Dream Palette   作:キズカナ

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想いを繋ぐ、一筋の光

 

「彩…?」

 

 立ち竦む彩にイサムは声をかける。

 今の彩はまるで空っぽになったかのように宙を見ていた。その瞳にも影がかかり、落ち込んでいるのは一目瞭然だった。

 

「大丈夫?」

「うん。大丈夫。」

「・・・・・・・」

「花火は残念だったけど…仕方ないよね。あんな雨の後だし…仕方…ない…」

 

 まるで自分に現実を言い聞かせるように声を震わせていた。その目からも雫が溢れそうになるのを感じ、イサムから目を背け、乱暴に涙を拭く。最早浴衣が汚れるとかそんな事は考えすらしなかった。ただ、こんな顔をイサムに見せたくないという気持ちが強くなっていくだけだった。

 

「……帰ろっか。」

 

 とにかく今はもうここに居たくない。ここにいると虚しさばかりが募ってしまい、いずれ本当に動けなくなってしまいそうで怖かった。

 後ろからイサムが何か言っているのは感覚でわかったが、彩は聞こえないふりをしてその場から逃げるように立ち去っていった。

 

 

      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 チカチカと点滅する街灯に照らされる夜道を2人は歩いていた。ここまで特に2人の間で会話は無く、沈んだ空気が続いていた。

 イサムは横目で彩の方を見るのだが、彩は俯いたまま何も話そうとしなかった。

 

 花火、そんなに楽しみだったのかな…

 

 そう思うと何とかしてあげたくなるが、生憎天候にはどうしようにも抗いようが無いし、花火が中止となってしまった以上どうしようもない。

 イサムは頭を抱えた。このままでは折角彩が誘ってくれたお祭りも後味が悪いものとなってしまう。そして何より、彩がこれ以上暗い表情をしているのを見ていられない。

 

「(これ、どーすりゃ良いんですかね…)」

 

 とりあえず手に持っていた袋を開け、何か気を紛らわせる物が無いか探ってみた。

 中身は射的や輪投げの景品で吹き戻しの笛、ミニカー、よくわからないオブジェ、ルービックキューブ……その他諸々。正直使えそうな物は無かった。

 次にどこかお店に入って気分転換をする方法も思いついた。しかし、現時刻はもうすぐ8時を迎えようとしていた。この時間になると閉店準備を始めるお店が殆どでろくに落ち着くことも出来ない。故に没となった。

 

「(これって…もしかしなくても詰み?)」

 

 打開策無しか…と思った時、イサムはある物を見つけた。正直これでどうにかなるのかはわからない。言うならば一か八かの賭けだ。しかし、このまま終わるよりかは…。そう思いイサムは行動を開始した。

 

「彩、ちょっと待っててくれる?すぐ終わるから。」

「え?」

 

 

      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 用事を終わらせ、イサムは彩を連れて近くの公園に来ていた。

 

「えっとこの公園は……ヨシっと。」

 

 注意書きの看板を確認し、彩の手を引いて公園へと入っていった。

 

「イサムくん…どうしたの?」

「いや、ちょっとこれしようと思って。」

「それって…さっき買ったバケツ?」

 

 手元にあったバケツを1度置いて、袋の中から別の物を取り出した。

 

「正確にはこれかな?」

 

 イサムの手元にあったのは…

 

「花火セット?」

「うん。花火大会の代わりになるかは分からないけど…」

「え?」

「いや、さっきから彩暗い顔してるから…気晴らしくらいにはなるかなと思ったんだけど…もしかして迷惑だった?」

「ううん!……むしろ…ごめん…。」

 

 彩はイサムの優しさが嬉しく感じると共に自分の事ばかりを考えていた自分が不甲斐なく感じた。

 確かに彩は花火大会でイサムに思いを伝えようとしていた。そして、それは雨天で不発に終わってしまった。しかし、そればかりが脳内によぎりイサムに迷惑をかけていたのでは…と思うとイサムに対して申し訳なくなった。

 

「じゃあ今からやる?ちゃんと花火大丈夫の看板もあったし。」

 

 バケツに水を汲み、花火をビニール袋から取り出した。

 

「うんっ!」

 

 イサムから1本の花火を受け取り、2人だけの花火大会が始まった。

 

 

 それからはさっきまでとうって変わり、2人の間には暖かく明るい雰囲気が流れていた。

 基本的に線香花火ばかりやっていたのだが、彩はとても楽しそうだった。花火大会の大きな花火に比べれば見劣りしてしまうが、彩からすればこの花火はそれと同じ位か……いや、それ以上に魅入っていた。

 火を着けた先から赤や青、緑などの色の光が放出され、燃え尽きるとポトリと地面に落下してしまう。短く、迫力は劣るものの彩はその花火に夢中になった。

 1本、また1本と花火に火をつけては2人でその光景を楽しんだ。

 

 そして気がつけば線香花火は残り2本、つまり1人1本となり、この花火大会も終わりが近づいていた。

 

「これで最後なんだね。」

「いやぁ~。気がつけばこんなにやってたんだね〜。全然気が付かなかった。」

 

 イサムが見たバケツの中には使い終わって水の中に投入された十数本の花火があった。楽しい時間はあっという間というのはこういう事なんだろう。

 名残惜しそうに最後の花火に火を付け、その光景を2人で鑑賞する。

 花火を見ながら、彩はイサムの方に目を向けた。

 花火の光もあり、彼の顔が輝いて見えた。それはきっと花火の光だけじゃないのだろう。そう思うと更にイサムのことを意識してしまった。

 今日は嫌なこともあった。悲しいこともあった。申し訳ないと思うこともあった。しかし、イサムはそんな心を見透かしたかのように解決策を考えて、彼女に笑顔をもたらそうとした。

 

 相変わらず私は…イサムくんに助けられてばかりだなぁ。

 

 溜息をつきそうになるが、いつの間にかそれすら笑い話になってしまいそうになる。その原因はきっと…彼がいたからだろう。

 やっぱり…私は…

 

「……好きだよ…」

 

 小さな声でそう呟いた。多分彼には聞こえてないんだろうなぁ…。そう思っていた。

 

「俺も。」

 

 何故か彩の呟きにイサムが返答した。

 イサムの言葉に彩は硬直し、思考も停止してしまった。

 

「え…え…え?…え」

「花火。」

「……え?」

 

 思わず間抜けな声を出してしまった彩に対して「違うの?」とイサムが聞いてきた。

 

「違うよ!」

「あれ?花火好きじゃなかったの?」

「花火は好きだけど…」

「???」

 

 彩の言葉の意味がわからないイサムは首を傾げていた。そんな状態になり彩は…

 

「花火も好きだけど…私がもっと好きなのは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……イサムくんだよ…。」

 

 そう言った途端、彩は全身が熱くなるのを感じた。正直、太陽の光よりもこの体温で熱中症になってしまうかもしれないというほど体温が高くなっているのを直に感じた。

 

「そっか。好きなのは俺の方か〜。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゑ?」

 

 思わず気の抜けた声がイサムから発された。そして、そのタイミングで2人の線香花火は消えてしまった。

 

「えーっと…それはつまり告白ってこと?」

 

 イサムが確認をとると彩は俯いたまま首を縦に動かした。

 彩は穴があるのならこのまま埋まってしまいたいと思うほどに恥ずかしさが増していた。

 

「彩。」

 

 イサムに呼ばれてゆっくりと顔を上げた。

 すると、イサムがすっと手を伸ばして…

 

「よろしくお願いします。」

 

 ただ一言、そう言った。

 

「……え?それって…」

「…そういうことです。」

 

 イサムもほのかに顔を赤くしていた。

 それと同時に彩はイサムに飛びつくように抱きついた。

 

「……泣いてるの?」

「泣いて…無いよ…。嬉しいんだもん…!」

「嬉しいのに泣いてる声聞こえるけど?」

「嬉し泣きだよぉ…。」

「泣いてんじゃん。」

 

 1度イサムは彩を自分から離すと持っていたハンカチで彼女の涙を拭いた。

 

「良かった…良かったよぉ…。もし断られたら…」

「…断る訳無いでしょ。」

「…え?」

「だって…最初に希望を貰ったのは俺の方なんだし。なんなら俺の方が先に好きになってたと思うし。」

「で…でも、私の方がイサムくんのこと好きになってかもだし…」

「いや〜それはどうだろ?」

「私だってイサムくんのこと好きだったもん!」

 

 そんな言い合いをしていると次第と2人は笑顔になった。

 

「よーし!じゃあ記念にこれやっちゃうか!」

 

 イサムは隠し持っていた打ち上げ用の花火を取り出した。

 

「えーっと…ここ打ち上げ用使っても大丈夫なの?」

「知らないけど多分大丈夫でしょ。」

 

 ええ〜…と不安そうに声を零すもイサムは既に花火にチャッカマンで火をつけていた。

 少し離れて彩の側に戻ると、空に光が発射された。ちょっと高いところまで行くとパーンと光の花が広がった。

 

「……綺麗。」

「そうだね。それに……」

 

 イサムは彩の手を握り…

 

「月も……綺麗ですね。」

 

 空を見ながら、そう呟いた。

 

「ねえ…イサムくんって結構ロマンチスト?」

「え?告白ってこれ言うものじゃないの?」

「誰か他に言ってた人がいるの?」

「わかんない。」

 

 なにそれ、と彩が笑いながら言うとイサムもつられて笑っていた。

 

「ねえ、明日は晴れるよね。」

「うん。晴れるよ。」

 

 花火が散った空には月と星が広がっていた。それはまるで2人の心の雨上がりも現しているようだった。

 

 

 




やっとここまで来ました。長かったです。
ここまでお付き合いしてくださった皆様に感謝。

この小説も残り2話となりました。長いようで短いようで…。

というわけで残り少しですけど良ければ今後ともお付き合いください!

評価やコメントしてくれると励みになるので良ければよろしくお願いします!
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