時刻は夜10時。俺は自室で白を貴重としたギターを持ち独自で鳴らしていた。しかし、初心者1人ではなかなか上手くいかず何度か鳴らした後に納得がいかないような表情をしたままベットで横になった。
「やっぱ1人じゃ無理あるかなぁ…。」
天井を仰ぎながらそう呟いた。
やはり才能云々の問題なのだろうか。いや、そもそも独学で弾けるレベルになろうとするのが間違ってるのか。それは俺にはいまいちわからない。調べた所によると「本気でギター上手くなりたいなら1日6時間は練習すべき!」って書いてたから単に練習量の問題なのか……。
「でも頼れる人はいないし…やっぱり独学でどうにかするしかないのかなぁ…。」
そのまま目を閉じていると次第と眠気が襲ってきた。寝る前には歯磨きをしろとよく言われていて、いつもそれを欠かさずに行ってきたのだが今だけは少しだけ無視したくなったのでゆっくりと眠りにつこうと思っていた。
その時のことだった。
突然スマホが鳴り始めた。そのせいで眠気が冷めてしまい、俺はスマホの画面を見た。
『イサムくん、申し訳ないんだけど明日もバイト出てもらって良いかな?』
まりなさんからだった。そしてこの文面を見た瞬間俺は思わず溜め息をついてしまった。……まあ特に予定も無いから良いんだけどさ。
『わかりました。何時から出れば良いですか?』
この一言を送るとまりなさんから色々と送られてきた。これで俺は明日の10時からバイトに出ることが確定した。
「……寝よ。」
気がつけば時計も11時30分を超えていて、今日は特にやることもないのでそのまま寝支度を終えてそのまま眠りに着いたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
次の日、俺はCiRCLEのカウンターに立ち何時ものようにアルバイトに励んでいた。そして今日はバイトが終わったら部屋を借りて練習をしようと考えていたので荷物と一緒にギターも持ってきた。そのため、CiRCLEに入った時のまりなさんの驚く顔は凄く覚えている。
「すみませーん、4番スタジオの鍵を返却に来ました。」
そこに茶髪のギャルっぽい女の子が来た。俺は鍵を受けとると、規定の場所に戻した。
「あ、それと次の予約いいですか?」
「はい。じゃあこちらの用事に希望する日と時間の記入をお願いします。」
俺からペンと紙を受け取り、慣れた手つきで記入事項を書き終えていた。それを受け取り、その人の予約は完了した。
「ありがとうございましたー。」
その後出てきた4人と合流した少女はCiRCLEを後にし、俺はそれを見送った。
「Roselia…ねぇ。」
今最も期待されていると言っても過言ではないバンドらしい。歌姫と称される湊友希那を筆頭とした高い技術力を持つ実力派ガールズバンド。近いうちに何処かのコンテストに出場するらしい。
「それにしても湊かぁ…。あの人と同じ名字だけど……まさか、ね。」
プラボードを番台に置き、一度思いっきり背筋を伸ばした。
それからはお客さんも殆ど来ないので「平和だなぁ」と思いながら窓越しに外の景色を眺めていた。だが、暫くするとカランという音と共にお店の扉が開かれた。
「やっほー!イサムくんいるー?」
その来客は想像外の人物だった。
「氷川…さん?どうしてここに?」
「あ、いたー!」
来客…氷川日菜は俺を見つけるや否やカウンターに駆け寄ってきた。
「えっと…スタジオのご利用ですか?」
「違うよー。イサムくんとお話したいな~って思ったけどどこに行けばいるのかわかんないからここに来ちゃった!」
「いやまだバイト中…」
とりあえず時計を見ると上がりの時間まで後15分を切ろうとしていた。しかし俺は目の前にいる氷川さんをどうしようかとしばらく悩んでいた。
「とりあえず…まだ俺仕事しなきゃいけないからまた今度で良いかな?」
「ええ~。……じゃあ後どれくらいかかるの?」
「えっと…後15分くらいかな…?」
「わかった!じゃあ待ってるね~。」
と、そのままソファーの所に向かい、近くに立ててあった音楽雑誌を眺めていた。その姿を見て『凄く自由な人だよなぁ』と思ったのだった。
「あ、スタジオの掃除しなきゃ。」
とりあえず今は仕事に集中しよう。氷川さんのことはその後だ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「お疲れさまでした~。」
「あ!終わった~?」
バイトから上がるとそうそう氷川さんに絡まれた。
「で、話って何?彩のこと?」
「違うよ~。もしかして…イサムくんは彩ちゃんのこと聞きたいのかな~?」
「
「本音出ちゃってるよ~?」
しまった。俺としたことがつい……。
「あははっ!イサムくん、彩ちゃんのこと大好きだねー。」
「いや、そんなことは…ない…けど…」
「ふーん?でも今の反応、彩ちゃん並に面白かったよ?」
「それ褒めてるの?」
ニヤニヤしながら語る氷川さんに対して俺は首を傾げながら聞いた。
「ところでイサムくんもギターやってるの?」
「そうだった。まりなさーん、空いてるスタジオ借りても良いですかー?」
そうカウンター内に声を出して聞いたところ「いいよー。」と奥から返ってきた。
「じゃあ俺今から練習してくるよ。」
「ねえ、あたしも着いていってもいい?」
「え?別に良いけど…」
そう言うと奥から出てきたまりなさんから鍵を受け取り、氷川さんと一緒に空いてる部屋に入り俺はギターを弾き始めた。
ボーンと慣れない弦を弾く音が部屋に響く。そしてその度に俺は首を傾げた。一方、その近くにいた氷川さんは無表情でじーっとこちらを見つめていた。
「うーん…、なんかるんって来ないなぁ…」
そう言われ思わずギターを弾くのを止めた。
「というかさ…氷川さんってどんな感じでいつも弾いてるの?」
「うーん、どんな風にって言われてもなぁ…。ギュイーンって感じかなぁ?」
ギュイーンという新たな擬音が出てきてしまい思わず「聞く相手を間違ったかな?」と心の中で呟いた。
「はあ…、スタートラインから前途多難かぁ…。」
ため息をつきながら俺はギターを置いて鞄の中からペットボトルに入ったお茶を取り出し、休憩に入った。
そして、その後も何度か練習していたのだが一向に上達する気配は無かった。尚、氷川さんはその光景を見ながら何かを考えているように見えた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
終了時間を迎え、片付けをした後に俺たちはスタジオを後にする。外に出ると青い空に橙色がかかり始め1日の終わりが近づいているのを感じられた。
(うーん…。結局今日も何も掴めないまま終わっちゃったなぁ…。)
「ねえイサムくん。」
考え事をしている俺の横を歩いていた氷川さんが俺に声をかけてきた。
「イサムくんはさ、なんでそんなにギターやろうと思うの?」
「え?」
「だってさ~。なんか凄く難しい顔してさ。別に出来ないのなら無理にやらなくてもいいんじゃないのかな~って思うんだけどさ~。」
無理にやらなくてもいい。そう言われ、俺は少しだけ言葉を詰まらせた。
確かに氷川さんの言葉は間違っているわけではない。いくらそれが好きなものであったとしてもそれが実を結ばなければ意味がない。
これまでの俺だったら氷川さんを完全に肯定していただろう。才能が無く、1歩を踏み出す勇気も無い人はそうして生きていくしかないのだろうと思っていた。
でも…
「それだと…笑われるだろうからなぁ」
「ん~?」
「いや、こっちの話。まあ…どんなことがあっても最後まで足掻いて夢を叶えようとする人がいるのに…こんなところで止まってるとなんか自分に負けた感じになっちゃうからさ。」
「ふーん…。」
氷川さんは頷きながらおれのことをじーっと見ていた。そして、暫くお互い黙っていたのだが…
「やっぱり彩ちゃんのこと好きなんだね~。」
「いやだからそう言うことじゃないんだけど…」
「あははっ。やっぱりイサムも面白いね!」
笑いながらその後も氷川さんは俺に色々と聞いてきた。その内容は俺のギターのこととか、彩のことだったけど…。
「ねえねえ!今度また遊びに行ってもいい?」
「いや、バイト先に来られるのはちょっと困るんだけどなぁ…。」
「うーん…。……あ!じゃあ連絡先交換しようよ!行きたくなったら言っておくからさ!」
「しょーが無いなあ…。」
こうして、俺に新しい繋がりが増えてしまった。
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