世界平和を願ってみようか!   作:マカロフ総統

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一話

 神様は俺に一つの願いを頼んだ。それは世界を救うこと――このどうしようもない世界を普通の世界に導いてくれと懇願された。大きな正義感を持っていなかった俺はそれを拒否しようとした。だけど、彼女達の名前を告げられたら俺はその願いを拒絶することが出来なかった。

 ――これは一種の呪いだ。俺という人間をこの世界に縛り付け、そして、正解らしい正解を与えられない。そう、解呪の方法が非常に困難な呪いなのだ。

 

 

 俺の名前は大間和郎、最近流行りのキラキラネームを与えられていないごく普通の小学生だ。三十二回のループ以前の話しだが……。

 言うならば、最初の一回の人生はそれは真に普通の小学生、少し負けん気の強い普通の小学生だったさ、でも、ある一定の年齢で絶対に死ぬようにループするようになってからは、商店街を歩いているヨボヨボの老人よりもご年配という悲しい事実を突きつけられている。

 そんな時間逆行者とも呼べる俺の三十回前のループからやっているお楽しみというものがあるのだが、それは100%当選する宝くじを購入することだ。疑問に思うかもしれないが、俺という存在が今の世界に限りなく近い平行線の世界を渡り歩いているのではないのか? そういう素朴な疑問が思い浮かぶだろう。残念ながら、俺のループしている世界はどれも全部同じ世界、俺の行動が変化しているだけの同じ世界というものなのだ。だから、宝くじの当選番号は絶対に変化しないし、着順さえ覚えていれば万馬券を億馬券にすることだって可能だ。

 小学生らしい幼稚な格好で宝くじ売り場に到着する。一等当選なんていう素敵な立て札は無く、幸運の販売所なんていう雰囲気を微塵に感じさせないこの宝くじ売り場は数日後には一等を二十本を排出するとても素晴らしい販売所になることを俺は知っている。そして、その二十本を俺が当選させるのだから面白い話だろう。

 数字を当てるタイプの宝くじ、それのマークシートを手にとって当選する番号を虱潰しに書き記す。そして、二十枚書き終えて四千円を販売所のオバちゃんに手渡す。するとオバちゃんは「同じ番号だよ、いいの?」そう告げるのだが、俺は構いませんと言って百六十億のチケットを受け取るのだ。

 さて、もうそろそろ二人と遭遇するタイミングだ。身構えるとまではいかないが、数百年を余裕で生きているもので小学生らしい口調というのが再現できないレベルで老いてきている。勿論、頭が大人になり過ぎているというのが原因ではあるのだが。

 

「あれ? カズちゃんなにしてるの」

 

 帰り道の途中で気の強そうなポニーテールの女の子と気の弱そうな三つ編みの女の子が俺のことをみてニッコリと笑ってみせた。

 ポニーテールの方が高瀬南、

 三つ編みの方が白石ひな、

 小学一年生の頃からの付き合いで事ひなに関しては心を開いている友人は南と俺だけという超が付く程の人見知り体質だ。そして、最初の世界ではひなの方は俺の奥さんになっている。まあ、最初の世界だけなのだが、それでも、この可愛らしい少女を嫁さんにしたというのは誇りに思える。

 

「軽いお使いだよ、ポケットの中に入るようなものを買いに来たのさ」

「へー、すぐに帰らないといけないの?」

「いや、全然」

「なら川で水切りして遊ぼうよ! 最近カズちゃん付き合い悪いしさぁ」

「了解、お供します」

 

 拳を握りしめる。今からやることは小学五年生という非常に中途半端な年齢の少年が二人の少女を小柄とは言えど大の大人から守るということをしないといけない。失敗した回数は十回だ。まあ、今になったら撃破率90%はあるのだが、それでも、負ける可能性があると思うと大人と子供の腕力の差というのが身をもって体感できる。

 南に連れられるがまま、近所の河川敷に到着して三人で跳ねそうな平らな石ころを探す。あと三分、そのくらいだろうか? 周囲を確認すると小柄で小太りなおっさんが気持ちの悪い視線を俺以外の二人にぶつけている。二人の方は石ころを探すのに夢中になって存在に気が付いていない。

 

「ちょっとトイレ」

「ここですればいいじゃん」

「え、ちょっと……みなみちゃん……」

「それは嫌だよ、草陰で済ませてくる」

 

 何回か二人と同伴してやり過ごそうと試みたことはあるのだが、その場合は俺がいきなり刺されて二人を守れない状態になることしかなかった。結構試したんだが、絶対に無理という結末が待ち受けているなら仕方がない。

 草むらに隠れて不審者の行動を伺うと、俺が消えたと同時に二人に狙いを定めて声をかけた。そして、ひなの手を掴んだ。

 ――刹那、男の顔が俺の蹴りによって苦痛に歪む。

 小学五年生とは言えど、全力疾走からの飛び蹴りで痛みを感じない者などいない。

 

「ぐぐっ……なにするんだ……」

 

 まあ、気絶してくれたことは一度もないんだが……。

 

「みなみ! ひな! 逃げろ!! こいつ、絶対に危ない人だ……」

 

 二人は真剣な表情を見て察したのか、みなみがひなの手を引いてその場から逃げてくれた。さて、俺も逃げ出したい気持ちで満ち溢れているわけなのだが、この場合、俺まで逃げるとこの男は再度二人をストーカーして同じことが繰り返される。つまりは、この日の行動に一切の意味を持たなくなるのだ。

 

「よくも……僕の計画を……」

「そんな計画を組み立てられるなら歪んだ性癖を治す方が楽だと思うぜ」

 

 男は自暴自棄になったのか百円ショップで売られているようなステンレス製の果物ナイフを取り出して俺の腹部に向かって突進してくる。俺はサラリと躱して足を引っ掛ける。するとゴズンという音を奏でて男は崩れ落ちた。すぐに体制を立て直そうとするが、果物ナイフが握られている右手を思い切り踏みつけて、男の悲鳴と同時に凶器を押収する。

 

「君達なにをしているんだ!?」

 

 これで何回目だろうか、だが、日本の警察は頼りになる。今回だけかもしれないが、絶対にこのタイミングで小学五年生と中年男性の喧嘩(笑)を発見してくれるのだから。

 さて、これから長い長い事情聴取が始まる。

 

 

 時間で言えば数百年くらいの付き合いのある両親は俺に怪我が無いことを非常に喜んでる。まあ、怪我をして一週間後に目が覚めるなんていうこともあったのだから悪い方向にも、良い方向にも慣れている。さて、警察屋さんの手厚い事情聴取も終わり、家のセダン車、極端に言えばカローラで普通の一軒家、実家に戻る。

 さて、人間の人生三回分くらいをこの家で過ごしていると思うと鳥籠の鳥の気分を味わえるが、これは俺が神様の呪いを素直に受け入れたのが原因だから文句も言えない。

 

「本当に怪我は無いのか?」

「大丈夫だよ、ピンピンしてる」

「それならよかった……」

 

 親父が心配そうに俺の体を見ているが流石に序盤の序盤で失敗したら残りの十四年間が無駄になる。俺はこの歳、十歳から二十四歳までを何度も繰り返しているのだ。俺の身の回りで起きる不可解とも呼べる事件を解決する為に……。

 自室に戻って宝くじを机の中にねじ込んでベッドにダイブする。

 

「レイプ事件の次は南が車に突っ込まれて死ぬんだよな、起こるのは明日の何時だったか……」

 

 正確な時刻は把握できていないが、南と行動を共にすればいい。

 

「二週間を乗り切れば次に移るんだけどな……」

 

 この二週間の間に高瀬南という少女は五回程死ぬ可能性のある事件に巻き込まれる。今日という日に変質者が南とひなをレイプしようとした、もしくはしたことは三十二回のループのすべてで発生している。そして、この一人の少女を集中攻撃するような出来事は次の犠牲者と呼べる少女が現れない限り終わらない。

 

「エミリーが留学してくるまで二週間、そして、エミリーを守るのに一ヶ月、その次は……」

 

 エミリー・リシャールという少女が二週間後に留学してくる。そして、本来ならその三日後に誘拐されて死ぬか辛うじて生きてるかする。正直な話をさせてもらうとこのエミリーという少女が多くのループの中で一番の難関だ。今現在確認出来ている事件に巻き込まれている少女達の中で金銭トラブルや突発的な犯罪ではなく、酷く用意周到に計画された犯罪が行われる。突発的な犯罪なら俺が割って入れば終了するが彼女の場合は波のように事件が押し寄せてくる。それを一つ一つ虱潰しに終わらせるのは骨が折れるとしか言いようがない。三十二回のループの中で彼女を救えたのは三回だけというテイタラクだ。

 

「まあ、今は南を助けることだけ考えよう。南を救えなかったら二十四歳で死ぬんだからな……」

 

 溜め息を吐き出して目を閉じた。

 

 

 日本の学業は非常に発展している。高い専門的知識を幼い頃から植え付けるのではなく、持ち合わせていると便利な知識を満遍なく教えて最終的に高校か専門学校、もしくは大学で伸ばしたい部分を強化しろという両親設計だ。

 と、まあ、学業の話をしたわけだが、まだまだ授業が開始される時間ではない。窓からグラウンドを覗き見ると早起きな生徒達がボール遊びなどをしている。俺もループが発生する以前は混ざって遊んでいたわけだが、精神が大人になるとどうしても遊びに本気を出せない。

 

「カズくん……怪我してない?」

「ひな、隣のクラスから来てくれたのか」

 

 ひなが心配そうな表情で俺のことを見つめている。

 彼女のことを撫でて、

 

「俺はひなと南のスーパーヒーローだからさ、怪我なんてしねぇよ」

 

 彼女はパッと明るい笑顔を見せて頷いた。

 あながち間違えではない。今現在は南を救うスーパーヒーローで、その次が留学生、その次が……。

 でも、最後はひなのヒーローでありたい。最初の世界、これから十二年後では彼女の旦那だったのだ。彼女だけを愛していた。だからこそ、最後は彼女を隣に置きたい。

 地響きのような音が響き渡り、そして、見慣れたポニーテールの女の子がランドセルも降ろさずに飛び込んでくる。

 

「カズ! 生きててよかったぁ……!」

「ぐげぇ!?」

 

 小学生の女の子とは言えど全力疾走でタックルされると威力が凄まじい。そのまま彼女のクッションになって崩れ落ちる。朝っぱらからハイテンションなのはいいが、もう少し奥ゆかしさが欲しいものだ。

 

「みなみちゃん……カズくん困ってるよ……」

「でもでも! カズがわたし達を助けてくれたんだよ、お礼しないと!!」

「いや、全力でタックルされるのがお礼なんですかね……」

「女の子に抱きつかれて嬉しくないの!?」

 

 嬉しいか嬉しくないかで言えば嬉しいけどさ、嫁さんになってた女の子の前で嫁さんじゃない女の子に抱きつかれても複雑な気分にしかならないよ……。

 

「……カズ、本当に怪我はない?」

「無い、あったら病院で寝てるよ。まあ、友達二人を守れたら怪我してもいいんだけどさ」

「本当に……カズは頼りになるなぁ……」

「……でも、世の中は危険がいっぱいって親父が言ってたから気をつけるんだぞ」

 

 二人は静かに頷いた。でも、気をつけてもどうしようもないことはあるもので、レイプ事件を解決した後は高瀬南という少女が車に轢かれて死ぬのだ。それを解決するために俺はループしている。

 

「どうしたのカズ? わたしのことをじっと見て……」

「いや、可愛い顔だなって」

 

 彼女は顔を真赤にさせて何も言わずに逃げ出した。

 ひなの方に目をやるとぷくりと頬を膨らませて怒っていますというのをさらけ出している。さてはて、将来の嫁さんのことはよく知っている。このパターンは一日は口を利いてくれないパターンだ。

 

 

 いつもの三人の帰り道というやつだ。学校も終わって家に帰りランドセルを置いて遊びに行く。これが小学生、これが幼少期、これが平和なのだが、俺に平和は似合わない。

 今朝の可愛い発言で根に持っているひなは俺のことをチラチラと見ているが南との会話に混ぜようとはしていない。まあ、逆にこれは好都合だ。二人の会話に気を取られてこの先の出来事に対処出来ませんでしたなんて格好がつかないにも程がある。

 交通量の少ない通学路というのは、まあ、アレだ――案外危険なものだ。

 急ブレーキにより鳴り響く甲高い音がGOサインだ。前を歩く二人を抱きしめて勢いよく安全な場所に跳んだ。

 耳を攻撃する形容詞し難い音が後方から鳴り響く、

 本来だったら一人の少女がこの車に轢き殺されていた。

 二人の少女は起こった一瞬を理解するために何分もの時間を費やしている。

 

「……最高の世界だぜ、ここは」

 

 危険が付き纏うこの世界をそう表現した。

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