人混みを掻き分け、2人はお祭りの会場を進んでいく。辺りは見渡す限り人でいっぱいだった。
「彩、大丈夫か?迷子になってないよね?」
「もう!私そんなに子供じゃないよ!」
気晴らしにからかってみるイサムとそれにムッとする彩。彼らは何気ない会話をしているに過ぎないが、傍から見れば恋人同士のやり取りとも見られる…なんてことはイサムは思ってもいないだろう。
「それにしても都合よくあって良かったね、それ。」
「うん。でも本当に良いの?」
「何が?」
「だって…また貰ってばかりで…」
「良いって。俺の奢り。」
今の彩はイサムが持っていた帽子ではなく、屋台で購入した麦わら帽子を被っている。その麦わら帽子にはピンクと白のリボンがあしらわれているものだった。
「じゃあ何か買いに行く?」
イサムは彩に話しかけるのだが、一方で彩は歩きながらも周りをチラチラと見ていた。
お祭りには色んな人がやって来る。例えば友達同士で来たり、家族で来たり、また1人で来るものもいたりする。しかしどういう訳なのかここには男女のペアで来る者が多く見られた。彼らは兄妹なのか、はたまた友達なのか。それとも……恋人同士なのか…。
そう考えると彩は今の自分たちは周りからはどう見えているのだろうかと思った。
もしかしたら私たちもカップルと見られてるのかもしれない──。
そう思うと心臓の音が早くなっていくのを直に感じてしまう。何とか落ち着こうとしても自分ではコントロール出来ないくらいだ。
「彩?彩ー?」
「ふぇ!?」
思わず自分の世界に入り込んでしまい変な声を上げる彩。そんな彼女を見てイサムは首を傾げる。
「ど…どうしたの?」
「いや、なんか食べたいものとかない?」
「え?…えっと…。イサムくんは!?」
「俺は…かき氷食べたいかな。」
「うん!じゃあかき氷食べよ!ほら、屋台も近くだし!」
気持ちが先走ってしまった彩は無意識にイサムの手を引いてそそくさとかき氷屋に向かっていた。
かき氷屋についても彩はイサムの手を握ったままであり、彼女の脳内では様々な感情がいききしていた。そのせいか何かを言いたそうに隣にいるイサムのことすら視野に入っていないそうだ。
「はーい、次のカップルのおふたりさま〜。」
「へ?」
「あれ?違います?もしかして兄妹の間違いでした?」
店員に自分たちの手元を指さされ、彩はようやく我に返ったように手を離した。突然カップルと言われた衝撃や恥ずかしさからなのだろう。チラリとイサムを見たが、彼はあまり表情を変えず首を傾げていた。鈍感なのか、それとも私がそういった者として見られてないのか……どちらにしろそれは彩にとっては不服とショックの2つの思いを浮かばせることになった。
その後、彩はイサムとかき氷を頼みその場から逃げ去るように立ち去った。今は開けた場所でベンチに座りながらかき氷を口の中に運んでいる。
「彩、そんなに勢いよく食べたら頭冷やすよ?」
心配するイサムの声が聞こえていないのかシャクシャクと口の中にかき氷を放り込む。イチゴの甘さと氷の冷たさが口に広がるが今の彩はそんな事など考えてすらいなかった。
色んな感情が自分の中で抑えきれそうに無いほど膨れ上がっていくのをどうにかしたい。そう思いながら無心にかき氷を食べていたのだが…
「ーーーー!!!」
それは突然やって来た。
頭が突然キーンと痛くなったのだ。今まで休みなく口に冷たいものを流し込んでいたのだから当然といえば当然である。
「ほら、言ったそばから…。ほら、こっち向いて。」
溜息を着きながらもイサムは彩のおでこに自分のかき氷を当てた。イサムに身を任せるようにじっとしていると次第に頭の痛みは和らいでいった。
「……あれ?治った…?」
「何かの本で読んだんだけどこういう時は逆におでこに冷たいものを当てたら良いんだって。理由は知らないけどね。」
彩のおでこからかき氷を離し、イサムもかき氷を口にする。
「(私…何やってんだろ…)」
今日ばかりはしっかりしよう。とちらないようにしよう。そう決めていたのに実際は勝手にテンパってしまい、かっこ悪いところばかり出てしまう。そう考えると思わず溜息が出てしまった。
「彩、大丈夫?具合でも悪い?」
「大丈夫だよ!……なんかごめんね?色々と…」
「いや、俺は全然いいんだけどさ…。」
そう言ってまたかき氷を食べて一息つくとイサムは言葉を続けた。
「そういえば彩、ありがと。」
「えっ?」
突然イサムから感謝の言葉を言われて彩はキ ョトンとしてしまった。
「いや、今日この祭りに誘ってくれて。」
「ええっと…私こそ…ありがとう…。」
「長らく祭りなんか来なかったからさ。それに来たとしても多分1人だったし…彩がいてくれて良かったよ。」
表情は反対側を向かれていて良くは見えなかったが、彩はその一言で何故か心が軽くなっていた。
こんな私でも…イサムくんを楽しませてあげれてるのかな?もしそうなら…
……嬉しいな。
「イサムくん、良かったら私のも1口食べる?」
「え?」
「ほら!」
彩はイサムの口にかき氷を入れた。
「……甘っ」
美味しかった。しかし、それよりも甘かった。しかし、その甘さはどこか癖になりそうなものだったとイサムは感じた。
「それでさ、イサムくんのも1口貰っても良いかな?」
「全然いいよ?」
それからは大したハプニングも無く2人は夏祭りを満喫した。色んな食べ物を食べたり、射的や輪投げなどのゲームもやった。
これだけでもかなり思い出は出来たと思われた。しかし、彩の目的はまだ果たされていなかった。
「そういえば花火って後どれくらいで始まるの?」
「えーっと…後20分だね。」
そう、彩にとっての最大のイベントはこの花火。そして、その時にイサムに告白することにあった。今日という日の為に告白の練習や花火が1番綺麗に見えるところなどのリサーチは済ませている。
絶対に失敗はしない。そう心に強く誓った今日の彩はいつもとは一味違うらしい。まあ何が違うのかはわからないが。
「イサムくんっ!私花火がよく見える場所知ってるよ!」
「えっ?マジで?」
「うん!私についてきて!」
彩に促されてイサムは彼女の後を追った。そしてたどり着いたのは少し離れた神社にだった。
「ここからよく見えるって聞いたんだ!結構穴場だから知ってる人は少ないみたい。」
「へえ〜。……でも大丈夫?変な人とか…」
「……大丈夫じゃないかな?」
多少心配点は残るがとりあえず今はそこには目を向けないことにした。
気がつけば花火が始まるまで残り15分を迎えていた。2人は今か今かと花火が上がる瞬間を心待ちにしており、同時に彩は心の中で気合いを入れ直していた。
「(もうすぐ……もうすぐだ。頑張れ丸山彩…。私なら…私なら出来る!)」
何度も何度も自分にそう言い聞かせる。
タイムリミットが刻々と近づく中、勝利のビジョンを胸についにその時を迎えようとしていた。
しかし…
「あれ?」
ポツ…ポツ…と空から水滴が降ってきた。
1滴、また1滴と溢れ、次第とその勢いと量は増していく。
「うそ…、雨…?」
1分もすると本格的に雨は強くなり、ザーッと辺りをその景色で埋めつくした。2人は神社の屋根の下に移動した為、濡れることはなかった。しかし…
「凄い量だなぁ…。まるで土砂降りだ…。」
「そんな…」
例えるならバケツをひっくり返したような雨だった。イサムが空を見つめる中、彩は今にも崩れそうな思いで張り詰めていた。
それからしばらく待機をし、10分後には雨は止んだ。どうやら通り雨だったらしい。
「止んだ…。」
「イサムくん!会場もどろ!」
「えっ?どうしたの突然。」
「何か言ってるかもしれないし…もしかしたらまだっ…」
彩はその場から走り出した。浴衣に下駄と走りにくい服装であったがなるべく転けないように細心の注意を払い会場へと急いだ。
「はあ…はあ…」
会場に着いた頃には息も切れていた。
早速彩は周りを見渡すが、屋台はどれもびしょびしょになっていて、中にはもう片付けを始めていたお店もあった。
もしかして…と最悪の事態を想定した。いや、そんな訳ない。もしかしたらまだ花火だけは…そう最後の希望を強く心に言い聞かせた。
『会場の皆様にお知らせがあります。』
スピーカーから聞こえてきた音声。それを聞いた瞬間、彼女に悪寒が走った。
『この度の花火大会ですが、先程の大雨の影響により花火が湿気てしまった為…』
止めて!それ以上言わないで!
思わず耳を塞いだ。しかし、スピーカーの音はそれすらも貫通して彼女の耳に現実を突きつけた。
『大変申し訳ありませんが、今回の花火大会は急遽中止致します。』
どうして…
どうして…
どうして…こうなっちゃうの…?
その瞬間、彩の心で何かが崩れ始めた…。
多分今回もサブタイ詐欺してますね。だが私は謝らない。
さて、残り数話程になったこの作品。
続きも気になる人もいるでしょうが今回はこの辺りでお開きです。
今回は次回予告は無いのかって?正直いい予告が思いつかなかったんだ。許してヒヤシンス。
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