ストレンジャー!~モテモテ異世界転移者が死んだ後に送り込まれた何人かの一人になって世界一つまらない異世界物語が始まった件~ 作:アルファるふぁ/保利滝良
森の奥から、折れた槍を杖代わりにして、ユメタロウがヨロヨロと出てきた。
その傍らには、多少のかすり傷はあるが、五体満足で無事なユリーがいた。
窓の外や屋外で森の方をじっと見ていた村人達は、一斉に二人を取り囲んだ。
「お前ら生きてたのか!」
「ユリー!おぉよく無事で…」
「オーク達はどうした、まさか追い払ったのか?」
「その怪我は奴らにやられたんだね!?」
「一体何があったの!」
一斉に言葉をわっと浴びせられ、二人は一瞬立ちくらみした。
ここで、唯一状況を説明できるユメタロウが、一声出した。
「あの…あの!」
すると、村人達はすぐに静まり返った。皆、ユメタロウの言葉に耳を傾けようとしている。
しかし、次の言葉を紡ぎ出す前に、ユメタロウは地面に寝転がってしまった。
オークに散々いたぶられ、ここまで辿り着いて気が抜けたのだ。もう指一本動かない。
「怪我を治してもらえませんか…」
今にも消えそうな声音で問いかける。すると、村人の集団の後方から、女の声が響いた。
「私に任せて」
ショートボブの若い女性。ユメタロウは彼女のことを知っている。
「ユカさん…」
「じっとしててね」
同じストレンジャーであり、そしてユメタロウがユリーを助けに行くのを止めた人。
ユカは両手をユメタロウに当てた。ユカの細い指が緑色に輝いて、次の瞬間、ユメタロウの体から痛みが完全に引いた。
「あ、あれ。あれ?」
信じられないという顔で、ユメタロウは体を動かした。
折れた足もちゃんと元通りだ。怪我が完全に治っている。
「はい、ユリーちゃんも」
「うん…」
ユカは、ユリーの顔に手を当てた。再び緑色の光が漏れて、少女についた痛々しい擦過傷が消えた。
その様子を見た村人から、歓声やら、安堵の溜め息が聞こえてくる。
「それ、ユカさんの…」
「うん。女神サマとか言った人に、貰ったの」
ユメタロウは感心した。どんな傷をも一瞬にして治す力。とても素晴らしい能力だ。
戦う力ではなく、誰かを助ける力。どんな状況でも重宝できるだろう。
「ユカお姉ちゃん…」
「ユリーちゃん、ごめんね、ごめんね…」
「ユカお姉ちゃん?」
ユリーの怪我を治すと、ユカは唐突に泣き出した。目の周りを真っ赤に腫らし、瞼から滴をこぼす。
「クスン。うっ…うぅ…ごめんね、本当にごめんね…!」
村人全員を見渡せば、ユカと同じような状態の者も何人かいた。
顔を伏せて涙を落とす者。気まずそうに顔を背ける者。ユカの手をとって謝る者。渋い顔で口を引き結ぶ者。
ユメタロウは察した。今の彼らは罪悪感でいっぱいなのだ。
「皆さん…」
オークにさらわれたユリーを見捨てるのと、オークに歯向かった末の村の全滅。それらを天秤にかけ、彼らは村全体を選んだ。
無理もない。村人ではオークに勝ち目はなかった。村の女の子一人を生け贄にして生き残るしか無かった。
だが、彼らは罪悪感による行動やしぐさをしていた。
最初に出迎えたとき、彼らはユメタロウとユリーの無事を喜んだ。
ユリーを見捨てたのは、彼らにとっても不本意であったのだ。
「ユカお姉ちゃん、泣かないで」
ユリーがユカに優しく声をかける。
「皆も、泣かないで。私は帰ってきたよ、怖くて泣いたけど、ユメタロウお兄ちゃんが助けてくれたんだよ」
集まった全員を見渡しながら言うユリー。その言葉を聞いて、村人全員が嗚咽を漏らした。
ユカは何度も謝った。涙で頬を濡らして、上ずった声で喉を枯らして。
「ごめん…ごめんね…」
その意味を知ってか、知らずか、ユリーはユカを抱き締めた。
しゃがんでいるユカの首に腕を回し、自分の右頬とユカの左頬が触れあうように抱き付いた。
そして、尚も泣き続けるユカの頭を、髪を鋤くように撫でた。
「とんでもない無茶をしたようだね、ユメタロウ」
ユメタロウを取り囲む村人達の外側から、よく響く老婆の声が聞こえた。
無茶達は声のした方向からはけ、あとから来た人物に道を開けた。
「色々言いたいことは山程あるが、バーラ村の住人を代表してお礼を言わにゃならないね」
ジュリーだ。ユメタロウを家に泊めてくれた、村の長代わりの老婆だ。
「この村宝、大事な子供を、私の孫を助けてくれて本当にありがとう、ユメタロウ」
「ジュリーさん…」
「誰もが諦めていた。皆、ユリーのことを諦めていた。だけど、アンタは危険を顧みず、ただその子を守るために命をかけ、やり遂げた…なんとお礼したら良いかね…」
治った足で地面を踏み締めて、ユメタロウは立った。
彼が今生きているのも、ユリーを助けることができたのも、自分が立っているこの大地の意思あってのものだが、そこまで説明するのは長くなりそうなので、ユメタロウは自重した。
「お礼なんてそんな…僕はただ、見捨てることができなかっただけです。こうやってオーク達をやっつけてユリーちゃんを助けられたのも、偶然の連続みたいなものなんです」
「ストレンジャーの為せる技かい?」
「そんな感じです。それがあったからこそ…」
「でも、命を懸けたのは事実だろう?偶然の連続と言ったが、アンタはそれが起こることを知らずに行った。違うかい」
「…はい、そうです。僕はなんにも考えずに、ユリーちゃんを助けに行きました」
「それが、その気持ちがありがたいんだよ」
ジュリーはユメタロウの手をとって言った。
しわしわで骨張っているのに、とても温かい手だった。
「自己犠牲は誉められたもんじゃないかもしれない。だけどね、アンタはあの子のために行動した。何も頼れるものがなくてもね。ありがとう」
「ジュリーさん…」
「さあ。ユリーとユメタロウが帰ってきたこのおめでたい日に、ごちそうがないのはおかしいね!?」
ジュリーは振り返り、村人全員に呼び掛ける。
ジュリーの話に聞き入って静かになっていた彼らは、にわかにざわめきだし、動き始めた。
「…ユリー、すまなかったねぇ…」
「おばあちゃん…おばあちゃあああん!」
ユリーはユカを抱き締めるのをやめ、祖母の方へ走り寄る。
ジュリーはただ静かに、小さな孫を受け止めた。
ユメタロウとユカは、それをじっと見つめる。
「よかった」
「え…?」
聞き返すユカに向き合い、ユメタロウは言った。
「ユリーちゃんを助けることができて、本当によかった」
「…ユメタロウくん、本当にありがとう」
「いえ…」
村が活気に包まれていく。食材を運ぶ者、料理を作る者、椅子やテーブルを持ってくる者。
やがてそこに、ユメタロウが追いかけっこをした子供達までも加わり、ますます騒がしくなっていく。
「行こう、ユカさん」
「うん、わかった」
日が沈み、昼が夜に変わる。