遥かに大きく、オーク達が恐れるほどの存在。

オーク以上に恐るべき相手だ。もう、ユメタロウの運命は決した。

そして、ユリーの運命も。

 

「まぁいい、よくやったオーク共。一度は人間の子供を食ってみたいと思っていたのだ」

 

ユメタロウの目の前で、ユリーがひょいと摘ままれる。

そして、ゾガンと呼ばれた巨大な怪物は、ユリーを自らの顔の前に近付ける。

 

「やだぁあああああ!やだぁあああああ!」

「ぐははは。活きがいいな」

 

間違いない、食べる気だ。

口の中に放り込み、丸呑みにして、ボリボリと咀嚼し、嚥下するつもりだ。

何の罪もない、あんなに小さな女の子を。

 

「やめろぉ!」

「お前も運がなかったブヒ」

「ゾガン様はオーガなんだブ。俺らオークが五人いても敵わないんだブ」

「大人しく、諦めるがいいブヒ」

 

這いずりながら叫ぶユメタロウを、オーク達はゲラゲラと嗤う。

足を折られ、オークに囲まれ、もうユメタロウにはユリーを救う手だてはなかった。

だが、ユメタロウは諦めなかった。それは正義感からか、使命感からか、はたまた己の中の強迫観念のよるものか。

助けを求めるユリーに手を伸ばし、掴もうとした。

 

「力を」

 

その時だった。ユメタロウの頭の中で、声がした。

 

「貴方へ」

 

ユメタロウには聞き覚えがあった。それは、女神を名乗る女によって与えられた彼の力だった。

大地の声が、今、ユメタロウに語りかけている。

 

「救うための力を」

 

今までは、不鮮明で、内容も要領を得なかった。だが今回は違う。

大地が、山が、土が、ユメタロウにあることを伝えようとしている。

 

「守るための力を」

 

ユメタロウの寝そべる地面から、眩い光が現れる。

それはユメタロウを飲み込み、その場の全員の目を焼いた。

 

「なんだこれは、何事だ」

「こりゃ一体…!?」

「眩しいブヒ~!」

「何が起きてるんだブ!」

 

困惑する怪物達。その中で、ユリーだけは呑気に呟いた。

 

「きれー…」

 

光に飲まれ、痛みをこらえ、ユメタロウは声に耳を傾けた。

彼に語りかける、大地そのものの意思を読み解くために。

 

「貴方へ、与える」

 

 

 

 

 

 

 

 

森の中、オークとオーガが注視する先、強烈な光が、地面から迸る。

光の中に、ゆらりと浮かぶ人型のシルエット。それは不鮮明でありながら、光の中で存在を主張していた。

光が弱まり、シルエットが形となってゆく。確かな実体を伴って。

 

「な、なんだお前…さっきの人間はどこに行ったブ!?」

 

オークの一体が、わけもわからず喚いた。

それに答える者は誰もいない。

彼らの目の前にあった光は既に消え、その場所には、光の中に浮かんだシルエットの持ち主が立っているだけだった。

 

「ほう…」

 

オーガの戦士ゾガンは、興味深そうに呟く。

それは、細身であった。人の形をしていて、全身は青く、一部が緑で、また一部は赤かった。衣服を着ているというよりは、肉体そのものといった様子であった。

それの顔相は、人のものとは大きく違っていた。バイクのヘルメットか、プロレスラーのマスクか、あるいはその両方の特徴を持っていた。

そして、目であろう部分は、横に歪めた逆三角形のような形をしていて、煮えたぎるマグマの如く赤く輝いている。

 

「てめぇ、何者だブ!」

 

オークが片手斧を振り上げ、その存在に振り下ろす。

しかし、瞬きよりも速い動作で、斧は避けられた。

 

「ブ?!」

 

見開かれた目。驚愕するオーク達。

現れた人型は、攻撃してきたオークの顔面に、右の拳を突き入れた。

拳の握り方も、振り方も、全くなっちゃいない。しかしそれ故に、その存在が振るうパワーとスピードは、その場で強く発現した。

 

「ぷぎぃあッ」

 

断末魔の叫び声。顔を殴られたオークが、真後ろに倒れた。

その豚顔は、目に見えるほど窪んでいた。拳によるものだ。

 

「なんっ…てめぇええ!」

「この野郎ッ!」

 

仲間が死に、激昂する残りのオーク。

怪物二匹を前にして、しかしユメタロウの心は落ち着いていた。

森林浴をしているかのような感覚が、彼を包んでいた。

 

「貴方に力を与えた」

「僕に…力を?」

 

体の色が変わり、頭部の形状が変わったことを、ユメタロウ自身は認識していた。

しかし、その肉体の操り方は、今までと変わらない。むしろ、よく動く分、この変化した体の方が自由であった。

 

「その力は、ガーディアンの力。その力で、多くの命を救って。守って」

 

ユメタロウの脳内に、大地の声がリフレインする。

土が、山が、地が、彼に与えた力のことを、教えてくれている。

 

「ガーディアン…それが、名前…!」

 

飛びかかってくるオーク。振るわれた棍棒は、しかしガーディアンに一切のダメージを与えてはいなかった。

大木を小枝で叩くように、ビクともしない。

 

「ブヒ!?」

 

困惑するオークの腹に、ガーディアンが振るった右ストレートが潜り込む。

脂肪と筋肉で膨らんだ大きな太鼓腹は、綿の塊に手を埋めたようにへこんだ。

派手に吹っ飛んで、木に叩き付けられるオーク。既に息絶え、ピクリとも動かない。

 

「ブヒ、ブヒィイイイイ!」

 

最後の一体のオークが槍で突き刺そうとするも、穂先を掴まれる。

槍は押しても引いても動かず、ガーディアンが手を捻ると、あっさりとへし折れた。

そしてガーディアンは、ひらりと飛び上がると、オークの胸に片足を叩き付けた。

 

「ブ!?」

 

情けない声をあげ、オークが森の向こうに吹っ飛ぶ。

他の二体同様、ガーディアンの一撃で死んだのは確かなようだった。

瞬く間に三体のオークを打ち倒したガーディアン。それを眺めながら、ゾガンと呼ばれたオーガは笑みを浮かべた。

 

「素晴らしいじゃないか」

「わぁっ!!」

 

今にもかぶりつこうとしていた人間の子供を雑に放り捨て、佇むガーディアンににじり寄る。

鬼瓦のような顔面には、ニタニタとした笑いが浮かぶ。

 

「オークなぞ歯牙にもかけぬパワー、スピード、ディフェンス。これ程の奴が存在するとは…偵察にかこつけて本隊から離れた甲斐があったというもの!」

 

オーガというのは戦闘民族だ。戦いのなかに己を見出だす武士達。

今、その典型であるゾガンの中にあるのは、強敵に出会った喜びに違いない。

ならば、今彼の顔にある笑みは狂喜に近い。

 

「何故貧弱な人間が化けたのかはわからんが…」

 

ゾガンが腰布に付けた剣を引き抜く。大の大人を上回るサイズの剣。大きく反りが入り、先端にかけて太くなっている。

漫画家なにかで見たことがある。ユメタロウは、それが青竜刀と呼ばれる剣であると考えた。

 

「血沸き肉踊る一戦ができそうだ!グァハハハハハ」

 

青い闘士ガーディアンと、オーガの戦士ゾガン。

森の中央で、二つの強者がぶつかり合う。

青竜刀を振り上げ、オーガが走り出した。

人間の三倍は余裕に越える体躯。そこから繰り出される一撃は、ガーディアンとて耐えられるかどうか。

 

「ぬぅあああッ!」

 

ガーディアンは、ゾガンが剣を振るう寸前に横へ跳び、避ける。

轟くような掛け声。振り下ろされる剣。爆ぜる地面。

オーガの戦士の一撃で、地面が削れ、土が弾け飛んだ。

 

「まだまだァ!」

 

ゾガンはすぐさま構え直す。幾度も振るわれる青竜刀は、空気を切り裂き、風を薙いだ。

しかしガーディアンはその攻撃を全てかわす。敵よりも一瞬早く動き、攻撃が当たらぬよう身を翻す。

 

「速いな!だが…」

 

青竜刀を振るいながらゾガンが嗤う。

その時、刃の代わりに足が突き出された。

重々しい音と共に、ガーディアンが派手に吹っ飛ぶ。

 

「くあっ…」

 

ガーディアンは森の木の一本にぶつかり、止まる。

今の蹴りは、避けることができたかもしれない。だが、意表を突かれて動きが固まったのだ。

 

「今ので死なぬか。大したものだ」

 

剣の峰を肩に乗せ、ゾガンが嗤う。

 

「肉体そのものが秘める能力は我らオーガよりも上と見た!しかし、戦闘経験はずぶの素人のようだなァ!」

「つっ…!」

「避けるだけでは何時まで経っても勝てんぞぉ!?」

 

ユメタロウは図星を突かれ、呻く。

確かにその通り。ガーディアンの体を動かしているのは、ユメタロウだ。

ガーディアンのスペックは確かに非常に高い。大地の力が生み出した闘士は、とても強い。

が、それを扱う本人はというと、そうではない。ユメタロウは、向こうの世界では殴り合いの喧嘩すら経験していないのだ。

 

「故に、貴様は討たれるのだ…我が手によってな!」

 

振り下ろされる剣。ユメタロウはそれをかわす。

剣が幾度も振るわれて、その度にガーディアンは避ける。剣による攻撃に注視すれば、ユメタロウでもガーディアンのスピードで避けることができる。

だが、そのなかに蹴りが入ると、どうしようもない。

剣による攻撃の中に混ぜられる蹴り。重々しい威力に吹っ飛ぶガーディアン。

 

「がッ…」

 

木に叩き付けられ、へたり込むようにずり落ちる。

この戦法はこれで二回目である。まともに食らったのもこれで二回目。

ゆったりと近付いてくるゾガン。なんとか立ち上がるガーディアン。

 

「食らえッ」

 

ゾガンが剣を振り下ろす。

ガーディアンは横へ跳んで剣を避け、次の瞬間前方へ跳んだ。

 

「なっ」

 

驚くオーガ。だがもう遅い。

恐るべき速さで敵の懐に飛び込み、握り締めた右腕を叩き付ける。

鈍い音が鳴り、巨体がよろめいた。

 

「…なるほど!オークを一発で殴り殺せるわけだ。グァハハハハハ」

 

しかしゾガンは倒れない。ダメージがあるものの、オークのように死んでいない。

オーガは、ガーディアンのパンチ一発では倒せない。これが格の違いか。

 

「だが、拳の握りも振り方も、未熟!まるで未熟!」

 

オーガが嗤う。剣を持っていない方の手を固く握りしめる。

まるで大きな岩のよう。ユメタロウが作る拳骨と比べると、外見からして別物だった。

 

「拳とは、こう打つのだッ!」

 

ゾガンがパンチを放つ。迫り来る大きな拳。

ガーディアンも、その拳に正面から右ストレートを打つ。

二つの拳がぶつかり合って、しかし吹っ飛ばされたのはガーディアンの方だ。

地面を転がりながら、土や落ち葉を巻き上げる。

一方のゾガンもダメージを負ったようだ。震える片腕を抑えている。

 

「これで終いだ…」

 

オーガが青竜刀を振り上げ、ガーディアンに走り寄る。

ガーディアンは起き上がり、敵を正面から見据える。

つい今さっきまで、オーガに対する決定打は無かった。だが今は違う。

 

「両手の拳を突き合わせ…」

 

大地の声が、ユメタロウに与えられた力の使い方を教えてくれる。

ガーディアンの戦いを、伝えてくれている。

 

「拳から肘までを撫でる…」

 

ガーディアンは、指示通りに動いた。両手の拳を突き合わせると、そこから光の粒子が発生した。

左手で右手の拳に触れる。発生した光の粒子は、吸い込まれるように右手に収束していく。

拳に触れた手を肘まで動かせば、ガーディアンの拳は光に包まれ、眩い輝きを放つ。

 

「虚仮脅しをッ!」

 

雷のごとく振り下ろされた剣先。

それは空を虚しく切るだけであった。

ガーディアンは、前へと踏み込んだ。それだけだった。

オーガの体は、人間よりも、ひいてはガーディアンよりも大きい。刃が落ちる前に踏み込めば、あとは広々とした懐が残るのみ。

輝く右手を突き入れる。付加されたエネルギーは拳自体の威力を上げ、鋼鉄のような胸板を貫いた。

 

「ごァぼッ…」

 

急所を抜かれ、ゾガンの体から急速に力が抜けていく。

戦闘民族オーガの戦士の、最期だ。

 

「グァハハハハハ…やられた!!」

 

ゾガンの笑い声は、途中で掻き消えた。彼の胸を貫く拳が纏うエネルギーが、彼の体内で起爆、炸裂したからだ。

オーガの巨体は解放されたエネルギーによって爆裂し、千々に弾けて、その痕跡を残さず無くなった。

 

「はぁっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ…!」

 

ゾガンにトドメを刺した姿勢のまま、ガーディアンの体が光となって消えていく。

そして、ガーディアンのシルエットが光に呑まれて消えたあと、そこにはボロボロのユメタロウが残った。

 

「はぁっ…はぁっ…大丈夫?」

 

ユメタロウは振り返り、未だ恐怖に震えるユリーの声をかけた。

話しかけられたユリーは、一瞬ビクッと震えたが、怖いものが去ったのを理解した。

 

「うん…」

「よかった…」

 

疲れはてた顔で、ユメタロウはひたすら繰り返した。よかった、と。

木々に囲まれて、体の力を抜く。

無謀にも少女を助けようとした彼の、奇跡の勝利だった

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。