後日、イサムはアキラ、ミチルの面々と以前千聖や彩と一緒に来た珈琲店で話し合いをしていた。
「それで……これどうするんだ?」
「そらやるしかないやろ!」
「うん! 俺もそう思う」
「決まりだな」
アキラが持っていたチラシには「KINGDOM 夏の野外ライブ」と大きく書かれていた。
「しかし出るにしてもまた曲を選び直して練習することになるぞ。何度も同じ手は客に飽きられるからな」
「あ、その事なんだけどさ……ちょっと俺やりたいことがあるんだ」
「えっ? なにすんの?」
「オリジナル曲、作ってみたいんだ」
「は?」
イサムの発言にアキラは「本気か?」と問いかけた。しかし、イサムは何も言わず首を縦に動かした。
「お前、曲を作るというのがどういう事なのかわかっているのか? それに誰か作詞作曲を出来るやつがいるのか?」
「それは……俺たちでやろうと思うんだけど……」
「お前……言うのは簡単だけどな……」
「まあええんちゃう? とりあえずやってみて無理ならいつものにプラン変更ってことにしたら」
そう言われて溜息を着きながらもアキラは了承をした。そんな2人を見たイサムは「まるで夫婦みたいなやりとりだなぁ」と思っていた。
「で、何からすんの?」
「それは……これから調べる!」
「……要するに全くのノープランだったのか?」
「いや? これからやるって計画だけど?」
イサムがそう言った瞬間、久しぶりにアキラとミチルの考えが重なった。そして同時に溜息をついた後……
「「お前なぁぁぁぁ!!!」」
「え!? え!? 何突然!?」
人の少ないお店の中で彼らの怒りの声が響いた。不幸中の幸いかそのお店には彼ら以外にはいつも見かける5人組の少女達がいたくらいだった。そして言うまでもないが、3人は店員さんに「うるさい」とみっちり注意された。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
それから数日後、イサムたちは場所をミチルの家にして再び集まり直した。
ミチルの自宅は普通の家庭よりも比較的大きく、楽器を使用してもある程度なら迷惑にならないので音を確認したりするにはちょうどいいだろうと彼女が提案したのだ。
そこで各自で作詞について調べ直した。
そこで見つけたやり方は2つ。
先にメロディをつくり、そのメロディにあった歌詞を考える方法と、逆に先に作詞をした上で後から作成したメロディに歌詞を当てはめる方法だ。
これらの方法にはどちらにもメリットがあり、どちらにもデメリットがある。
どちらが初心者に向いているかは正直なところわからないのだが、とりあえずある程度フレーズを考えて、それを纏めてからフレーズにあったコードを考えていくという作戦に出た。
しかし、初心者には中々難しいもので途中まではいい感じだと思っていても次の過程が終わった後でそれを合わせてみると微妙な所もでてきた。そしてその度に推敲を重ねていった。
「とりあえず歌詞はどんなイメージにすんの?」
「それなんだけどちょっと考えてみたことがあるんだけど……とりあえずこれ見てくれない?」
ミチルに聞かれてイサムはカバンから1枚の紙を取り出し、2人にそれを渡した。そこにはイサムが想像する曲のイメージが箇条書きに書き出されていた。
「……ええやん」
「俺も同意見だ」
2人から称賛の返答を貰い、イサムは静かにガッツポーズを決めた。
「それじゃあ軽く計画を再確認するぞ。まず、ライブは8月の初め。練習に2週間は最低でも必要だからそれまでに曲を完成させる。もし出来なかったらこれまでのやり方でやる」
「じゃあこの曲を作れるのは後……10日くらいか……」
「そういう事だ。それに加えて練習もあるからな。かなりハードだぞ?」
「うん。わかった」
イサムがそう静かに呟くとアキラとミチルも納得したように頷いた。
「よーし! そうと決まれば早速作業再開や! 歌詞はイサムが考えてアキラはイサムから渡されたコレ見ながら作曲続けてみて!」
「ミチルは何すんの?」
「ウチは衣装探したり作ったりしてみるわ。大したものは作れんかもしれんけどええ感じのをつくったるわ!」
ミチルがそういった時、客間の扉がノックされる音が聞こえた。それを聞いて、ミチルが扉を開けるとミチルの父親がお盆にジュースやお菓子を乗せて持ってきた。
「はいはーい。頑張んのもええが、こまめに休憩は取りなさいよ〜。頭使うのなら甘いもんは必須やぞ〜」
「サンキュー父ちゃん! あ、パイ菓子あるやん!」
ミチルの父からの差し入れが来たことで、万全となった状態の彼らは作業に没頭していた。
勿論、その1日だけでは終わらず次の日、その次の日も学校の休み時間やKINGDOMなどで話し合いを重ねていた。三人よれば文殊の知恵という言葉があるように、それぞれが意見を交換し合う事で荒削りながらも少しずつ、それは形になっていったように見えた。
そして、それから8日が経過した。
夏の暑さはより強力になり、長時間外にいると本当に熱中症になってしまうのでは? と思うほどに気温が上昇し、その暑さは湿気も帯びていた。
その日と次の日は土曜日と日曜日ということで昼からはKINGDOMで練習。そしてその夕方はミチルの家で再び曲作りを行っていたのだが……
「おーいアキラー。そっちの進捗どうだー?」
「全く進んでないが……」
ここに来てまさかの難航状態。因みに今の時刻は既に6時を超え、もうすぐ7時を迎えようとしていた。
先程この状況を見たミチルの父は2人に今日は泊まっていくことを提案した。色々と切羽詰まっていた2人はそのお誘いを遠慮なく受けるのだった。
「2人ともー。ご飯出来たからそろそろ……って生きとる?」
「生きれてば良いよね」
「右に同じく」
「よーし、作業中断してご飯食べなさい」
ミチルに言われ、2人は作業を中断し夕食をご馳走になった。
夕食を食べ終わり、風呂にも入ってサッパリとしたところで彼らは再び作業を開始した。しかし、中々作業が進まずに作ってはやり直して、作ってはやり直しての繰り返しだった。
そんなこんなで気が付けは時刻は午後10時。2人の思考回路もショート寸前の所まで来ていた。
「失礼〜。元気して……ないかあ」
そこにミチルが珈琲と夜食を持ってきた。2人は彼に声をかけられ少し休憩をする事に。
「作業の方はどんな感じや?」
「「進歩ダメです」」
「ワオ、息ぴったり」
とりあえず休憩の為に2人は珈琲を受け取った。先程まで作業続きだったその体には程よく冷えた珈琲が体によく行き渡り、眠気を覚ますには十分だった。
「そういや今どんくらい進んどんの?」
「ある程度は固まったんだがな……。イントロがどうもバランスが悪くて……」
「こっちもフレーズがいまいち思いつかなくて……」
「そっかあ……」
「ていうかミチルの方はどうなの?」
「ウチの方はまあ大丈夫そうや。ある程度出来たら見せに来るわ」
珈琲を飲みながら3人は団欒を続けた。
しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。それぞれ珈琲を飲み終わり休憩時間は終了となった。そしてミチルは食器を片付け、自室で自分の作業を再開した。イサムとアキラもそれぞれ作曲作りに没頭した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
時刻は深夜3時を回った。
2人は進んでるのか進んでないのかわからないがひたすら頭を抱え続けていた。そんな中……
「なぁイサ「あ──!!」なんだどうした!?」
「いや……その……」
「なんだよ……」
「明日のバイト……休むって連絡をまりなさんに入れるの忘れてた……」
「知るか!!!」
イサムの叫び声にアキラは驚愕の声をあげたが実際は全く進歩が進んでないどころか脱線しまくって考えることのベクトルが違う方向に向かっているというのが現状だった。
「おいもう3時だぞ!? 本当に明日までに新曲出来るのか!? というか明日じゃなくて今日だなこりゃ」
「俺にもわかんない!! アキラの方は!?」
「俺も行き詰まった……。やっぱりイントロが上手くいかない……」
「ちょっと聴いてみていい?」
そう言ってイサムはアキラからパソコンを借りてそこまでのメロディを聴いた。確かにテンポやリズムがとれてはいたがイントロが上手く纏まっていないというのがイサムの感想だ。
「なあ……なんかいい案無いか……?」
「うーん……」
アキラに聞かれてイサムは少し考えた。そしてしばらく考えた後、1つの提案をした。
「ねえ、ちょっと俺のハーモニカの音とか使えないかな?」
「お前のハーモニカ? ……どんなやつだ?」
アキラの質問に対してイサムは百聞は一見にしかずと言ったようにカバンの中からハーモニカを取り出し、自分の記憶にあるメロディを奏でた。ミチルの家はしっかりと防音対策をしているのだが、夜中なのでなるべく音を抑えた上でイサムはハーモニカを吹いた。
「こんな感じだけど……」
「イサム、もう1回頼む。それをアレンジすれば……」
そう言われてイサムは再びハーモニカを奏でた。この音を聞いたアキラはまるで探していたパズルの最後のピースを見つけようとしてるかのように集中していた。
果たして、彼らは期日までに曲を仕上げることができるのだろうか……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
イサム達が曲づくりに苦戦している数時間前、彩は色々と考え事をしていた。
「『私はあなたの事がずっと前から好きでした。付き合ってください』……ううん、『あなたの事を思うと胸が張り裂けそうです。私とお付き合いしてください』……ちょっと変かな?」
彩は密かにイサムへの告白の練習をしていた。生まれて初めての告白、それを成功させたいという思いから場のどう言った雰囲気が良いのか、またどのような言葉を選ぶべきかなどを研究していた。
「はあ……いつ告白しよう……。イヴちゃんはこういうのは思い切りが大事だって言ってたんだけどな〜」
1度考えるのを止めて机に倒れるように体を伏せていた。
「お姉ちゃん? いる〜?」
そこに彩の妹がやってきた。彩はそれに気づくとすぐさま机の上に広げていたメモ用紙などを掻き集めて何とか隠した。
「……何してたの?」
「へ? ちょ……ちょーっと調べ物ーかな?」
「うん……さっきなにか隠して「それで? どうしたの?」ちょ……お姉ちゃん近いって……」
妹に探られそうになり、彩は思わず前のめりに話を逸らそうとした。彩の圧に負けたのか彩の妹は一先ずそのことには突っ込まないようにした。
「お母さんがお姉ちゃんが好きそうだからこれ見せに行ってあげてって。はいコレ」
彼女が手渡したのは1枚のビラだった。そしてそこには……
「夏の花火大会?」
「うん。お姉ちゃんこういうの好きでしょ?」
「…………あ」
それを見て彩は何かを思いついた。
「これだ! これだよ!」
突然の姉の声にびっくりした彩の妹は「どうしたの?」と彩に尋ねた。しかし、彩はまるで決意を固めたかのように真面目な表情をしていた。
「(この花火大会……これはきっとチャンスだ!)」
この日が私の一世一代の勝負の日。心の中でそう呟きながら彩は再び覚悟を決めた。
「(絶対に……絶対に成功させてみせる! 私の思いをイサムくんに!)」
えー、皆さんにお知らせです。
このお話は…残り2、3話になります!というかマジで物語は佳境に入ってます。
最後まで良ければ見届けてください。
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