「ありがとうございました!」
丸山彩はいつものようにファーストフード店でアルバイトをしていた。今日はパスパレのレッスンも無く、朝からバイトをしていた。そしてつい先程昼時の最後のお客さんを捌き終えたところだ。
「彩ちゃん、そろそろ交代の時間だよ。」
「そっか。じゃあ花音ちゃん、後お願いしても良い?」
「うん。お疲れ様。」
「お疲れ様!」
彩のバイトの上がりの時間と入れ違うかのように花音がレジに入り、彩はそのままロッカーに向かう。
「今日も疲れたなー。」と言いながら自分のロッカーを開け、着替えを始める。そして帰宅の準備が完了すると鞄を持ち、そのまま家に向かおうとしていた。
しかし…
「……あれ?」
あるものが目に写り、思わずその足を止めた。そこの視線の先にいたのはギターケースを背負ってお店から出てきた1人の少年だった。
それを見た彩は少し悪い笑みを浮かべながらゆっくりと背後に近づき…
「だーれだ「あぁぁー!」ふぇぇ!?」
突然その人物が叫び出したことにより、彩はまるで花音のような驚き声を上げ思わず後ずさりしてしまった。
「名前…曲…どうしよう…。ギターの練習ばかりですっかり忘れてた…。」
何やら深刻そうに頭を抱えながら何かを悩んでいた。一方、一瞬動揺した彩だったが流石にこのまま立ち去るのも悪いと思いその人物に声をかけることに。
「えっと…大丈夫?」
「…ん?…彩じゃん。どうしたの?」
「どうしたのはこっちの台詞だよ。話しかけようと思ったら突然大声あげるんだから私もびっくりしたよ…。」
「それは…ごめん。」
「それで何か悩みごと?」
「うん。今度ライブに出るのを誘われたんだけどさ…」
イサムは少し遠くを見るように考え事の発端を語り始めた。しかし、少し昔のことを話してるように見えるがこれはつい最近起きたことである。
◎ ◎ ◎ ◎
思い返すこと数日前。 3人がライブハウス『KINGDOM』でバンドの練習を初めてそろそろ3週間が経とうとしていた頃だった。
「じゃあ今度は明後日の5時30分からでお願いします。」
「あ、ちょっと待ってもらえるかしら?」
いつものように次回の予約を済ませお店を後にしようと思った時、彼らはマスターに呼び止められた。
「なんですか?」
「ちょっとアナタ達の練習の音、盗み聞きさせて貰ったけど…あながち悪くないと思ったわ。」
「ホンマですか!?」
「それで提案なんだけど……アナタ達、ライブに出るつもりは無いかしら?」
「「「え?」」」
と、唐突なお誘いに3人は驚いていた。何しろ1ヶ月練習してきて最初の頃に比べたらだいぶマシな方になったがそれでもまだ上手いとは言いきれないところだらけであった。
「良いんですか?俺たちまだ始めたてでそんなに技術も無いんですけど…」
「全然大丈夫よ。あなた達がやりたいって言うなら拒否をするつもりは無いわ。」
「……どうする?」
マスターは全然気にしていないようなので3人はその場で少し話し合うことに。
「ウチは賛成!ライブとか楽しそうやしこんなチャンス滅多に来ん気がするからな!アキラはどうや!?」
「悪くないんじゃないか?良くも悪くも物は試しと言うからな。」
「じゃあ…3人とも異議なしってことか。よし。」
満場一致で話し合いが終了し、彼らはマスターにその趣旨を伝えた。それを聞いたマスターは「オッケー♪」と言ってリストのような紙に彼らの名前を書こうとした。しかし…
「そういえばアナタ達のチーム名、まだ聞いてないのだけど…」
「チーム名?…あれ?」
「オヨ?」
「・・・・・」
3人は顔を見合わせたが誰もそれを知るものはいなかった…。というか今まで音合わせやそれぞれのレベルアップに集中しすぎてそのことを全員揃って完全に忘れていた。
「えっと…やっぱり決めておいた方が良いんですか?」
「そうね〜。やっぱりライブ名はあった方が注目も強くなるしやるならつけておくべきだと思うわ。あ、それとセトリも考えた方が良いわね〜。」
「あの〜…ちなみになんですけどもライブっていつですか?」
「3週間後ね。」
「「うそーん…」」
イサムとミチルは悲しみの声を出し、アキラはため息をつきながら頭を抱えていた。
「まあ…突然言い出したワタシにも問題はあるし何か疑問点があれば全面的にサポートするわ。セトリに関しては最大2曲だけど中には1曲で終わらせたいってチームもいるからその辺りは自由にしてくれて構わないわよ。」
と、マスターは言ったものの当然のお誘いが朗報なのか悲報なのかよく分からない状態となり、彼らの心はとても複雑なものとなってしまった。その後、後日話し合うということで解散はしたもののイサムの頭の中はチーム名、そしてセトリを決めるということで頭がいっぱいになっていたのだった。
◎ ◎ ◎ ◎
「そんなことがあったんだ。」
「ねえどうすればいいの…?」
「私に聞かれてもなぁ…。」
2人は場所を変え、今はある珈琲店に来ていた。イサムが机に伏せながら悩み続ける様を彩は苦笑いしながらも、イサムの為に自分なりに色々と考えていた。
「ところでさ、イサムくんたちは何か曲とか考えたりしてるの?」
「いや全く。」
「そ、そっかー。」
「それで色々と考えたんだけどやっぱりもうちょい時間が欲しいんだよね…」
「え?ライブはどうするの?」
「出るよ?」
「そうだよね…。」
それを聞いた彩は何かを思い出したかのように「そうだ!」とイサムに何かを呼びかけた。
「ねえ、カバーとかならどうかな?」
「カバー……あ、その手があったか!」
「まあ…やるにしてもやっぱり練習は重ねにきゃだけど…最初の頃は自分たちの曲が出来るまでカバー楽曲でやってる人もいるみたいだよ。」
「そっか~。流石彩!」
その言葉に彩は「そ…そうかな?」と照れているとイサムのスマホが鳴った。
通知を確認したところ、送り主はアキラであり「これからKINGDOMに来れるか?」とあった。それに「すぐに向かう」と打って、イサムはスマホをしまった。
「ごめん。アキラから連絡来ちゃって…」
「ううん。これからなの?」
「うん。じゃあそろそろ行ってくるよ。」
「分かった。頑張ってね〜!」
そのままイサムは荷物を持ち、会計を済ませると目的地へと走り出していった。
「彩さん、今の方はお友達ですか?」
「お友達…かぁ…。うん、まあそうかな?」
「それと…さっきの方、彩さんのお会計もして行っちゃったんですが…」
「……へ?」
意図的なのか無意識なのか分からないイサムの行動に彩は少しの間、ポカーンとしていた。
◆ ◆ ◆ ◆
「それじゃあ今からチーム名とやる楽曲を決めていくぞ。」
ホワイトボードに書き込みを入れたアキラがホワイトボードマーカーを持ちながらイサム、ミチルと共に会議的なものを始めていた。
「まずチーム名だ。これに関してだが何かテーマが必要になる。とりあえずこのバンドの全体的な目標はなんだ?」
「目標かぁ…。」
「ふーん…。考えたこと無かったなぁ。」
バンドの目的、と言われて2人は思わず首を傾げた。
「というかイサム。まずお前はなんでバンドをやろうと思った。」
「そやな。確かにやりたいって1番に言い出したのはイサムやん。」
「あれ?でもミチルも言ってなかったっけ?」
「…?そんなこと言ったっけ?」
「えーと…どうだっけ?」
いきなりこんなことになっている現状を見たアキラは思わず頭を抱えた。こんなことで本当に大丈夫なのかと思いながら。
「でも目的って程じゃないんだけど…夢かなぁ。」
「夢?」
「うん。やっぱり色々と要因はあるけど俺のやりたいこと、それで俺の夢を知りたいから。このバンドでそれが見つかればいいなって。
それに…それを、形に出来そうかなって思って。」
その言葉を聞いてアキラは何かヒントになるかもしれないと思い、それらを簡易的にホワイトボードに書き込んだ。そしてミチルも色々と考え込んでいた。
「じゃあ…それを叶えるってこと?」
「そーなる…のかな?」
「ちょい待ち。Go〇gleで…」
ミチルはスマホを取り出し、あるページで調べ物を始めた。
「これはどんな?『Find the dream』。日本語で『夢を見つける』。」
「いや…流石に安直過ぎない?」
「じゃあ…『思いを形にする』を英訳して…『Shape your thoughts』は?」
「いや英語にすれば良いってもんなの?」
「いや、あながちそう言うものかもしれない。だが、安直じゃなく類義語も見るべきだ。」
傍らで2人が言い合いをしている間にアキラは思考を働かせ、スマホで何かを調べていた。
「じゃあアキラはなんかええ案があるんか?」
「叶える。つまりそれを実現させるということだろ?」
「うん。」
「じゃあ納得の行くまで思いつく単語で調べて見るぞ。」
「実現する…か。それだとどうなるの?」
「『Make a dream come true』。または…『Realize dream』。」
「Realize…」
「それだけだと『実現する』という意味だ。」
「いや、でもなんか良い気がする。」
アキラはそれを聞いて「いいのかそれで」と聞き返すがイサムは黙って首を縦に動かした。
「確かにこの一言でウチらの目標を表してると思うとなんかスッキリするな。それに…覚えやすいし。」
「そこなの?」
「まあシンプルな名前は知らない人でも覚えやすいしな。それを考えながら決める人もいるそうだ。」
どうやら3人とも満場一致で納得した様子だった。
「よし。じゃあ俺たちは今から…」
アキラからホワイトボードマーカーを貰い、イサムはホワイトボードに大きく『Realize』と書き記した。
「Realize!」
実現。
その言葉は今の彼らの目的を一言で表すのに充分なものであった。
「よし!じゃあチーム名決まったし練習やろっか!」
「おっしゃ!今日は何の曲するん?」
「馬鹿かお前ら。まだセトリ決めてないんだぞ。」
「「・・・・・あ。」」
色々と成長したように見えていても、実際はまだまだ学びが足りないようだ。そうアキラは思いながら今日何度目かわからないため息をついた。
サブタイトルでネタバレしていくぅ!
分かった人はいたかな?
次回は遂に彼らの初舞台の予定なので是非次回も読んでいってくださいね〜!
コメントや評価くれると嬉しいです!