バンドの名前が決まり、その後山あり谷ありではあったが何とかセットリストも決めることが出来たRealizeの面々はほぼ毎日の感覚で練習に励んでいた。
そして時は刻一刻と過ぎ、ライブまで残り2日になっていた。
「おっし!ざっとこんなもんやろ!」
「うん。みんなの音もちゃんと合うようになってきたしそれなりにはなってると思う。」
「まあ本当にそれなりだけどな。」
「あちゃ〜。それ言っちゃう?」
「現実から目を背けようとするな。」
痛いところを付かれたイサムは苦笑いしながらも言い返せない現状に方を落とした。
「で、今日はもう1回音を合わせて終わりにするか。明日はリハーサルだしな。」
「そうだね。じゃあ少し休憩したらもう1回やろっか。」
そして彼らは休憩に入ってミチルは椅子の背もたれに寄りかかりながら一息つき、アキラは楽譜などの再確認を行っていた。その中でイサムはギターの調整を行っていた。
「そう言えば今回ここのライブに出るのって全体的にどのくらいいるんだろ。」
「俺たち含めて7組いるらしい。」
「へえ〜。結構多いな〜。明日はその人達と会うことになるのかな?」
「そうだ。くれぐれも失礼のないようにしとけよ。」
「そうだね〜。」
「「特にミチルは。」」
「なんでや!?」
納得がいかない!というように必死に抗議するのだが2人は「そりゃあ…ね。」と反応している為、よりミチルの不満は募るばかりであった。
「さて、そろそろ休憩は終わりだ。」
「よし!じゃあラスト1回気合い入れて行こっか!」
それぞれが楽器を構え、最終チェックの演奏を行った。
その結果はまずまずといったものだった。しかし、ここまで来れたことにイサムは嬉しく感じていた。
自分にとって、このメンバーで奏でる音は大きな変化であると思ったからだ。そして、皆で決めたRealizeという名前。そのことは空白だった以前の自分には無かったこの思いは、まるで名前の無い人生に自分たち自身でその人生に名前をつけたような気分だった。大袈裟に聞こえるかもしれないが、イサムにとってはこのバンドで体験したことはそれほど大きなものとなっていなのだ。
「よし、これくらいでいいだろう。」
「ん〜!疲れた〜!」
演奏を終えた彼らはそれぞれベースやドラムを片付け始めた。
「イサム〜?そろそろ片付けやるで〜?」
「あ、うん。ごめんごめん。」
ミチルに声をかけられ、イサムも片付けを始めた。
「…ねえ、2人とも。
明日、頑張ろうね!」
その一言にアキラとミチルはどうしたよ突然といった感じでポカーンとしていたが、そんな2人をよそ目にイサムは片付けを進めたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
リハーサルの日が過ぎ、遂にライブ当日となった。
イサム達は他の出演者達に改めて挨拶をした後で楽屋にて直前準備に取り掛かっていた。
「いや〜。ライブ用の衣装無かったから借りられて良かったわ〜。」
先程、マスターからライブ用のTシャツを借りたミチルはそれを着用し呟いていた。恥ずかしながら彼らはつい前日まで衣装のことを誰一人として考えていなかったのだ。こいつら流石にガバガバ過ぎにも程があると言うのは誰もが思うだろうがそこは多めに見て頂きたい。
そこでマスターに相談したところ、そういう時のためにライブハウスでのTシャツをレンタル出来るということだった。初心者の人は良く衣装の用意に悩むらしいのでそういう時の為に沢山常備しているらしい。
「今回はこのTシャツやけど…次こそは…次こそは絶対衣装用意しとこうな!」
「だが無理に用意する必要も無いんじゃないか?そもそも次やるのかどうかすらわかってないし。」
「もー!なんでアキラはそんなに冷めとんの!せっかくやし特別な衣装着たいと思うやん!せやろ?」
「いや別に」
「あーもう調子狂うなー!!」
「ただいま〜。」
アキラとミチルが言い合っている間にイサムは少し辺りを見に行っていた。
「おかえり。どやったの?」
「結構人いたね。マスターも忙しそうだったよ。」
「ガールズバンド時代と言われるが普通のバンドもそれなりに興味を持つ人がいるんだろうな。それにここのマスターは昔バンドで色んな国を転々としていたらしい。実力もかなりのもので、あの人のことを知ってここに足を運ぶ人もいるみたいだ。」
「えっ?あの人そんなに凄い人だったの?」
「まあ他のバンドの人から聞いた話だがな。」
「マジか〜。ただのオネエや無かったんか…。」
「あ、言い忘れてたけどミチルのお父さん来てたよ。」
「はぁー!?なんでお父ちゃんがこのこと知っとんの!?」
「さあ?…っていうかダメだったの?」
「いや…なんか…恥ずかしいやん…」
頬を赤く染めながらそう呟く姿を見て、年の離れている妹を見ているような思いになった2人は思わず頭を撫でていた。その事に対してまたしてもミチルは「もー!」も不満を顕にしていた。
「みなさーん!マスターからお話があるので一旦集まってください!」
スタッフの人に呼ばれて他のバンドの人たちと共にマスターの元に移動した。
「来たわね。」
全員が集まったことを確認するとマスターは腕を組んで、ニヤッと笑った後にただ一言、こう言い放った。
「新参だの古参だのボーイズバンドだのガールズバンドだの余計な遠慮はいらないわ!全力で己を出し切りなさい!」
「はい!」
「もっと大きく!」
「はい!!!」
「良いわねその気合い!!嫌いじゃないわ!!!
じゃあ全力でやって来なさい!!」
そう言い残すとマスターは去っていった。
その後、各バンドの面々はそれぞれ楽器の準備やリラックスなどに集中し、イサム達もまた各々で本番に備えていた。
「アキラ、俺たちの順番は5番目だよね。」
「ああ。だからといって気を抜くなよ。」
「わかってるよ。」
「すみませーん!最初のグループとその次のグループの方々は準備よろしくお願いしまーす!」
3人が話しているとスタッフの人から全体に連絡が入った。時間を見るともうすぐライブ開始の時間を迎えようとしていた。
「よーし、俺たちも頑張ろう!」
イサムは改めて気合いを入れ直し自分のギターのチューニングを始めた。
◆ ◆ ◆ ◆
「ここかぁ…」
彩はKINGDOMの入口付近にいた。その手には今日のライブチケットが握られていた。
「結構人多いなぁ…。」
「そうね。彩ちゃん、はぐれないようにね。」
「千聖ちゃん!私子どもじゃないんだよ!?」
千聖からの扱いに不満の声を上げるが当の本人はお構い無しに先に進んて行った。彩もそれを追うようについていき、受付を済ませてから2人はライブ会場に向かった。
「あれ?彩ちゃんに千聖ちゃんじゃん。」
「日菜ちゃん!?どうしてここに!?」
「どうしてって…イサムくんがここでライブするって聞いたから見に来たんだよ。」
「えっ?日菜ちゃん…いつの間にイサムくんとそんなに仲良くなってたの?」
「んー?最初に会った時からだよー?」
彩は「マジで?」とでも言いたそうにそう聞いたが日菜は何食わぬ顔で返答する。
「おや?彩さんに千聖さん!それに日菜さんまで!」
3人が話をしていた場所に麻弥とイヴが現れた。
「こんな所で会うなんてキグウですね!」
「2人も来てたんだ〜。」
「ええ。ここのマスター、噂によると昔はかなり名を轟かせていたドラマーだったんですよ。時々ライブ前に盛り上げ役で叩いてるって聞いたので気になりまして。ですが1人で行くのも心許なかったので…」
「イケニエ役です!」
「イヴちゃん、それは生贄とは違うんじゃないかしら…?」
「なんだー。麻弥ちゃんもイサムくんのバンドが出るって聞いてたのかと思ったよ〜。」
「ええ!?そうだったんですか!?」
「あ、聞いてなかったんだ。」
「いやぁ…。ここ最近会うことが無かったので…。」
「あれ?ちょっと待って?麻弥ちゃんもイサムくんと知り合いなの?」
「はい。ギター選びなどで色々とお話しました。」
それを聞いた彩は唖然としていた。何しろイサムは自分のグループのメンバーの内、5人中4人が知り合いだったのだから。
「もしかして…イヴちゃんもイサムくんと!?」
「いえ?ゾンジテません。」
「あ……うん。ソッカー。」
彩はまたしても早とちりしてしまった。まあここまで奇跡に近い偶然のような出来事が重なるとそう思うのも仕方ないのだが…。
「皆さん、そのイサムという方はどのような方なんですか?私もゼヒお目にかかりたいです!」
「いや…それはその…」
「私だけ仲間外れはズルいです!」
思わず彩は言葉を濁そうとしてしまった。彼女はその気持ちにあえて理由をつけて見ないふりをしていた。
そんなことをしていたが、会場の照明が突然消えた。その場にいた人たちは少しの間ザワついていたが、ドラムの激しい音と共にステージに脚光が当たる。そこにはKINGDOMのマスターがいてドラムを叩いていたのだった。会場は彼の奏でる激しいドラムの音に圧倒されてるかのように皆釘付けになっていた。
「ようこそ皆様、KINGDOMへ。」
ドラムロールが終わるとマスターはマイクを取り出し、話し始めた。
「多くは語らないわ。今のもただのOPのようなものだから深くは考えないで頂戴。
これから始まるのはそれぞれのバンドが繰り広げる1つ1つの可能性。その可能性の王国を皆様には見届けて頂きたいの。
さて、前座はこの位にして本番に行きましょう。
今日は存分に楽しんでいって頂戴!」
彼のスピーチに観客の熱は上昇していった。
再びステージが暗転し、また明かりが灯された時には1組目のバンドが姿を現していた。
「元気ですかー!!」
その一声で再び観客席は盛り上がっていった。その様子を見ていた彩たちは…
「凄い…。」
その雰囲気に取り込まれていた。
「もしやあの人は…あの『辻斬りの蓮十郎』では!?」
「えっ?辻斬り…?」
「少し前にあるバンドチームに属されていた方で凄腕のドラマーさんです!そのドラム裁きはまるで辻斬りのような鋭さと言われ、そう呼ばれてるんです!」
「辻斬り…まるでブシのようですね!」
「あ、そろそろ始まるわよ。」
マスターこと蓮十郎のドラム裁きに興奮を隠せない麻弥だったが、千聖の一言で5人はライブを見始めた。
(イサムくんも…ここに…)
そう考えながらも彩は目の前で繰り広げられる数々のライブに魅入っていた。
◆ ◆ ◆ ◆
刻一刻と時は過ぎ、既に4番目のバンドの番まで来ていた。そしてイサムたちもステージ裏でスタンバイしていた。
「もうすぐやなぁ…。アカン、ここに来て緊張強なってもうた。」
緊張しているミチル、普段と変わらずぶっきらぼうなアキラ、そしてじっとギターを見つめているイサム。本番を直前に個々で反応は違っている。
「そや!円陣!円陣やろ!」
ここでミチルがそう言った。
「円陣って…」
「気合い入れや!それに本番前はこうするもんやろ!?」
「別にそれがルールじゃないぞ。」
「気持ちの問題やねん!」
「………うん。やろっか!」
ミチルの拳にイサムの拳が合わさる。そしてイサムが「アキラも」と促すと、アキラも立ち上がり3人の拳が1箇所に合わさった。
「で、何言うの?」
「え?『Realize、Go!』とかやないん?」
(またグダグダしてるな…。)
「よーし、じゃあミチルよろしく。」
「よっしゃ!Realize…」
「「「Go!」」」
そして前任のバンドの演奏が終わり、舞台からそのメンバーが戻ってきた。
「お疲れ様です。」
「会場は良い感じに温めといたぜ。後は頼んだぞ?」
「「「はい!」」」
そのグループのボーカルの男にそう言い残され、
「はじめまして!Realizeです!
「えーっと…僕達は今回が初参加なんですけど…皆さん「皆盛り上がってますかー!!」ちょっと!?それ俺の台詞…」
「早いもん勝ち〜!」
序盤から少し難ありかと思われたが何故か1部の観客には笑いが取れていた。
「俺たちはまだ結成していた間もないバンドですが今日の為に一生懸命練習してきました。その成果を今日ここで発揮出来ればと思っています。」
そこにアキラのフォローが入り、再びイサムの番となった。
「それじゃ、いきなりですけどまずは1曲聞いてください。」
こうしてイサムたちのステージが始まった。
まだ誰も知らない世界の向こうへ、夢を見つける未来への物語を開くように。
えー今回イサムたちはカバー曲を歌いましたが色々とアレなのでこの小説ではその曲名は入れませんでした。まあこの話の中にその曲のヒントは入れたので暇な人は考えて見てくださいね。
それにしてもライブの描写はマジでわからない…。今回、作者も手探り状態でやったのでもしかしたら変な所もあるかもしれませんがそこはご了承ください。
良ければ評価やコメントお願いします。
あー、こんな充実した高校生活送りたかった。(独り言)