「ここってこんな感じで弾いたらいいのかな?」
「うんうん!なんか今のシュピーン!って来たよ!」
「そうなの?」
あれから俺は日菜に教えて貰いながらギターを日々練習していた。日菜の言う擬音は少しわからないことがあるけど感覚で考えるなら少しだけ理解出来るようになってきた。まあまだ俺と彼女の解釈の間でズレてるところはあるけどまあなんとかやれてる。言い忘れていたけど氷川さん呼びから日菜呼びになっているのは本人からの希望です。
「それにしても本当腕を上げたね~。こんな短期間でここまで出来るようになるなんてね~。」
「それはまあ…日菜のお陰かな?」
「うーん、そうなのかな?」
本人は「そうかな?」という雰囲気であるがとりあえずはそこには触れないでおこう。
「そう言えばさ、イサムくんってバンド組むの?」
「うーん…一応宛はあるんだけどなぁ。」
「へえ~。」
相変わらず何を考えてるかわからない目でこちらを見てくる。
「まあなんとかやれるだけやってみるよ。」
いつかの自分を思い出した。その時は周りの目や評価ばかりに気を取られて前に踏み出せずにいた。でも、もう同じことで後悔はしたくない。だからやれることはとことんやろうと決めたんだ。
そう決意を固めながらギターをケースにしまい、片付けを始めた。それを見ていた日菜も察したのか自分が座っていた椅子を元の場所に戻しだした。
◆◆◆◆
「という訳で…バンドやって頂けないでしょうか!?」
次の日、放課後に学校の空き教室で俺はアキラとミチルに頼み込んだ。正直なところミチルはドラム経験者であり、アキラもベースをやったことがあるという。その中で俺は最近ギターをやり始めた初心者同然の存在。特にアキラは妥協を許さないような性格だから難しいかもしれないけど…
「……仕方ないな。」
「やっぱりかぁ……えっ?」
思わず耳を疑った。
というもののあのアキラがあっさりと受け入れてくれたのが衝撃的で仕方がなかった。
「なんだ。鳩が豆鉄砲くらったような反応して。」
「いや…アキラがすんなり承諾してくれるとは思わなかったから…。」
「どういう意味だ。」
俺の失言に喰ってかかるアキラをミチルが宥めていた。まあ何はともあれなんとかなりそうで一安心といったところだろうか。
「それでパートはどうすんの?」
「うーん…俺がギターでミチルはドラムでしょ?」
「で、アキラって何か楽器やれたっけ?」
「ベースなら心得がある。」
「なるほど~。で、後はボーカルかぁ…。」
「あのさ…それなんだけど」
ミチルの言葉に俺はそろーっと手をあげながら言葉を発した。
「ボーカル…俺がやっても良いかな?」
「え?ウチは全然ええけど…アキラはどうなん?」
「構わんぞ。俺は別にボーカルをやるつもりは無いからな。」
「よーしじゃあイサム、ボーカルは頼むわ。」
「うん。」
「とは言ってもギターとボーカル同時にやるとなるとかなり高度な技術が必要になるが大丈夫か?」
「それは……頑張ってなんとかします。」
こうして、俺はギターボーカル、アキラがベース、ミチルがドラムという役割でバンドを結成した。
「で、バンド名どうすんの?」
「うーん…。そもそもバンド名ってどうやって決めるの?」
「それは……アキラ何か知らん?」
「残念だが俺も詳しくは知らないな。だがテーマがあれば良いとは聞いたことがあるが…」
「テーマかぁ…。」
バンドのテーマ。そう聞いて俺たちは皆揃って思考を巡らせ始めた。この後思ったんだけど結成して数秒でテーマがうんぬんは無理があったと思う。
「とりあえずこの話を含めて練習するための場所をどうにかしないとな。」
「そうだね…。」
俺たちが話し合っているとガラリと教室の扉が開き、見回り中と思われる先生が入ってきた。
「おいお前らこんなところで何してる。もう下校時刻過ぎてるぞ。」
「「えっ?」」
時計を見ると時刻は既に6時を迎えようとしていた。外の景色もオレンジ色の空に覆われており、校門付近には下校し始めている生徒達も見られた。
「とりあえずこの話は明日にしよっか。」
「せやね。じゃあ明日あのパン屋の近くで集合しよっか。」
そうしてその日は学校で解散することとなった。
◆ ◆ ◆ ◆
その次日、俺たちは3人で練習をするために練習スタジオを探していた。
しかし…この時点でかなり危機的状況に陥っていた。というのも…
「どこもかしこもガールズバンド限定なんですけど…」
「さながらガールズバンド時代の影響やな。今となっては有志バンドは8割がガールズバンドやしこうなるのも時代の流れってもんかなぁ…。」
そう、最近のライブハウスは基本的にガールズバンドのガールズバンドによるガールズバンドの為の場所が多くなりこういった場所探しに難が生まれていた。
「そう言えばCiRCLEもアカンの?時々スタジオ使わせて貰ってるって言って無かった?」
「うーん…普段は人がいない時に借りてるからな…。それに多分出来ても練習だけだろうしね。」
「ほーん…。かと言ってもそんな1人の家に集まってやれるほどうちらの家大きく無いからな。」
「だよなぁ。」
「……ってアキラはさっきから何しとんの?」
先ほどからアキラはスマホを弄っていて俺たちの会話に参加していなかった。しかも真剣な顔つきで。
「…見つけた。」
「見つけたって…何が?」
「この辺りで一件、ガールズバンド以外でも使えるライブハウスがある。」
「「マジか!?どこ!?」」
「駅から徒歩15分のところだ。」
「よし、じゃあ早速行こうや!」
「おい待て。まだアポとってすらないぞ。」
「………とりあえず行ってみて聞いてみればええんやない?」
「そんないい加減に…」
「まーまーまー。とりあえずミチルの言う通り行ってみて話聞いてみよ?」
そして今いる場所から駅に移動して、そこから更にアキラのナビゲート通りに進むとポツンと建っていた緑の建物があった。
「ライブハウス…キングダム?」
看板には俺が言った通り『KINGDOM』と大きく書かれていた。
「……どうする?」
「入ってみよっか。」
そのまま俺たちは店の扉を開き入っていった。
中は西部劇に出てくる酒場のような雰囲気であり、一瞬入るお店を間違えたのかと思いそれぞれで顔を見合わせた。
「あら?お客さんかしら?」
「はい。ここってライブハウスであってますか?」
「ええ……あら?あなたは…」
奥から出てきた高身長の男性は俺を見ると言葉を止めた。
「あの時の坊やじゃない!あの時はありがとうねー。ほんっと助かったわ!」
「えっ…?あの時…?」
「あら?忘れちゃったの?ひったくりの不届き者を捕まえてくれたじゃない!」
「………あ。あの時のオネエの人!」
「そうよ~。あ、申し遅れたわ。ワタシはこのお店のマスターよ。以後、お見知りおきを。」
まるでパズルのピースがはまったかのように記憶が甦った。以前突然自転車で突っ込んできた謎の男を止めたもののそのまま逃げられた時に遭遇したのだった。
「それでここはライブハウスであっているのか?」
「ええ。れっきとしたライブハウスよ?」
「にしては……なんか西部劇の酒場みたいな…」
「それはワタシの趣味よ。良いでしょう?」
「西部劇、お好きなんですか?」
「ええ、大好きよ。それはそうと…あなた達、バンドやってるのかしら?」
そう言われて俺とミチルは当初の目的を思い出し、アキラはそんな俺たちを見てため息をついた。
「じゃあ受付しちゃいましょうか。バンド名教えてくださる?」
「バンド名…って言われても…まだ決まってないんですが…」
「あら、そうなの?」
「実は…昨日組んだばかりなんですよね。」
「へえ~。じゃあここにそれぞれの名前を書いてくれる?」
言われた通りグループの隣のメンバー欄にそれぞれ名前を書き始め、その後使用する部屋に案内され、マスターの説明を受けた。
「それじゃ大体わかったかしら?ワタシは基本的にカウンターにいるから何かあったら呼んでちょうだい。」
その一言を残し、マスターは部屋を出た。
そうして俺たちは各自用意してきた楽器をチューニングして音の確認をした。ミチルのドラムは流石に持ち運び出来ない為、ライブハウスの物をレンタルしたのだがその機材が結構良いものだったらしく彼女は音を鳴らして興奮していた。
「よし、じゃあ先ずは……何しよっか。」
ギターを構え気合い十分!という雰囲気を出したのだが流石は初心者という感じに何も考えてなかった。その為、アキラとミチルは思いっきりコケそうになった。
「ちょっと!なんも考えてなかったんかい!」
「えっと……ごめんなさい。」
「はあ…。」
「全くお前という奴は…。」
頭を掻きながらアキラは俺たちに1枚の紙を渡した。そこには少しの楽譜のようなものが書かれていた。
「そんなことだろうと思ったから念のため用意しておいた。どうせ本格的な曲は出来ないんだろうし簡単な譜面を選んでおいた。慣れてない間はこれでやるぞ。」
「アキラ…すごっ。」
「なんや、めっちゃ用意ええやん!」
「逆にお前らの計画性が無さすぎるだけだ。」
呆れながらそう言っていたがなんだかんだ言ってアキラも色々と考えてくれてるんだと思うと嬉しくなった。
再び準備完了するとミチルの掛け声、そしてドラムの音で演奏が始まった。初心者の俺にもわかるほどに音はバラバラでお世辞にも上手いとは言えなかった。
けれど俺は、この演奏が楽しいと思えた。
そしてきっと………見つかる気がした。
コメントや評価くれるとかなり嬉しいです。
それとバンドリ3期、なんだかんだ言ってかなり楽しませてもらいました。ありがとうございました。
FILM LIVE第2段、ガルパピコ2期、そして劇場版と楽しみがてんこ盛りですがこれからも楽しませてもらおうと思います。