某日、パスパレが所属する芸能事務所の練習室で丸山彩はスマホの画面を見ながら終始ご機嫌な状態だった。
そこにいたパスパレのメンバー達はそんな彩の様子を見てまるで不思議なものを見ているかのような感じになっていた。
「ねー、最近の彩ちゃんなんか変じゃない?」
「ええ、ジブンもそう感じてました。」
「でも…凄く楽しそうですね。もしかしてエゴサーチでいい事でもあったんでしょうか?」
「でもエゴサーチで嬉しい情報を見たにしては偉く上機嫌ね…。」
その様子を見ながら日菜たち4人は離れた場所で密かに話しているのだが、彩は気がついていないのかひたすらスマホを見ながら嬉しそうにしていた。
「……どうします?」
「じゃあちょっとあたし聞いてく「私が行くわ。」」
日菜の肩に手を置き、千聖は彩の元へと向かった。
「彩ちゃん。」
「ふぇぇ!?」
「……そんなに驚くことなのかしら?」
彩の傍に移動し話しかけただけなのだが、彩は千聖が思っていたよりも驚いていた為千聖は思わず苦笑いしていた。
「ご…ごめん…」
「それより随分と楽しそうね。何かいい事でもあったのかしら?」
そう千聖が問いかけると思わず彩は目を逸らしてしまう。そんな彩を見て千聖は更に不信感を募らせてしまった。
そんな気まずい雰囲気を打ち破ったのは彩が机に置いていたスマホだ。暗かった画面が突然ひかり、近くにいた千聖はその画面を見てしまった。
「……彩ちゃん。」
「……ど…どうしたの?」
「もしかしたら何か言わなきゃいけないことがあるんじゃないかしら?」
「……え、ええっと…」
「彩ちゃん?」
「…はい。」
まるで猫に見込まれたネズミのように彩は小さくなってしまい、彩は全てを打ち明けた。主にイサムに告白し、恋人になったことだ。
そしてどうやら彩は先程、イサムと〇INEでやり取りをしていたらしい。
「つまり、彩ちゃんはイサムくんと付き合うことになったのね?」
「……う、うん…。」
「で、どうして私たちに報告してくれなかったのかしら?」
「えっと……その……」
口ごもっていると千聖は更に笑顔で彩を見つめた。そのせいか彩は更に身を小さくしてしまった。
「……浮かれすぎて忘れてたわね。」
「……ごめんなさい。」
そんな彩を見ながら千聖はため息をついた。
「全く…」
「まあまあ…でも良かったですよ。彩さん、上手くいったみたいですね。」
「それにしても彩ちゃん、どんな告白したの?」
「え?えっと……線香花火しながら…かな?」
「線香花火ですか!フウリュウですね!」
気がつけばパスパレの話題は彩の恋バナになっていた。しかも日菜とイヴは彩に質問攻めし、彩はそれに答える度に頬を赤く染めながらも幸せそうな笑みを浮かべていた。
「彩ちゃん、嬉しいのはわかるけど…」
「うん。わかってるよ。」
「……そうね。」
千聖はそれ以上は何も聞かず、黄色のベースを持ち練習の体制に入った。彼女に続くようにほかの4人も自分の楽器を手に持ち、準備は整った。
「それじゃ彩ちゃん、早速よろしくね。」
「うん!」
「彩さんも気合い満々という事ですし、今日はMCの練習から始めましょうか。」
麻弥の提案で彩は深く深呼吸をして、気持ちを落ち着けた。
「みなさーん!こんばんは!まん丸お山に彩りを!パステルぴゃれっと……あ」
不意に彩は台詞を噛んでしまった。
日菜たちは思わず笑ってしまい、彩は恥ずかしさで赤面していた。
「ううっ〜……今日は行けると思ったのに〜。」
「やっぱり彩ちゃんは彩ちゃんね。」
千聖がそう言っていると日菜は何故かスマホを取り出し、彩にカメラを向けていた。
「よしっ!撮れた!」
「日菜ちゃん!?何で撮ってるの!?」
「せっかくだし愛しのイサムくんにも見せてあげようと思ってね。」
「それだけは止めて!!イサムくんだけには!!」
必死で日菜からスマホを取ろうとするのだが日菜はひらりと身を交わしながらスマホを操作していた。
「あの日菜さんの身のこなし…まるでニンジャです!」
「彩ちゃんも必死ね…」
「あの〜……練習中なんですが…」
彩と日菜のスマホ争奪戦は5分にも渡り、練習が始まる頃には彩はヘトヘトになっていたらしい。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
一方その頃、イサムは久しぶりに旭湯に来ていた。
Realizeの練習を終え、時間に余裕があったので1度家に帰り、風呂の支度を整えてここに来たのだとか。
「ふぅ…」
湯船に浸りながらイサムはこれまでの出来事に思い耽ていた。
彩と出会い、そこから全てが始まった。
あの頃の彩はまだアイドルでもなんでもない、ごく普通の女の子だった。しかし、彼女は夢を叶え、そのあとも何度も挫折や苦悩を体験しながらも夢を追うことを諦めようとしなかった。
そんな彼女の真っ直ぐな思いは、彼にも変化を与えた。
俺も夢を追いかけたい。
多分、彩との出会いが無ければ俺は今も何もせずに立ち止まっていたんだろうなぁ…。そう以前も思い耽たことを再び考えていた。
そんな中、銭湯の扉が開いた。人がいない時間帯だと思っていたから少し不思議だったが、営業時間だからそれは普通のことだろうと思いあまり気にしてはいなかった。しかし、入ってきた人物の顔を見て少し驚いていた。
「……アキラ?」
「…なんだイサムか。」
アキラは別になんとも思わなかったのかそのまま洗い場に向かい、身体を洗っていた。
「アキラがここに来るなんて珍しいじゃん。俺が誘っても全然来ないのに。」
「家のボイラーが壊れたからな。」
「ふーん。」
それだけ言うと2人は暫く黙り込んでいた。数分後、洗い終えたアキラは湯船につかった。
「……銭湯と言うのも悪くないな。」
「なんか言い方が風呂嫌いなお父さんみたい。」
「そんな事よりミチルから聞いたぞ?丸山彩と付き合うんだってな。」
「……うん。」
「……特に何も言えんが…まあ上手くやれよ?」
「ありがと。」
風呂の湯気でアキラの表情は少し見えないが、イサムにはアキラが少し笑っているようにも見えた。
「それよりお前、報連相はしっかりしろって前に俺言ったよな?」
「……ああ〜…あのおひたしにすると美味しい野菜だよね〜」
「おい。」
「ごめんなさい。」
イサムが軽くふざけて流そうとするも、アキラの少しイラッとしたような声に即謝ってしまった。
「全く…お前のは普通の恋愛じゃないんだからそう言うのは事前に説明しておけっての。」
「もしかしてアキラ……心配してくれてた?」
溜息混じりで話すアキラに対してイサムはふと抱いた疑問を聞いた。
「……いや…別に心配では無い。ただだな……チームの奴が面倒事を抱え込むと何かあった時、こっちにもだな……」
いつにも増して歯切れの悪いアキラを見て、イサムは何かを察したかのように思わずうっすらと笑った。
「おい、何笑ってるんだ。」
「いや?アキラも以外と優しいところあるんだなって」
「……おい」
恥ずかしさ故かアキラは少しだけ声を荒らげてしまう。しかし、イサムは「もしかして照れてる?」と逆に挑発した為、その後アキラからの説教というか照れ隠しのような話を小時間されたらしい。
ちなみにそのせいでイサムは過去最高時間お風呂に浸かっていたんだとか。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その日の夜、イサムは明日のライブに向けての準備をしていた。
白いギターで何度も練習し、ようやくミスすること無く安定した音を出せるようになった。
明日の朝は早く、8時には現地集合するとの事なので今日は早く寝なければと思いつつイサムは時計を見る。時刻は既に22時を迎えようとしていた。
そんな時、イサムのスマホに1件の通知が来た。送り主の名前を見ると彼は思わず口元が緩んでしまった。
『イサムくん!明日のライブ見に行くからね!あ、パスパレの皆も行くって言ってたから全員で行くよ!』
その一言でイサムは「マジか」と思いながらもどこか嬉しさが入ったような気持ちになった。
明日はより気合い入れなきゃな…なんて考えていると今度は着信音が突然鳴り始めた。本当に唐突で驚いてはいたが、イサムはほくそ笑みながらスマホの画面を操作した。
「やっほ。」
『イサムくん、今大丈夫だったかな?
やっぱり直接言いたくて電話しちゃったけど…』
「全然大丈夫。むしろこっちもかけようかなって思ってたくらいだし。」
『そっか。
明日のライブってイサムくん達いつ出るんだっけ?』
「うーん……確か6番目くらいだったかな?」
そうしてイサムたちは暫く2人だけの時間を楽しんでいた。
ライブの話から、なんてことの無い日常話まで話すことは様々だ。
あの花火の日以来お互い忙しくて会うことは少なかったのだが、こうして話しているだけでもなんだか暖かい気持ちになる事をイサムは心の中で感じていたのだった。
次回、最終回
『Dreaming~夢の途中~』
さて、遂に次回最終回です。
昨年の3月から描き始めてからようやくここまで来ました。ここまで色々ありましたが、助言をしてくれた人や感想や高評価をくださった読者の皆さんがいたおかげで悩みながらもやって来れたと思ってます。
最終回の更新日は未定ですが作者のTwitterで小説の情報をお伝えするので気になる方は是非チェックしてください!https://twitter.com/kanatu_kizuna?s=09
それでは今回は短いですがここまでです。
また、次回お会いしましょう。
よれけば高評価やコメントよろしくお願いします!